圧倒的な力を見せたフーディンを前にイツキはどうにか戦意を取り戻すと、
二番手のポケモンとしてルージュラを場に出した。もちろん真っ向から
戦わせてルージュラ程度でどうにかなる相手ではないとわかってはいたが、
目の前の化け物を倒すにはこのポケモンしかいなかった。
「やれっ!ルージュラ!れいとうパンチだ!」
「ジュア―――――――ッ!!」
「おやおや、そんな貧相な体で繰り出されるパンチなんてわたしには・・・」
フーディンが嘲笑いながらあえてこの攻撃を正面から受けた。すると、
その足元から徐々に凍りつき、ついには全身が氷漬けになってしまった。
「お・・・おお!!」
「や、やった!やったぞ!どんな強力なポケモンも凍ってしまえば無力!
手も足も出ない今のうちに攻撃を集中させろ――――っ!」
僅かな確率に賭けたがうまくいった。このまま押し切る構えであったが、
窮地のはずのナツメは特に焦ったりどうしようか戸惑っている様子はなかった。
全く動揺していないのは、氷漬けになったフーディンも同じであり、二十秒も
しないうちにその笑い声が会場じゅうに響き渡った。
「ハハハ・・・・・・ハ―――ハッハッハ――――ッ!!」
「こ、この声は・・・!」
「この程度の氷などわたしには効きませんよ――――っ!!」
両腕と両足の力で氷柱を突き破り脱出してしまった。そしてすぐ攻めに転じ、
「あなたは先ほどのヤドランとは違い少し手加減してあげないとほんとうに
死んでしまいそうですから・・・少々手心を加えて差し上げますよ!」
サイコウェーブを放った。手加減すると言ってはいたがその威力は凄まじく、
その波に飲みこまれたルージュラは宙に舞った後、葉のように落ちて倒れた。
「ル―――・・・・・・」
「ぐ・・・ぐぐぐぐっ・・・・・・!戻れっ!!」
ついに残り一体へ追い詰められたイツキ。ここで外野が騒がしくなる。
ここまでの強さを誇るポケモンなどジムリーダーや四天王として長年の
経験を積んでいる者でも、更にはチャンピオンですらも知らなかったからだ。
「まさか・・・あいつ、禁止薬物か!?尋常じゃない能力だ!」
「しかもあのサイコウェーブ!使用したポケモンのレベルに依存する技なんだが
あんな威力は限界まで育てられたポケモンであってもまず・・・!」
(・・・あのフーディン・・・おれが戦ったときにも確かにいたが・・・?)
グリーンはフーディンをじっと見ていた。彼はまだ自分がカントー地方を巡って
ポケモン図鑑の完成を目指し、また己とポケモンたちを鍛えていた少年時代を
思い出していた。その途中で立ち寄ったヤマブキジムでのバトルの際にも、
ナツメは最後の切り札としてフーディンを繰り出してきた。なぜか無駄な
リフレクターや威力の不安定なサイコウェーブを連発してきたおかげで
勝利を収めバッジも手に入れたのだが・・・。ここでグリーンは気がついた。
「あいつは・・・おれが知っているフーディンとは違う個体だ!ジム戦で
使っていたフーディンはオスだったが・・・いま目の前にいるあいつはメスだ!」
フーディンはにやにやと笑っていた。指摘されようがお構いなしといった顔だ。
そしてグリーンにだけでなくすべての者に対して改めて自己紹介を始めた。
「そう!わたしはその方の言う通り日常の戦いには登場しません!こうして
皆様の前に姿を現すのも初めてかもしれませんね!わたしは選ばれし特別な
フーディン!数十年ポケモンに関わる生活をしている方であっても
わたしのような強さを持つポケモンを知らないとしても無理はありません」
「だがこのフーディンもちゃんと登録をしてある。疑うならば調べてみるといい。
もっともこの戦いは公式戦ではないのだから登録など不要なのだが・・・」
ナツメの言葉に本部の職員と一部のジムリーダーたちがパソコンで検索する。
すると、確かに登録は済まされていた。公式戦に出場しても問題ないという
資格を得ていたのだ。
ある程度のレベル以上のトレーナーは、自らが公式戦で使用するポケモンを
登録することを義務付けられていた。ポケモンリーグ戦や大きな大会では
その認定がないポケモンは戦いには出せなかった。この登録が必要な理由は、
気性があまりにも悪くトレーナーの指示に従わないような野生に近いポケモンが出場し
バトル中に暴れるようなことがないため、また替え玉の防止や盗まれたポケモンでは
ないことの確認、更に禁止薬物を使われていないかを明らかにするためであった。
一人で何体登録しても構わないが、そのポケモンの所有権が他者に移った場合、
もしくは高齢や負傷のためもうバトルで使用することがないと判断した場合や
死亡したときなどには速やかに登録を抹消する必要があった。そのような
管理を高性能の機械によって行っているので、不正は起こらなかった。
「・・・確かに登録されています!気性もドーピングも問題なしです!
