招待者を待ち構えるは、虚構の脚本で構築されたサーヴァント達。
古今東西の英雄や反英雄達が一堂に並ぶ様は圧巻だった。
立場が違えば、魔神を打ち倒して人理を救う為に集まった様にさえ見えるのかも知れない。
しかし彼らは悪であり、それを打ち倒す英雄達は正義である。
だとしても、だとしても――
「今宵我らは正義を屠る。
いざ開かれん。ここは悪逆の舞踏会ッ!!」
ズェピアの宣言と共に、宴は始まった。
騎士王は見知った騎士達と剣をぶつけ合い
魔女は同じ船に乗った仲間達と魔術で戦い
黄金の王は王女に話しかけながら迫り来る敵を穿ち
別の黄金の王は苦言を呈しながら敵を焼き尽くしていた
一見正義の側が優勢のように取れるが、そうでは無い。
打ち倒される度に、より強くなって同じサーヴァントが再生する。
一度負けても、何度でも立ち上がる。
敗北の怨念が、敗北の経験が、立ち上がる度に不屈へと完成度を上げていく。
彼らが正義の側でさえあれば喝采と声援が与えられるであろう。
立て!! 輝け!! 蘇れ!! と。
しかし、悪である彼らには声援など存在しない。
何処までも否定されながら、それでも戦うのだ。
次第に、正義の側が推され始める。
正義の味方達を、悪の凶刃が傷つける。
それでも、正義の側は負けることは無い。
信念を燃やす
一言で言えば、正義は勝つ。
そう信じているから。
正義のヒロインが諦めないのならば、彼女らを護る勇者達もまた諦めなどしない。
夢見る姫の願いは叶い、希望を胸に燃やす勇者は勝利を掴む。
日が強く照り出せば影との対比が明確になるように、悪が際立てば正義もまた際立つ。
今、この冬木は世界で最も善と悪が明確に分離して衝突をしている。
悪の側に立てば悪として、正義の側に立てば正義の側として、明確に存在出来うる。
世界がそれを肯定する。
故に、穢れた茨姫は悲劇のヒロインのままでは終われない。
囚われの姫では無く、明確な悪の統治者として加害者の側に回る。
そのまま救いを求めて事切れていれば被害者でいられたのに、其れが嫌だと害する側に回る。
これは嫉妬であり、逆恨みであり、気狂いによる無意味な破壊活動である。
しかし、これも茨姫の弱さであり、穢れることを知らぬ純白の姫よりは遙かに人間らしく女らしい衝動であった。
絶望に目覚めた少女は、憎悪を言祝ぐ。
「やっちゃえ、ライダー」
「仰せのままに」
今度こそ、敵を討つ為に最後の顕現を行ったのは、悪蛇と呼ばれた紫の美女。
今度こそ、彼女は征く。
美女でも醜女でもない。――――等身大の女性として。
醜さも、美しさも受け入れたまま、怪物であり、女神であり、何よりも人間である者として、同じ絶望に狂う少女に、明確に間違った優しさを与える為に。
明確に世界が悪とする行為に、ただ愛を以て与する。
そしてまた、悪の代行者に仕立て上げられた少女もまた、メドゥーサに力を託す。
他のサーヴァント達とは位階さえ異なる別格として、己を守護する者として、悪の実行者としての責務を完遂する力を。
「やって下さい、父上」
「任せろ」
世界に愛されるが故に、人に汚されることの無い永遠の姫は、ただただ親愛なる父上に託す。
オジマンディアスもまた、マスターとしての命令では無く娘としての願いを遂行する為に力を振るう。
闇が深いなら、それ以上の光を照らせば良い。
ただただ世界に正義を敷く為に、悪を祓う。
極光を以て虚構の闇を切り拓く。
「つまらん。我に活躍の場を与えさせる者はこの場にいないのかっ!!」
もう一つこの場に輝く黄金が、幾数のサーヴァントを同時に物量を以て押しつぶす。
当初と比べると、明らかに敵の密度と強度が上昇してきており、彼の王の額に僅かに汗が滲んできているが、他ならぬ原初の王自身がそれを認めない。
故に、汗はかいていない。
汗をかくまでも無い。
常人なら予断を許さぬ状況下で、未だ油断が許される。
そう、彼の名は古代バビロニアの英雄の雛形にして、王の中の王――――
「偉大なる英雄王を満足させる相手など、我が父以外にはいないでしょう。
ですが、仕合の前の準備運動を不十分にして我が父を倒せるというのは、流石に慢心が過ぎるというものですわよ。
ギルガメッシュ王」
英雄王が脳内で勝手に決定している未来の花嫁の口から、言葉が紡がれる。
