ポケットモンスターS   作:O江原K

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第108話 春の風が吹いていたら

 

アカネとシルバーは互いに余力を残したポケモンをモンスターボールに戻し、今回の

勝負の規定に従って戦列に復帰できない状態となった。置かれた状況は同じだが、

異なるのはアカネがキリンリキを思いやり、無理をさせずに下げたのに対し、

シルバーは自分がダメージを受けるのを恐れてニューラを引っこめたという点だ。

アカネもそれに気がつき、見下したような表情でシルバーの失策を指摘した。

 

「ふっふっふ・・・逃げたな、いま?ばくれつパンチにビビって慌てて逃げよった。

 もしかしたら空振りやったかもしれんのに、うちとは大違いやなぁ!」

 

サカキやゴールドたちも後ろで見ていてわかっていた。今回のルールは真に人と

ポケモンの絆が試される。こんな序盤で弱さを見せるのは致命傷だ。ところが

彼らの心配をよそに、シルバーは笑っている。これをミスや弱さだとは思っていない。

 

「フフフ・・・アッハッハ!」

 

「ん~?何がオモロイんや」

 

「お前の言う通りさ、オレは傷つきたくないからニューラを見限った、それは事実だ。

 だがこれは当然のことだ。こいつらがうまく戦うにはオレの頭脳による的確な指示が

 どうしても必要だ。それなのにオレがフラフラになったらそれこそ敗北だ。少しでも

 その可能性があった以上これが最善手だ、まともなやつなら皆そう言うだろう」

 

シルバーの言葉にも理があった。同じほどの強さを持っていても野生のポケモンと人に

育てられたポケモン、それも人間の命令に従うポケモンでは戦い方がまるで違う。

 

「ポケモンと共に笑い、共に泣き、ダメージすら共有する、そんなものはバカのやること、

 やりたいやつがやればいい。だがそれも結局はエゴに過ぎない。そのせいで敗北し

 ポケモンを傷つけちまうのだからオレは絶対にごめんだな————っ!」

 

そのままポケモンを繰り出した。会場の人間のほとんどが知らないポケモンだった。

 

『おっと、このポケモンは————っ!?木のポケモンのようだが・・・!?

 この正体不明のポケモンとプクリンの戦いでバトルは再開されるようだ!』

 

木のポケモン、ということは草タイプだ。それだけわかればアカネには十分だ。

再開の合図と同時にプクリンをものすごい勢いで突っ込ませた。

 

「残念やったな————っ!そいつが何者かは知らんが草ポケモンなら————っ!」

 

プクリンの右手が赤く燃えていた。ほのおのパンチを叩きこむ構えだった。

ばくれつパンチの次はほのおのパンチ。幅広い攻撃範囲の持ち主プクリンに

これはまずい、と焦ったのは謎のポケモンの正体を知らない者たちばかりだった。

 

 

「おっ・・・さっそくシルバーの策が生きたか!まさかこの大一番で決まるとは」

 

「ムリもないわ。ジョウトでは生息していない、きっとシルバーくんしか使っていない

 ポケモンなんだから。でもこんなにうまくいくなんて笑いが止まらないわね」

 

ゴールドとクリスはわかっていた。サカキとミカンはこれまでこのポケモンを

知らなかったが共に訓練した一週間でシルバーから情報を得ていた。

 

「いったれ————っ!!」 「プリャ——————!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

全力のパンチだった。効果は抜群だとアカネとプクリンは思い込んでいただけに、

実際に攻撃をしてみたいま、予想よりもずっと手応えがないことをすぐには理解

できずにいた。確かに木を燃やす一撃だったはずだからだ。

 

「あ・・・ありゃ?ちっとも効いとらん。まともに入ったはずやんか」

 

「ウッソッソ・・・ウッソ——————!!」

 

至近距離から反撃のいわなだれを食らい、プクリンもアカネも倒れ込んで悶絶した。

 

「プギャ—————!!」 「あがががが・・・ど、どうなっとるんや・・・」

 

 

流血こそしていないが重い一撃となり、すぐには立ち上がれないようだ。

シルバーは勝ち誇り、アカネの疑問の答えを発表した。

 

「教えてやろう、こいつの名前はウソッキー!その名の通りこいつが木というのは嘘!

