太陽王の娘   作:蕎麦饂飩

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心に届くは真っ直ぐな――――

 蒼き戦士に突き出された槍は、古き王族の姫君の首筋を抉る。

 余りの勢いに、驚愕に染まったその細い首は千切れて転げ落ちるが、その首はいつの間にかその隣にいた微笑を湛えるメルタトゥム自身手の上に収まった。

 そして、その首は砂へと変わり、地に落ちる。

 

「驚いたわ――――」

 

「――――だろうな」

 

 

 その優雅に笑う王女の左腕ごと右胸を、いつの間にか再度繰り出されていた槍が貫いていた。

 

 

 

 しかし、王女は突き刺されたまま、後ろに下がることで槍を身体から抜いた。

 その傷口は、既に塞がっている。

 

「やっぱりその見ていない(・・・・・)態度、気に食わねえ」

 

「自分だけを見て欲しいなんて、情熱的ね」

 

 再度繰り出された槍が、再び王女を貫く。

 しかし、その寸前で王女の目の前に張られた砂で作られた蜘蛛の糸がそれを防いだ。

 

 

「遊び程度にはなるようだな」

 

「遊びのつもりだなんて、寂しいわ」

 

 

「――はっ、心にもねえ事を」

 

 再び槍を突き出すと、その蜘蛛の糸の隙間を縫ってメルタトゥムの足を貫いた。

 未だ、ランサーは本気は出してはいない。

 本気を出すまでの相手とも思えなかった。

 そういった相手とは思えないのだ。

 戦士と向き合っている気概が、相手からは一切伝わってこない。

 

 風が吹く。

 その二人の間を分ける風よりも、クー・フーリンの心は冷えていた。

 

「自分達だけは別物(・・)ってか? 金ピカってのは皆そうなのか」

 

「あら、ウルクの王とはお知り合いなの?」

 

 

「今更シラを切る気はねえ。

にしても座に登録され令呪に縛られた使い魔(サーヴァント)と、世界が定めた英雄の為の舞台装置(永遠の姫)が自分達は別物って面なのが気に食わねえ。

枠の内側にいるのに、観測者のつもりなのは滑稽だぜ。

不快だったらすまねえが、まあ、気にすんな」

 

「不快? 違うわね

――――――――それは、不敬よ」

 

 

 王女の温度が変わったのを槍兵は感じた。

 とは言え、直接対決で負けるようなら英雄では無い。

 しかし――――

 

「そんな目も出来るのか。

そっちの方が好みだぜ」

 

「貴方の目も綺麗よ。

でも貴方にとっては残念なお知らせよ。

私は、犬よりは――猫派なの」

 

 複数の蜘蛛の巣を正面に展開しながら、王女は槍兵と距離を詰めた。

 しかし、寸前のところで王女の姿は崩れるように消えて、ランサーの背後に二人のメルタトゥムが現れた。

 だが、ランサーは見向きもせず、先程王女が消え去った場所へ向かって真っ直ぐに槍を穿つ。

 

 貫かれた場所には王女の美しい顔があった。

 しかし王女は右目を貫かれたまま、後頭部に抜ける柄を掴み、もう片方の手から蛇の形をした砂の刃を飛ばす。

 

 ランサーは己ごと包むような炎をルーンで作り出すことにより、それを防いだ。

 

 

 超至近距離。

 それこそが槍使いの最大の弱み。

 普通であれば、それは間違ってもいない。

 だが、相手は尋常では無い槍使い。

 メルタトゥムも王女と言えど、それぐらいのことはわかっていた。

 

 わかった上で肉薄する。

 本来、槍使いに対して最も有効な間合いは、同じ戦場に立たないこと。

 矢、石や硬い乳製品の投合、謀略、毒、手駒の兵士、軍隊の出兵――――――

 王女という立場であれば、本来そうするのが正しかった。

 その事は誰よりもメルタトゥム自身が理解していた。

 

 

 だが、何故だかは知らないが、クー・フーリン(この男)とは、父をも挟まずに相対したいと感じた。

 魂は全く惹かれないのに、肉体は相手を認めていた。

 それは相性と言っても良いだろう。

 

「光栄を感じなさい」

 

