太陽王の娘   作:蕎麦饂飩

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1分ズレてました。
すみません。


喜べ少女、君の願いは必ず叶う

 聖杯戦争が終わり、世界は小さな変化をしながらも、その歩みを進めていた。

 冬木市は、最近様々な資本が入り、かつての事故が嘘のように活気に溢れていた。

 

 シオン・エルトナム・アトラシアは、メルタトゥムの所持していた資産グループの経営者となり、今ではその並列思考を使って、計算され尽くした資産管理で企業を成長させている。

 

 間桐慎二は、魔術の使い手で無く、魔術師達の管理者としての道を選んだ。

 意外にも傘下のものには面倒見が良く、管理能力に長けた彼を慕うものは多いと評判である。

 

 間桐桜は戸籍とか色々怪しい男と事実婚をしたが、彼女はいたって幸せなので外野が何か言うことは無い。

 美しく権力者の妹である彼女を手に入れる為に、不確かな身元という理由で恋敵を排除しようとした者達は、過保護な地元名士である、彼女の兄を敵に回すことになる。

 

 葛木メディアは、その名字が示す通り、とある社会教師の妻となっている。

 最近では娘の衣服を作る動画をアップロードして、ママさんYOUTUBERとして有名なインフルエンサーとなっているようだ。

 

 衛宮士郎は、己に魔術の全てを託して幸せに寿命を終えたイリヤスフィールの後を継いだ。

 そしてその後、聖杯戦争の優勝者として扱われることとなった遠坂凛と結婚。

 現在二児の父親となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――▽――――――――

 

 表だけで無く、裏の世界も大きく変わった。

 これは、ヴァチカンでの、聖杯戦争直後の出来事である。

 

 ここはある宗教的権威の裏側にある集団を束ねる組織の司令室。

 

「ナルバレック様、報告があります」

 

 豪奢でありながら陰気くさい部屋で、空のような蒼い髪のフランス人少女が己の上司に報告した。

 その上司は、当然のように見下した態度で応えた。

 

「言え」

 

「吸血鬼の姫が滅びました」

 

 それは、神の敵である闇に住まう者を狩る、この狂信者の組織にとっての特大の一報。

 自然に、上司である室長ナルバレックにも緊張が奔った。

 

「どいつだ」

 

 

「――メルタトゥム」

 

 想定された候補の中では、俗世に影響力を持つ意味では最も面倒な姫だった。

 

 

「奴が?

太陽に愛される吸血姫。

お伽噺の姫。

少女の夢の源流。

祝福の擬人化存在。

幸運の管理者。

生ける死者。

現存する崇拝対象。

リアル魔法少女。

頂点を授ける者。

世界の花嫁。

――――――太陽王の娘、メルタトゥムかっ!?」

 

「はい」

 

「まさか、あり得ない。

その気になれば欧州の経済に真正面から喧嘩を売りながら、我々と表だって宗教戦争出来ると試算された奴が滅びた?

何の冗談だ」

 

 

「契約の姫、あーぱ…真祖の姫と違って、堂々と表の顔を持つ彼女の事ですから、ニュースにもなるでしょう。

果たして、一体誰が後継者になるかは分かりませんが、会長交代の知らせくらいは直ぐにでも出回るはずです」

 

「ほう、それは期待せねば申し訳が無いというもの。

エジプトの主教と経済を取り込むことを、異教徒(他所)に負けてはなるまい。

エジプトの裏も荒れるな。

エジプトと言えば以前討伐指令を出した、アトラスの……いや、今日は非常に機嫌が良い。

この私が不問とするなど奇跡と言って良いかもしれぬな。

フハハハハハハハハハ」

 

 

 

 

 

 その数時間後、急遽引退を発表して雲隠れしたメルタトゥム前会長の後を継いで、新会長に就任したということで表舞台に出てきたシオン・エルトナム・アトラシアによる発表によって、蒼い髪をした女性シエルは、上司から折檻という名の拷問を受けることとなる。

 

 

――――――――△――――――――

あの戦争からX年後

 

 

 Prrrrrr

 現代の魔術師が束になっても叶わない、大魔術師葛木メディアは、今の魔術師を鼻で笑うかの如く、VPNで秘匿されたIP電話が着信したので手に取った。

 

「シオン、どうしたのかしら。

遠野グループの小姑と上手くいってないとか?」

 

 シオン・エルトナム・アトラシアは一年前に遂に結婚していた。

 相手は日本の大企業の御曹司である。

 因みに眼鏡男子だそうだ。

 

 事情を知っているメディアが言うにしては、上手くいっていないという言い方は語弊がある。

 寧ろ、関係が上手くいきすぎて、ビジネスで強く出るのに良心の呵責がある。

 そんな事を以前電話で話していたのだ。

 

「いえ、秋葉とは上手くいっています。

ある件ではもめましたが」

 

「ほら、やっぱりもめたんじゃ無い。だから私は胸が無い女性は心も狭いって――――」

 

 笑いながら本気では思っていない冗談をメディアは言った。

 

 

「いえ、秋葉としては、遠野グループ総帥としてはやりにくくなることでして…」

 

「一体何があったの?」

 

 妙に歯切れが悪い。メディアもこれは大事だと理解した。

 それも総合商社ネフェルタリグループに関係することなのは間違いないだろう。

 何せ、遠野秋葉とでは無く、遠野グループ総帥ともめているのだ。

 並列処理プログラムを応用した通信・情報事業分野で、一気に業績を高めたネフェルタリグループに何かが起こるのだ。

 いや、何かが起こされるのだろう。

 

 

「秋葉個人としては、お疲れ様と言ってくれたのですが…。

その、結論を言うと、会長は引退します」

 

「嘘でしょう? 後継者は決まっているの?

