太陽王の娘   作:蕎麦饂飩

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怪盗少女や魔法少女が男の子に正体がバレるのは古い伝統なのです

「差出人はマキリ・ゾォルケン。…断言しますが、これは間違いなく罠です」

 

 貴女の美しい声で代読して。

 その言葉と共に招待状を見せられたシオンは開口一番にそう告げた。

 

「ええ。わかっているわ。

だから他でもない軍師(貴女)に見せたのよ。

それはわかっているから、内容を読んでくれると嬉しいわ」

 

 聞き様によっては、罠かどうかを聞いているのでは無いから言ったことに従えと言っている様にも取れる。

 そういう側面は全くないとは言えないが、男によって書かれて男によって渡された文の内容が自分に届くまでに、清らかな乙女の代読というクッションを挟みたいだけという事情が大きい。

 元より寛容を旨とするメルタトゥムである。

 命令にだけ従っていれば良いという態度をばらまくつもりは無い。

 責務ある労働者でも責任ある使役者でも無く、権利の譲受者たる彼女は寛容なのだから。

 

 

「…もし仮に恋文なら、声に出して読まずにお断りの返信を代筆してくれると嬉しいわ」

 

 

 男性には、女性に対して程寛容では無いのかも知れない。

 彼女は基本的には男性に興味が無い同性愛者である。

 

 

 

 

「明日の晩、間桐が主催の前夜祭を開くそうです」

 

「何の前夜祭なのかしら?」

 

 

「書いてはいませんが、血生臭いことだけは間違いないでしょう」

 

「そうね。

では、参加に印を付けて返信しましょうか」

 

 

 昼の襲撃に対してメルタトゥムはオジマンディアスに伝えるつもりは無い。

 それは約束を違えることになり、美しくは無いからだ。

 だが、オジマンディアスによって招待状の返信を突き付ける事にした。

 

 王女は自社製のスマートフォンを取り出すと、履歴からある人物へ電話した。

 

 

「先日はよくやってくれたわ。

…死者が出たのは残念だけど」

 

 その言葉に電話の相手は――――

 

「誠に申し訳ありません」

 

 ――――電話の向こうにいる王女に跪いて謝罪した。

 

「責めてはいないわ。

私はよくやったといったの。期待以上の働きよ」

 

 

 

「…そのお言葉で十分です」

 

「勇士の遺族には私からも冥府での安息を祈らせて頂くわ。

実に、立派でありました」

 

 

 電話の相手はその言葉に息を呑み、感動の余りか嗚咽混じりに言葉を繰り出した。

 

「姫様にそう言って頂けて彼らも光栄でしょう。

遺族にも手厚い対応を姫様自らの御資産で行われて、私としても感謝しております」

 

「当然よ。

民も資産も私のものであり、此度の戦争も私の意思で行うもの。

その責任も栄誉も私の為にあるのだから。

 

大佐、貴方達にもう一つ栄誉を与えるわ」

 

 

「はい、何でしょうか」

 

 

 古代の王家を信奉するエジプトの秘密結社に属する陸軍特殊部隊の長である大佐は、その場にはおらず、電話の向こうにいる相手に対し更に深く傅きながら続きを待った。

 

「冥府からの招待状が来たわ。我が父の名を冠した馬で差出人に返事を届けなさい。

届けるだけで良いわ。

わかるわね? 彼らからの解答を聞く必要は無い」

 

 

 大佐は、心からの喜びを表すように意気込んだ。

 

 

「お任せ下さい。ジェイドとメネックが死の国の偵察をすましているでしょう。

我々はいつものように斥候を信じて駆け込むだけです」

 

 王女は満足そうに、任せる旨を伝えて電話を切った。

 

 

 開幕の襲撃で返り討ちに遭い死亡した数名を指揮していた陸軍大佐は、立ち上がるとすぐさま部下に命じた。

 彼が膝を付き敬意を捧ぐ相手は王女のみ。

 それ以外の全てのものに対しては常に威風堂々とした武人である。

 

「ラムセスⅡ世を偽装トラックに積み込め。

我らは姫様の為に、亡くなった戦友の為に勝利を取るのだ」

 

 

 

 特殊改造を施された第二世代戦車。別名ラムセスⅡ世、オジマンディアスと呼ばれるそれにより、彼らは最終点検を初めながら勝利を誓った。

 メルタトゥムは父王には秘密にするとは言った。

 しかし、不問にするとは言ってはいない。

 招待状が銀の弾丸と共に届けられたのならば、返信は銀の砲弾と共に届けてあげるのが風流というものだ。

 

 

 明日、前夜祭があるというのなら、今宵それ以上の祭を開いて当日の宴を白けさせてしまうのが良い。

 昨日の方が面白かった。

 そう言わしめるほどの火力を持って、前前夜祭を開いてしまえば良い。

 きっとそれ以上の花火を打ち上げることなど不可能なのだから。

 

 

「シオン、花火に行くわよ。

ファジーアイスを食べながら特等席で見学しましょう。

父は休ませてあげていて構わないわ。

あの黄金の戦争の後では何を見ても興醒めしてしまうでしょうから」

 

 

 

 王様ゲームでは無いが、お姫様の命令も絶対である。

 どうせ従う羽目になるのならば、積極的に従うのが良策だと軍師は諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夜の帳が降り、最初の襲撃と寸分の違いなく全く同一時刻。

