太陽王の娘   作:蕎麦饂飩

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幸せになる権利

 能力がある人間ほど余裕が出来て、余裕がある人間ほど、楽しみを得る。

仕事であれ、スポーツであれ、勉学であれ、やはりデキる(・・・)人間ほど熱意を持ちやすい傾向はある。

周囲の人が出来る事を何とかこなすのが必死な人間には、更にその上の努力を重ねる熱意にまで意識を持ち上げられない。

現状でさえ面倒だと苦痛を感じてしまう。

 

 何時までも叶わない願いを、願いのままで持ち続けるのは難しい。

 諦めるか、願いが呪いに変わるか。

 多くの場合において結末なんてその様なものだ。

 

 絶対に夢は叶う。

 ――――それは夢を叶えられる熱意を持った者だけ。

 絶対に熱意を持ち続ける。

 ――――それは結果を約束された者だけ。

 

 恵まれない者にとっては、願いを捨てることこそが救いであり、願いを保つことは迫る呪いに追い付かれる愚行に映る。

 余裕があるから優雅になれるのではなく、優雅な者にこそ余裕が作り出せるのだ。

 全てのルールを正しく守る為には、それを熟す事が出来るだけの余裕が求められる。

 余裕が無い者には正しさを貫く事も出来ない。

 足り無い者がルールを守れば、また別のルールを守れなくなる。

 規則を厳密に守りながら、ノルマを達成する。

 簡単に言えることを難しいと思う者が、世の中にどれだけいることか。

 姑息に卑怯に生きなければ、相手がハンデをくれない限り、弱者は勝者と勝負も出来ない。

 そしてルールを定める者は、往々にしてルールを守って余裕がある者か、ルールの対象外になっている。

 

 

 

 

 

 

 格差そのものは悪ではない

 富裕層の資産が増えたところで貧困層が飢えて死ぬことが無ければ問題にはならない。

 格差がある事ではなく、格差の下側が苦しむことが無ければそこに悪はない。

 正当な取引の結果、ある男の収入が百万円増える代わりに別の男の収入が百万円減るとしよう。

 格差を許さない者からすれば後者は前者に対して二百万円の損をしている様に見える。

 しかしこれは絶対的な視点から見れば誤りである事は明らかだ。

 本来の収入より百万円損をしている。

 ただそれだけであり、得をした男との格差を考える事は、収入の中で生活を送ることにおいては全く意味のないことだ。

 必要なのは百万円収入が減った男でも生活が営ませる事であって、百万円収入が増えた男の様に贅沢をさせる事ではない。

 故に格差は悪ではなく、格差を悪とするのはただの僻み妬み嫉みに過ぎない。

 

 

「今の時代の先に、偶には目を向けなさい。

世界の資産の多くは一握りの者に委ねられ、一人の優秀なハッカーが多くの人々が築いた情報の防壁を潜り抜け、わずか一人の押したスイッチで町を消滅させるミサイルが放たれる。

多数の生きているだけの無力な人達が集まって立ち向かう日常譚は終焉に向かい、世界は再び英雄の時代へ還ろうとしているわ。

私は――――それに寛容という形で肯定した」

 

 

 微笑む彼女の姿。

 それは例えるなら、桜の花弁を乗せた白無垢。

 それは例えずともそこにある、暴力的なまでの美。

 美しさによって根源を目指すなら、それに最も近い場所にいる至高。

 彼女は正義の立場で、格差を肯定した。

 

 

 

 

 嫌悪感を持つのは理解が足りないからと取り敢えず扱われる

 では理解をした上で嫌悪感を持つことは許されるのか?