―――まさか」

 

 

 その質問が言い切られる前に、シオンは「ご想像の通りです」とだけ答えた。

 

 

 

 

――――――――△――――――――

 

 

「桜、最近の冬木の経済状況、理解しているか?」

 

「ええ兄さん。統合レジャー系施設があっという間に誘致されてから、どこもてんやわんやだそうですね」

 

 間桐の兄妹は、不動産を中心とした表の職について、経営者とその補佐として頭を悩ませていた。

 

「中東の文化を前面に押し出したレジャー施設になるらしいな。

挙げ句にコンセプトは『金閣寺に勝つ』だってさ」

 

「もしかして、そういった時期ですか?

だったら姉さんにも伝えないと――――」

 

 何かを理解した妹の焦りを、兄は平然と宥めた。

 

「そうだとしたら直接理解させられてるだろうさ。

折角のサプライズを壊すのは無粋だって、僕でも分かる」

 

「義姉さんにもよく無粋無粋って言われますもんね」

 

 敢えて義姉と呼び、クスクスと笑う妹に、居心地が悪くなった兄は視線を逸らして反論した。

 

「メドゥーサは関係ないだろう。

…それよりもだ、例の『メソポタミアランド』の建設予定の土地は、間桐不動産の土地だがどうしようか」

 

「…ふっかけちゃいます?

多分、あの人それでも買いますよ」

 

 

 

「だけどあの新興会社の会長は、間違いなく言うぞ。直ぐに言い出すぞ。

勝手にネフェルタリグループ会長と結婚して合併するとか、相手の確認も取らずに言い出すぞ。

その混乱で稼ぐ為にも、値を吊り上げて周囲の土地持ちを刺激しない方が良いかもな」

 

「…言いそうですね。

あの人のこと嫌いですけど、少しだけ同情します」

 

 兄妹は揃って息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――△――――――――

 

 ある女性のもとに、ブランネストという宛名から手紙が届いた。

 その女性は、そのブランネストという名前が偽名である事を見抜き、こちらが対応するには礼を失した相手だと思いはした。

 それでも、ある男の名誉の為にも、寛容をもって返信した。

 

「貴女が契約した探求者は、破滅から世界を救った」と。

 

――――――――△――――――――

「ぱぱー。てれびつけてー」

 

 遠坂家の長女は、大好きなお父さんの膝の上に乗っておねだりする。

 お母さんはリモコンの録画予約も失敗するので、期待されていないのだ。

 番組名は、彼女の母親が子供の頃から続いている、戦う魔法少女アニメ。

 日本で人気があったアニメで、英国でも放映されている。

 

 お約束の変身ポーズをテレビの中のキャラクターと一緒に真似るのが好きな少女は、変身と共にノリノリの口上を述べる。

 

「たいようにかわっておしおきよ!!」

 

 

 その魔法少女のモデル本人を知っている両親からすれば、とても複雑な三十分である。

 

 

 少女アニメにテレビを独占されている事を理解している彼女の兄は、一人で外出をする事にした。

 このまま家にいると、魔法少女ごっこに付き合わされるからだ。

 少年の歳にもなれば、少々恥ずかしいのでその役目は両親に任せる事にした。

 これは逃亡では無く、自由への挑戦である。

 

 

 今日は2月2日。

 空は晴れているのに、雪が降っていた。

 英国の冬は冷える。

 というか、雪が降る冬は何処の国でも寒い。

 

 

 

 それにしても不思議だった。

 普段は人がそれなりに通る場所なのに、先程から誰一人すれ違うことも無い。

 何より音が無い。

 何処の街頭でも何の宣伝もしていないようだった。

 何か奇妙な感覚だった。

 

「こんにちは」

 

 そんな時、少年の上から声がした。

 上を向いても誰もいなかった。それはそうだろう。人は空から降ってはこない。

 振り向くと、少年が一度も会ったことの無いほど、麗しい美女がいた。

 最初に視界に入れた瞬間は、キャビンアテンダントの服を着ていた気がしたが、気が付けば普段着とは思えないドレスを着ていた。

 少年は、妹の大好きなアニメの主人公に似ていると思った。

 

「こ、こ…こんにちは」

 

 咄嗟に照れで上手く発音出来なかった少年に、女性は微笑んだ。

 女性の微笑みは、どこか太陽に似ていた。

 これは、少年の初恋の瞬間だった。

 

 

 少年は自分の顔が太陽になったかのように熱くなるのを感じた。

 きっと真っ赤になった顔を隠すように、表情を取り繕った。

 しかし、女性はそれを理解しているが如く、優しく微笑んだ。

 

 

 足音が聞こえる。

 誰かの足音を少年は聞いたが、その音と心臓の鼓動の大きさの違いは比べられなかった。

 

 

 そして、何かが割れる音がして、世界は元に戻った。

 周囲には多くの人々。

 少年が普段見かける人が多くいた。

 ビルの液晶画面には金髪の美丈夫が、全世界に公開してプロポーズを発表すると言い出していたが、少年には理解が追い付かない。

 

 振り返れば、息を切らした母の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

「…帰ってきたのね」

 

「ええ、今日も太陽が綺麗ね」

 

 日本の文豪が使った「I love you」の和訳を用いて、女は女へと告白した。

 

 

「おかえり、メルト」

 

「ええ、ただいま。リン」




完結しました。
今までお付き合い下さりありがとうございました。
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