悪性情報。
それは人間が『正しく』ある為に存在してはならないもの。
無かったことにして切り捨てられるべきもの。
在るべき姿でないもの。
正義を引き立てる為に踏みにじられるべきもの。
それは―――――――『この世全ての悪』
悪魔。
それは、誰かの願い。
それは、願いに寄生する願い。
それは、願いを歪めた願い。
それは、人間に取り憑き変質させる悪性の情報。
人間に取り憑くも、人間という器が受け入れられるほど小さなものでは無く、未だかつて受肉は成功したことは無いという。
ズェピアとマキリは考えた。
悪性情報を疑似的な悪魔として扱うことが出来るのでは無いか。
人間では無く、強大な霊子情報たる英霊であれば『器』足り得るのでは無いか。
即ち、最後のサーヴァント『
そして召喚と同時に『タタリ』の『器』とする。
受肉では無く、受胎であれば叶うやも知れぬ。
これは元が人でありながら悪性に変質した悪魔のような計画。
彼らは共に天へと
太陽は、星以外が己の側に近付くことを許さない。
それでも憧れて手を伸ばしたから、翼をもがれて地へと墜とされた。
タタリが夜しか動けず、蟲が日光に弱いのは、憧れて絶望した太陽によるものなのかも知れない。
だから―――――――――――再び手を伸ばした。
呪腕のハサンとされる器に収まり内側から貪り食って羽化したタタリは、逆流する流れ星に討たれ堕ちようとする
文字通りに手が伸びた。
太陽に連なる英雄の心臓を掴み取った。
英雄の戦いを汚す者は地獄の釜に落ちるが相応しい。
なれど、問題は何も無い。
悪魔は元より地獄の住人である。
そういって、己の物とした。
そうやって――――――――――彼らは漸く太陽を手にした。
しかし未だ足りない。
手に入れてしまうと更に欲しくなる。
だから、何故太陽に手を伸ばしたのか、其れを忘れて尚彼らは太陽に手を伸ばす。
喰らいし神子の魂から、心臓へと必ず至る因果を己の物として――――。
突然の乱入によって、戦いを汚されたマスターとサーヴァント達。
しかし、片や多数とはいえ、戦力は満身創痍。
その上、弓兵はそもそも間桐のサーヴァント。
そして、夜明けを告げるヒバリの鳴き声。
幕を引かざるを得ない。
神々しい戦いが、闇に沈んだ幕引きであっても受け入れざるを得ない。
この場から消えようとする、飲血鬼であり暗殺者であり悪魔である堕ちたイカロスに、未だ余力を残す太陽の系譜たる大魔女が告げた。
「この地の聖杯からは負の印象しか受けないわ。
到底真っ当に願いが叶えられるとも思えない。
それでもこの戦いを続けるのかしら。
戦闘狂にはとても見えないけれど」
無論、この大魔女だけは聖杯をどうにか出来る事は敢えて告げられはしなかった。
無駄に相手に情報を伝えるのは悪手。
話しかけて相手を縛り、相手から情報を抜き出し、自身の情報は渡さない。
王女たる者身に付けて当然の、特にそれに優れた友がいるのならば磨けて当然のスキルだ。
しかし、そんな隔絶を当然と認識する太陽からの指図には彼らは従わない。
これまで、別種と、雑種と、有象無象と、所詮は地を歩く者と見下され、翼を作り空を目指し、太陽のいるところへと命がけで駆けて――――――それでも不敬だと墜とされた者に、太陽からの言葉が届くはずも無い。受け入れるはずも無い。
「「負の印象?
その程度で怖じ気づくと?
願いが叶わないから諦めると?
馬鹿にするな。
その程度で諦めるのならば我らは―――――――」」
臓硯とズェピアの声が重なる。
彼らは願いも想いも始まりも経過も結末も重なっていた。
その目的を忘れた今となっては、滑稽にさえ写る妄執。
しかし、それを滑稽と笑ってきた
出来て当然、出来ないはずも無い、苦難の必要も無い、さすれば成らん。
そんな
彼らは恋した太陽へ繋ぎたく伸ばした手を振り払われて、星の開拓者になり損ねた、魔法使いになり損ねた敗北者。
太陽は空の世界の住人であり、汝らは地の住人であると、奢れる太陽に焼き尽くされて、見せしめと晒し者にされた生ける死体。
当然の如く門前払いした太陽に、その手の温度も、心臓の温度も、魂の温度も理解できるはずが無かった。
永久に遥か遠き黄金の太陽。
それを地に墜として埋めるのならば、地から天までよりも深い穴を掘らねばならない。
悪魔らしく地獄までの孔を掘ろう。
負の聖杯で何がいけないものか。
彼らは其れを本能的に気付いていた。
故に、思い出せぬものを思い出せぬまま手を伸ばす盲目のイカロス達は、翼だけで無く眼まで灼いた太陽に今度こそ対等に宣戦布告をして消えた。
諦めるのならば我らは、生きてさえもおらぬ――――――――――と。