ポケットモンスターS   作:O江原K

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第11話 フーディン

四天王イツキとジムリーダーナツメ。互いにエスパーポケモンのスペシャリストとして

知られていた二人がついに対決する。三対三の公式ルールに則ったバトルだった。

 

「さあ、ボクの勝利であることは決まってるけど楽しい戦いにしようじゃないか!

 いけ、ヤドラン!まずはキミで行くことにしよう!」

 

「ヤ~~~・・・・・・」

 

やる気がまるで感じられない顔つきで知られるヤドラン。しかしその能力は高く、

勝利を第一に追求するトレーナーたちの間でも積極的に起用されていた。

高い防御力と威力のあるエスパー技を使える有能なポケモンなのだ。

対するナツメも六つのモンスターボールのうち一つを選んで手に取った。

 

「・・・いでよ、ケーシィ」

 

「・・・・・・・・・は?」

 

イツキは、いや彼だけではなく誰もが目と耳を疑った。ナツメの一番手は

まさか、まさかのケーシィ。能力も貧弱で、戦いには明らかに向いていない。

というより、ユンゲラーやフーディンに進化してからが本番のモンスターであり、

真剣勝負の場でこのポケモンを出す者はまずいないだろう。

 

「ふふ・・・試合開始だな。楽しい戦いにしよう」

 

「あ・・・ああ・・・・・・」

 

もしかしたらこのケーシィはとんでもない高レベルであるのかもしれない。

進化前の姿に愛着を感じ、あえて進化させずにそのポケモンと歩み続ける

トレーナーもいる。なかにはポケモンのほうが頑なに進化を拒んだり、

または何らかの理由で進化可能なレベルになってもどうしてもできない

ポケモンも僅かに存在していた。この成長不良の原因は研究中だった。

 

「進化前の貧弱なはずのポケモンで勝ち進む・・・か。おれの永遠のライバルである

 あいつの相棒もそうだったな・・・」

 

「・・・ぼくも知っていますよ。そういうポケモンは・・・よーくね」

 

グリーンとゴールドの会話だ。共に決していい記憶ではないようだが・・・。

しかしいまは思い出話よりも目の前の試合だ。ナツメのケーシィ、どれほどの実力か。

 

 

『試合開始!苦戦の続くポケモンリーグ側もそろそろ一勝したいところです!

 まずはヤドランとケーシィが睨み合い・・・いや、睨み合ってはいませんね』

 

ヤドランもケーシィも何を考えているのかよくわからない顔つきだった。

 

「ボクからすればナツメ、あんたが何を考えているのかわからないけどね。

 でもどんな策を企んでいようが関係ない。ヤドラン、のろい!」

 

「ヤー・・・・・・」

 

『呪い』ではなく『鈍い』だった。素早さを捨てて防御と攻撃の能力を増し加える。

そのヤドランを相手にケーシィはというと・・・・・・。

 

「シィッ!!シィッ!!」

 

テレポートをしていた。いろんなところへと移動しているが、あくまで狭い

フィールド内のみでのことだ。ただ飛び跳ねているようにも見えた。

 

「・・・・・・」

 

「シィッ!!シィッ!!」

 

どうやら野生の個体とさほど変わらない能力しかないようだ。テレポートしか

使えないのだろう。延々と瞬間移動を続けている。イツキは首を傾げながらも、

敵の動きにいつまでたっても何の罠も見いだせなかったので攻撃の指示を出した。

 

「・・・のしかかりだ」

 

「ヤァ~っ・・・・・・」

 

 

ヤドランの威力あるのしかかりがケーシィに炸裂した。のろいによって強化されて

いてもいなくても、どのみち一撃だっただろう。ケーシィはあっさりと倒れた。

 

「ゲェ~~・・・シャ~~~~・・・・・・・」

 

「ふむ・・・戦闘不能だ。劣勢でのスタートか・・・・・・」

 

