ポケットモンスターS   作:O江原K

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第121話 優勢の理由

バンギラスが一撃で沈んだ。ムウマはシャドーボールを一回放っただけで負けた。

そして今、ヘラクロスがフーディンによって凍らされてボールに戻った。これで

三連続だ。ほとんどろくに抵抗もできないまま自慢のポケモンが打ち倒された。

 

(・・・ナツメ・・・こいつまさか・・・おれの心を読んで!)

 

あまりの展開にゴールドはナツメが超能力を使いバトルを優位に進めているのではと

疑った。それなら試しに今から破廉恥な事柄ばかりを考えてみたり、自信のギャグを

脳内で次から次へと披露したりしてナツメの反応を確かめようと考えた。何らかの

アクションがあればナツメが自分の思考を盗み見ているのがはっきりとするからだ。

まずは何から始めようか・・・そう思ったとき、ゴールドは我に返った。

 

(バカが・・・!何を考えてやがる、おれは・・・!)

 

三連敗を喫したからといってバトル以外の所に理由を求め、これなら仕方がなかったと

言い訳の根拠を探そうとしている。王者としてあってはならない考え方だ。ナツメと

ポケモンたちを勝って当然の相手だとナメてかかった自分の落ち度から逃げようと

している自分を戒め、女性の裸体を頭でイメージする寸前だった己を恥じた。

だが、どうしても気になる。ほんとうに心を読まれているのかいないのか。王者という

立場がそれを口にするのを許さないなか、背後の陣営からタイムリーな助け舟が来た。

 

「おかしい・・・こんなこと、何らかの裏があるはず!そうは思いませんか!?」

 

「・・・ミカン!」

 

ゴールドの気持ちを察したのかはわからないが、ミカンが立ち上がり珍しく大きな声を

出した。それに反応したのはナツメではなくやはり後ろに控えているアカネだった。

 

「はぁ~~~~~?おかしい~~~~?何がや、あんたらの頭がか?」

 

「出来過ぎだと言っているんです!エーフィもスリーパーもたった今のフーディンも!

 それぞれがあまりにいいタイミングで登場している・・・まるでゴールドさんが使う

 ポケモンもその順番も全てわかっているかのように!異常な光景じゃありませんか!」

 

エーフィはめざめるパワーによる格闘技でバンギラスを倒したが、バンギラス以外の

ポケモンと戦ったら負けていた。それでいてバンギラスに勝てる術を持っていたのは

エーフィだけだった。この一度だけなら偶然の幸運と片づけられるが、ムウマに

スリーパー、ヘラクロスにフーディンと続けて即座に対処したのはナツメがすでに

ゴールドの考えを読んでいるからではないのかという疑いは徐々に大きくなっていた。

 

「ゴールドさんがまだポケモンを出す前から狙い通りのポケモンを選べる。誰を

 繰り出そうとしているか心を覗き見してポケモンの入れ替えを自在に行う・・・。

 反則ではないのでしょう。それでもフェアな勝負と呼べるのですか、これが」

 

ポケモンリーグのルールに則った勝者居残りの勝ち抜き戦をしているはずなのに

ナツメだけ『ゴールドは○○を繰り出そうとしている』という情報を得てそれに

合わせて次に使うポケモンを選ぶ入れ替え戦をやっている。ある程度の実力差など

簡単に吹き飛ぶこの不公平バトルをミカンが見過ごせるはずがなかった。これと同じ

疑念を抱いたゴールドの代わりに彼女がナツメに問い詰め真相を知ろうとしたのだ。

 

 

ところがナツメは、それにアカネとワイルド・ワンズも揃って笑っている。ミカンの、

またゴールドや他の大観衆がまるで的外れなところにこの窮地の理由を求めたからだ。

 

「あっはっは!なるほどなぁ!実力で負けたなんてカッコ悪いからそれっぽい

 言い訳を探しとるんやな、あんたらは!底なしの間抜けすぎてとても救えんわ!」

 

