「いけっ!スターミー!先手必勝のサイコキネシス――――っ!!」
「ハ・・・ハナァ――――ッ・・・」
カスミのスターミーのほうが圧倒的に素早かった。鮮やかな先制が決まった。
だがこのキレイハナはクサイハナから進化したときに毒の属性を捨てたのだ。
思っていたほどの攻撃力でなかったことも確かだった。
「ふん、でもこれを続けていけば先に倒れるのはあっちのほうよ!」
スターミーにはじこさいせいの技がある。長期戦になっても粘り勝ちできる。
自分のポケモンを励ます意味もあったが、カスミの言葉は本心から出ていた。
キレイハナが余程大技を的確に命中させてこない限り勝利は揺らがないと。
一方、先制されたエリカは全く動揺していない。キレイハナに先手を
取ることなどもとから期待していなかった。当初の予定通りの指示を出した。
「キレイハナ!にほんばれ!」
超能力によって作り出されたスタジアムであったが、どうやら通常の屋外と
同様に技の効果が発揮されるようで、太陽など見えないというのに途端に
日差しが強くなった。思わず目を閉じてしまうほどのまぶしさだ。
これではスターミーのハイドロポンプは威力が弱まってしまうだろう。逆に
炎による技は強烈なものとなるだろうが、この場にいるポケモンには関係なかった。
「・・・!こんな技が使えるのね。でも何の意味があるのかしら?どうせ
水に関わる技は使わせるつもりはない。勝てないのならせめて私を
日焼けさせて嫌がらせしようという気?」
カスミは水着でいることが多く、肌の手入れには細心の注意を払っている。
今日もすでにクリームを塗って対策はばっちりではあったので実際はそこまで
心配していなかった。このにほんばれの技の恐ろしさに関しても甘く見ていた。
「あんたの苦労の結晶がこのにほんばれね・・・まあ堪能させてもらったわ。
でものどが乾くし目にも悪そうだからもう終わらせてしまうわ。スターミー!」
「シュァァア――――ミャ―――――!!」
再び強力なサイコキネシス。倒れこそしなかったがキレイハナは苦しくなった。
『これで決まりか!ついにリーグ側に初勝利となりそうだ―――っ!』
『ええ。ここから反撃に転じるには遅すぎます。余力が足りませんよ』
実況、それに解説役のタケシもカスミの勝利を確実なものとして語り、
「終わったな」
グリーンもまた彼らと同様の気持ちだった。キレイハナというポケモンについて
詳しいことは知らないが、極端に高い攻撃力を持っているようには思えない。
一発逆転の技を使ったところでスターミーなら耐えきるだろう。カスミの勝ちだと
信じて疑わなかった。だが、ジョウトから来た二人の思いは全く異なっていた。
「あ・・・あれはいけない!まずいぞ―――っ!」
「あァ!?どうしたゴールド。もうあと一発か二発で終わるぜ?」
「いいえ!まだカントーには広まっていない戦法、それに技があるんです!」
ゴールドとミカンは明らかに焦っていた。このままではまずいという感じだ。
二人からすれば、すでに必勝パターンに入ったのはエリカのほうだった。
「・・・キレイハナ、こうごうせいを・・・」
「ハナァ―――!!」
太陽の光がキレイハナを満たし、みるみるうちにその体力が回復していく。
『な、なんと――――っ!!一瞬のうちに力を取り戻した―――っ!』
ほぼ全快と言ってもいいだろう。傷も疲れも一切なくなっていた。
「な、なんだあの技は――――っ!?」
「こうごうせいです!じこさいせいのようなものですが・・・あれだけ日の光に
満たされていたなら・・・どれだけ瀕死寸前でも全回復するに違いありません!」
見ている者たちですらこれだけ驚いているのだ。カスミはその比ではなかった。
「ああ―――っ・・・ま、まさかあの状態から回復するなんて―――っ」
「ふふ、ここからが本番ですよ。この技の真価は攻撃にあるのですから。
キレイハナ、ソーラービーム!」
ソーラービーム。草ポケモンの強力な技の一つではあったが、あまりに強い
エネルギーを要するため、『溜め』の時間が必要だった。その間に何らかの
対策を練られてしまうこともあり、威力のわりに使い勝手はよくなかった。
「ハァ――――ナァ――――――ッ!!!」
「え・・・ええっ!?こんなに早く・・・!避けて、スターミー!」