上手く焚き付け様とする言葉は、何処までも本心から放たれる言葉。
美しい容姿と美しい声から、何処までも高貴さが溢れんばかりに流される。
意図的にやっているなら小賢しい行為だが、自然体でそうある故に咎めるべくもない。
そして何より――――
「惚れた女にそう言われては、流石の我も振るわざるを得まい。
刮目せよ原初の姫。原初の英雄たる我に、今一度惚れ直すが良い」
古代エジプトの黄金が輝くのに続いて、バビロニアの黄金もまた輝きを昇らせた。
まるで太陽が二つあるかのような目映さ。
濃くなる闇でさえも、今のままでは追い付かない。
このままではいずれ、メドゥーサもサーヴァントの軍団も祓われる。
間桐桜の傷を優しく舐めるメドゥーサを、間桐臓硯の絶望を共有するズェピアの劇団員が断罪される。
そのままでは、このままでは、どうしようも無く正しいハッピーエンドが明確にやってくる。
世界は祝福する。正義を祝福する。ハッピーエンドはやってくる。
そのままでは、このままでは――――――――
「「いいや、まだだっ!!」」
臓硯とズェピアは吼える。
其は世界への憎悪。
其は世界への闘志。
其は世界への
彼らはあるべき怒りを胸に、正義を断つ剣を執る。
闇が再び深くなる。
過去今現在の世界から悪意という悪意を、今この瞬間、この場所で解放する。
もはや、媒介となる間桐桜、ズェピア。そして魔術的に繋がる臓硯には勝利したとしても明日は無い。
媒介となった者が明日さえも許されぬ密度で、悪意が力となって溢れてくる。
巨大化したズェピアの呼び出したダークサーヴァント達。
その一体一体が、ご都合主義を作り出す機械仕掛けの神の如き、否、強制的な正解を導き出す機械仕掛けの神を殺す稀代の悪として存する。
無論、神というのは大袈裟な表現かも知れないが、先程までの彼らとは明らかにその能力は隔絶したものとなっていた。
しかし、黄金達にとっては、そこで漸く土台となったに過ぎない。
神である黄金と、神と決別した黄金にとって、少し大きくなって強くなっただけのサーヴァントなど、所詮は有象無象。
ましてや――――――
「キャスター、そろそろ行けますか?」
「頼むわよ、セイバー」
大魔術の準備を終えたキャスターと、星の聖剣を構えたセイバー。
彼女たちの周囲を尋常ならざる魔力の風が渦巻いている。
「灰すらも、残さない。マキア…ヘカティックグライアー!!」
「エクス――――カリバーーーーー!!!!」
二者から放たれた美しき光が悪を切り刻む。
まさに英雄譚。
剣士が剣を振るい、魔術師がそれを支え、騎士が突き抜けて、弓兵が広くそれを補佐する。
正義の戦士が悪魔達を祓う。
まさに現代に再現される英雄の物語。
未来過去現代の悪意を敵とするならば、これは未来過去現代に比類無き正義の使徒の物語。
英雄達の中で、未来の英雄…否、今この瞬間を以て英雄に連なる者達も奮戦する。
「エーテライト・グランド…バレル・レプリカ――フルトランス!!」
「躱さないでね、高いんだから。――カッティング・セブンカラーズ!!」
更に二人から放たれた光が闇の中を突き抜ける。
そして、原初の姫もまた。
姫の中の姫、ヒロインの中のヒロインとしての封印を解く。
封印解除の制限は深夜0時の鐘が鳴るまで。
何処までも純粋な物語のお姫様としての、彼女だけに許されたとっておきの最終形態。
少女の夢見る希望の結晶。少年の恋する理想の結晶。
彼女は、太陽王の娘、
世界に最も愛された、唯一無二絶対正義のメインヒロイン。
主役に相応しく
豪華絢爛なダンスホール。
表れた楽器達がひとりでにオーケストラを演奏し始め、お姫様を音と光で歓迎する。
黄金に輝くティアラ。純白のドレス。硝子の靴。
そのどれもを当然のように着こなせる運命に愛される約束された王女――メルタトゥム。
誰よりも美しくそれを着熟す事は当然であり自然であり必然である。
召喚された眩いばかりの宝石で造られたカボチャの馬車を当然のように乗りこなすのは父親譲りで、その高貴さと愛らしさは母親譲りのもの。
完成された美、完成される勝利、完成させるべき幸せ。
その全てを手にする者。
彼女に与えられる事を定められた
彼女にしか着ることを赦されないオーダーメイドの様にさえ感じさせる。
それは――――、彼女の決意だった。
運命が閉じる時間――――