「・・・・・・そんなつもりはありません。ただ、正々堂々とした勝負を・・・」

 

「ナツメさんはポケモンバトルに超能力を持ち込むことを拒んでいます。そもそも

 その力で勝利を得るのだったら最初からバトルなんかしていない・・・と。ですが

 口で言ったところで信じないだろうからとすでに用意はあります。ウパっち!」

 

呼ばれたウパーが相棒の女から鍵を受け取り、どこかへと走っていった。そして

二分後に戻ってくると、頭の上に小さな箱を乗せていた。これを取りに行っていた。

 

「その箱は一体?どこにでもある鍵付きの小物入れのようですが」

 

「これはナツメさんのバトルはもちろんアカネさんのバトルの前、つまり皆さんが

 登場する前に私たちがコインロッカーに入れておいたものです。誰もこの箱に

 見覚えがない、というのが重要です。私たちもずっとこの場を離れていないの

 ですから、事前にこれは存在していたという証拠になります」 「うぱぁっ!」

 

しかもロッカーと箱そのものの二重の鍵付きで、誰も細工できないように念入りに

管理されていた。ウパーがたった今ロッカーから箱を取り出す姿を目撃したという

者たちも現れ、彼女たちに嘘はないという証明が次々と加わっていった。その箱は

ウパーからアカネに渡され、アカネは鍵を開けると紙きれを取って手に持った。

 

 

「そんでこん中に一枚の紙がある!ナツメが超一流トレーナーと言える証がなぁ!」

 

アカネが紙を半分に折り曲げてから、カメラもそれを撮るようにというポーズで

両腕を伸ばして突き出した。そこにはポケモンの名が書かれていた。縦に三体ずつ、

二列になっていたので合計六体のポケモンが記されていたのだが、謎めいた暗号でも

何でもない、誰もがすぐに理解できるように直接的にナツメが書いたものだった。

 

「見ろ!左の列には上から・・・エーフィ、スリーパー、フーディンと書いてあるぞ!」

 

「そして右は・・・バンギラス、ムウマ、そしてヘラクロス!間違いない、これは!」

 

ナツメ自身のポケモン、ゴールドのポケモンが登場した順番通りに書かれていた。

それ以降をアカネが隠したのは今後のバトルに関わるので当たり前のことだ。

 

『こ、こ、これは——————!!バトルを始める前からわかっていたというのか!

 心を読むよりも恐ろしい予言者なのか、ナツメは—————っ!?』

 

「くくく・・・今度は未来予知ときたか。それもまた邪道の力だ。わたしが今回

 頼りにしたのはこれだ。あなたたちや無敗の王者の敗北を受け入れられない連中が

 文句を言うのはわかっていたからな・・・重かったが持ってきておいた」

 

指で合図をすると、アカネとワイルド・ワンズが陣営の椅子の下から十個ほどの

段ボール箱を次々とフィールドに運んできた。バトルは暗黙の了解で中断中なので

入ってきたところで問題ない。そしてナツメが今度は目で『やれ』とサインを出し、

アカネたちは箱の中に入っていたものを次々と地面に落とし積み重ねていった。

 

「資料・・・のようだな。雑誌や新聞もあれば誰かのノートやスクラップブックも。

 ナツメ、これはお前のものなのか?こんな大量の・・・・・・」

 

ゴールドは言葉を失った。この膨大な資料が一つ残らず自分に関するものであるのが

目に入ったからだ。写真、データとグラフ、映像・・・熱狂的なファンや自分の母親

以上にナツメはそれらを集め所有し、研究し、ゴールドを調べ尽くしていた。

 

「そう、あなたの過去の全試合、勝敗だけでなくその経過や一つ一つの動きにも

 注意を払った!基本的には堅実にバトルを展開するが時々強引に攻めるときは

 何がその引き金であり目に見えるサインはあるのかどうか・・・わたしのような

 タイプが統一された相手にはどのようなパーティを組み順番はどうするか、

 非常に多くの可能性を考慮した結果、ここまでわたしの読みは的中している!」

 

