この一週間、カントーとジョウトのポケモン界を根底から覆そうとするナツメに
国内外の多くの者たちが話し合いによる意見の交換を求めた。ただ、正義感に動かされ
彼女を否定して、こんなことはやめるべきだと言おうとしている者はいなかった。
そんな人間はナツメに正面から関わろうとせず、近づこうとするのはたいてい何らかの
野望や悪だくみを抱えた者であり、悪党同士手を組みたいという狙いがあった。
「能力は違うとはいえあのナツメは僕と同じだ。ポケモンの心がわかる、そして
気持ちを正確に理解しポケモンを欲深い人間たちから解放しようとしている」
「ええ・・・利害は一致するはず。うまく使えるはずですよ、『ワタクシ』のためにね」
彼らは海外からやってきた、ポケモンを人の支配から自由にさせようという団体の
トップ二人だった。とはいえ若者のほうは純粋な願いからそうしているのに対し、
右目を隠した中年の男のほうは自分だけがポケモンを使えるようになればいいと
この若者や組織を利用し、二人の目標と思想には実は大きな違いがあった。互いに
共通している考えといえば、自分たちは特殊な力を持つ怪物であり、真っ当な
生き方はできないから誰もが認める正義の道にはどうやっても無縁だということだった。
この点でナツメとは協力、または利用できると思っていたがナツメは彼らに応じなかった。
『連中がわたしに興味があったとしてもわたしのほうは一切ない。彼らと話すだけ
無駄に時間を使うことになる。どのような動機であったとしても独り善がりな
暴走を続けポケモンを傷つける者たちなどダニのような存在に過ぎないからだ』
彼らだけでなく、それ以外の多くの者たちを含めてひとまとめにした。個々に対応する
価値すらないと言っているも同然で、いかに人やポケモンのための新たな世界を創ると
言おうが自分とフーディンの目指すものに比べると遥かに劣ったものであり、厄介者で
しかない者たちが何をしようが混乱と破滅をもたらすだけだと言って相手にしなかった。
『ふーん、でももったいない気もするで。資金提供するっちゅうとこもあるんやろ?』
『アカネ、彼らと親しくなってはいけない。金や戦力を受け取ることもあってはならない。
わたしたちが悲願を成し遂げたとき彼らが大きな顔をして、自分たちのおかげで
お前らは成功できたんだと主張してくることのないために。目的地は同じに思えても
彼ら全てはいずれ敵になるだろう。その心は邪悪に満ちているからだ』
甘い話を持ちかけてくるとしても乗らないようにアカネにも警告をしていた。
しかしその者たちが救いようのない人間であるとは言わず、こう話を締めくくった。
『彼らは馬鹿ではない。だから心の底ではわかっているはずだ。このまま続けても
真の幸せと輝かしい未来は得られないと。それでも今のやり方しか知らないから
歩みを止められない。もっと簡単に生きていい、そう言ってくれる人間が必要だ。
嘘をつかず真っ直ぐに人とポケモンを愛する・・・アカネ、あなたのようにな』
『・・・う、うち?いやいや、あんただって・・・』
『わたしはあなたとは違う。わたしが何かを言ったところで誰も聞かないさ。これまで
裏表のある言動ばかりを繰り返してきたのだから今さら遅すぎる。何かできると
すれば・・・チャンピオンとの戦いで語らずに教えることくらいだ』
このやり取りはカメラの前で行われたもので、ナツメに拒否された者たちも見ていた。
自分たちこそ正しくお前らは自己満足に浸っていると偉そうに言うのならばその戦いを
見てやろうではないかと実際にセキエイ高原に彼らはやってきたのだった。
「・・・ナツメ、さっきの言葉は・・・・・・」
自分はちっぽけで価値がないと言い切ったナツメにアカネは不安に満ちていた。
国際警察の乱入もあり、ナツメとゴールドは一度陣営に戻り改めて仕切り直しと
なったが、この短い時間ではナツメの真意を全て聞き出すことなどできないだろう。
もともと簡単には理解できない難解な言い回しをするナツメではある。とはいえ
今回の発言は今までのものとは決定的に違うとアカネもわかっていたからだ。
「ゴールドを混乱させて惑わせる・・・そう受け取ってエエんか?」
「・・・まあそんなところだ。あなたが深く考えたり悩んだりする必要はない」
こんな小細工を使うはずはない。しかしナツメがこう言っている以上、少なくとも
いまこの場では教える気はないという意思の表れだった。再度フィールドに向かおうと
歩き始めたナツメの手をアカネは掴んだが、何を言うべきなのかもまとまっていない。
「・・・・・・・・・」
「どうした?まさかわたしが負けて死ぬとでも?それほど信頼できないか、わたしは」
「いや・・・違う。違うけど・・・・・・!あんたはちっぽけないらない人間なんかや
ない!それだけははっきりとここで言わなアカン、うちの思いはそれだけや!」
ワイルド・ワンズのコンビも駆け寄り、アカネに続く。
「アカネさんと同じです!あなたがいなければ私たちは真っ暗な毎日のままでした!