違法な成長や進化も見当たらないので審査を通ったのです!」
「マジか・・・じゃあ失格というわけにもいかないじゃないか」
ナツメの言う通りこのバトルは公式の戦いなんかではない。それでも不正な
ポケモンを使用したとなれば彼女の社会的信用や信頼を落とし、そこから
この反乱を鎮圧するきっかけが作れたかもしれないが、その望みも消えた。
頭を抱える一同だったが、逆王手をかけられ追い詰められていたはずの
イツキは試合前の笑いとはまた違った種類の笑い顔になっていった。
「フ・・・フフフ・・・フハハハあはははは」
「・・・?どうした・・・壊れたか?」
「いいや、ボクは正常さ。いやいや、うれしいのさ。あんたのフーディンが
違法なポケモンじゃないおかげでそいつを倒せばボクは今よりももっともっと
高みへと上がれるってわけなんだから。誰もが認める四天王最強・・・
いや、そんなポケモン・・・チャンピオン以上だ。あんたたちを倒すことが
できたらきっとゴールドクンにだって勝てる!それが明らかになるのだから!
さあ!試合再開といこう!ネイティオ、あいつを華麗に料理しよう――っ!」
イツキが最後のポケモンを出す。彼のエースポケモン、ネイティオだった。
不思議な顔つき、謎に包まれた生態。ジョウト地方のなかでも限られた僅かな
生息地に棲むエスパー鳥だ。その秘めたる能力も底知れなかった。
「また弱そうな鳥さんですね~っ。それでわたしの攻撃に太刀打ちできると?」
「ネイティオ!あいつの強さはお前もボールの中から感じ取っていたはずだ。
だがお前ならやつを完封できる術がある!やれ―――っ!!」
「トゥートゥー!」
ネイティオの瞳があやしく光る。ずっと見ていると精神をやられてしまいそうだ。
混乱を誘う光であるとわかるとすぐにフーディンは目を閉じる。こんな小細工は
通じないと言いたげだったが、イツキとネイティオの狙いは別のところにあった。
「ハハハ!お前が普通のフーディンではない、そのことに賭けたがうまくいった!