 正体は岩ポケモンだ。炎の攻撃はこいつにとって痛手とはならないのさ」

 

シルバーに続き、後ろにいたゴールドがアカネを野次るようにして言った。

 

「ウソッキーは最初おれが捕まえたんだ!それからシルバーと交換したんだが、後から

 調べてみたらこいつはカントーにもジョウトにも生息していない珍しいポケモン

 だったんだよ!しかしやっぱりお前は知らなかったな、バカ丸出しめ!」

 

ウソッキーが珍しくない他の地方から来たトレーナーたちならともかく、アカネが

このポケモンに騙されたのは仕方のない話のように思えた。だが実はアカネは特に

知っていなければいけなかった。コガネジムのリーダーであるならば当然の義務だった。

 

「こいつの姿に見覚えはないか?ほんとうに全く知らないと言えるのか?」

 

「・・・言われてみりゃあどこかで・・・・・・あっ!!」

 

「思い出したようだな!36番道路、お前の街を含む多くの場所への通行を邪魔して

 いたのはこのウソッキーだ!ハヤトさんとマツバさんはちゃんと調査していた!

 自分の街の人たちが困っているんだから当たり前だ!それを怠って遊び呆けていた

 お前はやっぱりジムリーダー失格、外見も頭もブタだってことだ————っ!!」

 

なぜウソッキーがそこにいたのかは問題ではない。よそから来たトレーナーが捨てて

いったのか、ロケット団のような他人のポケモンを盗んだり横流ししたりするような

人間がうっかり落としていった可能性もある。コガネシティと同じように被害を

受けていた街のジムリーダー二人と本部にいたキョウは日々の業務と並行して調査を

進め、ゴールドがウソッキーを捕獲した後もこのポケモンの研究を続けていた。

アカネだけがいつか何とかなるかと問題を放置し、そのツケが今日回ってきた。

 

「ううっ・・・一時期の通せんぼの木・・・そいつがその正体だったなんて・・・」

 

「勉強になってよかったじゃないか。とはいえこの序盤からお前自身がもうボロボロだ。

 これじゃあ死ぬのは避けられないから学ぶだけ無駄だったってオチだろうがな。

 さあ、そろそろ休憩もいいだろう。バトルの続きといこうぜ」

 

 

アカネは自分のもとにプクリンを呼んだ。いわなだれを受けたがまだ戦えそうだ。

 

「・・・すまんな・・・うちのせいであんたも不完全燃焼で終わってもうた。

 でもあんたにはこの次・・・ナツメとの決勝戦でまた大暴れしてもらうで。

 今回はここまでや。あんたの無念はすぐに晴らしたるからな」

 

「プ~~~・・・」

 

またしても体力の残ったポケモンをボールに戻してしまった。プクリンはこれで

戦闘不能、相手は普通のノーマル技では突破し難いウソッキーというところで

アカネが選んだ次のポケモンはピッピだった。ピーちゃん三姉妹と呼ばれる

その長女、アカネがけいこと名づけた古株だがピクシーのほうが力は上だ。

 

『これは!アカネの三体目はなんとピッピ!戦闘能力が高いとは思えません!』

 

「ピッピだと・・・生死を賭けた真剣勝負でナメやがって。最初のキリンリキ以外は

 お前のポケモンは丸々太ったブタばかりだというのはわかっているが・・・ピッピを

 出すくらいならピクシーを出してくるだろう、普通は。何を考えてやがる」

 

「ふっふ~ん・・・このアカネちゃんに常識は通用せん。もちろんけいこにもな。

 ウソッキーを倒すためにはこの子がおらんと厳しい!さあ、始めるで!うちの

 せいでなおこは一番の得意技を出せんかった・・・その分あんたが歌うんや!」

 

なおこという名のプクリンは二種類のパンチを披露したが、最も得意とするのは

相手を眠らせる、うたう攻撃だった。そしてピッピもまた歌を一番の武器とした。

もちろんシルバーもアカネのポケモンたちの技で警戒すべきなのはこれだという

事前の予習は済ませている。自身のポケモンにこの一週間、特訓を行っていた。

 