そんなものでたらめだ、超能力を隠すために適当に用意したのではないかという

反論が来る前にナツメの新たな擁護者が現れた。スタジアムの最前列から声がする。

 

「ナツメの言っていることは全部ほんとうよ!私たちは実際にナツメの別荘で

 資料集を見た。あなた一人ぶんだけじゃない、たくさんの一流トレーナーの

 データや情報をナツメは自分の力で集めて保管している、私が証明するわ!」

 

「ええ。私たちの小さな癖まで調べ抜かれていたわ。読まれていたのは心じゃなくて

 ちょっとした仕草や声の調子かもしれないわ、チャンピオン」

 

並んで座っていたカリンとカンナが証言した。その隣にいたアンズも実際にそれを

手に取って勉強までしたのだが、一番初めに記念式典を襲撃したメンバー以外は

ナツメの別荘にいたことを明かさないようにと固く禁じられていたので黙っていた。

自分のデータは当然のこと、一度も勝てない父キョウのデータを研究し勝機を

探したが、調べれば調べるほど今の自分ではまだ勝ち目はないと知るのだった。

 

「それに・・・知識だけじゃ勝てない!ポケモンたちの実力とトレーナーの腕前が

 しっかりしてなきゃ話にならない・・・違うかい、チャンピオン!」

 

だからこのように言うことができた。ここまでのナツメの優勢は的確なポケモン選びも

大きな要因だが力が足りなければいくら作戦を練ろうが絵に描いた餅だった。

 

 

「・・・こ、これ以上ゴールドさんを愚弄するような言葉は謹んで・・・」

 

「いや・・・もういい、ミカン。いつも静かで大人しいお前がおれのためにそこまで

 声を張り上げてくれたのはうれしいけどあいつらの言い分のほうが正しい」

 

「ゴールドさん!ですが・・・」

 

「ナツメのポケモンが強いのは確かだ。おれのCHABO・・・バンギラスの大弱点、

 格闘攻撃を仕込んでいたからって非力なエーフィじゃ普通は一撃で倒せやしない。

 そのあとの二体も敵ながら見事な精神力だった。これまでおれに挑んできたどんな

 挑戦者のポケモンたちよりも高いレベル、しかも優秀なんだと言ってやるしかない」

 

 

勝負そのものの負けを認めるわけにはいかないが、アンズたちの指摘を素直に受け入れて

無駄な論戦は終わらせるべきだと判断した。だがナツメはまだゴールドを解放しなかった。

 

「・・・チャンピオン、なぜわたしのポケモンがあなたたちよりも上にいるか、

 その強さの秘訣を知りたくはないか?最高級のトレーニング施設、勢いのある

 挑戦者や四天王たちとのハイレベルなバトル、あなた自身の育成の才能・・・。

 全ての要素においてわたしを遥かに上回っている。だがこれが現状だ」

 

「ここでおれが『ハイ、教えてください』と言う負け犬とでも思っているのか?」

 

「くくく、まさか。でもあなたは実のところ知りたがっている。わたしの前に苦戦を

 強いられているから、という理由もあるがそれ以上にあなたは欲しているからだ。

 どうすれば今よりも更に強くなれるか、王者として日々考え続けているのだから」

 

ゴールドは何も答えなかった。もしこの状況、この相手からの申し出でなければ

迷わず飛びついていたからだ。役に立つかどうかは後で判断すればいいのだから

聞くだけ損はない。早くバトルの再開を、と即答できずナツメに隙を見せてしまった。

 

 

「そうか、やはり興味があるか。試合の途中だから簡単に言ってやろう。短く語ると

 するならばわたしの話よりもあなたに足りないところを教えたほうがいいだろうな」

 

「おれに足りないところがある・・・面白いじゃねぇか、教えてくれよ」

 

