ポケットモンスターS   作:O江原K

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第110話 六体目のポケモン

 

『くそ、まだやれるだろアリゲイツ!根性見せろ!』

 

『・・・どうやらここまでのようだ、これ以上戦えないのはきみが一番よくわかって

 いるはずだ。おれもロケット団を倒すために先を急いでいる、終わりにしよう』

 

復活を目指すロケット団を潰すべく突入したアジトでシルバーはたまたま見つけた

派手なマントが目立つ謎のトレーナーとバトルになった。シルバーから喧嘩を売って

本来の目的そっちのけで勝負をすることになったのだが、結果は完敗だった。

 

そのトレーナーこそドラゴン使いであり当時セキエイ高原のチャンピオンとして強さを

誇っていたワタルに他ならなかったが、ベストメンバーを揃えていなくてもシルバーを

短い時間で圧倒し、あっさりと破ったのだからその実力は本物だった。

 

『きみもかなりのトレーナーのようだ。これでは修行を怠ると大変な目に遭いそうだ』

 

『・・・慰めはよせ。今のオレじゃあお前が目隠ししたところで勝てやしない。それほど

 実力の差がある・・・ドラゴンポケモンを使いこなすほどのトレーナーなんて初めて

 出会った。よほどの才能と素質がなけりゃできない芸当だぜ・・・』

 

苦々しい顔で敗因をドラゴンの能力の高さ、またそのポケモンたちを自在に操るワタルの

センスにあるとしたシルバーの考え違いをワタルは間を開けずにすぐに正した。

 

『いや、才能という点ではきみのほうが上だ。おれはドラゴン以外のポケモンだと

 うまく力を引き出せない。ジムリーダーや四天王であっても得意分野は強いが

 そうでないところは案外脆いところがある。だがきみはその若さで様々なタイプの

 ポケモンたちをそこまで鍛えあげている。おれの子どものころよりよほど優秀だ。

 だが・・・そのときのおれがきみと戦ってもやはり勝ったのはおれだろうな』

 

『何だと・・・だったら教えろ!オレとお前の差は何だ!』

 

『答えは簡単だ、ポケモンへの優しさ、信頼だ!それがなければどんなに強いポケモンを

 持っていようがトレーナーとして天才だろうが最強にはなれないだろう』

 

旅を始めてすぐに訪れたキキョウシティに建つマダツボミの塔で戦った長老も、

何度戦っても勝てない宿敵も同じことを言う。そのたびにシルバーは否定してきた。

 

『ちっ!お前までそんな生ぬるい言葉を吐く!愛情だの信頼だの・・・そんなモンで

 強くなれたら誰でもチャンピオンになれる!でたらめ言うんじゃね————っ!』

 

『ああ、言う通りだ。だがその資質があるにも関わらずポケモンを愛していないせいで

 せっかくの可能性を閉ざしてしまう・・・おれはそれが我慢ならないんだ!いまは

 忙しい、これ以上話せないがまたどこかで会える日を心待ちにしているよ!』

 

それからシルバーがワタルと出会うことはなかったが、絶対に倒してやると決めた

トレーナーが一人増えた瞬間だった。そしてこれまで以上に特訓に励み、その成果を

遺憾なく発揮できる機会が訪れた。このデビュー戦は通過点に過ぎない。ゴールドを、

ワタルを、そして父サカキを倒し世界一のトレーナーになるためには勝って当然、

内容が重要だと思っていたバトルで彼はまさかの大苦戦を強いられていた。

 

 

 

『ハピナスのタックルをまともに食らってリングマは悶絶————っ!どうにか

 戦闘不能は避けられたがシルバーの圧倒的不利に変わりはないぞ————っ!!』

 

「あはは、バトルの始めに注意してやったやないか!うちはめっちゃ強いってなぁ!」

 

勝ち誇るアカネ、その両隣にいるハピナスとピッピがシルバーには桃色の悪魔に見えた。

動きの鈍いブタたちだと侮っていたが、どっしりとした体力と底力の前に幾度も

跳ね返されだんだんと追い詰められている。それでも弱いところを出すわけにはいかない。

 

「な・・・何を言ってやがる・・・お前だってあと数回は攻撃を受けたらおしまいだ。

 オレにはわかるぜ、お前が虚勢を張って無理をしていることくらい・・・」

 

ところがまたしてもアカネはシルバーの希望を打ち砕いてくる。ついさっきまで

大流血、足はがくがくと震えていたというのに、いまの彼女は元気そのものだ。

血は止まり、バトルが始まる前とそう変わらない姿に戻っているではないか。

 

「・・・な、な・・・」 

 

『なんと—————っ!アカネ、いつの間にやら回復しているぞ————っ!