「歌って眠らせようって考えか・・・しかしそいつは対策済みだ。ウソッキーや

 他のやつらにはお前が対戦相手だと決まってからずっとポケモンの歌を聞かせた。

 眠らせるのが得意なポケモンの歌声を何度も何度も流して耐性がついているぜ。

 お月見山のピッピの歌ってCDも使った。本来は安眠用の道具らしいがいまの

 こいつらにその効果はないぜ。たっぷり睡眠もとらせておいたからな!」

 

「ふーん、お月見山の・・・うちのピッピ、けいこの歌を聞かせたわけやないんやな?」

 

「どのピッピだろうが同じだ。歌うだけ無駄だって確かに警告したからな————っ!」

 

「・・・ならうちらの勝ちや!けいこ!あの歌を聞かせたれ—————っ!!」

 

ウソッキーが攻撃するより僅かにピッピの歌が始まったほうが早かった。この大観衆の

前でその歌声に緊張は一切なかった。普段からアカネと共に数多くのメディア出演を

こなしている経験が生きた。自分と主人の命がかかった舞台でいつも以上に輝いていた。

 

 

「ピッピッピピ、ピピピ~ピピ~ピ~ピピ~・・・」

 

彼女が歌い始めた瞬間だった。攻撃の対象であるウソッキーだけではない。間近で試合を

見つめるアカネとシルバーまででもない。このスタジアム全体が優しい風に包まれた。

季節は全く違うのに、それは春風だった。穏やかな春の風が会場を覆った。

 

「け・・・景色が変わった!?」 「ここは・・・野原だ!菜の花が咲いている!」

 

もちろんこれは幻だ。しかしピッピの歌にはそれだけの力があった。プクリンが歌うのが

キリンリキと会えない日々の気持ちを綴った『春を待つ手紙』であるのなら、こちらは

ほのぼのとした、『春の風が吹いていたら』といったところだろう。

 

「ピピピピピピピ~、ピ~ピ~ピピ~ピ~・・・」

 

観客席の一番遠いところであってもこの世界に入りこめるというのなら、すぐそばで

聞いているウソッキーはどれほどのものだろうか。自分が今戦っているということすら

忘れ、のどかな春の風を満喫していたとしても驚くには値しない。

 

「ウ、ウ、ウウウウウ~ウ~ウ~ウウ~・・・」

 

すっかり心を奪われていた。気がつけばウソッキーもピッピと共に歌っている。

あの夕やけ雲を飛ぶ鳥のようになりたい、誰かの鳴らす草笛の音が春風に乗って

飛んでくる・・・いつまでもそこにいたいという気持ちに支配されていた。

 

「そうそう、一人で歌ってもエエ歌やけどデュエットならなおよしや」

 

「この歌・・・!!オレまで意識を持っていかれそうだ!ウソッキー!」

 

「・・・・・・」

 

シルバーが大声でウソッキーを我に返そうとしたがもう遅かった。歌が終わったとたん

ウソッキーはその場に倒れて眠り込んだ。道路を封じていたときは二十四時間ずっと

立ち続け、そのまま眠れるこのポケモンが横になってしまったのだ。爆睡と言える。

 

「ち・・・クソが!戻れ、ウソッキー!」

 

ピッピがおうふくビンタで攻撃しようとする前にシルバーはウソッキーを戻した。

眠りさえしなければ負ける要素がなかっただけに痛い離脱となってしまった。

 

「・・・おうふくビンタを食らったって大したダメージにはならないに決まっている。

 それなのにまた自分がダメージを受けたくないから交代?弱気過ぎないか?」

 

ウソッキーを諦めるのが早すぎる、この交代は失敗と考える観客は多かった。

しかしそれは罠だった。ここで代えなければシルバーは取り返しがつかなくなる、

つまり完全に勝機を失っていた可能性があった。ぐずぐずしないで正解だった。

 

 