 鋭い蹴りで片腕を吹き飛ばされたメルタトゥムは、表情を変えること無くそのままランサーに抱擁し、そしてその首筋に牙を立てた。

 牙が触れたのは一瞬。

 それはランサーの手刀によってもう片方の腕を切り落とされ、目を貫いた槍を引き抜き、柄で打ち払って弾き飛ばし、そのまま背後の砂の虚像二体を貫いた。

 

「つれないのね」

 

 両腕と頭部を再生させながら、宙を介して口元に流れるランサーの血を舌で転がしながら王女は笑う。

 

 

 

「今ので死なねえのか、仕方ねえとっておきだ。

 

――――――――刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)

 

 

 

 それは、師より受け継ぎし槍を以て、神話に伝わる技法を更に独自に練り上げた絶対死の魔槍。

 如何なる俊敏さを持つ者も、その槍の前には無力。

 類い希なる幸運がなければ、其を受けて命ある者は無い。

 

 音さえも置き去りにして迸る紅い閃光は、王女を当然のように貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 王女は倒れる。

 その身体から夥しい血液を流しながら。

 そして――――――――

 

 

「あ、ら…しにかけた…わ」

 

 心臓の僅か横に空いた孔を修復しながら立ち上がった。

 

「へえ、やっぱり、エジプトでも心臓には魂が宿るってやつか?」

 

 流石に心臓を穿ち抜かれれば、死ぬ。

 その解答(こたえ)に漸くランサーは至った。

 ならば、己の得意分野であると。それにしても――――――

 

 

「はっ、随分と幸運なことだなお姫サマ」

 

 

 刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)をこの距離で、此処まで逸らさせるのは、幸運という基準では測れない。

 

「私が――――、幸運?」

 

 メルタトゥムの幸運は、規格以上という意味でのEXである。

 世界に愛されしトロフィー。

 行使するのではなく、ただ受けるがのみ故に、例外として許されうる権能。

 それが彼女であるからだ。

 

 しかし、メルタトゥムは己の幸運を知っていて、その規格外の幸運があって尚、母を喪ったこと――即ち世界の認める幸福の中に母が無かったことを憎んでいる。

 そもそも、クー・フーリンは望めばゲイ・ボルクを当てられるのだ。

 欲すれば当てられるのだ。

 メルタトゥムの心臓や命では無く、メルタトゥム自身を欲すれば。

 

 彼女の幸運は、彼女を手に入れる英雄の為に存在するものであり、彼女を英雄が手に入れた時点でその幸運は彼女と離別する。

 クー・フーリンが、彼女を求めた上で因果逆転の槍を差し向ければ、それは即ち――――届く。

 

 

「貴方、本当に素敵な男性ね」

 

「なら素直にハートを射止めさせてくれ」

 

 メルタトゥムを掴む勇者として、クー・フーリンは間違いなく基準の幾つかを突破している。

 強く賢く美しく血筋が良く心根が通っている。

 実に良い男である。

 女性であれば、己を求めて欲しいと感じるであろう。

 

 女性に縁がない、クー・フーリンとは真逆の男性像を想定するとなれば、どうだろうか?

 男性には聞かせられない女子会の話の内容を婉曲に言うなれば、悪いところはないけれど、―――良いところも無い。

 善良だが、モテない典型的な男性の多数が、これに当てはまる。

 悪いところが無い方が良いのは当たり前だ。

 だが、良いところが無くてはそもそものトキメキが生まれない。

 男性に取って、ある女性が太陽の如く輝く唯一の運命の人であったとしても、その女性には関心が向かない地上の砂の一粒に過ぎない。

 

 その点、クー・フーリンには魅力が大いにあった。

 例えるなら、彼もまた太陽から生まれし灼熱。

 狂気の月。

 王女に極めて近い存在であり、目を背けることすら許さない立ち位置にあった。

 

 だが、王女にとってはそれでも合格点では無かった。

 彼女は求める者(英雄)では無く、求められる者(お姫様)であるが、拒否権の無い身でそれを拒否した。

 

 それは、悪いところが良いところを上回ったからなのか、それとも父親とはタイプが違いすぎたのかはわからない。

 

 

 