お得意の精神攻撃にすぎなかったかとゴールドは笑った。国際警察から狙われる

犯罪者に何かを教わるなどチャンピオンとしてあってはならない。この様子だと

適当に文句をつけて心を乱そうとしているだけだろう。ナツメにわかるはずがない。

ゴールド自身もはっきりとはわからないモヤモヤの正体など。そう思っていた。

 

「・・・ゴールド、あなたの不幸はその若さでチャンピオンの座を手に入れ、しかも

 その王座を脅かす者がいなかったことだ。もしあなたがまだ夢を目指しながら

 冒険の旅を続けるトレーナーだったなら停滞を経験することもなかったというのに」

 

ゴールドは凍りついた。この短い言葉だけで黙ってしまうには十分だった。

 

「あなたは毎日のように四天王やエキスパートトレーナーとのバトルに明け暮れた。

 驕って何もせず遊んでいるよりはましだがあなたはそのせいでわかってしまった。

 効率のいいポケモンのレベルアップの方法とどの程度の強さがあれば勝てるかを」

 

「・・・・・・」

 

「故に表面上の強さしかない。弱者ども相手ならそれでも防衛を続けられただろうが

 わたしには・・・いや、わたしはおろかサカキやアカネにすら勝てない。それどころか

 先ほど力に目覚めたあなたの親友シルバーにもいつか敗れるだろう、このままではな。

 一週間前にあなたが一番やりやすく勝てる確率が高いと言ってやったのはそのためだ」

 

激しく憎んでいるアカネ、ライバル関係でありながら一度も負けていないシルバーにも

劣っていると言われてもゴールドは返す言葉が出ない。いまはっきりと気づかされた

からだ。セキエイ高原に籠っているだけでポケモンたちのレベルは確かに上がっていたが、

旅の間に得られた何かが足りないという感覚があった。目には見えない何かが。

 

「そう、言うなら努力の値だ!トレーナーとポケモンが長い時間をかけて共に戦うことで

 野生のポケモンや育成の業者に任せたものとは比べ物にならない力を得る。バトルの

 経験やもともと生まれ持った能力も大事だがこいつを軽視することはできない!」

 

ナツメの屋敷に招かれたトレーナーたちは全員思い出していた。豪華なメンバーを

集めたにも関わらず、ナツメはポケモンたちに地味なトレーニングを続けさせていた。

体力や根性を底上げしておけばここぞというときにあとひと踏ん張りする助けになると

説明していたが、この大勝負でそれが生きた。プロレスの練習かと思われるような

訓練も、ポケモンたちの基礎能力を伸ばし続け、見た目以上のしっかりとした強さを

形成していた。これが勝ち目は薄いと思われた勝負で逆に圧倒する要因となった。

 

 

「わたしは別にあなたが効率だけを考えているから愛情が足りないとか手にしている

 ポケモンが多すぎて管理が行き届いていないなどと言いたいわけではない。あなたは

 誰もが認める通り類稀なる才能に満ちた若者だ。すべてのポケモンにしっかり気を配り

 必要なものを与え、愛している。普通の人間には不可能なことがあなたにはできる」

 

「・・・・・・」

 

「そこで話は最初に戻る。順調に成長を続けていればわたしなど軽く捻じ伏せていた

 はずなのにチャンピオンという立場がそれを阻んだ。無限の進化の可能性があるのに

 必要がないからという理由でポケモンたちもあなた自身も現状に満足している。

 解決策はひとつしかない。今すぐ王座を返上しろ。それが最善の道だと保障しよう」

 

バトルの前からゴールドはナツメかアカネに敗れるようなことがあれば即座に

チャンピオンをやめてやると誓っていた。それでもナツメは改めて迫った。

負けてから没収されるような形で失うのではなく自ら潔く王座から退くようにと。

 

「望むもの全てを手に入れ自在に使えるように見えて実は手足も思い通りに

 動かせないほど縛られている、多忙で制約の多い重荷など捨ててしまえ。

 まあ・・・あなたが忠告を無視して断るとしても力づくで奪い取るまでだがな」

 