 そしてハピナスも!ということはまさかまさか——————っ!?』

 

ハピナスは自身のタマゴで体力を戻し、アカネにもタマゴを分け与えていた。

命令によってそうしたのではなく、アカネのために自ら進んで渡したのだ。

 

「こりゃあ最高や・・・!一週間前にナツメの傷を癒したようにうちの体も

 みるみる力が漲っていくで!体力満タンのときに食べたら元気になりすぎて

 暴走してもうたけど・・・やっぱりたえこのタマゴは最高の回復薬や!」

 

「ハッピィ!ハッピッピ!」

 

褒められたハピナスが胸を張って笑う。リングマによって痛めつけられていた全身の

傷もすっかり目立たなくなり、体も心もこれで絶好調の状態になった。

 

「トレーナーが道具を使ってポケモンを回復させるのは反則、でもポケモンが

 トレーナーのためにタマゴをくれるのはオッケー・・・せやろ、フーディン!」

 

「ああ、いまの行為に何ら問題はない。お前たちの友情と愛が本物であることを

 証明したのだ・・・誰がそれを責めることができるだろうか」

 

上空のフーディンからも高い評価を受け、ますますアカネは調子に乗る。

 

「これがうちらの強さや!ポケモンはビジネスパートナーとか言うとるどっかの

 ポケモンドロボーくんとは格が違うんや!さあ、フィニッシュが近づいとるで」

 

「フィニッシュだと・・・?お前が無様な大逆転負けを喫する瞬間は確かに一秒ずつ

 迫っている!バトルで勝つにはトレーナーが腕を磨き、ポケモンが高い能力を持つ!

 それ以外にないということをお前だけじゃねぇ、全てのトレーナーに教えてやる!

 友情だの信頼だの愛や絆・・・強さのためにそいつらは無関係だと全世界に知らしめる

 ためには・・・オレがお前に勝って証明するしかね————っ!!」

 

 

シルバーはなおも抵抗する。リングマはフィールドの隅に放置し、五体目となる

ゴルバットを繰り出した。のろいによって攻撃力も守備力も手がつけられないほどに

なっているハピナスに勝っているのは素早さだけだが、それさえあればこの場は

どうにか凌げた。このゴルバットがシルバーと出会ったズバットの時からなぜか使えた、

普通に育てているだけでは覚えられないこの技であればひとまず危機を脱する。

 

「ゴルバット!吹き飛ばせ——————っ!!」

 

ふきとばしを使った。いまフィールドに出ているポケモンから強制的に控えの

ポケモンに交代させる技だった。一度下がれば上がった能力も元に戻る。

 

「ハピャピャ——————・・・・・・」 

 

強い風のせいでハピナスはごろごろと回転しながら後退し、外へと追い出された。

しかし今回のルールではこれだけでモンスターボールに戻ることはない。代わりの

ポケモンが場に出てもそのポケモンの状態変化や能力はそのまま残っている。

 

「しかしこれしかない。あのゴルバットにハピナスを一撃で倒せる方法はない。

 逆に倒されてしまうだろうからな・・・交代を強いることで調子に乗った

 アカネがミスを犯すのもじゅうぶんにありえる。ここはこれでいい」

 

強い状態のハピナスがそのまま残っている。問題を先送りにしただけかもしれないが

アカネがピッピではなく六体目、最後のポケモンを繰り出せばその正体を知ることで

バトルの流れを戻す秘策が思いつく可能性もある。僅かな勝機はそこにしかない。

 

「・・・ムダな小細工をしよって・・・けどせっかくポケモンドロボーくんが必死に

 最後まで足掻いていることやし、その作戦に乗ったるわ。うちの最後の子は・・・!」

 

アカネが満を持して六個目のモンスターボールを手に取り、全力で放り投げた。

 

 

『最後のポケモンはカビゴンだ———っ!一週間前の劇的勝利の勢いに賭けたか!』

 

彼女がシンシアと呼ぶカビゴンが登場した。通常の個体よりも小柄だが、前回よりも

数キロ体重を増やしていた。確かにカツラ戦での活躍は目立っているが、ミルタンクと

ピクシーよりも信頼がおけるほどではない。となるとアカネの狙いは一つだ。

 

「クソが・・・ナメやがって、オレなんて眼中にないというわけか」

 

「ああ?今さら気がついたんか。ナツメとの決勝戦で勝つ、それが今日のうちの

 最大目標や。そのために温存しとくのは当然やろ。ここまでみんな余力を残して

 引っこめたのも次の試合のため、あんたはただの噛ませ犬!このバトルは前哨戦や!」

 