ナツメさんにはもっと教えてもらうことがたくさんあります。無価値とは真逆の
大切で貴重な数々の教訓を・・・!」 「うぱ~~~~っ!!」
「くくく・・・さっき言ったばかりだろう。わたしはたまたまきっかけを作っただけで
あなたたちの資質と清い精神があればいずれこうなっていた。わたしが教えることなど
もう何もない。むしろあなたたちからわたしは多くを学んだ。感謝している」
「そ、そんな・・・」 「うぱ~・・・」
「そろそろ向こうも出てくるころだ。もう行かなくては」
このまま行かせたら後悔するという予感がしたアカネはナツメの手を握る力を強めた。
「聞いていなかったのか?その手を・・・」
「ナツメ!ゴールドに6-0で勝つ、そう言うたの、うちは忘れとらんで!
細かい話はもうあとで構わん、いまはあのクソガキをうちの代わりにメッタメタに
叩きのめしてこいや!あんたとはまたコガネの地下街のラーメンを食べに行く
約束が残っとるし流行りのファッションを教えるのもまだやったからなぁ!
絶対に勝つんや、エエな!あんたの役目はまだまだ終わっとらん、覚えとき!」
アカネの言葉にナツメの頬が僅かに緩んだ。そしてアカネの背に手を回して軽く
抱いてから繋いでいたほうの手を放し、フィールドに向かいながら言った。
「・・・あんな身体のラインを強調するような露出の多い服を着せられるのは
お断りだけど・・・ラーメンは食べに行く。今度はみんなでね」
顔は見えなかったが、その口調でアカネはわかった。ナツメがどんな表情をしていたか。
そして安心して着席し、ワイルド・ワンズもそれに続いた。
「あの過剰なまでに敵をいたぶるパフォーマンス・・・高慢ちきなオッサンたちが
ボコボコにされたのは爽快だったけれど、あんたも用心しないと危ないわ、これは」
ゴールドのそばで話をしているのはクリスだった。ミカンも共にいて、サカキとキョウは
やや後ろのほうに控えこの話の輪には加わらなかった。若い者たち同士に任せていた。
「ゴールドさん・・・やっぱり私は怖いです。第一試合では奇跡的にシルバーさんは
助かってしかも勝てました。ですがバトルの間どちらが死んでしまってもおかしくない
場面が何度もありました。あなたに何かがあったら私は・・・・・・」
一度は送り出したが、ナツメの残虐な戦いをすぐそばで見てミカンの思いは変わった。
史上最強のチャンピオンとも言われるゴールドがナツメに負けるとは考え難いが今回は
普通のバトルではない。トレーナーへの攻撃すら許される何でもありのバトルで、
試合というより殺し合いと呼ぶほうが正しいのではないかというほどだ。ゴールドが
命を落とすのも逆に彼がナツメを殺してしまうのもあってはならない展開だった。
「ハハハ・・・心配すんなよ、お前ら。圧勝すればいいだけだって言わなかったか?
