太陽王の娘   作:蕎麦饂飩

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I LOVE YOU

 遠坂凛は英雄王の戯れにより、言峰綺礼の裏切りを本人から聞き出した。

 そして騎士王を背後に迫る凛の姿に、綺礼はこの時点で己が英雄王の用済み(興味の外)になったことを理解した。

 とはいえ、英雄王がいなければそこで全てを諦めると言うほど、綺礼は諦めが良くも手札が無い訳でも無い。

 

 故に、ランサーを呼び出した。

 一度目の令呪は、マスターの交代を承服することに使われた。

 二度目の令呪は、他のサーヴァントとの偵察をする事、決着に拘らず鞘当てに徹することを命じられた。

 メルタトゥムを殺すつもりで戦えたのは、彼女がサーヴァントでは無いという抜け道があったからに他ならない。

 

 そして、これは三度目である。

 マスターには三画の令呪があり、サーヴァントにはこの三画の令呪がある限りマスターに縛られる。

 逆説的に、三度令呪により命令を与えられたサーヴァントはマスターから解放される権利を得る。

 

 ランサーは、この時点で言峰綺礼に反逆する機会を得た。

 とはいえ、言峰綺礼は監督役として今までに使われることの無かった、幾つもの予備の預託令呪を保持している。

 実際には、クランの猛犬は檻から出たのだとしても、その檻を捕らえた更に大きな檻に捕らえられていた。

 

 

 メルタトゥムが、ランサーとの戦いに己の父親を呼ばなかった最大の理由は其処にある。

 王女は、ブラフを搦めて監督役である綺礼がマスターの一人である事を凛から聞き出した。

 当初は確信こそ無かったが、「綺礼にはきっちりこの手でケリを付けたいの」と言った凛の言葉でそれを確信した。

 げに恐ろしきは、親友相手に知らないことを平然と知った風に話し、その会話の中で実際にそれを知る王女の豪胆さである。

 

 そして王女は英雄王が言峰をつれずに単体で凛に接触して、綺礼を売った時点でランサーが呼び出されることは予想していた。

 サーヴァントに対抗する為の戦力は、この時代の人間ではサーヴァント以外の手段が無いであろうと。

 そして、間桐か監査役の綺礼であれば令呪の制限など幾らでも誤魔化しが利くだろうと。

 故に、最初からセイバーを連れた凛が綺礼に会うまで。

 それが戦いの制限時間であるとメルタトゥムは推測していたのだ。

 ランサーが己を殺し損ねて、セイバー対処に呼び出されるところまでは、あり得る可能性の一つとして想定済み。

 だからこそ、会話で時間を稼いだし、己の父親(サーヴァント)を呼び出しもしなかった。

 己の想定の外に出て、どうにもならないことがあるのなら、例え令呪が無くてもそこに最強の守護者(オジマンディアス)は来ている確信もあった。

 

 そもそも、メルタトゥムには令呪の命令権など必要の無いものだ。

 令呪が無くなったところで、彼女の父親が娘を見捨てることなど絶対にあり得ない。

 精々、令呪の使い道はネフェルタリ関係のことになりそうだが、父親(恋敵)相手に令呪を使って勝負する気も無い。

 最初から令呪で縛る必要も無いし、令呪が無くて困ることなどメルタトゥムには存在しないのだ。

 何故なら、オジマンディアスとネフェルタリの血という、令呪などより遙かに強い絆が其処にはあるのだから。

 

 

 

 

 

 

「先日は綺麗な薔薇をありがとう。部屋に飾らせて貰っているわ」

 

「――我が后にはアレでも不足とは思ったが、満足したのなら良い」

 

 

 夜風を浴びながら歩き着いた公園のブランコに座って、教会の方角を眺めるメルタトゥムは、いつの間にか隣に立っていた黄金の王に語りかけた。

 

「やろうと思えば、あと幾度か令呪による強化が出来る北欧屈指の英雄が相手。

凛には期待しているから頑張って欲しいものね」

 

「ふん、それは言峰が預託令呪を保持していることの最終確認か?

その様な形を取らずとも、后相手に隠すことはせぬ」

 

 凛の時と同様に、可能性が高いが確信仕切れぬ事象を、既知である仕草で確認する形で話しかけられたギルガメッシュは答える。

 しかし、己の思惑を察せられたメルタトゥムは、焦ることも無い。

 

「そう、ありがとう。

じゃあ教えてウルクの王様。

貴方は――――――――世界()に何を求めるの」

 

 

 見識者であるギルガメッシュへ尋ねるは、セイバーとランサーの勝敗などという些事では無い。

 己と父が手にする事が決まっている聖杯に求める事など特に意味は無い。

 故の質問だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルガメッシュはただの魔法少女オタクだからという理由だけ(・・)で、メルタトゥムを求めているわけでは無い。

 偽りの聖杯、元よりその原典を持つシュメールの王には、固執する必要は無い。

 叶えられる願いは世界そのものの享受に限られるが、生ける聖杯である姫君(聖権)はかの王の倉の中にも無く、真の王が手に入れるに相応しい物である。

 そういった、傲慢でありながら自然な答えが其処にある。

 だが、そう言った『財』の一つとして見ての理由だけ(・・)でもない。

 

 

「恋をするのに理由などというものは無い」

 

 それが、今ギルガメッシュが答えられる理由だった。

 

 

「ありがとう、それ以上の素敵な言葉は想像できないわ」

 

「なら、我の愛を受け入れるが良い」

 

 

 それは、王道にして正道の求婚であった。

 世界最古の英雄王が申し出て、世界最古の姫君へと送る愛の告白。

 これ程までに似つかわしい二人もいないであろう。

 黄金の勇者による黄金の姫への求愛。

 古来より画家や詩人が追い求めた究極の美しさ。

 島国の小さな公園に、世界の祝福が一点に集まろうと言わんばかりの瞬間。

 その答えは――――

 

 

 

「そうね、でも保留で良いかしら。

…夜歩きをして、一晩で二人の男性と語り合うとははしたないと怒られてしまうわ。

――――――――いえ、もう手遅れね」

 

 

 娘を探しに来たもう一人の黄金の王によって打ち切られた。

 

「余に話を通さずに逢い引きか?

――覚悟は出来ているであろうな、英雄王」

 

「面白い、新婦の父親への手向けは宴の終わりに用意していたが、待ちきれなかったか?」

 

 

 

 聖剣の騎士が荒ぶる神子と激突する最中、夜風の止んだ公園で黄金の王達の戦争も始まろうとしていた。

 




王女は、凪いだ風の代わりに手扇が送る風に戯れていた。

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