 …そんなことはない。

 理解をしているならその結論には至らない事が前提であり、その結論に達する時点で理解しているとは認められない。

 理解をしろと主張する者にとって、理解をするということは嫌悪感を消せということなのだ。

 つまり最初から用意された結論以外は、どうあろうと認めてもらえない。

 理解を要求するものはそれを正義だと認識しており、己の意見に逆らうものは悪だからだ。

 多数派の人間にとってマキリの正義の在り方は悪と否定される。

 

 外道を王道とする魔術師の世界においてすら、マキリの正義は真逆の正義に否定される。

 マキリが許せなかったはずの傲慢な無関心こそが、唯一彼を許されざる悪として否定をしなかった。

 その枠組みにさえ入れないことが、ある意味では赦しであった。

 そんな赦しを、マキリは決して赦せない。

 

 

 

「魔術師が過去以外を求めろとは、残酷なことを言う。

神は誰もが幸せにいきられる楽園の時代を奪い去った。

例え、人に落ち度があったとしても、人を不完全に造っておき、不完全な人が過ちを犯す要因を排除しなかった神が悪い。

有害な蛇の侵入を赦すなど、管理責任にも程がある。

そうは、思わないかね?」

 

 

 

 憎悪に燃える老人。

 それは例えるなら、腐り落ちた黒き百合の毒。。

 それは例えずともそこにある、悲劇的なまでの醜悪。

 美しさによって根源を目指すなら、それに最も遠い場所にいる悪役。

 彼らは悪の立場で、格差を否定した。

 

 

「そうね。だから(私達)が見捨てずにいてあげるというのよ」

 

「人を救うのは、(儂達)であると言えば?」

 

 

 そうなれば、最早結論は一つしかあるまい。

 昔からそうあってきた。

 ウルクの英雄が神と決別したように。

 ケルトの英雄が精霊を倒したかのように。

 ブリテンの英雄が竜を討ち果たしたように。

 そう、最早結論など、最初から決まっていたのだ。

 

 

「「「「だからこそ―――――――――戦争」」」」

 

 

 正義の光が更に美しく輝く。

 邪悪の漆黒が、更に濃くなる。

 

 光と影は表裏一体。

 光が輝くほど影は濃くなり、影が濃くなるほど光は輝く。

 更なる数、更なる質へと、階層を一段階上げた互いの意思が、先程まで繰り返してきたように衝突する。

 

 

 原初の姫の力を完全に解放したメルタトゥムの前に、全ての戦士は戦う意義を奪われる。

 ならば邪悪の軍勢の打つ一手は、これの他にあるまい。

 絶対の姫に対して、唯一引き出せる切り札。

 その切り札に全ての悪を託す。

 それは――――――絶対に幸せになれない少女。

 

 美しい者へは情が湧く。

 それは当たり前の事。

 同じ悲劇の中にあっても、男の子が救いたがるのは美しいお姫様だけ。

 美しくない女が悲劇の中にあっても、命がけでまで救おうとは思ってもらえない。

 最も穢らわしい悪の泥に染まった女には、王子様だって見捨てるに違いない。

 だからこそ、幸せに見捨てられた少女は、幸せに愛されたお姫様を許さない。

 

 

「無理矢理操って、とは考えたがそれは必要無かったようじゃの」

「ええ、アレは間桐桜()自身の意思で、倒すべき敵です」

 

 明確な敵意を持って少女は前へ進む。

 少女を守り抜くと誓った弓兵と、少女を護りたかった姉の視線の先を、少女は進む。

 あたかもバージンロードを進むかのように。

 

 

「いらっしゃい。踊りましょう」

 

 白無垢のドレスを身に纏った穢れ無き姫は、透き通るような笑みを浮かべながら右手を差し出した。

 

「お断りしますね。私には舞踏会で舞う為の何も持っていないんです。

ドレスも靴も、アクセサリーも何もかも。

それに、貴女のこと――――大嫌いなんです」

 

 何処までも明るい笑みを浮かべた桜の表情は、その表層とは裏腹に何処までも影の深さを感じさせた。

 同時に、泥濘染みたの悪性情報が蛇のように王女に襲い掛かる。

 

「そう、それは残念だわ」

 