「このルールであれば交代するだけならモンスターボールの外で待機させることが

 可能だ。猛毒や火傷のダメージを止められないという危険はあるが混乱や眠りは

 他のポケモンの戦っている間にノーリスクで解除できる・・・理論上はな」

 

「ところが完全に眠ってしまったのだ。ボールの力無しでどうやってポケモンを

 フィールドから陣営に戻すんだ?結局諦めるか起きるのを待つしかない」

 

特に今回の場合は深い眠りに落ちた。いつまで寝ているかわかったものではない。

そしてもう一つ、シルバーがすぐにポケモンを代えてよかった理由がある。

 

「あのままピッピが居座ってくれたらちっとも怖くない。いくらあの大バカ女でも

 それくらいはわかるだろう。この隙だらけの間に何をすべきかくらいは」

 

「ええ。もっと強力なポケモンを出し、ウソッキーがぐうぐう眠っている隙に

 自分の能力を高める技をたくさん使います。攻撃力も防御力も素早さも

 上げ放題・・・一気にシルバーさんの残るポケモンを倒すでしょう」

 

限界まで強化された後では手も足も出ない。そうなる前に決断できたのはシルバーの

ファインプレーだったと彼の後ろで見守る者たちは認める。だがシルバーには

失敗があったのも確かだ。そもそも眠らされなければこうはならなかった。

ピッピよりも遅いウソッキーなど最初から使う必要はなかった。アカネの

ポケモンたちはどれも鈍く、上から叩けると豪語していたのだから奇襲狙い

よりも安定した素早さと強さを持つポケモンを選べばそれでよかった。

そうすればピッピの耐久性などたかが知れている。先制攻撃で沈んでいた。

 

(・・・いや、それは結果論だ。もしウソッキーじゃなければあのプクリンは

 止まらなかったかもしれねえ。こいつと試合直前で入れ替えたレアコイルは

 素早いが格闘技に弱い。ばくれつパンチを耐えきれない)

 

ウソッキーも実は岩ポケモンなのだから格闘技は大きな脅威だ。アカネが無知で

あることに賭けて、一対一の交換には一応成功したのだから役割は果たした。

共に二体ずつ失っている。ここまでは全く互角というバトルだった。

 

(・・・だがこのままじゃ駄目だ。どこかでリードしなきゃ・・・)

 

シルバーだけが知る、ずっと一体ずつ互いに引っこめ続けるのではいけない理由、

それは試合の終盤で明らかにされることになる。どうしても最後の一体になる前に

残りのポケモンの数で優勢になっておく必要がある重大な理由が存在していた。

 

 

「・・・ちっ!ならばこいつだ、ドンファン!」

 

攻撃力の高いドンファンが登場したのを見て、アカネはピッピに向かって叫んだ。

 

「けいこ————っ!いったん帰ってくるんや!うちの隣に走れ———っ!」

 

このバトルで初めて、一度フィールドに出たポケモンが再び戻ってくる可能性を

残した交代だった。ピッピにはまだ活躍の機会があるのだからここでドンファンに

一撃で倒されては勿体ない。アカネは四体目のポケモンを送り込んだ。

 

「さゆり————っ!あいつの攻撃、あんたなら耐えられるで————っ!!」

 

「ラッキィ!ラッキッキ——————!!」

 

さゆりと呼ばれて出てきたのはラッキーだった。ピッピに続いて、またしても

進化前のポケモンだ。アカネにはハピナスがいることを皆知っている。しかも

これで、ミルタンク、カビゴン、ピクシーのうちどれか一体はメンバーから

外れているというのも明らかになった。敵がベストメンバーを組んでいないことは

シルバーにとっては喜ぶべき話で、同時に腹立たしい話でもあった。

 

「・・・オレ相手には二軍で十分ってことか?」

 

「うちはこの子らにそんな格付けはせん。みんなが大事な戦力であり主役、つまり

 エースで四番ってトコや。そこを間違うとあんた、痛い目見るで?」

 

「違うな!オレをナメたせいで代償を払う・・・つまり死ぬのはお前のほうだ!