「・・・このバトルは防衛戦じゃないが・・・負けたらチャンピオンじゃなくなると

 約束したのは覚えているさ。アカネだけじゃなくてまさかお前もおれの王座を

 手っ取り早くモノにするために動いていたとはな・・・欲望の塊だな」

 

「わたしがチャンピオンに?冗談はやめてくれ。ジムリーダーの地位すら鬱陶しくなり

 放棄したんだ。それ以上に気が滅入るところに誰がわざわざ足を踏み入れるものか」

 

 

ゴールドの代わりに自らがセキエイリーグのチャンピオンになる気は一切ないようだ。

ちなみにナツメはジムリーダーという貴重な立場を捨てたことについてこう語っていた。

 

『どこへ行ってもポケモンの育て方や付き合い方ではなくわたしの持つ超能力の話

 ばかりだからな・・・飽きるしつまらない、だからやめるだけのことだ』

 

それを聞いた者たちには冗談のように聞こえたが、同時に本心から言っているとも

感じていた。もし自分がナツメだとしても同じ思い、結論に至るだろう。

 

 

「・・・お前らみたいなやつらにはルールや制限が多すぎると思われても仕方がない。

 でも矛盾していないか?自分がやる気はないけどアカネにはチャンピオンになるように

 励ましている・・・お前のやりたいことがよくわからないんだが?」

 

「アカネがチャンピオンになる、それはつまり今日の対抗戦がわたしたちの勝利で

 決着したということだ。そうなれば多くの不要なものを排除し永遠に復活しない

 ようにできるのだから今と環境は大きく異なってくる。矛盾はしていない」

 

すでにフーディンが協会の長老たちを除き去っている。彼らの後継者たちはまだ

権力や影響力の基盤を築く前なので、容易に退場させられるだろう。そして

フーディンが全てを支配し、新たな時代の幕開けとなる・・・という計画だ。

 

「なるほどな。その不要で邪魔なもののなかにこのおれも入っているというわけか」

 

吐き捨てるようにゴールドが言う。しかしナツメはすぐに彼の言葉を否定した。

 

「それも違うな。あなたは必要な存在だ。アカネが成長し続けるためには強力な

 ライバルは欠かせない。その役割を果たすのにあなた以上の者はいない。

 互いの進化はもちろん、この先のポケモン界がいっそうよいものとなるためにも」

 

「・・・・・・・・・」

 

「だから王者であることを捨て以前に得ていた充実した日々を取り戻すようにと

 勧めている。今すぐにでも正しい行動をしてほしいと願うばかりだ。あなたほどの

 人間がこのまま潰されてしまうのは惜しい。どうすべきかはあなた自身も・・・」

 

心が揺さぶられ、不安定に動いているところだった。ゴールドを守るべく横槍が入った。

 

 

「ゴールドさん!惑わされてはいけません!気持ちを強く持ってください!」

 

「ミ・・・ミカン!そうだ、おれは何を考えて・・・まだバトルの途中!」

 

「途中どころかまだ序盤、始まったばかりです!敵はすでに決まったもののように

 話していますが勝負はどうなるかわからないと思っているからそれらしい言葉を

 並べ立てて心を折りギブアップを狙っているのです。諦めるには早すぎます!」

 

ゴールドがいいように唆されるのを黙って見ていられなかったミカンが会話に割り込み、

失われかけていた彼の闘志を蘇らせるために叫んだ。しかもナツメがアカネの名前を出し、

ゴールドとアカネが肩を並べて未来を創るかのようなイメージを抱かせたので、どうにか

邪魔を入れて阻止しなければと頭で思う前に行動に移っていた。

 

「・・・そうだな、ここはスタジアムだ。バトルで決着をつけるべきだ。おれも

 やつらもポケモンバトルの勝敗ですべてを決める、それが筋だった。忘れていたぜ」

 

