古代ウルクの英雄王ギルガメッシュ、そして古代エジプトの神王オジマンディアス。
この二人が衝突すれば、被害を抑えるのは難しいだろう。
ましてや、被害を抑えようとする気があるかも疑わしい。
本来監督役がいても、被害を隠匿するのは難しいであろう事が、今まさに起ころうとしている。
監督役がマスターとして参加しているこの状況では、誤魔化しようも無いだろう。
その上三名とも、根源に至らなければ叶えられぬ願いが無いなら、根源が最適の手段としての立ち位置で無ければ、魔術を隠匿する必要性を感じない者達だ。
聖杯戦争が、
この大災害が発生したら多くの人々が死に絶えるだろう。
しかし、それで死ぬ程度ならその程度の雑種だとギルガメッシュは言うだろう。
メルタトゥムもオジマンディアスも己に仕えるべき民を浪費するつもりは無いが、それが浪費では無く価値ある消費なら否定はしないだろう。
かつて島国に己の命に代えても、国民を守り抜いた皇帝がいたが、価値観に違いというのは当然のように存在する。
始まりの三家の夢を費やしてでも、冬木に住まう人々の命を費やしてでも、それが最終的に必要ならば否定する者は此処にはいなかった。
「私の為に争うのは止めて…というのは今更ね」
王女は巫山戯て笑う。
そもそも
奪い合った果てに残った者が手にする為にある。
手に取られる前の杯は、即ち不和の象徴。
彼女が存在している時点で、彼女の為に彼女の存在が争いを起こさせるのだ。
謡われるほどの物語によって、求められる姫。
それを誰よりも理解しているのは他でもない
太陽王と英雄王がただ一人の娘・后(予定)の為に争う。
そうなれば、この町は消える。
別に、それが目的に沿うものであれば、無駄では無い犠牲であれば、可哀想と悔やむ姿を見せ、悲惨な災害の生き残りを演じれば良い。
きっとそれは何処までも自然に為されるだろう。
そして更に世界は王女の副賞として掌握されるのだ。
考えるまでも無い。
けれど、その思考の隙間に計算されぬ想いが挟まれる。
凛が悲しむ――か、私の目的は母上だけで良かったのに。
随分と未練があるのね。
優勝候補との一騎打ち。
これを乗り越えれば、
他に伸ばす手の先なんて、考えることは無かったのに。
そう内心で王女は呟く。
人は何時までも、両親に手を握られていられるわけでは無い。
何時かは夫婦となり、親となり、自身が繋ぐ手の先にいる相手が変わるものだ。
もしかすると、この瞬間が、彼女にとって最初のそれだったのかも知れない。
「だから、この先は物語のお話ね。
――――――――演目再開」
現代に残された最古の姫が紡ぐは、全四節からなる幻想的な大魔術。
謡うように、踊るようにその
歌劇の幕が上がる。
それから先に起こる全てのことは物語になる。登場人物が何をしようと、現実世界に一切干渉しない、干渉させない。
登場人物以外の誰がそれを観測しようと、それは全て物語の中の出来事へと改竄される。完結される。
条件は一つ。
それが『お姫様の物語』であること。
全ての姫の源流である彼女には、その源流から続く全ての姫の逸話を己の物として所持している。
此度の演目は『エメル姫への求婚』。
登場人物は、絶世の美女エメル姫、そしてその父親、最後にエメル姫に求婚する勇者の三人である。
娘の結婚に反対する父親を倒さなければ、結婚は認められないという物語だ。
結末として、勇者は姫の父親を倒す物語なのは、敢えて触れる必要は無い。
この魔術に定められるのは、王女によって切り抜かれた基礎となる設定だけだからだ。
姫を巡って、その父親と求婚者が決闘する。今回はその設定だけが定められている。
『エメル姫への求婚』に登場する勇者の二つ名が、『クランの猛犬』であったり、『光の神子』であることも特に理由は無い。
王女にとってからかいついでに、敢えて煽ってみるのも一興だが、物語を知らない相手にそれを自分が話すのは無粋、相手に教養が無かったと認識することにしていた。
言い換えれば、オジマンディアスに勝った時点で、メルタトゥムはギルガメッシュの求婚を受けると言うことでもある。
それは、父が負けることは決して無いと信じているからか、それともウルクの王の言葉に揺れるものがあったのか、それは秘密の奥へと沈んでいる。
「――――エメル? 聞いたことがあるな」
求婚する側の黄金の王が、そう告げた事に少々王女は驚いた。
「ご存じでしたの?」
「いや――――ああ、思い出した。
あの狗が妻の話ではないか、意地が悪いぞ后」
この物語をギルガメッシュが理解していたと認識した王女は、艶やかに笑って宣告した。
「ご存じのようなら手間が省けます。説明は不要でしょう?
私の為に、この物語を紡ぎなさい」
結末は未定。
父王が勇者を倒して娘を護るのか、勇者が父王を倒して姫を娶るのか、この