ミルタンクとピクシーは同じく出番のなかったピィ、トゲピーと並んでアカネを外から

応援していた。ナツメに勝つためにはここで無駄な消耗はできないと考えての判断で、

勢いをつける踏み台に過ぎないと言われたも同然のシルバーはまたしても怒った。

 

「その慢心が命取りだ!自滅しやがれ———っ!!」 「ギョ————ッ!」

 

自滅しろという言葉のままゴルバットが放ったのはまさに混乱による自傷を誘う

あやしいひかりだった。この光は百発百中、必ず敵を惑わす強力なものだ。

 

「ビビガ・・・・・・?」

 

『あ————っと!カビゴン、出てきていきなり混乱させられた————っ!』

 

何も仕事をさせずにこの強敵を退場させることができるのなら最高だ。作戦通りの

行動だったが、シルバーは嫌な予感が先行していた。このバトルの間何度も見てきた、

まずい展開であるはずなのに笑っているアカネ。その笑みは根拠のない楽観的なものでは

なく、自分を大きく見せるために無理をして作っているのでもないからだ。

 

 

「あやしいひかり・・・百発百中、100パーセント混乱させる大した技やな」

 

アカネの余裕は崩れない。この程度で優勢は揺らがないという自信の表れだ。

 

「けど混乱しても自分を攻撃する確率・・・それは100パーセントやない!

 うちらの友情の強さはその確率を限りなくゼロにできる!シンシア————ッ!」

 

混乱しているはずなのに、カビゴンはアカネの声に頷くと頭を突き出して走り出した。

ゴルバット目がけて正確に突っ込んでくる、重そうなずつきだった。

 

「ま・・・まずい!リングマ、頼む!」 「ガオォ——————!!」

 

休んでいる間に正気を取り戻したリングマが飛び出し、ゴルバットの前で仁王立ちした。

 

「ガビ————ッ・・・」 「ゲハァ・・・・・・」

 

反則寸前ではあるが攻撃が決まる直前で交代が成立し、最後の仕事を果たした。

 

「あのリングマはもう限界だった・・・ゴルバットがまだ無傷なのはでかい」

 

「・・・・・・」

 

ゴールドはシルバーの咄嗟の判断を弾んだ声で褒めた。だが隣にいるミカンはここでも

静かに見ているだけだ。あの調子ではカビゴンの混乱は長くは持たず、控えている

ハピナスのことも含め問題を先延ばしにしているだけだ。ゴルバットは傷つかずに

済んだがシルバーのダメージは蓄積している。事態は何ら好転していない。

 

実のところミカンは、早くシルバーの試合が終わりゴールドの出番になってほしい、

そう思っていた。ナツメとアカネに連勝しこの国はおろか世界中に無敗の覇王として

名を示すゴールドを見たいという気持ちが強かった。シルバーが敗れた瞬間サカキも

参加の権利を失う。まさにゴールドによるワンマンショーとなるのだ。

 

 

「すまなかったな・・・戻れ、リングマ!」

 

「これであと二体・・・ん?え、え!?まさか・・・まさか—————っ!?」

 

シルバーが倒れたリングマをボールに戻す。そのとき、ゴールドが一度は自分の目が

おかしくなったのかと疑うほどの信じられない光景を見た。叫ばずにはいられない。

 

「シルバ—————ッ!お、お前・・・どうして・・・五つしかないんだ!?」

 

モンスターボールが五つ、四つはすでに戦闘を終えたポケモンたちのもの、一つは

いま戦っているゴルバットが入っていたもの。この六対六が前提の戦いでなんと

シルバーは枠を埋めずに五体で戦うことをバトルの前から決めていたのだ。アカネが

ミルタンクとピクシーを温存したことすら可愛く思える常軌を逸した選択だ。

 

「・・・デビュー戦の緊張のせいで一個忘れてきたんか?そんならこのアカネちゃんは

 プリティなだけやない、めっちゃ優しい完璧な人間やからチャンスをやるわ。15分

 待ったる。その間に残り一つ取ってこいや、それから勝負再開や」

 

「フン、余計な気遣いは無用だ。お前ごときにはこれくらいがいいハンデだ。

 だが・・・こんなに苦戦を強いられるのは多少予想外だった。脳味噌が無いに

 等しいブタどもの体力とパワーには警戒していたがこれほどとはな・・・」

 

「まーた懲りずにブタ呼ばわり・・・ならもうエエわ。さっきは熱い戦いがしたいから

 誰かと代われ言うたけどよくよく考えりゃナツメとのバトル以上に燃える戦いはない!

