太陽王の娘   作:蕎麦饂飩

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特攻は投稿に勝る

 太陽王の親子に対する最大の攻撃手段であり防御手段は鏡である事を理解出来た事は、間桐達にとっては有益だった。

 しかし、攻撃手段が光だけだとは誰も言っていない。

 勇壮なスフィンクスと、小型の愛らしいスフィンクスの軍団。

 敵対者一点に向けられた戦車の砲身。

 再び造られた宝石蟲。

 

「敵ながら見事だった」

 

 王が告げた賛美の言葉は既に過去形。

 それは、敵の死を宣告していた。

 

 絶対的な死を宣告しながらも、ただ二人の、否、人間でしか無い間桐慎二を含めて三人のみで今まで生き延びただけで充分。

 片腕をだらりと力無く垂らしながらももう片方の腕に握られた銃と視線だけは外さない間桐慎二。

 無理に宿敵の宝具を再現し、消耗したメドゥーサ。

 全身を己の血で紅く染め上げたアーチャー。

 

 最早勝機は無い。

 救いは無い。

 祝福は無い。

 

 しかし、無ければ作れば良い。

 勝機を、救いを、祝福を。

 例えそれが歪んだものであっても、穢れたものであっても、偽物であっても良い。

 弱者に、せめてもの誇りが欲しい。

 

 メドゥーサは慎二に小声で何かを呟いた後、悠然と前へ進み出た。

 

 

「もしかして投降かしら」

 

 心の底から慈悲深く投げかけられるその言葉は、やはりメドゥーサを下に見た優しさだった。

 

 

投降(サレンダー)

いいえ、死なば諸共(エンダー)よ」

 

 メドゥーサの選択肢は自爆。

 しかも相手を倒すという殺気まで込めたそれはブラフで、見かけ倒しに全力を注いだもの。

 

 

 

 

 

 物理現象さえ引き込んだ、吹き荒ぶ魔力の奔流が消えたときには、弓兵の主従はいなかった。

 

「ふっ、逃げられたか」

 

「逃がした、の間違いでは無いですか?

いえ、既にメインディッシュが決まっているのに、前菜の手直しをさせる必要はありませんでしたね」

 

 王女は相手を扱き下しているわけでは無い。

 ただ王女にとっても、王にとっても間桐の主従は立派な勇士であれど、最大のイベントでは無かったと言うだけだ。

 太陽王オジマンディアスにとってはギルガメッシュ。

 原初の姫メルタトゥムにとっては遠坂凛。

 それら最大のイベントに比べれば、霞んでしまうだけに過ぎない。

 

 

「父上。熱が籠もりすぎたようです。

アイスでも食べませんか?」

 

「良いな」

 

 戦の熱に浮かすには充分であった、先程を思い出しながら、姫は周囲の従者に命じた。

 

「誰か持ってきなさい。勿論ファジーアイスよ。

…棒チョコを挿すのを忘れないでね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

§§

 

 

「はぁっ、はぁっ」

 

 息を切らして走る間桐慎二。

 その脳裏に、先程、紫の美女が告げた言葉が思い返される。

 

 

「いきなさい。

あなた、私を殺した男よりは素敵でしたよ」

 

 救いの無い闇の陣営に救いを与えてくれた美女。

 別の世界線では偽りの主従を結んだ二人は、契約を持たないこの世界では別の世界よりも少しだけ信頼が繋がっていた。

 とはいえ、その片割れは既に自死したが。

 

 世界は眩い。

 悔しいくらいに、影を排除して汚れを嫌う。

 

 慎二は結果として生き延びられた。

 ならば何も問題は無いじゃないかと自身に言い聞かせる。

 己は他者に犠牲を強いる間桐だと。

 その内心は、やはり臓硯に似ていた。

 

 

 

 アーチャー。英霊エミヤは先程の戦いで死ぬのはゴメンだと思っていた。

 未だ桜を救ってはいない。

 未だ凛との約束は守れていない。

 そんな状況で消えるなんてのはゴメンだった。

 世界でも無く桜を護る為に存在するのに、桜に犠牲を強いる臓硯の為に死ぬなんてのはあり得なかった。

 だからどこかで隙を見て逃げだそう。

 そう、考えていた。

 

 そう考えていたはずなのだが、「一緒に死んでくれ」と笑う慎二に引っ張られてズブズブと、気が付けば死ぬ寸前まで戦っていた。

 笑うに笑えない。しかし、笑う以外に無いのだ。

 もはや喜劇と言って良い。

 友情や義理の為に、本命を見失いそうになるなんて実に愚かだ。

 その愚かさが無様で憎らしくて惨めで悪辣で、でも少しだけ心地良かった。

 

「何がおかしいんだよ」

 

「いや、幸運だと思ってな」

 

 不謹慎にもこのピンチから逃れたばかりのボロボロの状態で苦笑するサーヴァントに、そのマスターは苦言を呈した。

 

「悪の巣窟の間桐家に召喚されて幸運だとか、やっぱり衛宮は馬鹿だな」

 

 そう告げた慎二少年の口元も、やはり笑っていた。

 その表情のまま、慎二は親友を連れて、新築の家に帰った。

 

「帰ってきたぜ、爺さん」

 

「そうかそうか。では、お帰りとでも言ってやろう」

 

 馬鹿な孫が帰ってきた祖父の口元も、ほんの僅かに笑みの形を作っていたが、それに気が付いたものは本人を含めてさえ誰もいなかった。

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