ポケットモンスターS   作:O江原K

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第100話 ワイルド・ワンズ

 

ナツメの隠れ家、大きな屋敷の一室で急遽開かれることになった『認定バトル』。

すでに辞任の意思を固めているもののいまだタマムシジムリーダーであるエリカと

ナツメとアカネがロケット団アジトで出会い仲間となった元下っ端の女とウパー、

『ワイルド・ワンズ』の戦いが始まろうとしていた。アカネが彼女たちに近づく。

 

「・・・あんたたちがロケット団にいたときどんな戦いをしとったかは知らんが

 このバトルも大差はないで、多分。反則以外は何をしようが勝てばエエ。

 それ以外で文句をつけられることはないから細かいことは気にせんことや」

 

「・・・・・・わかりました。ウパっちの力なら・・・ここは勝てます」

 

自分を守るためにアカネのミルタンクに突進したほどの勇気を持つウパーだ。

自分がトレーナーとして未熟でもウパーが補ってくれると彼女は信じていた。

 

「うぱ————!!!」

 

ウパーのほうも女を信じていた。命を投げ出して機械の下敷きになりそうだった

自分を救ってくれた彼女のもとで戦うのなら恐れるものなど何もないと。

 

 

「ウパっちの一番の弱点は草タイプ・・・だったら最初に終わらせないと」

 

「なるほど・・・予備知識はあるようですね。では始めましょうか」

 

チーム、ワイルド・ワンズのポケモンはウパー一体だけだ。バッジの数が増えれば

増えるほどジムリーダーもそれに見合ったポケモンを繰り出す。草タイプの技が

大弱点のウパーがエリカを倒すにはバッジが一つもない状態、いましかなかった。

 

「いけ—————っ!!ウパっち!」 「うっぱ——————っ!!」

 

「いきなさい、ハネッコ。遠慮は無用です」 「ぽ————っ」

 

事実このハネッコに草タイプの攻撃技はない。挑戦者の最低限の実力と知識を

確かめるためのポケモンだった。もし何の対策もしていない相手であれば次に出る

マダツボミがつるのムチで倒すだけだ。この女とウパーはどれほどのものか、

じっくりと試そうと考えていたがバトルは思わぬ展開を迎えた。このバトルの審判は

イブキが務める。彼女が手を上げ、試合開始を告げた瞬間に勝負は決まった。

 

「ウパっち!れいとうパンチを叩きこんで————っ!」 「ぱぁ—————!!」

 

「・・・!れいとうパンチ・・・!技マシンで覚えさせたのですか。しかも・・・!」

 

相性の悪い草タイプ相手に逆に弱点を突くれいとうパンチを覚えさせていた。加えて

このウパーは素早く、そして強い。ハネッコが動きだす前に攻撃を終えていた。

 

「・・・・・・ハッパァ————ッ・・・・・・」

 

「・・・ハ、ハネッコ!戦闘不能!あまりに早くて見落としそうだったわ・・・」

 

ハネッコをボールに戻し、マダツボミを繰り出すエリカだったが、すでにわかっていた。

ウパーを攻撃する前に一撃で決められてしまったら相性の有利など意味がないと。

 

「うっぱぁ——————っ!!」

 

「マダツボミも・・・戦闘不能!勝負あり!勝ったのは挑戦者、ワイルド・ワンズ!」

 

ルーキートレーナーとウパーの初陣は完勝に終わった。アカネも加わり喜びの輪ができた。

 

「よっしゃあ!ケチのつけようがないデビュー戦やったで!圧勝やんか!」

 

「あはは・・・やったあ!ありがとうございます!ウパっち、頑張ったね!」

 

場内からも拍手が起きた。新人トレーナーが第一歩を踏み出した記念すべきときだった。

 

 

「おめでとうございます。そのウパー・・・かなりの実力ですね。わたくしももう少し

 レベルの高い子たちを出さなければ勝ち目はありませんでした。ですがこれはジム戦。

 いまはバッジを用意できませんがいずれお渡しします。あなたたちはただのロケットの

 残骸ではない・・・素晴らしいトレーナーとポケモンになる素質があります」

 

エリカは負けを認めてフィールドを去った。残されたのはワイルド・ワンズと審判役の

イブキだったが、この後どうすればいいのかわからずに皆その場に立っているだけだった。

するとここでナツメがゆっくりと近づき、全ての者に聞こえるようにして言った。

 

「さて・・・このまま第二戦だ!次の相手はイブキ、あなただ!準備をしてもらおう!