 このままアホを手っ取り早く倒せるんならうちは大歓迎や。あんたとしても数が

 少ないから負けたって言い訳ができる、誰も困らん展開やないか!」

 

シルバーはこれでいいと言うが、後ろにいる者たちからしたらいいはずがない。

この瞬間までシルバーは仲間たちにすら自分の決定を隠し通していた。

 

「なぜこんなことを・・・!しかも一番強い、お前の大事なポケモンがいない!」

 

「そうよ、どうしてオーダイルが・・・・・・」

 

エースのオーダイルを外した、その理由をシルバーは静かに口にした。

 

 

「今日の朝・・・ワカバタウンを離れる前にオレは研究所へ行き・・・あいつ、

 オーダイルを押しつけるようにして返した!お前たちには絶対反対される、

 それにオレもこの数日でこのことを考えるようになった・・・そして決めた」

 

「・・・!でも!それでも代わりのポケモンを入れたらよかったのに!」

 

「・・・・・・それじゃダメだ。これはオレのデビュー戦・・・過去とは完全に

 決別するというオレなりのケジメのつけ方だ。ゴールドの隣にいるそこの女が

 言ったようにワニノコを盗んだ件は何も弁明できないオレの罪だ。クリス、お前は

 あの日オレをかばって見逃してくれたが・・・オレはもう逃げたくないんだ」

 

ゴールドにもクリスにも選ばれなかったワニノコは研究用のポケモンとして飼育される

予定だった。あのまま研究所から出られないよりずっと楽しいはず、とクリスは

逃走するシルバーをそのまま街の外に行かせた。彼女がその場で通報していたら

おそらく早々にシルバーは捕まっただろう。だからクリスへの感謝の思いは変わらない。

 

「貴重なワニノコを勝手にオーダイルにまでした今になって返したところで意味は

 ないのかもしれないが・・・オレにはその方法以外思いつかなかった」

 

異常な趣味を持つマニアから性的な虐待を受けていたニューラを助けだし自分のものに

したことへの後悔はないが、ポケモントレーナーとしての歩みの一番初め、そこでの

泥棒は冒険の旅を続けポケモンたちと時間を重ねれば重ねるほどシルバーの良心を

攻撃し続けた。強引に研究所に返し、その枠を開けた状態で戦いに臨まなければ

胸を張って真のスタートを切れない、それがシルバーの決意の真相だった。

 

 

「・・・ミカン、あいつのやり方は確かに邪道だ。このあともう一度研究所に

 連れていく必要がある。もしかしたら警察にもな。でもわかってやってくれ!

 あいつは不器用だが真っ直ぐに生きようとしている!自分の誇りのため、

 何よりポケモンたちのために・・・だからおれはあいつの友達なんだ!」

 

ゴールドが両手を握りながら訴えてくる。ミカンも考えを改めた。

 

「うふふ・・・ゴールドさんがそこまで言うのなら認めざるをえませんね。それに

 あの人の言葉に嘘はない、それも伝わりましたから。ここからは私も心から

 シルバーさんを応援しましょう。あの人も立派な志を持つポケモントレーナーです」

 

彼はゴールドの前座であり負けても構わないと思うのはやめた。だが、不安は残る。

 

「ですがシルバーさんの残りはゴルバットだけ、相手はまだほぼ無傷のポケモンが

 三体もいる・・・ギブアップのタイミングを間違えないようにしないと・・・」

 

味方の陣営がこれ以上は無理だと判断したらバトルを終えさせることができた。

このバトルではサカキにその権限があった。死の危険すらある戦いなのだから

ギリギリまで粘っていてはシルバーの命にかかわる。本人は最後まで諦めないで

戦おうとするだろうが、敗色濃厚になった時点でタオルを投げるのが無難だ。

 

「難しいところだな・・・私としてはもうそろそろだと助言はしておくが・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「シルバーくん・・・・・・」

 

ここから逆転というのは非常に厳しい、サカキたちもそれはわかっている。

シルバーがいまだ闘志に満ちているのでひとまずは保留にしているだけだった。

 

 

 

(・・・あの女は明らかに気が緩んでいる。オーダイルがいればそこを突いて

 逆襲も可能だった!だが・・・オレが自分で決めたことだ。問題があると

 したならばこのバトルのルールだ!じこさいせいを使えるフーディンか

 さいみんじゅつとゆめくいを覚えさせたゲンガーを入れるべきだった!)