ところがいま、大した溜めもなくキレイハナはソーラービームを放った。
トレーナーもポケモンも準備ができておらず、スターミーはもろにくらった。
「ズガァ―――――・・・・・・」
「くっ!じこさいせい!」
スターミーがボディの損傷の修復を始めた。だが、完全に治りきる前に
次のソーラービームが飛んでくる。こうなっては苦しい。反撃に転じたくても
回復を怠っていたら倒される。とはいえ攻撃しないで勝つというのは不可能だ。
やがて回復が追いつかなくなり、ダメージが蓄積されていった。見るからに
弱っていくスターミーの姿は痛々しいものになっていた。
「観念しなさい、カスミさん!」
「だ、誰が・・・!勝負は決着する最後の一瞬までどうなるか・・・」
「無駄です!さあとどめです、最後の一撃を!」
「・・・!ハナッ!ハナッ!ハァ―――――――ッ!!」
エリカが力強く、倒すべき相手を指さした。キレイハナはその指示に従い、
これまで以上にパワーを込めて、バトルを終わらせるにふさわしい
ソーラービームを放った。いわば『隠し玉』であったこのポケモンにとって
公の場での真剣勝負は初めてだったが、緊張による失敗などなかった。
むしろエリカに、そして先輩ポケモンたちに認めてもらうべく気合が入り、
それを見事結果にしてみせたのだ。まさに『華々しい』デビューだった。
「・・・ぎゅ・・・ギュ―――ヒィ――――・・・・・・」
「・・・・・・ス、スターミー・・・・・・」
カスミは歯を食いしばりながら悔しそうにスターミーをボールに戻した。
戦闘不能なのは誰の目にも明らかであったので、試合終了に何の異論はなかった。
『だ、第三試合も決着だ――――っ!!水対草の不利を押しのけて勝利を
手にしたかと思われたカスミでしたが・・・ジョウトの戦法とポケモンを
取り入れたエリカの逆襲の前に逆転負けを喫してしまった―――っ!
これでポケモンリーグ側は三連敗と最悪の展開になってしまいました・・・!』
「・・・あれだけ変化を好まなかったあんたが・・・!成長や勝利、そんなものに
興味もなく日々をただ過ごしていたように見えたあんたがこんな戦い方を
してくるなんて・・・・・・わかっていれば私が勝っていたものを・・・」
「ふふっ、いつも通りねむりごなやしびれごなで動きを封じてからギガドレインで
吸いとるというやり方だと思いましたか?いつまでもそんな一辺倒では
トレーナーとしての進化、そして私が目標とするポケモンマスターの領域になど
到底たどり着けません。つまりあなたに負けているようでは話にならないのです」
エリカは敗者に関心を払うこともなく去っていこうとした。その後ろ姿を
眺めていることしかできなかったカスミはぽつりと口にした。
「・・・ほんとうに変わっちゃったのね、エリカ。以前のあんたとはまるで違う。
いや・・・あんたが変わったのはついこの頃のことじゃなかったわね。
私たちもよく覚えている二年以上前のあの日、あの『沈黙の日曜日』から・・・。
言われてみればあれからあんたはそれまで以上に心から笑わなくなって・・・・・・」
「お黙りなさい!それ以上語ることは許しません!」
カスミの言葉にこれまで誰も見たことがないほどエリカは怒りを露わにし、
その直後にはバトルでは出番のなかったラフレシアの花びらが鋭利な飛び道具として
カスミに襲いかかった。命中させるつもりはなかったようで、数枚の花びらは
全て離れたところに刺さったが、それでも万が一当たったらただではすまなかった。
腕や脚部であれば切断、当たり所によっては死だ。カスミは腰が抜けて座り込んだ。
「あ・・・あんた~~~~~~~っ」
「軽々しくそのことに関して口にするのはやめてもらいましょう!未来永劫に!」
再びカスミの姿を見ることもなくエリカはスタジアムを後にした。現実世界に
戻ってきたときのエリカは人々のよく知る穏やかなお嬢様に戻っていた。
一時的な仲間であるカンナとカリンが彼女の所業を追及しようとしたが、
三試合で決着がついたことでついにメインスタジアムに動きがあった。
ナツメと戦う現四天王のイツキがどこから手に入れたのかマイクを手にしていた。
「さて、会場の皆さん、それに中継でボクたちを応援してくれている方々!