 この屋敷のパソコンは繋いである、初心者相手のポケモンを出すといい!」

 

「は・・・?私?いや、いつも使ってるミニリュウならすぐに用意できるけれど・・・」

 

「なら話は早い!審判は一番そばにいるシバにでも頼めばいい、第二戦、開始だ!」

 

対戦相手から流れまで全てを指定し、言われるがままに対戦の準備が整った。

 

 

「ナツメ・・・これはどういうことだ?彼女たちが負けるまでやるつもりか?」

 

「負ける?それはないな。これは我々リニア団として最初の試合だ。敗北など

 許されない。お前たちを全員倒してバッジを頂くまで続けるのは当然だ」

 

「・・・・・・・・・」

 

シバ、そしてワタルは何も答えずにナツメのそばを離れた。ウパー一体だけしか

持たない彼女がどこまで勝ち進めるか、たかが知れている。それなのにナツメは

この場にいる全員に勝つと自信たっぷりに断言した。確かな後ろ盾があるかのようだ。

 

「レッドのピカチュウほどのポケモンであれば一体でも可能かもしれないが・・・」

 

「まあいいさ。おれたちも楽しもうじゃないか。遠慮と手加減はもちろん抜きでな」

 

第二戦目、イブキはバッジを持っていない、もしくは一つだけのトレーナー相手には

ミニリュウ一体のみで戦う。だがこのミニリュウ、なんとりゅうのいかりを覚えており、

体力が低く経験の浅いポケモンは一発KOだった。イブキもアカネほどではないが

負けず嫌いで、初心者が相手でも全力で勝ちに行くスタイルだった。

 

「ウパっち!さっきと同じでいいよ、やっちゃって!」 「うっぱ~~~~っ!!」

 

しかしここは相手が悪かった。ドラゴンの弱点を突くれいとうパンチが炸裂する。

一発で倒されてしまったのはミニリュウのほうであり、まさに瞬殺だった。

 

「そこまで!勝者・・・ワイルド・ワンズ!」

 

「・・・こいつ・・・!とっくにヌオーに進化してもいいほど強いじゃない!

 見た目に騙された私が悪いと言われたらそれまでだけど・・・ふんっ!」

 

「そういえば・・・そうかもしれない。でも今は勝った喜びを————っ!!」

 

イブキが悔しそうに客席に戻っていくと、またしてもナツメが立ち上がった。

 

 

「いい勝負だった!だがまだまだこれからだ。三戦目・・・ちょうどそこにいる

 シバと勝負しろ!ワタル、今度はあなたが審判だ!」

 

「む・・・いいだろう!おれは資格こそ持っているがジムリーダーの経験はないぞ?

 それでも構わないのなら全力で勝負してやろう。もちろんルールの範囲内でだがな。

 ここまで二連勝・・・バッジを二個持っている相手にふさわしいポケモンを・・・」

 

ところがナツメが即座に待ったをかけた。見過ごせない違反があるからだ。

 

「何言ってる?バッジが二個だと?よく見ろ、一個も持っていないだろう。

 インチキしないで彼女のバッジの数に合ったポケモンで勝負しろ」

 

「・・・いやいや、もう忘れたのか?こんなところでこんな展開になるとは誰も

 予想できないからバッジは後で渡すと約束したじゃないか。シバ、こいつの屁理屈は

 構わなくていい。嫌なら戦うのをやめてしまってもいいぞ」

 

ワタルだけではなく周りの者たちもナツメに厳しい目を向けた。しかしこの反応は

すでに想定済みだったナツメは間を開けることなく彼らに次なる攻撃を加えた。

 

「ならばそこのパソコンでトレーナー検索をするといい。ジムリーダー以上の者しか

 閲覧できないが、確かに載っているはずだ。バッジを一つでも獲得したのなら

 その情報は国内で共有できるようになる。不正を許さないよくできたシステムだな」

 

 

認定バッジを幾つ持っているかは、そのトレーナーの実力と素質の高さ、また知識を

どれほど有しているかをこれ以上なく明らかにする。そして数が増えたら増えるほど

次の難易度は上がる。特に最後の八つ目となるとジムリーダーも本気で戦ってくる。

相性が悪いとどうやっても勝てないリーダーも出てくるため、真剣にバッジを八個

手に入れたいと考えるトレーナーはジムを回る順番も間違えてはいけなかった。

 

しかし悪知恵を働かせる人間はどこにでもいるもので、自分はジムに初めて挑戦する

初心者だと嘘を繰り返せば簡単に八個バッジが手に入ると企む者たちがいた。

 

「だから最初に受付を行い、データを調べて本人の申告と事実に違いがないかを

 確かめる。それから後はそのジムによって流れは多少異なるがジムリーダーとの

 認定バッジをかけたバトルの時に間違いが起こらないようにする・・・。

 おれたちはもちろんトレーナーじゃない人間でも知っているルールだな」

 