 

アカネはハピナスのタマゴうみで自分も回復し完全失神や出血多量の危ない状況から

脱している。自力で体力の回復が可能なポケモンを外してしまった不運を悔やんだ。

アカネのノーマルポケモンたちは物理攻撃で攻めてくることが多く、防御に不安のある

フーディン、またシャドーボールを無効化され決定打に欠けるゲンガーを使うのを

やめた。それが大きく響き、シルバーは後がないところまで追い詰められている。

 

(もちろん・・・このルールだからこそ一発で逆転も現実に起こりうる!)

 

普通のバトルならシルバーも諦めるしかない。ゴルバット一体で残り三体は余程の

奇跡が起きなければ倒せない。しかし今日に限り抜け道が存在していた。

トレーナーがこれ以上バトルを続けられない状態にしてしまえば逆転勝ちだ。

人間へのダイレクトアタックすら許されているのだからそれを狙う手もある。

 

(・・・いや、駄目だ。もう遅い。オレ自身の首を絞めるだけだ)

 

その作戦は使えないと思いとどまった。アカネの隣にはピッピとハピナスが

控えている。主人を狙った攻撃が襲ってきたならばこのどちらか、あるいは

両方がガードしてしまう。しかもその戦法がおそらく頭のなかに入っていない

アカネに、そうすればいいと教えることになりかねない。シルバーには

フィールドで戦うゴルバットしかいないのだ。直接攻撃を防ぎきれない。

 

 

「ふっふ~ん・・・うちとあんたの違いは経験でも環境でも鍛え方でもない!

 ポケモンドロボーくんにそれがわかるか?わからんやろなぁ!」

 

「クソが・・・まだ勝負は終わっちゃいねぇ!ここから・・・」

 

ここから、どうするというのか。シルバーは自分に問い尋ねる。アカネだけではない。

これまで出会った大勢のトレーナーたちが同じことを言っている。そして実は

すでにその答えを知っている。アカネの使うポケモンはトップリーグのトレーナーが

誰も相手にしないようなものたちばかりだが、いま自分を圧倒している。それも

やはり初めての経験ではない。チコリータやノコッチといった非力なポケモンたちを

愛するクリスとの対戦成績がほぼ互角である、その理由と同じだ。もうわかっている。

 

(・・・だが・・・それでもゴールドに勝てなかった。永遠にあいつに追いつけない!

 オレ独自の武器で勝利を目指さないことには・・・)

 

 

しばらく倒れたまま苦しむシルバーの姿を見て、アカネを見守るナツメのもとに

リニア団の仲間である元ロケット団の女とウパーが近づいてきた。

 

「・・・ナツメさん、どうやら幸先のいいスタートになりそうですね。第一試合は

 私たちの完勝!相手のギブアップは時間の問題でしょう」 「うぱ———っ!」

 

彼女たちもシルバーにこれ以上打つ手はないと思っている。しかしナツメは言う。

 

「どうだろうな・・・わたしは少し違う考えだ。あのシルバー・・・まだ何かを

 隠している。とっておきを残している!ただどうしたわけか知らないがそれを

 使うのをやつ自身が躊躇っている。絶望的なバトルをひっくり返すほどのものを

 持っているはずなのになぜかいまだに残したままだというのが不気味だな」

 

「・・・何か・・・とは?ポケモンはもういないし道具は使えない、あとは・・・」

 

 

シルバーは上着のポケットの中に手を伸ばしていた。こんなものには頼らないと

力強く宣言したが捨てきれずに持ち続けていた、ロケット団の幹部たちから渡された

ポケモンの力を限界以上に引き出す悪魔の薬だ。これさえ使えば一瞬で勝負を決めると

約束されているほどの効果だが、薬を与えたポケモンは長く持っても数時間で死ぬ。

 

(こいつに手を出したら・・・確かにこのバトルには勝てるがその代わりに多くを

 失う!こんなオレをライバルであり友人だと認めてくれるゴールドに、オレに

 どこまでも優しくしてくれるクリスに、そしてオレを大事なバトルの代打に

 選んだ親父に・・・もう二度と合わせる顔がない!しかしこの窮地を脱するために

 必要なのは普通を超えたパワーだ!この薬以外にはもはや・・・・・・)

 

そのときだった。これ以上ないベストタイミングで語りかけてくる声があった。

 

 

「ははは・・・もうおわかりでしょう、シルバー様!我々の助けを借りなければ

 あなたは勝てない・・・つまり生き残ることはできないと!」

 

「・・・!!」

 

シルバーは驚きのあまり起き上がる。四人の幹部の中でも首領格のアポロの声だった。


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