ナツメはケーシィを戻す。そして次のポケモンを繰り出したのだが・・・。

 

「いでよ、ユンゲラー」

 

またしても最終進化形ではないポケモン。しかもこのユンゲラーもほとんど

鍛えられておらず、ジムバトルでの初心者相手に使うことすらしないであろう

レベルであることはすぐに明らかになる。

 

 

「ヌ~~~~ッ・・・ヌンヌンヌン・・・はっ!!」

 

いきなり力を込めて何かを始めたのでどうなるのかと思われたが、数十秒後

ユンゲラーの持っていたスプーンがくにゃりとまがった。ただそれだけだった。

 

「は?」

 

「シャッ!シャッ!」

 

「・・・・・・」

 

そしてテレポート。ユンゲラーが自分の特技を披露している間、イツキのヤドランは

のろい、そしてドわすれといった技で着々と己の能力を高めていった。そして、

 

「・・・ヤドラン!」

 

イツキの声にゆっくりと動き出し、今度はサイコキネシスを放った。

 

 

「ユリィ~~っ・・・・・・」

 

ユンゲラーも粘りなくあっさりと倒れた。ナツメは無表情であごに手を当てながら、

 

「また一撃・・・。これで二連敗か。うまくいかないものだな」

 

そんな彼女に対し、逆に二連勝を決めたイツキだが笑顔は一切なかった。

大きな怒りに体を震わせながら怒鳴り声をあげた。会場のいたるところからも

ブーイングが沸き起こっていた。

 

「ふざけるな!こんなもの認めるか!最初から真面目にやり直せ!」

 

「・・・どうした?王手をかけているというのにその不満を露わにしたような

 様子は。勝ちたくなかったというわけでもないだろうに」

 

「正気で言ってるのか?手加減という言葉すら生ぬるいまねをしておいて。

 恥ずかしくはないのか・・・?まともじゃない!」

 

彼女を非難し続ける。するとそれに返答したのはナツメではなく、ボールに

入ることなく常にその後ろで控えていたフーディンだった。ゆっくりと

歩いて前へ出てきたので三体目、つまり最後のポケモンとして出場するようだ。

 

 

「これは失礼。ナツメさんを悪く言わないでください。なぜならこのバトルの

 運び方はわたしがナツメさんにわがままを受け入れていただいて実現した

 ものなのですから。全てわたしのアイディアなのですよ」

 

「お前が・・・!しかしわざわざ自分の首を絞めるようなことを・・・」

 

「いえいえ、いいのですよ。ここまでしたほうがわかりやすいのですから。

 誰が頂点に立つべき存在であるかが、そして無能な愚か者の正体もね」

 

くすくすと笑いながらフィールドに立った。そして準備体操を始める。

またもやイツキを煽るような言動だが、彼も今度は冷静に対応した。

怒りを抑え、息を大きく吐いてから微笑みを見せた。

 

「フフフ、ハーハハハ!まったく・・・主人もポケモンも揃って人を

 苛立たせるのが得意みたいだ。冷静さを失わせようというのだろう?

 でもその手には乗らないよ。そんな揺さぶりで崩れるほどボクは甘くない」

 

あくまでこれまでの無礼な言葉や振る舞い、そして貧弱ポケモンの起用。

まともにぶつかっても自分には敵わないとナツメ、それにフーディンが

思いついた苦肉の策ではないかとイツキは彼女たちを侮るようになった。

それに、仮にほかにどんな思惑があろうがもはや意味はないと思っていた。

 

(くふふ・・・君らが遊んでいる間にボクのほうはしっかりとヤドランの

 攻撃力も防御力も、さらにはそのフーディンの得意とする特殊攻撃に

 対する守りも強固なものにしてある。今ならどんなポケモンだろうが

 まともにダメージを与えることはできないさ!)