「そうだ。だから早く彼女の情報を検索しなさい」

 

フィールドではアカネがワイルド・ワンズに小声で、そんなん知らんかった・・・、と

呟き、トレーナーである女どころかウパーですら苦笑いせざるをえなかった。全てを

他のトレーナーや事務員に任せっきりだったアカネは、ただ今日の認定戦の予定と

相手のレベルを聞くだけで、何も考えずどのような仕組みでそれが行われているかも

じゅうぶんに理解していなかった。さすがにまずいことだと察したようで、他の

ジムリーダーや四天王たちに聞こえないように小声でもらすだけにとどめた。

 

「・・・いま検索したって出るわけないでしょ。早くても明日になるわ」

 

これは決して遅すぎる対応ではない。ポケモンジムに挑戦しバッジを手に入れるには

様々な手続きが必要で、朝一番に挑戦を表明しても結局半日は時間をとられてしまう。

よって鳥ポケモンや他の交通手段を駆使しても一日に一つのジムにしか挑めない。

その日の業務を終えてからデータを更新すれば何の問題もなく正確な情報が翌日の

朝には届いている。不正や手違いは起こらないはずのシステムだった。

 

「そうか、だったらシバはバッジを持っていない相手用のポケモンを出すしかないな」

 

「おい、お前はアホか!?今回は普通ならありえないバトルだろうが!手元にバッジが

 ないのは当たり前、データがないのも当然、なのにいつも通りのルールを持ち出して

 自分のやりたい放題を押し通そうとする・・・そんなことが許されると思っているのか!」

 

苛立ちが頂点に達したグリーンがナツメを怒鳴りつけたが、皆が同じ気持ちでいるのは

表情からして明らかだ。もともとナツメの物言いは人を怒らせるものが多かった。

このままではこんなこと馬鹿らしくてやってられないと反発されワイルド・ワンズの

戦いが打ち切られるだけでなく屋敷から去ってしまうかもしれない。それはナツメも

よしとしないことであり、だからここまでは全て予想通りの反応だった。超一流の

トレーナーたちの心に訴え、考えさせるためにはこの先が重要だった。

 

 

「・・・そうか、あなたたちは今回のようなことなど過去一切なかったと言うか。

 そして不正を断固として許さないとも言う。では逆に聞きたい。なぜあなたたちは

 嘘を語るのか。わたしが悪でありあなたたちは潔白だとどうして主張できるのか」

 

「嘘!?おれたちは一つも・・・」

 

「あなたたちの行いが語っている。証明してみせよう、この画面をよく見るといい」

 

すでに用意していたパソコンをナツメは急がず、しかし滞ることなく操作する。

そしてセキエイリーグの認定バッジを七つもしくは八つ集めたトレーナーたちの

写真とデータが載せられている画面となったが、全ての者ではなくナツメが

選んだ者たちだけだった。彼らはカントーかジョウト、もしくは両方合わせて

それだけのバッジを手に入れた者たちだった。中にはトップリーグの一角で

戦う一流トレーナーやポケモンバトルの強豪として知られる芸能人がいた。

更には政治家や官僚、大企業の家の者、一流トレーナーの息子や娘たちが。

 

「こいつらの誰にもわたしはバッジを渡していない。ヤマブキのバッジがあるのなら

 それは格闘場で得たものだ。もしくはカントーでわたし以外からバッジを集め

 残りはジョウトのどこかで適当に手に入れたのだろう。なぜわたしが世の中では

 尊敬され高い地位にいるこいつらをトレーナーとして認めなかったのか・・・

 アカネだけだろう、心当たりがないと良心が痛まずに大声で言い切れるのは」

 

「心当たりはないで——————っ!!」

 

ナツメの言葉に乗り、ほんとうに大きな声でそう言ってみたが誰も反応しなかった。

真面目な空気のなかボケたのは失敗だったかとアカネは悔やんだが、この静けさは

アカネのせいではなかった。ナツメの指摘通り、思い当たるところがあったからだ。

 

 

「・・・・・・そうきたか・・・!なるほど、完璧な攻撃だ。おれはそのなかの

 何人かと戦ったよ。そして全員にバッジを渡した・・・出来レースでな」

 

ステータスのため、あるいはほんとうにバッジが欲しいか・・・理由に関係なく

それら身分と金を持つ者たちがジム戦に挑む際、通常のルールは暗黙の了解で

適用されずに握りつぶされ、リーダー側の手加減という形だけのバトルが

行われることが当たり前になっていた。一般の人々とは違う、選ばれし人間の中にも

真剣にポケモンバトルを極めようと努力する人間もいるが、彼らのほうからわざわざ

遠慮はしないでほしい、自分はただのどこにでもいるトレーナーだと頼まなければ

普通の試合にはならないほどこの悪しき習慣は定着し、当たり前のこととなっていた。

 