「それは貴方次第ね」

 

 王女は、己の血を拭い、舐め取りながら告げた。

 

 

「そうか、じゃあ今度こそ射止めてやるぜ。

刺し穿つ(ゲイ)――――――くそっ、また今度だ」

 

 

 

 今度こそ必滅の槍を繰り出そうとしたところで、突如魔力の光に包まれたランサーは、令呪により何処かへ強制的に飛ばされた。

 残された王女は先程まで穿たれていた孔があった場所を撫でながら言う。

 

 

 

「私の心の一番近くまで近付いた殿方がいたと告げたら、父上はなんと言うかしら」

 

 その瞳は、少しだけ嗜虐の色を帯びていた。




FGO風

入手イベント 栄獄幻想輪舞曲シンデレラダンスホール

召喚時
物語のお姫様、太陽王の娘、好きに呼ぶと良いわ。
今の私には副賞は付いていないけれど、十分でしょう?

レベルアップ
また世界が貢ぎに迫ってきているのかしら、もうこりごりよ

霊基再臨1
この硝子の靴を磨く職人を呼んで下さらないかしら

霊基再臨2
この髪飾り、綺麗でしょう。
私の方が…? ふふ、正直ね

霊基再臨3
この話す鏡、おかしいのでは無いかしら。
世界で一番美しいのは私では無く母上よ

霊基再臨4
『伽噺のお姫様』の源流、見て、聞いて、語りなさい


絆1
招待状の代筆をお願いするわ

絆2
私のドレスを手配して下さる?
なるべく風通しが良いのをお願いするわね

絆3
実はどうでも良いと思ってるんじゃ無いかですって?
ふふ、違うわ。――どうでも良かった、よ。意味は自分で考えなさい

絆4
私と踊りたい英雄は多くいるのだけれど、その上で貴方の手を取る意味、理解して下さるかしら?

絆5
貴方、世界を手に入れる気はあるかしら――――――ふふ、戯れよ


会話1
何かあったようね、どうするかは任せるわ

会話2
私は姫、彼は王で、彼女は戦士、――――では貴方は?

会話3
好きになさると良いわ。それが私のそれだから

会話4
父上がいるの。そう…。ところで母上は?
いない…ですって…!? すぐに探しなさい(オジマンディアス所属)

会話5
あれは…。ねえマスター、あの中身(女神)を追い出して、器だけ私に頂けるかしら(イシュタルORエレシュキガル所属)

会話6
魔法少女らしい仕草をして欲しいですって、良いわよ。
マジカルプリンセスメイクアーップ♪
変身中は少々刺激が強すぎたようね、マスター後は頼んだわ(術ギルガメッシュ所属)

会話7
魔法少女らしい仕草をして欲しいですって、良いわよ。
プリンセスレッグシザースホイップ♪
…幸せそうな顔で寝るのね、マスター毛布をかけてあげて(弓ギルガメッシュ所属)

会話8
彼女とは同じ太陽の系譜なの、共にいて心地が良いわ。
マスター、ファジーのカクテルを3つ用意して下さらない?
私と、彼女と、貴方の分(メディア所属)

会話9
貴方もいずれ、英雄のに…いえ、それを決めるのは私では無いわ(メディア・リリィ所属)

会話10
此方の殿方とは、太陽神という共通項はあるわね。
二人揃えるとマスターには眩しいかも知れないわ(クー・フーリン所属)

会話11
私が貴方を強くする?
素敵な口説き文句ね。…次からはもう少し視線を上げて言って頂けると嬉しいわ(ガウェイン所属)

会話12
非の打ち所の無い殿方だけれど、少し苦手かも知れないわね。
…あら、この私が苦手……?
――――――そんな方、今までにいたかしら(カルナ所属)

会話13
そう、貴女も生け贄なの。
私の物語を語ることを許すわ。それが慰めになるかしら(シェヘラザード所属)

イベント
何やら新しい物語が始まったようよ

誕生日
今日は貴方の物語が始まった日。賜りたいものはあるかしら?

好きなこと
母上よ、聞くまでも無いでしょう

嫌いなこと
ごめんなさい、そもそも嫌うほどの関心が無いの

聖杯について
母上…

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