太陽王の娘   作:蕎麦饂飩

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渡し損ねたプレゼント

 太陽が降臨し、世界の闇は祓われる。

 セトの花嫁は、太陽の威光を持って業物、『毒蛇姫斬り』を消し去る。

 

「娘が奔放だと苦労する。…後で治療と一緒にお説教だ」

 

 太陽王は、娘を持つ父親としての叱責と共に、心配と慈愛を向ける。

 妻によく似た娘が痛たましい姿になるのは、見慣れるものでは無いし、見慣れて良いものでは無い。

 正直、下手人共に対しても怒りがわいてくるが、娘はあくまで自分が招いたことだと言うのだろう。

 先にその思い違いを間違いだと、間違いで無くてもあって良いことでは無いと教え込むべきであると、オジマンディアスは考える。

 妻に説教して貰うのが、一番良い。

 きっと、それが何より娘には堪えるだろう。

 

 と、一見冷静を気取っているつもりだが、その怒りは物理的魔力的な圧力となって漏れ出ている。

 愛娘を銃撃して、斬り付けた相手が目の前にいる。

 勇士として立派と呼べる範囲で、思いっきりぶっ殺す。

 そしてその後、好き勝手動いては大ケガをした馬鹿娘のお尻を叩いてお説教。

 偉大なる王オジマンディアスは、それほど冷静でも無かった。

 

 

 この時、オジマンディアスと王女は向かい合った敵に対して、慎二とエミヤは強大な太陽とその眷属に対して、それ以外に注意を向けていなかった。

 それが失態であった。

 

 第三者の伸びる腕が、王女の胸を貫いた。

 その闇の腕を、太陽の血を流す心臓は焼き付けて拒絶するが、心臓を掴んだ闇の腕は引き抜くこと能わずと見るや、腕が焼けるのも戸惑わずそれを握り潰した。

 その直後、腕は太陽王に斬り掛かられたが既に、王女の心臓は潰された後。

 首を斬り落としても死なないマミーの最大の弱点は、死後別に収められて、その後に戻された心臓。

 心を持たぬ事を良しとするならば、自身の身体に収めないことで弱点で無くなるものを、心の温度の為に迎え入れた弱点にして最強の武器。

 それが、握りつぶされた。

 

「メルタトゥムッ!!」

 

 思わず叫んだ太陽王は、倒れた娘を抱きかかえる。

 妻が亡くなる寸前で見せた表情に似た顔で、娘は父親に別れを告げた。

 

 

「爺さんっ!!

こんな決着は僕は望んでないぞ。

こんな事しなくても僕はエミヤとっ!!」

 

「――――勝てたとでも言うつもりか?

悪いが、それは無理じゃ」

 

 不意打ちをした慎二達すら目眩ましに、更に不意打ちを掛けていたのはアサシンを従えた臓硯。

 太陽王は娘を喪う事を受け入れずただ名前を呼び、娘はそれを受け入れ、エミヤと慎二は納得出来ない状況を納得しようと自分を押さえ込む。

 

「祭は、日が落ちた後では無かったのか」

 

 太陽王のその声には、既に色が無い。

 快活さも聡明さも窺えない平坦な声であった。

 

「騙し討ちじゃよ。

悪人が悪事をして、何を悪びれる必要がある?」

 

 

 この時、オジマンディアスを支配していたのは怒りですら無かった。

 喪失感。

 ただそれ一点の感情で心は埋葬されており、それ以外の事は入る余地も無かった。

 

 

 

 

 文明の利器で作られた、ファジーのシャーベットをこよなく愛する娘。

 とにかく妻への劣情と執着を絶やさず、己を敵視する娘。

 素直に感情を見せるようでいて、己にはそれ程素直では無い娘。

 昔、妻が亡くなったときに、冷たくなったその手を放さなかった娘。

 禁呪に手を出した為に、一度目の死を迎えた娘。

 この時代で、大切な友が出来たと告げた娘。

 

 美しくなくても、賢くなくとも、優れた身体能力が無くても良かった。

 この時代でまで原初の姫としてあらずとも、己に続くお姫様を祝福する限定された第六法の体現者(幸福の魔法使い)で無くとも良かった。

 理由や理屈など要らない。

 ただ、愛する家族が生きていてさえいれば、それだけで良かったのだ。

 

 

 オジマンディアスの脳裏に、少し前に娘と話し合った内容が思い出される。

 

『――ところで父上、聖杯に掛ける願いは、父上(が御自身)の受肉を願い、(私が)母上の復活を願うで良いのですよね』

『聖杯に掛ける願いは、余の受肉を(お前が)願い、(余が)妻の復活を願う事に異論があろうか』

 

 正直に言えば、お互いに言葉に入れていなかった部分は理解していて、その上で更に言葉に含めていなかった部分が照れ隠しの蛇足だともわかっていた。

 

 

 だが、未だ手段はある。

 妻の時のように、天命によって一度目の生を召し上げられたわけでは無い。

 未だ、太陽に付き従う儚き光は消えてはいない。

 世界がそれを求めない。

 娘の役割がそれを許さない。

 何より、己の父親としての愛が、それを許さない。

 

「…お前は、余を恨むだろうな。

だが、許せよ」

 

 オジマンディアスは、最高のファラオの権限を持って、ホテルピラミッド冬木の所有者を、メルタトゥム()から己へと上書きする。

 娘が自分のものだと熱心に言っていたピラミッド(・・・・・)を己の物だと取り上げた。

 オジマンディアスの宝具によって、自身のピラミッドの中では己と己の眷属への高い蘇生効果を生み出す。

 

 潰れた心臓は再び息吹を吹き返し、血を吐き出しながら娘は意識を取り戻した。

 

「…取りましたね父上。母上に言いつけますよ」

 

「…この馬鹿娘が」

 

 珍しく、後ろめたそうに告げる娘に対して、父は愛のある叱責を与えた。

 

 

「ごめんなさい」

 

「うむ、許す」

 

 意外にも素直に謝った娘に対して、これ以上自分からの(・・・・・)叱責は終わりとすることにした。

 勿論、ネフェルタリからの叱責は別にある予定だ。

 

 そして、漸く喪失から復帰した太陽王には、未だ怒りをぶつけるべき相手が、その場に残っている。

 

 

「既にこのホテルの全ては我が宝具。

娘よ、その戦力は?」

 

「倉庫に収納された第二世代戦車十五両。試作型小型無人飛行銃撃機が三十機。

従業員として配置した生ける死者達十名。スフィンクス、魔蟲多数。

そして、それらを統べる偉大なる太陽王です」

 

 

「上出来だ。

だが、偉大なるの前に『私の大好きな』を入れれば満点だった」

 

 

「…今後の参考にするよう、善処させて頂きます」

 

 黄金の威光が、反撃を開始する。

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