ナツメがおれへの直接攻撃だの卑怯な悪あがきだのする気すら起きないほどに
圧倒的なバトルをすればそれで終わりだ。敵が邪道に走ろうとすればするほど
おれの王道バトルが生きてくる。ビビったり中途半端になるのが一番危ないんだ」
「まあそりゃあそうね。真正面からぶつかればあんたの勝ちは固い。ロケット団と
何度も戦った経験もあるし相手の変な動きには敏感でしょ?だったら普段の
防衛戦と同じように戦ったほうが向こうも困るはず。余計な邪念は振り払って
いつも通りの力を出す、それだけ考えてサクッと勝ってきちゃいなさい!」
クリスは笑顔でゴールドの肩を叩いて送り出した。幼馴染を自信を持って戦地に
向かわせることができたのは、ゴールドの強さに絶対的な信頼があったからだ。
一方でミカンは何も言わず、クリスといっしょに席に戻ることしかできなかった。
(勝敗なんかどうでもいいから無事に戻ってきてほしい、逃げたって構わない、
そのせいで王者の座を追われるとしても・・・なんて消極的な言葉を言えるはずが
ない。結局私は励ますことも止めることもできなかった・・・つまりゴールドさんに
とっていてもいなくてもいい人間だった。あと一歩のところまでいけたのに・・・)
最後の勇気が出せなかった。ただ無事を祈るだけだった。そして二人と離れ、
ただ一人命を賭けたバトルに挑むゴールドはぽつりとひとり言を漏らした。
「・・・四体目までに勝負を決めないとそこから先は・・・」
シルバーとは違いモンスターボールを六つ持っている。しかし五体目以降が
場に出なければならないほど追い詰められるとすれば王者として恥であり、
実はもう一つゴールドがそこまでに勝利したい理由があったがそれは今のところ
彼だけが知るとてつもない秘密が隠されていた。
『さあ、予期せぬ中断を経てようやく第二試合が今度こそ始まる!セキエイ高原の
若きチャンピオンであり世紀末覇王、賞金王とも呼ばれているゴールドがついに
この対抗戦に参戦!史上最高と噂される少年が史上最悪の暴虐者を相手にどんな
戦いをするか・・・最強対最凶の勝負がいよいよ幕を開けるぞ——————っ!』
「ゴールド!」 「チャンピオン頑張れ—————!!」 「ゴールドく~~ん!」
老若男女問わずゴールドへの熱い声援が至るところから響き、早くも彼の応援歌が
歌われようとしていた。当然、完全アウェーの雰囲気に怯むナツメではない。
「くくく、楽しいバトルになりそうだ。王者の実力を見せてもらおう」
「・・・おれのワンサイドゲームになるだろうがそれでも楽しいと言えるか?」
ゴールドもナツメに負けず言い返す。強がりではなく、何の盛り上がりもなく自分が
圧勝する可能性が高いと本気で考えている。この特殊なルールのせいで思わぬ落とし穴に
苦しめられる展開もあるだろうが、そうでもない限り有利は揺らがない相手だ。
「ゴールドくんの・・・加えて君やシルバーの強さはあらゆるタイプや種族の
ポケモンの力を引き出せるところにある。以前にも言ったがそれは特別な資質だ。
我々一般のトレーナーやナツメのようなジムリーダー、更にはこのキョウのような
四天王ですら限られている数のポケモンにしかできないことを君たちは平然と
やってのける。だから相手によって使うポケモンを自在に選べるのだ」
「そのことについて言えばゴールドは私よりもずっと上のトレーナーです。あいつが
トップリーグで実際にバトルに出したポケモンは百体以上!世界のどのリーグを
見てもあいつ以上にバトルポケモンを育てる才能を持つチャンピオンはいません」
サカキとクリスもゴールドの勝機が非常に高い理由を数多く挙げることができた。
ゴールドはどんな相手も苦にしない。絶対に切り札として起用するエースポケモンも
いないので対策のしようがないのだ。それでいてどのポケモンも同じように高い
実力を持つ。覇王とまで呼ばれる絶対的強さの前に多くのトレーナーが屈してきた。
「だからナツメのようなエスパータイプしか使わない敵はあいつの絶好のカモ!
勝負はさっきのシルバーくんのバトルの半分以下の時間で終わるかも」
「・・・そうかもしれないな」
ナツメがゴールド相手にできることは限られている。ゴールドはエスパーを得意とする
ポケモンを出して適当に指示を出せばそれで勝ってしまう。当たり前の話であり、
口ではクリスに合わせたが心の中でサカキはこの勝負がそんな簡単なものではないと、
否、簡単なものであってほしくないと願っていた。
(ナツメ・・・お前はその程度ではないはずだ。わたしとの戦いを前に無様に消える、
到底許されないぞ。お前のポケモントレーナーとしての真の力を見せてくれ!