戦況はまさに深刻!だけどご安心を!ここでこのボク、四天王であるイツキが
目の前にいる身の程知らずの愚か者たちのリーダーを華麗に成敗するからね!」
彼の突然のマイクパフォーマンスに場内から大歓声が沸きあがった。いま一番
勢いのある若きトレーナーであるとされていた人気者が満を持して試合を
開始するのだ。しかも対戦相手のナツメは同じエスパーポケモンの使い手であり、
以前から対戦が待ち望まれていたのが、ここでとうとう実現するからだ。
「ナツメ、あんたのカントー地方ではエスパーポケモンは無敵状態らしい
じゃないか。だからこんな勘違いをしてバカげた騒ぎを起こしたのかい?
そんな思い上がりをボクが粉砕してみせよう。エスパー対策を万全に
してきた各地のトレーナーを相手に、それでも完封してしまうボクが
四天王とジムリーダーの格の違いを教えてあげようじゃないか!」
「・・・・・・・・・」
「あんたの敗北は後ろにいるあんたの仲間たちにも大ショックを与えるはずだ。
これまでの三連敗を補って余りあるほどの大勝利となるだろう―――っ!!」
場内の歓声はさらに高まっていたが、これに文句をつけたのはカンナたちで、
「ちょっと、あなたが何を言おうが勝手だけど一つだけ訂正しなさい。
そこのナツメは別に私たちのリーダーでも何でもないわ」
「そう。それに負けたところでショックなんて全く感じないわ。むしろライバルが
一人消えてくれて大喜び。ま、どっちが勝とうが私の悪ポケモン相手じゃあ
お話にならないでしょうけどね―――っ」
エリカは興味がないのかこの輪に加わっていなかったが、イツキの
狙い通りナツメのみならずカンナやカリンも巻き込んで戦いに向けて熱が
増していき盛り上がるかと思った。ところが・・・・・・。
「・・・・・・・・・」
「・・・おい、あんた・・・聞いているのか?おい!」
中心人物であるナツメがなぜか終始無反応だった。挑発に無視を決めこもうと
しているようではなく、どこかぼーっとしている様子だった。そして実際に、
「・・・えーっと・・・ごめんなさい。聞いていなかった」
「ふ、ふざけやがって・・・!!完膚なきまでに打ちのめしてやる―――っ!!
茶番は終わりだ!早くバトルを始めようじゃないか!」
イツキはマイクを投げ捨てた。ナツメの冷静さを失わせようと言葉による攻撃を
仕掛けたまではよかったが、逆に自分がいら立つ羽目になってしまった。
「しょせんはジムリーダーどまりだったあんたとあっという間に四天王となった
ボクの格の違いを思い知らせてやるさ!」
「・・・・・・・・・」
いまだナツメはどこか心ここにあらずといった感じだった。人々は彼女の
様子がおかしいことに気を奪われすぎて、彼女と共にいるフーディンの
危険な笑いに気がついた者はいなかった。