 間桐邸の前に止まった数台のトラックから降りた戦車部隊による集中砲火が始まった。

 一瞬の内に家であったものが瓦礫へと変わる。

 間桐邸から逃げ出す者があれば、直ぐさま射殺出来るように複数箇所に狙撃兵達が構えている。

 一分の静寂の後、反応が無いことを確認した部隊はその場を撤収した。

 

 周囲の監視カメラも既に改竄済みでありこれ程までの大事を行いながら痕跡は無い。

 ただ、ガス栓の管理不足と火の不始末でもう少しで周囲の家に被害を出していたものの、そうなること無く間桐家だけが完壊したという事実が残るだけである。

 

 

 大佐に最高の成果であると告げ、撤収を命じた王女。

 彼女は既に間桐の本拠地が間桐邸で無くなっていたことを察していた。

 精々工房を潰しただけ。

 それでも現代魔術師にとって工房が潰されて尚、古代魔術師に勝てる見込みは殆ど無くなったと言って良い。

 メルタトゥムに言わせれば元々存在しない勝ち目がわかりやすく無くなっただけなのだろうが。

 

 捨て地となった廃墟を破壊しても勝利とはならないが、相手の拠点を無くせば勝利に王手がかかる。

 メルタトゥムに勝つ為の切り札である筈の拠点を捨てるには大きく分けて三つの理由がある。

 

 シオンも丁度その事に気が付いたようで雇い主に報告する。

 

 

「可能性は三つあります。

一つは勝利を諦めて逃走した場合」

 

「招待状まで出しておいて?」

 

 当然却下されるのがわかってシオンも、当然という顔でそれを否定する。

 

「二つ目は新しく工房を作っている場合」

 

「残り一つは聖杯戦争で勝利しなくても目的が達成出来る場合ね。

若しくはその複合」

 

 最後の答えをメルタトゥムが補完する。

 

 聖杯戦争でサーヴァント同士の戦いもせず、知られていないところに工房を作られたという最悪のパターン。

 しかもこの土地に根深く、聖杯戦争に詳しい御三家が陣取るとすれば、聖杯がある地点。

 聖杯戦争で参加者が戦っていても、聖杯はスポンサーが商品として渡さずに持ち帰るという方法。

 若しくはその聖杯を戦争に使ってしまうことすら考えられる。

 どうせ敗者は死人であるならば口が無いも同じだからだ。

 

 

「だとすれば場所は――――」

 

「――柳洞寺よ」

 

 

 シオンの疑問に彼女のサーヴァントが答えた。

 

「明日、前夜祭をすると言っていたわね。

どうやら、その準備中のようね。

行きましょう」

 

 どこかそわそわしたキャスターであったが、それでも非常に高度な空間転移の魔術を誤ること無く発動させると、メルタトゥムとシオンごと柳洞寺へと一瞬で移動した。

 

 

「宗一郎様ッ!?」

 

 

 見れば人型の影と穂群原の社会教師が戦っている。

 

「先ずは料理の下準備と思っていたが、一日早く来てつまみ食いに来るとは思ってもいなかったぞ」

 

 

 声のする方を見れば醜悪な老人がそこにいた。

 その老人、間桐臓硯が告げるにはこの影人形は実験に過ぎない劣化版であり、明日にはもっとしっかりしたものが出来るとのことだった。

 戦っているのが影の人型である事を考えると、完成品がサーヴァントの亜種の様なものであることは想像に難くなかった。

 そしてこの悍ましい戦い方に賛同しないであろう遠坂凛が、間桐との共闘を解除したか既に倒されている可能性もメルタトゥムには想像出来た。

 

 

「黙りなさい下郎が」

 

 キャスターが手を翳すと放たれた紫色の閃光が臓硯諸共、周囲の影人形達を撃ち抜いた。

 とはいえ、しぶとい老人は死んではいない。

 

「……」

 

 明らかに超常の力を駆使したメディアの方を見た葛木宗一郎。

 逆に隠していた己を知られたコルキスの姫はその視線を下げた。

 

「…殿方に正体を知られるのは魔法少女のお約束だそうよ」

 

 

 何のフォローにもならないフォローを言い渡す現役の魔法少女(××××歳)。

 そもそも少女という歳でも無いメディアにはプラスどころか若干マイナスだった。

 

「あの…私は――――」

 

「俺には必要無い――――助けてくれたのだろう。その事実だけで充分だ」

 

 当初拒絶とも取れる言い回しであった葛木教師に、女の敵だという風に見ていた二名と表情が落ち込みきった一名であったが、続く言葉にその印象は反転した。

 

 

「やれやれ酷いの。

最初は儂を見抜き、そこそこやるからマスターかと思って実験に付き合わせたが、見込み違いだったようじゃ。

では、実験の失敗作を置いていくから存分に処分してくれ」

 

 臓硯が影に沈むように何処かへ消えると同時に、有象無象の影人形達がどこからともなく夜の闇の中から現れた。

 その数は数えていられないほど多かったが、三名の女性と一名の男性は気にした様子も無い。

 

 

 瞬時にキャスターに強化魔術をかけられた葛木宗一郎は身体が軽くなったことに驚くこと無く拳を構え、

 メディアは簡易の陣を敷き、再び影共に手を翳し、

 シオンは銃を構えて敵の行動のあらゆる可能性を分割試行で思考走査し、

 メルタトゥムはただ薄く微笑んだ。

 

 

「影は、光の前には出来ないものなのよ」

 

 王女の否定の言葉と共に、戦いは始まった。

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