凛の頬に触れる髪を優しく払い、下に滑らせるようにゆっくりと撫でる王女。
「綺麗よ、リン」
「メルト…」
そして、二人の距離を詰めていく親友に、凛は拒むことは無く――――
「私は
夢の世界から覚醒すると共に、先程まで見ていた世界を振り払うように叫ぶ凛。
そんな彼女に、パスでマスターの夢を察した古代ブリテンの王(女性)が宥めるように告げた。
「凛、私の時代でも珍しいことではありましたが、(女性同士の)例が無かったというわけでも無いので――――」
「違うから。そういうのじゃ無いから」
なんとなく、女性同士に対して凄く理解のあるサーヴァントの慮るような視線を華麗に無視したマスターに、ブリテンの王はタイミングを見計らいながら便箋を渡した。
その便箋には、可愛らしいハートマークの形をした桃色の蝋で封がされている。
親友との危ない夢を見た直後に、己の使い魔からラブレターを渡される。
この状況に、凛はこれも夢だと思い込もうとした。
「…これは、あの姫から寄越されたものです」
「えっ…」
「本日、晩餐会を開くそうです。
贅の限りを尽くした持て成しを用意しているのだとか」
最初に、敢えて恋文である事を否定せず、凛が勘違いしたところを見計らってから真実を告げるセイバーは、少しだけ茶目っ気のある笑顔で笑った。
余裕のある素敵な笑顔だった。
”贅の限りを尽くした持て成し”のところで、期待に溢れた目をしてさえいなければ。
「王女自ら出向いていましたが、何かすることも無く、「リンは寝ていると思うから渡しておいて下さる?」とこれを渡されました。
胸に抱いたあのネコ科の使い魔は、当初は切り伏せてしまいましたが、よく見ると可愛らしいものです。
無論、戦いとなれば容赦はしませんが」
自らの食への欲求が滲み出たなど思いもせずに、涼しげに語る騎士王。
先程の夢と、ラブレター染みた見た目の封筒に焦って、そこには気が付かなかったそのマスターは、赤くなった顔を見せないように、封筒を開けてその中身を読み始めた。
『親愛なるリンへ。
今夜、戦争の参加者と、剣を交えずに宴を楽しもうと思うの。
一切の不満を持たせない宴である事を確約するわ。
夜7時。場所はホテルピラミッド冬木の貴賓室。
入り口のスフィンクスにエスコートさせるから、この招待状を見せてね。
では、ドレス姿のいつも以上に綺麗なリンを待っているから。
P.S. リンが生き延びたら、個別に招待するから頑張ってね』
何かしらの魔術。
恐らくは使い魔に識別させる為の、エスコートチケットとしての術式が込められたパルプ紙に、丁寧な日本語が書かれていた。
不必要に可愛らしい書き方でも無く、王女自身の性格を現したかのような、媚びることは無く、美しい字である。
それだけに、隅端に描かれているデフォルメされたネコの絵とのギャップが凄かった。
「どうしますか、マスター」
凛が読み終えたところで、彼女のサーヴァントが意思を問う。
「言うまでも無いわ。
逃げては女が廃るじゃない?」
王女が友と認めた少女は、胸を張ってそう答えた。
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喫茶店で、昼から酒と受け菓子を嗜む、この辺りで有名になりつつある金髪の美青年。
「宜しいでしょうか」と言う声と共に、彼の前に古代の香りがする女性が現れた。
「私の主人から、招待状を授かっております」
「貴様の主人……ほう、受け取ろう」
ギルガメッシュは、その『主人』とやらを理解したようで、傲慢な態度を崩さぬままそれを受け取った。
疎いものでさえ高価な事がわかる琥珀の封がされた便箋。
その封自体は当たり障りの無い形をしていた。
中には定型文で、今夜ホテルで聖杯に関わる参加者を含めた宴を行うと書いてあった。
古代ウルクの独身王は、どうせ二人きりで無い以上、折角だ、綺礼でも呼ぶか。奴も監督役という立場も持っていることだ。
それに、未だ明かしはしないが、奴もまた、マスターであるのだからな。
そう思い浮かべながら、口元を釣り上げた。
そして立ち上がり、会計を済ませると二つ隣の店へと向かって、そこにいる住人へと告げた。
「花屋、この店にある薔薇を全て買おう」
金糸を風に靡かせる自信に満ちた美青年に、薔薇の花束は確かに似合いであった。
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「姫様、ウルクの王とアインツベルンには招待状を渡しました」
「ありがとう。良い仕事よ」
「申し訳ございません。アインツベルンは、来ないものと思われます」
「構わないわ。勝者の奢りを、敗者が屈辱と捕らえることは理解するわよ――――」
侍女がイリヤスフィールの元に手紙を運んだ際には、「馬鹿にするのもいい加減にして」と手紙を手で振り払われて追い返された。
「――――その上で、貴女の仕事の不満は無いの」
「…ありがたきお言葉です」
参加者達が来る前から、
(魔改造により背面を中心にやたら肌が露出した)Xラインドレスも駄目、(極端なミニスカートタイプの)エンパイアドレスも駄目。
アレも駄目、コレも駄目という口うるさい父親に困った様な態度を見せる主人であるが、自分達が昔ながらの感性である事を差し引いても、王の判断は正しいと口には出さずとも侍女達も思っていた。
実際に選ばれたのは、フィッシュテールとエンパイヤタイプの間の様なドレスである。
エジプトの最上級の職人が仕立て上げた一品である。
背中も露出しているし、スカートの側面には大胆なスリットも入っているが、前の二つよりは大分落ち着いたと言えば、その二つの危なさがわかるだろう。
女性である侍女達をして見惚れる、メルタトゥムの美しすぎるプロポーション専用に設計されたオーダーメイドドレスは、他の者には着熟すことは出来ない。
「…姫様が申された料理が、後少しで出来上がるようです」
見惚れていた侍女は、一瞬言葉が詰まったが、伝えるべきと感じたことをそのまま伝えた。
「その報告は要らないわ。
貴女達は完璧を仕上げてくれるのでしょう?
経過の報告は必要ないの。
それより喉が渇いたわ。飲み物をくれるかしら」
「はい姫様。こちらをどうぞ」
主人が求めるものを淀みなくサーブする侍女から、渡されたグラスに注がれた深紅の液体を軽く回した後、王女は喉にそれを流して空いたグラスを侍女へと返した。
「美味しいわ。流石ね」
でもきっと、貴女は
耳にかかる美しい黒髪を払いながら、王女は心の中でそう呟いては