 取り出した扇子でその泥を事もなく弾きながら、愁いを帯びた表情で姫は語る。

 しかし、その美しさに陰りなど存在しない。

 

「残念と思うなら負けてほしいかなって」

 

「そうね。でも譲らないわ。私が勝つ事は民が、世界が、何より私自身がそう願っているから。

それに、その方がきっと都合良く物語が進むわ」

 

 先程の憂いとは一変して、華やかにお姫様は笑う。

 そこに裏表があるようにはとても見えない。

 

 

「議論をするなら普通はせめて、自分に都合の良い例と相手に都合の悪い例を2つ上げるものでしょう?」

 

「必要ないわ。

ここに私の意思がある。

それ以上の都合の良さなんてこの世界にはないもの」

 

 己の豊満な胸を差し示して、王女は堂々と告げた。

 

 

「笑っちゃうくらい現実味の無い事を言うのね。」

 

「相手が間違った事を言っていると見下す為に失笑する人に限って、案外他者からは誰も笑ってないところで一人で笑い出す気味の悪い人だと思われている事に気がつけないものよ。

それに、物語のお姫様が現実味のあることを言ったら夢がないわ。

歴史的事実、背景、権利、権力、慣例、風習、整合性、世論、あるべき姿、善悪、合法非合法――――、それが何なのかしら」

 

 何よりもそれらに愛された王女は少女の目を見据えて告げる

 

「それらは所詮、自分の行動や発言を周囲に肯定させる為の道具(手段)に過ぎないの。

それらは必要なものだけど《大切》・・な事ではないわ。

大切なことは私が、貴女が、何をしたいか。

たった、それだけでしかないのよ」

 

「たったっ!?

そんな単純に言わないでっっ!! 誰もが貴女の様に欲しいと思えば与えられる訳じゃない」

 

 

 

 間桐桜の背後に、鎌首をもたげる八股の蛇を象った虚数が造られて、それが太陽の娘に襲い掛かる。

 

 

「そうね

でも私はそんなに難しく考える必要こそ感じていないわ。

手に入れられるかどうかはさておき、手に入れたいという気持ちに正直に生きたいだけ。

貴女にも夢も願いもあるでしょう?

叶えたいと思うでしょう?

だったら叶えに行けばいいじゃない」

 

 父親の差し向けた輝きに消される蛇に視線すら向けず、太陽の娘は、清々しいほど傲慢に告げる。

 

 

「それは、あなたが全て持っているからいえるんです」

 

 不幸な少女は、わかりきったように言い放つ。

 どこか、そこには幼い虚勢が滲み始めていた。

 

「ええ、そうよ。

私は全てを持っている。

それは否定しないわ。

私は全てを手にしていると、私自身がそれを是とするから」

 

「だったら全ては詭弁じゃないですか。お馬鹿さんなんですね」

 

 

 侮蔑されてもメルタトゥムに気にした様子はない。 

 

「夢を見て夢を見せる事が馬鹿になるというのなら、世界最高の頭脳を捨ててもいいわ。

全てを持っていると信じるなら、全てを持っていることになるのよ。

貴女がそう信じるなら、夢は叶うわ。

 

シンデレラの物語に疑問に思うことはない?

どうして、シンデレラは舞踏会で王子様と踊れたのかって」

 

 

 桜にはその意味までは理解出来なかった。

 

「他者の羨望や嫉妬や憎悪を今まで浴びたこともない人間がそれらの感情を一身に浴びて、物語の中で誰かに学んで深く練習したことも無いダンスを王子様が満足するレベルで勤め上げた。

シンデレラに容姿しか無ければ踊る必要は無かった。

いえ、踊れなかったでしょうね。

ねえ、何故初めての舞踏会でシンデレラが踊れたか理解出来るかしら?」

 

「…理解出来ないわ」

 

 その答えは間桐桜には導き出せない。

 絶対に、間桐桜にだけは導き出せない。

 故に、思考を放棄した。

 

「――そうね、それが正解よ。

理解する必要なんて最初から無かったの。

シンデレラは己が主役(ヒロイン)だと信じていた。

借り物の服や靴のおかげで彼女は主役になれたわけじゃないの。

彼女が誰よりも己を主役だと信じる心があったから。

だからそれだけで主役になれた。

ヒロインになる条件なんて、ただそれだけで良いんだから」

 

 

「そんな簡単な話じゃない。

そんな簡単に、夢も希望も掴めるのなら、誰も――――私も不幸になんてなっていないっ!!