「本来であれば重大な不正であるはず、なのにもはや当たり前のこととして

 皆が受け入れてしまっている・・・それが問題だ。どれだけ高度なシステムを

 開発し導入しても扱う人間が無視してしまうのなら意味はないな。もちろん

 ジムだけの話ではない。チャンピオンや四天王も自らは関わらないとしても

 リーグ戦で行われている様々な形の八百長を公にせずに見て見ぬふりをする。

 トレーナー試験での裏口合格を知っていながら何もせずに黙っている・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「指摘したところで無駄であり仕方のないこと、そう諦めてしまった・・・。

 だから彼女のような犠牲者が後を絶たない。試験で不合格にしただけでなく、

 今日この場でも差別しようとしているのか!この恥知らずどもが!」

 

不正な合格者たちのせいで夢を奪われロケット団に入るまでに至った女をナツメが

屋敷に連れてきただけでなくバトルの場に立たせたのはこれが理由だった。

なぜ日々不正を見過ごしていながら名もなきルーキーが相手だとルール違反や

屁理屈だと言うのか。エキスパートトレーナーたちが自分でも知らない間に

心の奥に根づいてしまっていたものを暴こうとしたのだ。

 

 

「・・・私たちがあの連中の共犯者であり似たような存在だと・・・ふふふ、

 そうかもしれないわね。楽なほうに流れて気がついたらどっぷりと・・・」

 

「悪いことなのに悪いと思わずに仕事の流れの一つだと思って・・・」

 

「そこが一番深刻なところだ。最初は良心が警告する。これはしてはならない罪だと。

 ところがその声を無視し続けていくうちに良心が鈍くなりついには働かなくなる。

 以前までは信じられないような悪事だったものを当然のように受け入れてしまう」

 

元ロケット団のワイルド・ワンズにとっても他人事の話ではなかった。初めは

聞くだけで吐き気を催すような仲間たちの悪事が、やがて組織に染まると目の前で

行われていても何とも思わなくなった。あと少しウパーと出会うのが遅れていたら

ナツメに救われる側ではなく滅ぼされる側になっていたと考えるとゾッとした。

 

「・・・ナツメさん・・・あれだけの人数を相手にちっとも怯まずに・・・」

 

「ああ。冷血で残忍なんてほざくやつらもおるがナツメは実は熱くて優しい!

 なんでうちやあんた以外はほとんど誰も気づかんのかわからんで」

 

彼女たちだけではない。ナツメはいま、救いの手をそれ以外の者たちにも差し出した。

 

 

「・・・・・・あたいたちは・・・責任を取るべきでしょうか。全てを明らかにし、

 ジムリーダーの座を降りる・・・それが一番の道ですか?」

 

アンズが力なく言葉を振り絞る。するとナツメは首を幾度も横に動かした。

 

「いや、あなたたちには希望がある!あなたたちは自分も不正から利益を得ようと

 したり悪人たちに媚を売って親密になろうとしたわけではないからだ。あくまで

 長く続く習慣や権力を持つ人間の圧力に逆らうことへの無力感から立ち上がれずに

 いただけの話だ。あなたたちが真に力を発揮できる日は間もなくやってくる。

 それまでは余計な動きをする必要はない。あとはわたしたちに任せてほしい」

 

「・・・ただ待てばいいと・・・仲間になれと強要するわけじゃないんだな」

 

「それはあなたたちの自由だ。だが現状では勧められないな。ありえない事ではあるが

 もしわたしたちが敗れた場合それに加担したと認められたトレーナーもただでは

 済まないだろう。ポケモンリーグの長老たちは死んだがやつらの子どもや孫、やつらと

 同じ考えの連中は残っている。あなたたちが組織に反逆したとあればやつらは喜んで

 ますます自分たちの言いなりになるトレーナーを高い地位に据えるだろう」

 

そうなればこれまで以上にカントーとジョウトのポケモン界は金と権力を追い求める

人間に支配されることになるとナツメは知っていた。それでもポケモンを愛し悪に抗う

トレーナーが残っていれば希望はある。いまこの時点での仲間を増やすことよりも自分が

去った後の世界を重視していた彼女の言葉の意味を全て理解している者はいなかった。

 

「せやせや!あんたたちはトレーニングの相手になってくれりゃあ今はそれでエエ!