 そんな雑魚でドンファンの攻撃を凌げると思うな——————っ!!」

 

ラッキーは並外れた体力を持つが、防御力は無いに等しかった。いかにその二点を

鍛えていたところでドンファンの攻撃を二回も食らえば倒れてしまう。急所に当たるか、

防御面を訓練する努力を怠っていれば一発ダウンもありえるという状況だった。

 

 

「何とか一撃耐えるんや!初めだけ凌げばうちらの勝ち!踏ん張りどころやで!」

 

「バカが!たった一撃耐えたってそいつにオレのドンファンを倒す力はない!

 ラッキーお得意の持久戦に持ち込む前にケリをつけてやる—————っ!!」

 

アカネに限らずラッキーを使うトレーナーのほとんどがこのポケモンに望むのは

耐久力を生かした長丁場の戦いだ。小さくなって回避率をアップ、どくどくを使い

相手を猛毒に冒す、タマゴうみを使って回復もする。場合によっては直接の攻撃技を

持たずに敵の体力と根気を奪う戦法もある。そうなる前に仕留めるべきだった。

様子見をするだけアカネたちを喜ばせるだけだとシルバーは攻めていった。

 

「ドンファン!じしん攻撃だ—————っ!」

 

「・・・さっさと終わらせる気なのはうちらも同じや。一瞬で決まるで・・・」

 

強烈な地震がラッキーを襲った。脳が揺さぶられ立っているのがやっとだった。

そのダメージは当然アカネにも伝わり、先ほどの傷口が開いて再び流血していた。

 

「ラギギ・・・」 「あがっ・・・こいつはキッツイ一撃やで」

 

それでもラッキーとアカネは倒れなかった。ここを凌げば勝てるという強い思いが

支えとなっていて、決して根拠のない期待ではなく現実味のある確信だった。

 

 

「こ、こんだけの技なら十分すぎるほどや・・・反撃といくで!」

 

「ハハッ!そんな非力なポケモンの反撃なんてたかが知れて・・・・・・」

 

どうせ自分のポケモンを過大評価しているだけだと軽く考えていた。今度こそ

残り数の面で優位に立てる、シルバーが小さくガッツポーズをしかけたそのとき、

信じられない光景が目に移った。あのラッキーがドンファンの懐に入りこむと、

すてみタックル以上の強烈な攻撃を放っていた。その一撃でドンファンは崩れた。

 

「バ、バカな・・・・・・ぐおっ・・・・・・!!」

 

トレーナーが傷つくわけにはいかないと主張し、ポケモンが戦闘不能になるような

強烈なダメージを受ける前にボールに戻していたシルバーがとうとう被弾した。

上空から試合の様子を監視し続けるフーディンの力による制裁を受けてしまった。

 

 

「ぐぐぐ・・・ど、どうしてそんな・・・・・・」

 

ドンファンと同じような体勢で地面に倒れたままシルバーはどうにか言葉を発する。

一度はじしんを耐えられてしまうまでは想定済みだった。しかし貧弱なラッキーが

硬い装甲を誇るドンファンをこんなにあっさりと倒したのか、それだけがわからなかった。

苦しみながらも謎の答えを知ろうとする彼に対し、アカネはゆっくりと説明を始めた。

 

「ふっふ・・・わざわざ教える必要なんかないんやが、このアカネちゃんとあんたの

 格の違いを知ってもらわにゃあならんからな、大サービスや!うちらの狙いは

 ただ一つ、カウンター!あんたがただのバカなら外れていたかもしれん。でも

 うちらをしっかり予習済み、確かにそう言うとった。だったら最初からこの子の

 弱点、物理攻撃で攻めてくるのは目に見えとるやないか!うちの読み勝ちや!」

 

「クソッ・・・旧式の技マシン18・・・今では入手できないそいつの中身が

 カウンターだった・・・こんなところでお目にかかるとはな・・・・・・」

 

ドンファンはどう見ても戦闘を続けられない。優勢になったはずが逆にアカネに

試合の主導権を握られてしまう急転直下の最悪の展開だが、それよりもシルバーに

とってショックだったのは、これまで散々バカだのブタ女だのと嘲ったアカネに

後れを取っていることだった。ポケモンのレベルや運ではなく、采配で負けている。

このまま口だけの男で終わってしまうのは彼のプライドが許さなかった。

 