そんなの神秘の世界の御伽噺。

絵本を閉じたら消えてしまう夢物語よ」

 

 

 それは慟哭だった。

 魂の慟哭だった。

 もはやダムのように溜まった悪意が、濁流として決壊して駆け抜けた。

 

「同じよ。

神秘なんて所詮思い出と同じ。

セピア色の思い出の方が美しいでしょう?

魔術も人の思いも何も変わる事では無いわ」

 

 その濁流の全てから、黄金の王である二人の英雄に当然の如く護られながら、神秘の体現者はそう語る。

 それは神秘を目指す全ての魔術師に対する愚弄であり、祝福であった。

 

 

 回る周る廻る――――。善意と悪意が、光と闇が、正義と正義が、人と神が、ワルツのようにクルクルとクルクルと、まわり続ける。

 回る周る廻る――――。世界中に愛された幻想と、誰にも愛されなかった現実が、ただのワルツを踊る。

 

 殺し合いながら、語り合いながら、少女達は踊り続ける。

 言葉を、魔力を、拳を、剣を、光を、闇をぶつけ合いながら、永久のような少女の輪舞は続く。

 

 

 

「私は貴方が嫌いです」

「私は貴方のことが嫌いでも無いわ」

 

「でも、好きでも無いんでしょう。

貴方に好かれようなんて思いませんけど」

「あら、つれないのね。悲しいわ」

 

「貴方さえいなければ、私は自分の悲劇を受け入れられた。

貴方さえ、いなければ」

「どんなにめでたしめでたしで終わるお話にも、途中に苦難はあるものよ」

 

「貴方にはありましたか?」

「さあ。あったとしても思い出せないわ」

 

「やはり貴方という人を認めることは出来ません」

「そう。それもまた貴方の選択ね。許すわ」

 

実在するお姫様(貴方)がいるだけで、私はお姫様になどなれないと突き付けられる。

逆恨みなのは承知の上で、貴方の存在が許せない。

その硝子の靴を真っ黒に染めてあげる」

「シンデレラが王子様と結ばれたのは、ドレスを貰ったからでもカボチャの馬車を貰ったからでも硝子の靴を履いたからでも無いわ。

シンデレラが王子様と踊る為に舞踏会へ出向く意思を持っていたからに過ぎないの。

硝子の靴が欲しい? なら――――――貴方にあげるわ。履いてご覧なさい。

でもね、硝子の靴が無くても、私はお姫様()よ」

 

 

 そう言ってお姫様は硝子の靴を脱いだ。

 例え、素足であれども、彼女の足には確かに硝子の靴があるように、この場の誰もがそう思えた。

 けれど、幻想に挑む現実は、それでも虚構の意地を、想いを、焦がすように吼える。

 

「ドレスも招待状も無い汚れた娘が、会場に足を踏み入れられると本気で思っているのなら笑えませんね」

 

 彼女の言う事も一理ある。

 例え悪に落ちた者でも、強く美しければ、正義のヒーローに倒された後に、実は悲しい過去ややむを得ぬ事情があって敵対していたということになり、スポットライトを当てられて、ステージに上がる権利もある。

