私は化け物だ。
正義と戦争の女神に突き付けられた私の本質は、最初から化け物だった。
己の醜さから目を背けて切り離して、美しい己だけを見せ付けて驕り高ぶり人間を辞めた。
私を殺した英雄さえも、女神の駒でしか無かったが、女神の駒に取ってさえ、私は英雄譚の話の種でしか無かった。
美しい私だけが私。
醜い私は私じゃ無い。
あの女神は、そうやって弱い自分を偽っていた私に、あの女神は真実を映し出す鏡を差し向けた。
そこに映っていたのは、美しいだけで無く醜くもある私。
醜くなっていく悍ましい私。
醜くなってしまった悍ましい私がそこにいた。
正義の光は、いつも容赦なく真実を突き付ける。
正しさだけでは生きていけない人々に、容赦なく残酷を突き付ける。
強ければ正しさの路を踏破出来る。
では、弱い者に同じ事が出来るか?
そんなことは無い。
時に
時に
しかして、それは許されはしなかった。
惨劇の脚本家が呼び出した偽英霊達は、太陽の前に消える影の様に消された。
影に住まう者達は、日昇により現世を追い出された。
五体満足に残されたのは、憎き女神の駒にどこか似た少年と、白髪の赤い騎士。
死の夜へと追放された残滓が、私の周囲に集まる。
その密度は前回に臨界した時の比では無い。
虐げられて踏み潰されて消えていく者達は、私にその存在の全てを託した。
元々粗悪品である彼らの、しかもその残滓でしか無い欠片。
それでも、それでも私は彼らの代弁者として戦争と正義の姫を倒そうと思った。
「力が欲しいなら、お貸ししますよ」
△
△ △
その女は、消えていく影が集まった地中から溶け落ちる様に現れた。
その女の名はメドューサ。
戦争の女神アテナの不興を買い、悪として打ち倒された反英霊である。
「また、会えましたわね」
優雅に壮麗に、存在するだけで誰もが正義の側だと確信するような姫は、自身を呪い世界を呪った女に微笑む。
もう一人、サーヴァントが増えたとしても、太陽王の前には何一つ敗因はない。
唯一の弱点であろう姫は、周囲を戯れる翡翠の蝶を纏う様に羽ばたかせている。
「会いたいわけではありませんが」
世界に祝福されて神に愛されるお姫様に会えば、自分が醜さを切り離さなければ競い合えないただの女性であることを突き付けられる。
そんな残酷さを、当たり前と受け入れられるのならば、この世界には化粧も衣装も存在しなかったはずだ。
美しく強い女であるために、弱く醜い己を必死に隠して生きている女性の代表として、メルタトゥムの存在自体を認めてはならなかった。
「それは悲しいですね。
ではさようなら」
悲しそうに、ついそれが形だけのものであっても魅入られてしまうような美しさ。
自然としてある純粋な美しさは、憎しみを持ったままでも見惚れてしまう。
そして、その美しさを持つものは、見惚れてしまう相手の弱さを一々考慮する必要はない。
利用するだけだ。
姫は琥珀の蜂を更に自身の警護として増やす。
戦いに加わる様子はなく、父親だけで十分で過剰だと信仰しているようだった。
それは残酷すぎる真実だった。
戦闘、いや戦争が始まるが、幾多の剣を使い捨てて尚、太陽王の優勢は崩れない。
無駄に長引かせる必要もなく、弄ばずに勇士として殺す。
色々と思うところはあるが、娘に頼まれた以上はそうしようと、太陽王は弓兵を蹂躙する威力ある輝きを差し向けた。
弓兵の主は、死の恐怖を必死に隠すように誰が見ても誤魔化し切れていない虚勢を張っている。
衰えていく美しさに怯えていた女、メドューサは、己の弱さの象徴である鏡を宝具として出した。
偽のサーヴァントとして存在する己が、本来のサーヴァントとしては持ち得ない宝具。
それは――――――――『アテナの鏡』。
光は岩では食い止めることしか出来ない。
食い止めた岩は熱を持ち、影に住まう弱き悪を護ることも出来ない。
しかし、鏡であればそうでは無い。
光を跳ね返すことが出来る。
光である以上、その性質は無視出来ない。
悪へと向けられた輝かんばかりの王の光。
反射されたその先は、この世で最も美しい白雪姫を写し出していた。
メルタトゥムへと向かう旭光。
しかし、王女は気にも留めない。
光が収まった後、陽光に焼き溶かされた蝶の残骸の中心に、王女はいた。
まるで、正しき者は厳しすぎる正しさの中においても生きていけることを証明するかのように。
傷一つその真珠のような肌に負ってもいないメルタトゥムは、内心でそう言うが口には出さない。
その理由は、主に現役の思春期みたいな照れからくるものである。