 

 

フーディンがついに戦いのための準備を終えた。そしてヤドランを見ると、

 

「なるほど、いかにもどんな攻撃でも来るなら来いという顔つきですね。

 しかしあくまで攻撃を避けるとか無効化するとかそのような類の防御で

 ないのなら・・・わたしにとって絶好の的ですね。のろまになりすぎて

 回避なんてできない、出来のいいデク人形ですよ~~~っ」

 

「ヤ・・・ヤ――――ッ!!」

 

あの温厚なヤドランが珍しく憤りを隠さない。イツキはそれをなだめる。

 

「ハハハ、いいじゃないかヤドラン!どうせボクたちが楽勝してしまうんだ。

 せめて言葉くらい好き勝手にさせてやろう!そして先制の一撃もね。

 フーディンというポケモンはどの個体も例外なく物理の防御は脆い。

 貧弱な攻撃を受けてやったらあとはキミののしかかりで終わりだ。

 間違えて殺してしまっても問題ないさ!遠慮なくやってしまえ!」

 

「ヤヤ――――!」

 

「そう、ボクたちはもっと強くなる、もっと上を目指すんだ。こんなところで

 負けるはずがない!この程度の戦いは通過点なんだ!」

 

もともと動きの鈍いヤドランがあれだけ自身の素早さを犠牲にしたのだ。

フーディンが先制をとること自体は確実だったが、どんな攻撃で来ようが

大丈夫、イツキは余裕をもって構えていた。勝利は間違いないと。

 

「さて・・・では参りましょう!動かない的であるのなら・・・この技です!」

 

サイケこうせんを繰り出すつもりのようだ。もともとヤドランであれば威力は

半減できるうえにいまの状態ならダメージはほとんどくらわない。問題は

この不思議な光線により混乱状態にされることが少し怖いくらいか。

 

 

「このくらいの力配分でいけるでしょうか・・・はっ!」

 

「おおおっ・・・!あれは・・・!?」

 

フーディンが全力ではないような攻撃フォームからサイケこうせんを放った。

ところが一瞬の出来事だった。その光線の威力は人々が我が目を疑うものだった。

よく知られるそれの数倍はあるだろう。あまりにもその勢いと破壊力が

常識外れであったので、サイケこうせんとは別の技ではないかと思う者も多かった。

 

 

「い・・・いまのは!?あの威力は・・・」

 

「あああっ・・・皆さん、あれを・・・・・・」

 

チャンピオンであるゴールドとその隣にいるジムリーダー二人ですら言葉を失った。

あれだけ守備力を増し加え続けたヤドランがその場に倒れ、痙攣している。

口からは泡を吹き、しっぽに噛みついているシェルダーの殻も無惨なものとなっていた。

 

「カ・・・カヒュ――――・・・ギャヒュ―――――・・・・・・」

 

その絶え絶えな呼吸は危険な状態であることを明確にした。すぐにモンスターボールに

戻し、ポケモンセンターに連れて行かねば命の保証はない。破壊的な物理攻撃ではない

サイケこうせんで、高いレベルのポケモンがこうなるというのは例がなかった。

 

「おや?おやおや・・・?せっかく練習用の人形が手に入ったと思ったのに

 たったの一回で廃棄処分ですか~~っ?がっかりですね―――っ」

 

「・・・・・・・・・」

 

口に手をあてながら笑っているフーディンと、いまだ目の前の惨劇を現実と

受け止められず呆然と立っていたままのイツキ。フーディンはヤドランを指さし、

 

「いいのですかぁ~?早くボールに入れないと死んでしまいますよ~~?

 こんな役立たずどうなろうが構わない、あなたがそう思うのなら構いませんが」

 

「・・・・・・はっ!!も、戻れ――っ、ヤドラン!」

 

「そう、それでよいのです。さあ残りは二匹。ふふふ、楽しくなってきました」

 

 

イツキも、そしてバトルを見ていたすべての者も、たった一発のサイケこうせんで

思い知ることとなった。このフーディンは化け物だと。


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