 しかし、弱く醜い有象無象では、主人公に倒された後にスポットライトが当てられることも無く、ただの引き立て役として栄光の踏み台となる。

 生まれ持っての強者であり、強者しか周囲にいなかったメルタトゥムには弱者の立場や気持ちの本質など理解出来ないし、理解しない。

 美しさ(ドレス)賢さ(招待状)強さ(馬車)を持たぬ者は、会場に入ることすら出来ないのは、おかしな事でも何でも無い。

 間桐桜の言葉こそ正論。弱者を知らぬ王女の言葉こそ綺麗事。

 しかし、故に王女は告げる。

 

「私は本気でそう思っているわ。

シンデレラの物語はシンデレラの為の物語。

主役がハッピーエンドになる為に、物語の過程は存在するの。

では、間桐桜の物語の主役は誰かしら?」

 

 何処までも優しい輝ける立場からの誘い。

 しかし、その夢は、今まで間桐桜が何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も憧れて、そして裏切られてきた夢だ。

 

「私なんかが主役になれるなんて、自惚れやさんになるつもりはありませんよ」

 

「貴方では硝子の靴は履けない。貴方自身がそれを認めるのかしら?」

 

 母に、姉に、そして自分に希望を抱いて、そしてそれが残酷を引き立てる絶望の王の正体と知るには、彼女は悲劇に塗れすぎた。

 夢を見ない灰被りの娘は、母と姉の呪縛を超えて舞踏会に舞い降りる事も出来ない。

 

 

 

「穢れた悪役に、硝子の靴が履けるわけが無いじゃ無いですか」

 それは悲鳴だった。それは慟哭だった。それは絶望だった。

 希望を求めて厄災の詰まったパンドラの箱を開くこと、希望が厄災の親玉であり、絶望の仮の姿である事を確かめたくない現実主義者(リアリスト)である間桐桜は、都合の良い幻想(硝子の靴)を否定した。

 

 

「誰もがありのままでお姫様になれる。

そんなきれい事は言わないわ。

(くるぶし)が余るなら切り落とせば良い。爪先が余るなら潰せば良い。

身を削って、血を流して、本質を改竄して――――それでも笑顔を崩さずに硝子の靴を履いて踊れるなら、誰もをお姫様として認められましょう。

他でも無いこの姫の源流()が、貴方の物語の中で貴方をヒロインだと認めましょう。

信じなさい。夢は叶うわ。

 

――――女の子には誰にだってお姫様(幸せ)になる権利があるんだから」

 

 

 

 

 それは、間桐桜の思い出の中にある言葉と重なった。

 

「嘘ばっかり」

「嘘を本当にするのは魔法使いのお仕事。シンデレラのお仕事は舞踏会に行きたいと夢見ることだけ。

それだけで、世界は主役を祝福する」

 

「そんなの嘘…」

 

 拒絶に先程までの力が無い。

 王女の戯れ言を信じてみたい。信じたい。

 そう思う間桐桜がいた。

 しかし――――――

 

「いえ、やはり貴方はお姫様には向いていないかも知れないわ」

 

 持ち上げた王女自身がそれを否定した。

 崖に掴まった少女が、希望という救いの手に己の手を伸ばしたところで、その手は絶望へと変わって救いを求める手を振り払った。

 しかし、それは決して嗜虐心からくる悪戯では無い。

 

「だって、貴方が求めているのは王子様じゃ無くて、世界の狗(馬車の御者)でしょう?

舞踏会に行く必要すら無い。

なら、貴方が言う言葉は『舞踏会に連れて行って』なんかじゃない。

さあ、紡ぎなさい。貴方が言いたい言葉は――――――」

 

 

 間桐桜は、一人の少女として、少女を救おうとして救えなかった、かつての衛宮士郎(英霊エミヤ)に向き直って、少しだけ俯いた後、顎を上げて相手の瞳をしっかりと見つめた。

 

「先輩、こんな私にも、幸せ(ハッピーエンド)をくれますか――――」

 

 運命が閉じる時間――――今日が明日に変わるまで(12時の鐘が鳴るまで)、残り一時間。

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