太陽王の娘   作:蕎麦饂飩

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貴女の希望にお休みなさい

 もはや暴虐的なまでの覇気。それは王気と呼ぶのに相応しい威圧感だった。

 其はただそこにいるだけで、只人では思わずひれ伏したくなる程の人を象った灼熱の黄金。

 

 その存在を知らぬものが彼を見たとしても、その存在が王であることを理解できたであろう。

 その存在を識る者は、彼をこう呼ぶ。――――――――太陽王オジマンディアスと。

 

 

 凛の背中には冷たいものがはしる。

 実を言うと凛は想定したことはあった。仮に(メルト)が自分自身を触媒にしたとすれば、呼び出されるかも知れぬ最悪の可能性。

 (アニメ『魔法王女☆メルタトゥム』では恋のライバル、というか当て馬だが)相性はきっと悪くないだろうし、唯々単純に恐ろしく強いサーヴァントと恐ろしく強いマスターの組み合わせだと。

 だが、何処かで希望的観測を求める余り、その可能性は無いのではないかと願ってもいた。

 しかし、現実は何処までも非情である。強者に優しく弱者に厳しい。それが競争であり、闘争であり、戦争であるからだ。

 

 実際にはメルタトゥムは母親から受け継いだ形見で父親を呼び出しており、メルタトゥムが自身を触媒にしていた場合は、伝承上のメルタトゥム自身が呼び出される可能性の方が高い。

 だが、それを知らぬ凛には余り関係の無いことだった。

 事実として今、凛の前には黄金の王が悠然と立っているのだから。

 

 セイバーは剣を構え、キャスターは様子を見ている。

 しかし、オジマンディアスはあくまで自然体としてそこにあるだけである。

 ただそれだけで、その場の空気を支配していた。

 

 

 突如風も無いのに砂塵が巻き起こり、宙に浮かぶ舳先に立つ黄金のサーヴァントの横で渦巻く。

 砂は人型を造り、そして人型は凛のよく知る美女へと変わった。

 

「先ずはこんばんわ、かしら。

良い夜ね。リン達はそうは思わないかしら」

 

 

 物理的に見下す位置から奏でられる甘い声。

 彼女こそ、ワンピース姿で優雅に一礼する凛の友、メルタトゥム。

 古代エジプトの王女にして、オジマンディアスとネフェルタリの娘である。

 下にいる凛達から見れば下着が普通に見えているが、それを指摘する余裕があるものは此処にはいなかった。

 尤も、日頃から薄着好きで、古代エジプトではもっと露骨に露出した格好をしていたので、そういう感覚はメルタトゥムにはガバガバであるが。

 

 凛達とは違い、何処までも余裕に満ちている。

 それは、現在形作っている身体があくまで人間そっくりなだけの砂人形であるからでは無いだろう。

 仮に本体が来ていたとしても、その余裕は崩れていなかったに違いない。

 何故なら彼女自身が神秘の体現者であるだけで無く、彼女の知る最強の守護者が直ぐ隣にいるのだから。

 

 

「私は勝つ為であれば、戦争に紛れ込んだ乱入者と貴女達が戦って、勝手に消耗していく事を許容するわ。これは戦争ですもの。

過程(勝ち方)に拘る必要は無く、必要なのは結果(勝利)だけなのですから。

でもね、凛。私は心の何処かで貴女があの割り込み屋に殺されなかったことを喜んでいる事を隠しきれないの。

凛、できれば貴女を殺すのは私でありたいとおもっているの。だから、精々それ以外に殺されないようにどうか気をつけて」

 

 其れは傲慢。

 其れは思い上がり。

 其れは己惚れ。

 其れは――――――――確固たる事実。

 

 冬木の夜空に裾を靡かせる王女は、何処までも己達の強さを自覚していた。

 

 

「それと…、シオン。

お勤めご苦労様(・・・・・・・)。流石良い仕事をしたわね。褒めてあげる。

さあ、帰ってから色々報告(・・・・・・・・・)を聞かせて頂戴。

寝る前にガールズトークというものを楽しみたいの」

 

 

 

 見透かしたように微笑む王女。

 見透かされたように僅かに怯えを滲ませる錬金術師。

 

 

 凛のサーヴァントであるセイバーは、相対するサーヴァントのその絶対的な自信と黄金色に、既視感を受けていた。

 実際、かのサーヴァント同様に強大なサーヴァントであることは疑うべくもあるまい。

 だが、自分達が勝つことを微塵も疑わない輩に『No』を突きつけてやろうという気概を持つほどには、彼女は戦士であり、騎士であり、王であった。

 

 戦いが必要ならば、戦う前から降伏するつもりは凛にもセイバーにも無い。

 だが、黄金の王(オジマンディアス)騎士の王(アーサー)が住宅街で戦えばどうなるかはやる前から誰もが理解していた。

 

「…リン、そんな顔をしなくても解っているわ。

私だって、治めることになる人民を無駄に虐殺する事は好んではいないのですから。嘘じゃ無いのは解るでしょう。

だからそんな目はしないで良いのよ。いずれ戦場(場所)は用意するから。

尤も、そもそも全てが終わるまではこの辺り一帯は、ずっとずっと戦場なのだけれども」

 

 

 その言葉の裏を返せば、無駄で無ければ虐殺も致し方ないということ。

 そう言う状況になる前に、何処かで決着を付けなければならないと冬木のセカンドオーナーの主従は決意した。

 恐らく穏便にしておけばメルト達はここで帰るのであろう事は凛にも解っていた。

 でもこうも一方的に見下されているのも癪であった。凛の女気に関わる。故に…

 

「今のうちから勝った気でいられるのは気に入らないわ。

今夜見逃してあげるのはこちら側よ。覚えておきなさい、勝つのは――――私達よっ!!」

 

 

 

 精一杯の強がりかも知れないが、紛れもなく本気でそう言っているのだろう。

 己の方に指を指して告げる友の雄姿に、メルタトゥムは優しく微笑んだ。

 

「期待しないで心待ちにしているわ。

それではお休みなさい」

 

 メルタトゥムが現れたときのように、彼女とオジマンディアスの周りを風も無いのに発生した砂塵が囲む。

 メルタトゥムの姿は崩れるように砂に戻り砂塵の一部となる。周囲からオジマンディアスの姿は完全に遮断された。

 そして砂嵐が収まったとき、そこには最初からそうであったように誰もいなかった。

 

 

 

 ホテルピラミッド冬木のスイートルームで帰ってきた父親に、アイスを片手にワンピースを着た王女は語る。

 

「父上、中々に素敵だと思いませんでしたか? 私のお友達は」

「ああ。勇ある者との戦争は心が躍るな。…ところでそのアイス、少し食べても良いか」

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