本来覚えるであろうこの技のことも知らないだなんて・・・」
「・・・・・・はて・・・その技とはいったいどのような・・・」
「トゥ―――――ッ!!」
くらえばわかる、と言わんばかりにネイティオがその独特な鳴き声を大きくした。
フーディンは来るであろう未知の攻撃に身構えたが、ネイティオは動かなかった。
それどころか後退し、フーディンとの距離を広げていった。
「・・・おや?防御のための見掛け倒しの威勢でしたか?ではわたしが・・・」
獲物をすでに定めているフーディンがゆっくりと迫っていく。ところが
残り半分ほどまで間合いを詰めたところで突然の衝撃が彼女を襲った。
「・・・・・・むっ!!この痛みは・・・はっ!」
「トゥ――トゥア―――!!」
歩みが止まり、口元を歪めながらわき腹を抑えた。そこに追撃の攻撃がくる。
ネイティオのでんこうせっかだ。フーディンに一息つかせずに攻め手を緩めない。
素早く攻撃を加えると再び安全圏へと戻り、またしてもあやしげな光を見せた。
「何をされたかわからないって顔だな?こいつはみらいよちという技でね。
技の発動から少し遅れて敵に念力の塊をぶつけるのさ。いつ、どこから
攻撃が来るのかわからないんじゃ防御もままならないだろう?お前は
まさに手も足も出ないまま地に倒れているっていうことだ―――っ!」
「トゥートゥー!」
未来予知の発動前にネイティオを倒そうにも攻撃の射程外まで逃れてしまっている。
フーディンもただその場でダメージをくらうのを待つしかなかった。そして
みらいよちの攻撃が襲ってきた。決して軽いものではない。
「・・・・・・ぐっ」
「さあでんこうせっかだ!ぼくたちのイリュージョンの前にひれ伏せ!」
「・・・・・・ぐはっ!」
ネイティオの攻撃がフーディンのみぞおちに入り、ついに難攻不落の強敵がよろけた。
これならいけるぞ、と皆が思ったが、フーディンのトレーナーであるナツメはというと
何も心配していないようだった。僅かに表情が沈んでいるように見えたが、自身の敗北や
フーディンを気遣っているものではなく、イツキとネイティオを哀れんでいるかの
ようだった。彼らのほうをそのような目つきで眺めていたからだ。
「なるほど・・・みらいよちですか。これはなかなか興味深い技ですね。
面白そうですし、わたしもやってみようと思います」
「そのふざけた物言いもこれで終わりだ―――っ!死ね――――っ!!」
「トゥ――――!!」
三度目の攻撃に入ろうとしたネイティオ。これまでと同じように念力をためて
そして放出、そのつもりだった。フーディンとは相変わらず距離を保ち、
サイケこうせんですら届かない位置に逃れている。攻撃は受けないはずだった。
「トゥ―――・・・・・・トゥガッ!?」
突然苦しんだかと思うと吐血し、地面に倒れた。何が起きたのかもわからないまま
動けなくなったが、この現象の正体はわかっていた。よく知っているものだったからだ。
「トゥ・・・トゥ―――・・・?」
「ええそうです。あなたの得意とするみらいよちですよ。見よう見まねで
やってみたのですが・・・やはりすぐに攻撃の効果が出るほうがわたしは
好きですからもう使うことはないでしょうねぇ」
「・・・た、たった二回見ただけでこの技を完全に自分のものにしただって!?
しかもネイティオのものよりずっと強力な・・・!」
ポケモンがそのバトルの間使える技は四つが限界だが、このフーディンには
そのようなものはないのだろう。自在にその時の気分で技を使いこなす。
規格外の強さを持つポケモンの登場に会場は逆に静まり返ってしまった。
それを利用し、倒れているネイティオを無視してフーディンは声を張り上げた。
「ちょうどいい頃合いです!ここで会場の、そしてテレビやラジオでわたしの
声を聞く全ての皆さんにお知らせしましょう!この度のわたしとナツメさんの
目的を!これまでそれを語った方々の、『女性のポケモン界でも立場向上』とか
『多くのポケモンに活躍の機会』・・・そのようなくだらない無価値なものとは
全く違う、終わりへ進んでいく世界を正しき道へと導く崇高な意志を!」
無価値でくだらないと言われ、カンナたちナツメの仲間も険しい顔つきになった。
フーディンは高らかに宣言する。その壮大な野望を。
「それは人間とポケモンの立場の逆転!よってポケモンの開放などという言葉では
生ぬるい!下等で愚か極まりない人間を飼育し、厳選し、選別する!我々が
世界を支配することこそ正しいポケモンと人間の関係なのだ――――っ!!」
「何―――ッ!?」
「いま醜い人間どもはポケモンを虐げ、家畜や物のように扱い、不要と思えば
捨てて殺す!それを反対にわたしたちがやってやろうというのだ―――っ!
カントー、ジョウトから始め、やがて全国、そして世界中にまで及ぶ、
いわばこの世の再創造!このわたしたちがあるべき形にしてやる!」
血走った目で過激な思想を叫ぶフーディン。静聴していた会場は騒然とし、
大きなどよめきに包まれた。冷静に考えたならば簡単な話ではなくむしろ
実現不可能で滑稽な話にすぎないのだが、このフーディンの圧倒的な力を
目の当たりにしたせいで人々は混乱し、動揺していた。