 うちとナツメ、それにあのフーディンがおればできんことなんか何もないからなぁ!」

 

アカネがナツメに続いた。現状でナツメの仲間と世間が認識しているのはアカネだけで

あるが、彼女自身はそのことを誇りに思っていた。そのうちこの『リニア団』を大規模な

ものにしたいという気持ちはあるがしばらくはナツメを独占したい思いのほうが強かった。

 

「もちろんあんたらも忘れとらんから安心せい。うちらの正式な同志や」

 

ワイルド・ワンズのコンビに向かって語りかけた。この日の未明に戦い、友好的な

関係になったブルーと彼女のポケモンたち、ブルーコメッツのこともアカネは覚えている。

裏から着実に地盤は固まり、自分たちの成功と勝利を信じて疑わなかった。

 

 

「この連戦バトルを始める前にアカネに言ったことだが、あなたたちにも聞いてほしい。

 間違いをやり直すのに遅すぎることなんてない。そしてゆっくりでいい。今すぐに

 全てを変えようとすると無理が出てどこかで壊れる。少しずつ学ぶといい」

 

ナツメはそこまで言ったところで再び中心から離れて、誰よりもフィールドから遠い席に

戻っていった。ここから先は自分が指示を出す必要はないというその期待に応えたのは

シバだった。バトル中にトレーナーが立つべき場所にどっしりと構え、モンスターボールを

二つ取り出し、ポケモンを出した。まだ幼いバルキー二体が元気よく登場した。

 

「・・・どれ、いつもであればハイパーパワーを見せつけてやるところだが・・・

 この戦いに関してはおれが胸を借りたい。こいつらはこれから育てていくポケモンだ。

 お前のウパーと戦うことでどのような道を歩むべきかがわかるだろう。とはいえ

 もちろん勝ちに行く。二人ともどんな相手にも喧嘩を売る負けず嫌いだからな」

 

「・・・・・・はいっ!ウパっち、私たちも全力だよ!」

 

三つの進化の可能性を秘めたバルキーというポケモン。必要に応じて進化先を

調整していたこれまでとは違い、バトルでの動き一つ一つを見極めることで

攻撃に秀でているか、それとも防御か、もしくは万能か・・・。栄誉ある四天王の

地位が妨げていた、自分たちよりずっと経験の浅いトレーナーやポケモンとの

バトルから学び収穫を得るという行為。シバは変化しようとしていた。

 

「お前たちの真っ直ぐな瞳・・・いいバトルになるだろう!ウ———、ハ—————!」

 

「う—————、ぱ———————っ!」

 

シバの一体目のバルキーとウパーのバトルが始まった。バッジの数など関係ない、

目の前の相手とどう戦えば自分もポケモンも更に成長し強くなれるかを重んじた

バトルはここまでの二戦とは比べ物にならないほど見ごたえがあった。非力な

バルキーではこのウパーには運や展開がどう転んでも勝てないのだが、それを

感じさせない熱いバトルに、皆はもともと座っていた席よりも一列、二列と前へ出た。

 

「・・・・・・・・・」

 

その様子をナツメは満足そうに眺めている。そんな彼女を見て、唯一これまでの

全ての言葉を冷静に聞き、最初の席から動かなかったエリカは疑問を抱いていた。

 

 

(・・・方針を変えたのでしょうか?以前までのナツメであれば即座に結論を出し

 皆を動かすようなことはせず、自主的に気がつくのを待っていたはず。現に

 わたくしたちと共にいた十日間はそうでした。しかしいまは直接的なメッセージを

 投げかけてどうすべきかをわかりやすく教えた・・・・・・)

 

ゆっくりと、少しずつでいいと皆を励ます本人がどこか急いでいるように思えた。

問題を提起した後、聞き手に考える時間を与えずすぐに答えを出した。

 

(結果的にはこのほうがよかったのでしょう。不必要に誤解や怒りを買わずに

 済んだのですからこれでいいはずなのですが・・・わたくしには感じます。

 ナツメ、あなたはなぜ焦っている?わたくしたちにはこの先たくさん時間が

 あると言いながらあなた自身はどうして終わりが迫っているかのような・・・)

 

「エリカ?何か考え事でも?」

 

「・・・いいえ、レッド。言うほどのことでもありません。バトルを見ましょう」

 

シバに勝利したワイルド・ワンズが三連勝を決めていた。次はグリーンが自ら

対戦相手に名乗り出て、シバと同じように公認バッジを賭けたバトルというよりは

どうすれば互いに経験を得、それでいて熱のあるバトルになるかに重きを置いた

ポケモンを繰り出した。自然といま使うべきポケモンを選ぶことができていた。

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