「た、立たなきゃ・・・・・・」

 

「無理せんほうがエエで?うちが相手なんや。ここでギブアップしても誰も責めんわ」

 

「バカが・・・お前なんかに降参したらこの先数百年は赤っ恥だぜ・・・」

 

膝に力を込めて起き上がろうとするシルバーをアカネは余裕の表情で眺めている。

そのときアカネは何かを思い出し、更にヘラヘラとした笑みを浮かべ始めた。

 

 

「あはは、通せんぼの木のことで記憶力を働かせたおかげかもしれんな。会ったことは

 一度もないはずなのにどっかで見たような気がしてずっとモヤモヤしとったが・・・

 ハッキリ思い出せたで!シルバー、あんたの正体をなぁ!」

 

「オレの正体・・・?オレはオレだ。何言ってやがる」

 

「一年・・・いや、もうちょい先か後か、うちのジムにも配られたんや、ド田舎の

 ワカバタウン、そこにあるポケモン研究所にポケモンドロボーが現れた!

 貴重なワニノコを盗んだのは赤い髪をしたガキ、もしジムに来たらすぐに通報!

 そんな手配書が確か今でも引き出しに眠っとるで。それからしばらく後にも

 海の先のタンバシティでもニューラが盗まれたとかどうとか・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

大観衆の前でシルバーの正体が暴かれたことにゴールドとクリスは顔を覆った。

すでに足を洗ったとはいえこれまで犯した罪について聞いていたサカキも

何とも言えない表情だ。彼の真実を知った会場は大きくどよめき、これまで

シルバーを応援していた観客の態度も大きくアウェーへと変わりそうだ。

 

「サカキ、アカネの言葉はほんとうなのか!そしてあなたはそれを知っていたのか!?」

 

「・・・ああ。つい先日だがな」

 

キョウがサカキを問い詰める。ゴールドとクリスはシルバーをどう救えばよいかと

必死で思考を巡らせる。周りが混乱し動揺する中で、一人ミカンだけは静かだった。

 

「・・・・・・・・・」

 

初めて出会ったときからシルバーは裏の人間でありまともではないという予感が

あったので意外な話ではなかった。ポケモン泥棒というのも、そしてこれまでの

彼の発言もミカンが最も嫌う人間そのものであり、愛してやまないゴールドの

親友であるとしても心からの応援をできるわけがない。冷ややかな目で彼が

ここからどう弁明するのか待っていた。そのような視線で貫いていたのは

アカネも同じだった。黙ったままでいるシルバーへの言葉による攻撃が続く。

 

 

「あ~あ、すっかりシラケてもうたわ。うちを殺しに来る刺客、どないな強敵と

 戦えるんかずっと楽しみやったのに口先だけは立派なポケモンドロボーくんが

 相手やったなんて・・・興醒めにも程があるわ!こんなカスを寄こしよって

 からに、うちはもちろん今すぐ世界中のファンに謝罪せんかい!」

 

あまりにも失礼だ、とアカネは吠える。しかしナツメが後ろから言う。

 

「くくく、そこまで言ってやるな、アカネ。そのくらいにしておきなさい」

 

「い、いや・・・あいつはドロボーやで?許せんやろ!」

 

シルバーへの助け舟と思われたがとんでもなかった。ナツメはにやりと笑うと、

 

「彼はまだ若いんだ。責められるべきはその親だとわたしは思うがな。よほど

 酷い教育をしなければああはならない。人の物を盗もうがポケモンが傷つこうが

 自分さえよければそれでいいという考えを教え込んだ愚か極まりない彼の親、

 その者こそ糾弾されるべきだ!くくく・・・いったいどこにいるのやら」

 

その目はシルバーではなくサカキを見ていた。サカキもすぐにそれを感じ取った。

 

(・・・何もかも知っているというのか・・・相変わらず恐ろしい女だ)

 

挑発に乗ることはなかったが、精神的な揺さぶりから確かにダメージを受けていた。

シルバーが悪事に手を染めたのは他でもないサカキの影響だったからだ。

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