ミカンの応援は功を奏し、ゴールドはモンスターボールを手に持った。これ以上

ナツメに何を言われようが応じる気はないという意思表示でもあった。

 

「・・・・・・なるほど・・・・・・」

 

ナツメのほうもすでにフーディンをフィールドから戻し、待機させている。ゴールドと

ミカンのやり取りを眺め、何やら思うところがあるようだが口にはしなかった。

 

 

「あなたの名はゴールド、しかもセキエイの賞金王だ。そしてわたしはヤマブキジムで

 ゴールドバッジを管理していた。どちらが本物のゴールドで、真の黄金を手にするかと

 いうバトルだと思わないか?敗者はメッキが剥がれ偽物であると暴かれるのだ」

 

「ゴールド対決・・・くだらないな。お前なんかにそんな思い入れはねーよ!」

 

同時にモンスターボールを投げた。両者四番目のポケモンだが、ここまでずっと

ナツメの思惑通りだったので今回も彼女がゴールドの上を行くと誰もが予想した。

だが、とうとう流れが変わった。ナツメの読みがついに外れた。

 

「・・・バクフーン!まさかこんなところで出してくるとは・・・絶対的なエースが

 存在しないとはいえそいつは最後までとっておくものと思ったが・・・」

 

「ははは、その反応、お前がインチキしていないっていうのは本当だったようだな。

 おれのバクフーン、ワッショーにかかったらそいつは一瞬で丸焼きになるぜ」

 

ゴールドはワカバタウンを旅立つときに研究所からもらった、旅を始める前から

共にいたオタチを除けば最も古くからの仲であるワッショーという名のバクフーンに

連敗脱出を託した。それに対しナツメが繰り出したポケモンは明らかに他のポケモンを

相手にするために選ばれたものであり、大失敗と本人も認める選出だ。

 

「・・・ナ、ナツメどの!これは・・・!私の相手は違うはず・・・」

 

バクフーンの炎が大の弱点であり、エーフィのように敵の油断を突ける隠し球的な

技も持っていないモルフォンだった。仮にナツメの言う目に見えない努力の賜物の

効果で一撃耐えたとしてもすでにボロボロだ。とはいえモルフォンをすぐに交代した

ところで時間のロスは避けられずゴールドとバクフーンに主導権を握られてしまう。

 

「すまない・・・読み間違えた。あのバクフーンはやつのメンバーの中で一番強い。

 実は脆かったバンギラスやムウマと違いしっかりとした強さがある。やつが最後では

 ない以上、これまでのデータや情報にはない新戦力を加えてきたのかもしれない」

 

泥沼の展開を何としても回避するためにゴールドの側が順番を変更して最も頼れる

バクフーンを前倒しで使ってきたのかもしれない。もしくはこれまで一度も公の

バトルに姿を現していないとっておきが控えているのか。いずれにせよここで

焦って動き回ることはできず、モルフォンを引っこめるわけにもいかなかった。

 

「精一杯やってくれとしか言えない。もともと一対一では倒すのが難しいと想定

 していた相手だ。だから戦闘可能な戦力の数の優勢を保ち続け、最後は残った

 者たちで強引に押し切ろうと考えていた。戦術も何もない数の暴力でな。予定が

 変わってしまったためあなたに求められるものも大きく変わってくるが・・・」

 

ここでモルフォンに期待されているのは後につなぐ役割だ。猛毒もしくは痺れを

与えて次のポケモンが少しでもバクフーンを倒しやすくするための準備。それ以上を

期待するのは酷だが、モルフォンはナツメの目をじっと見つめ、静かに言った。

 

 

「・・・でも・・・私があいつを倒せるのなら・・・それならそれでいいでしょう?」

 

「・・・・・・!」

 

いつものような弱気は感じられない。話し方も急に変わった。ナツメにもその理由は

わからなかったが、モルフォンも先の三体に続き、覚醒の瞬間が迫っていた。


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