というか、サブタイトルがネタバレ…
冬木を浸食していく、魔力の匂い、血の匂い、戦争の匂い、――――そして死の匂い。
この冬木の夜を蠢くのは、何も魔術師と英霊だけでは無い。
それは、恐怖であった。
それは、死であった。
それは、現象だった。
目に見えぬ何かが、目に見えるようになった何かが、この冬木の町を闊歩していた。
拠点を失った凛はセイバーを連れて、夜の道を歩いて行く。
「日付が変わると同時に何か仕掛けてくるのはわかっていたけど、手榴弾に
貴方が私のサーヴァントじゃ無かったら危なかったわ」
「いえ、この身はリンの剣にして盾。当然のことです」
真面目なサーヴァントと会話をしながら、彼女は予め用意していた新たな拠点を探していた。
またメルタトゥムが次の攻撃を仕掛けてくることは間違いないから、その足の進みは速く、しかし警戒は怠っていなかった。
既にメルタトゥムは初手から何でもあり、を体現してきた。
魔術師を拠点から追い出すという意味では、確かにメルタトゥムは成果を出している。
そして、それがサーヴァントすら使っていないメルタトゥム自身が用意した攻撃であり、まだ手の内は読めていない。
狩人が穴から逃げ出した獲物を狙い撃とうとする可能性が低いなんて事は決してないことは、凛は良く理解していた。
きっと、それをメルタトゥムが知れば、お友達に理解して貰えて嬉しいわと、妖艶に笑うのだろうが。
凛達が歩いている向こうから誰かが歩いてきた。
暗くてわかりにくいが、恐らく細身の若い男であろう事が凛にはわかった。
近づいてくる男の姿が、丁度街灯の下にやってきたとき、その男は凛に向かって、こう訪ねた。
「あれぇ? どうしたのかなぁ、また、迷子かなぁ?」
男は、その姿と声だけで凛のトラウマを沸き起こらせるには充分な存在であった。
「どうして…、どうしてあんたがここにいるのよ…。
ここに生きて立っているのよ、――――雨生龍之介ッッ!!」
「やぁ、久し振りだねぇ」
かつて冬木を賑わせた、死んだはずの殺人鬼が再び地獄から、取り逃した獲物に会いに来たのだから。
勿論、雨生龍之介だけでは無い。
嘗て彼が引き連れていた者もその傍らにいた。
「ああ神よ、この奇跡を感謝いたします。
また敢えて実に光栄ですよ。ジャンヌゥゥゥゥッッ!!」
その名はジル・ド・レェ。
またの名を青髯。龍之介と共にこの冬木で悍ましい活動をしていた、彼の共犯者である。
親しげに、というには若干以上の狂気を感じるが、それでも好意的に呼びかけられたセイバーは、呼びかけた相手に見えない剣を向けていた。
因縁が因縁を生む戦いが、今始まろうとしていた。
†††
一方、ホテルピラミッド冬木の最上階のスイートルーム。
メルタトゥムは次の一手を仕掛ける為に、ミニチュアスフィンクス達の新たな配置換えを命じていた。
一部は引き続き、アインツベルン城跡や遠坂邸跡を監視。
また他の一部は、気付かれないように発見している敵マスターを監視。これには気まぐれのようなランダム性を敢えて付与してある。
そして残りはまだ見ぬマスターの捜索と、メルタトゥムの身の回りの世話である。
スフィンクスア・ラ・モードと彼女が呼んでいる小さなスフィンクス達は、ネコのような外見をしている。
彼女なりの美意識に則った姿なのである。
時代は小型化。室内用愛玩動物は、かつての大型の流れからより小さな動物という流れが来ているとメルタトゥムは考えていた。
そして小型のスフィンクス達には、先程の様にわざとあからさまなスフィンクスの姿を取るようなことをしない限りは、バレにくいように、やろうと思えば外見を普通のネコのようにして、魔力を隠匿する機能さえついていた。
そうしておけば、もしかしたらセイバーに切られることは無かったのかも知れない。
凛を追跡していたスフィンクスによって、他のスフィンクスに増援要求が入った。
路地裏をしなやかな歩みで縦横無尽に駆けては跳ねるスフィンクス達は、主人が喜びそうな興味深い光景を発見し、その映像をメルタトゥムに送った。
メルタトゥムはインターネットに繋いだ世界シェアに食い込んでいる自社製のパソコンNile7500-LXで、凛が叫んだ名前を検索する。
彼女は若い時代に生きるが故に古代に憧れる魔術師とは違い、古代から生きるが故に新たな時代の物を好んで使っている。
高速回線は、ディスプレイに即座に検索結果を表示した。
雨生龍之介――――検索結果、111919件。
日本ではそれなりに有名な人物であったようだ。
出てくる情報は、猟奇殺人者、快楽殺人者、異常者――――そして既に故人。
なるほど、中々の人気者ですわねと、メルタトゥムは頷く。
そして少しだけ不機嫌そうな顔をした後、いつものように艶やかに笑った。
「ねえ、シオンはいないかしら、呼んできて頂ける?」
猫のようなスフィンクスは、主人の命に従い、起用にドアノブへとピョンと飛びついて体重を利用して戸を開け、シオンの為に宛がわれた部屋へと向かった。
前足でノックした後、反応が無いことがわかると、スフィンクスは口に咥えたカード型のマスターキーでドアを開けた。
そして、開かれたドアの先にあった光景には目的の人物はおらず、開け放たれた窓から入る風がカーテンを揺らしているだけだった。
もぬけの殻の部屋を見たスフィンクスは、最早こうなった以上己には客人を主人の命によって呼ぶことは出来ない。
お手上げだとばかりに、ニャアと小さく鳴いた。