こんな年若い者たちに軽く扱われるような薄っぺらい人間ではないと・・・・・・)
なぜ敵であるナツメを応援しているのか、サカキは我に返った。彼女との因縁や
今朝見た幻のような夢が原因なのだろうか。誰にも気づかれないうちに自分を戒めた。
「両者準備は万全のようだな・・・バトル開始だっ!!」
ヤナギの声と同時に客席から大歓声が鳴り響き、主役の二人はボールを放った。
「わたしの一番手は決まっている・・・いけ、エーフィ。華々しく舞ってこい」
ナツメが大事な最初のポケモンに選んだのはエーフィだ。一週間前のキクコ戦で
失態を犯したエーフィへの信頼は失われず、今日も大役を任せた。
「いけ!CHABO(チャボ)!暴れるしか能のない、昔からのおれのダチ!」
CHABOとゴールドが呼んだそのポケモンは公式戦では滅多にメンバー入りすら
しない、それでもゴールドの旅の早い段階で仲間となった『ダチ』だった。
「グオオオオ——————!!!」
『チャ、チャンピオンが繰り出したのは・・・バンギラスだ!毎日のように
セキエイポケモンリーグの実況を行う私でも実物を見る機会はほとんどない、
なのに伝説と呼ばれるポケモンを除けば最強と言う人間も多いバンギラスだ!』
好戦的、圧倒的パワー、鉄壁の防御。戦うために存在しているポケモンだった。
このバンギラスを相手にできるポケモンなど指で数えるほどしかいないだろう。
「・・・バンギラス!ゴールドくん・・・持っていたのか!でもゴールドくんは
シロガネ山に行ったことはないはず。どこで出会ったんだ!?」
「ワタルも知らなかったの?私はジム戦で戦ったから覚えてる。人に捨てられたか
群れから飛び出してきたのかはわからないけど草むらで捕まえたって彼は言ったわ」
ワタルとイブキがバンギラスについて論じ合う。バンギラスの一族はセキエイ管轄内
ではシロガネ山にしか生息していない。なのにゴールドはまだコガネシティでアカネと
戦う前に偶然バンギラスの幼体ヨーギラスに出会い、仲間にしたのだ。王者になるべき
男には天運が、世界そのものが味方する。苦労せずに最強格のポケモンを手にしたのだ。
「バンギラス・・・下手したらパーフェクトゲームになるかもしれないわ」
「はい。エーフィのエスパー技は無効化されてしまう上にスピードスターや
でんこうせっかの攻撃なんかほとんどダメージを与えられない!でもすぐに
交代したところで代わったポケモンが倒されるだけのこと、もう勝負は・・・」
バンギラスの強さは他の地方のトレーナーたちもよく知っている。物理攻撃に弱い
エスパータイプのポケモンは何もできずに倒されるだけだ。ナツメのエーフィが
どんな技を覚えていようが時間稼ぎか嫌がらせ程度しかできないのは明らかだった。
『王者ゴールドに気の緩みも隙も一切なし—————っ!早々にナツメは窮地だ!』
「くくく・・・そうだな。このまま戦っては爪痕すら残せずに負けてしまう。
どうしようかエーフィ、あなたの自慢のサイコキネシスも通じない相手だぞ?」
「困ったねぇ。私のほうが素早いだろうから一回だけなら動けるんだけど」
この絶望的な状況で、ナツメとエーフィは会話の内容こそ嘆き節だったが表情は
ヘラヘラとしていた。自分たちこそ優勢であり格上であると言いたげだ。
「強がりがいつまで続くか楽しみだ。CHABO、遠慮はいらない!やっちまえ!」
「ギャオ———————!!ガァ———————ッ!!」
ゴールドたちもエーフィから一撃は食らうとわかっていた。それでも自慢の体力を
半分以上削られるわけがないと判断して意識を攻撃に全振りだ。勝って当たり前の
勝負で警戒心から慎重になり、中途半端な指示を出すのが一番まずいとクリスに
語った通りにゴールドは動いた。半分どころか四分の一もダメージは通らない、
そんな貧弱な攻撃や大した効果のない補助技など最初から無視するのが最善だ。
「ガゴォ————————————!!」
「うわっ!きたよきたよ、怖いなぁ。私のスリムな体じゃとても耐えられないよ」
相変わらず締まりのない、不真面目な態度のエーフィ。だが、バンギラスが
射程圏内にまで突進してくると彼女の瞳は獲物を狩る獣のごとく光った。
「まあ・・・やられる前にやっちゃえばいいだけの話なんだけどね!」
先ほどとは正反対で、言葉は前向きなのに笑いは完全に消えていた。
そして無謀にもバンギラスに対し攻撃するために両足に力をこめた。
『エーフィ逃げない!せめて少しでもダメージを与えてから散るつもりか————っ!』
「追い詰められて暴発したか!?CHABOの餌食だぜ—————っ!!」
そう、普通に考えたらエーフィに勝ち目はない。だからこそこうして勇敢に
バンギラスと真っ向から戦おうとしている時点でゴールドは疑うべきだった。
あのナツメが何の考えもなしに自分のポケモンを無駄死にさせるはずがないと。
「餌食はあんたたちのほうだ—————っ!くらえ、岩石粉砕拳—————っ!!」
「ゲハァ—————————!!?」
エーフィが高くジャンプし、バンギラスの喉元を強烈な蹴りで突いた。思いがけない
スーパーキックの威力にバンギラスはそのまま後ろに倒れた。口から泡を吹いている。
「チャ・・・CHABO!バカな・・・!エーフィがそんな格闘技を使えるはずが」
「くくく、そうだな。技マシンの力を借りても無理だ。しかしこいつに関しては
例外だ。チャンピオン・ゴールド、あなたならよく知っているはずだ。ポケモンは
それぞれに違った潜在能力があり、得意不得意があることを。このエーフィの
眠っていた力を呼び覚ませたのは偶然の産物だった。ありふれた日常のワンシーンで
わたしもこいつも深く隠され眠っていた宝を発見できたのだから面白い」
ナツメのポケモンたちは訓練されているだけあり並のポケモンよりも高い知能を持つ。
人間の言葉を自在に用い、新聞を読んだりテレビ番組を楽しんだりは朝飯前だった。
『・・・ちょえ——————っ!!ハァ——————・・・トゥッ!!』
その日のエーフィはテレビの前で騒がしく叫びながら激しい動きを繰り返していた。
『・・・ついに頭が完全に壊れた?もともとバカなのはわかっていたけれど
変な薬やキノコでも拾い食いしたのかしら・・・イカれているわ』
いつも厳しく接してくるバリヤードが冷ややかに眺め、そばにいたナツメに
告げに行こうとしたが、エーフィはそれを止めた。自分は正常だという顔だ。
『待った待った、私はおかしくなってないよ。でもあれを見ていたら私も
真似てみたくなったんだよ、気がついたら体が勝手に動いてた。何年も
訓練したポケモンや人間でも難しいっていう動作が一回見ただけで簡単に
できたんだ。やっぱり私って天才なんだろうね、へへへ・・・』
『・・・・・・ナツメ、あなたはどう思う?このバカ娘のこと・・・』
呆れ果てたバリヤードはナツメに助けを求めた。自分が何を言っても聞かないので
ナツメに戒めてもらおうとしたのだが、ナツメは思わぬことを語り始めた。
『うん・・・確かにこいつは天才だ。間違いない、素晴らしい才能だ』
『エヘヘ、そうでしょ、そうでしょ!』
『ちょっと、ナツメ!また調子に乗るわよ、そんな簡単に褒めたら・・・』
『エスパーポケモンでありながら格闘の天才だと言ったのだ。まさかエーフィという
種族にパンチやキックを練習させて鍛えようとする人間はいないだろう。わたしも
その一人だったが・・・深く眠っていた天賦の才が目覚めた瞬間だ!』
「そう・・・これがこいつのめざめるパワー・・・どんな岩をも打ち砕くパワー」
エーフィが偶然目覚めさせたパワー、それはバンギラスの大弱点である格闘技だった。
「ガ・・・ガハァ——————・・・・・・」
「あんなに油断しきって突っ込んでくるから急所に攻撃を当てるのも簡単だったよ。
一発でKOしちゃうなんて・・・やっぱり私は天才ポケモンなんだね!」
「・・・・・・くそっ!戻れ・・・CHABO!」
ゴールドは自分のポケモンたちの性格や長所と短所を把握している。瀕死に近い
ダメージを負って立ち上がってこれるかこれないか、バンギラスは後者であると
わかっていた。比類なき強さで敵を圧倒するぶん、追い込まれると非常に脆かった。
だから粘りに期待して傷口を広げる真似はせず、早々に諦めることになった。
『な・・・なんと・・・!このバトルのルールである、一度ボールに戻ってしまった
ポケモンは戦闘不能扱い、その第一号はまさかのバンギラスだった—————っ!!
完全試合もありえたバンギラスが逆に何もできずにリタイアだ——————っ!!』
大番狂わせの幕開けに場内はどよめく。エーフィのめざめるパワーが難攻不落と
思われた大岩を砕き、パーティを全壊させかねない怪物を退けたのだ。
「予告したはずだ・・・わたしはあなたに6-0、完全勝利してみせると。
まずは一勝だ。くくく・・・やはり勝つと楽しくなってくるな」
「・・・・・・ま、まだ序盤も序盤!笑えるうちに笑っておくがいいさ!
おれたちのバトルはここからが本番だ!まぐれ勝ちが続くと思うなよ!」
ゴールドの言う通り最初の戦闘不能ポケモンが出ただけで、試合の流れが完全に
決まってしまったわけではない。しかし嫌な気配を薄々感じているのも事実だった。