『バリヤードの実物を目にしたのは初めてだが・・・こんな目つきではないはずだ。
笑顔を絶やさないと書かれているのに絶望と諦めに満ちた顔だ』
『・・・・・・・・・』
『でもそれでいい。そうでなくちゃいけないというルールなんてどこにもない。
この先にバリヤードの群れが住む森があるらしいが行く必要はなくなった。
もしあなたさえよければ・・・わたしといっしょに来てほしい』
人間たちを何人も殺害し、もはや一生縁がないと思われていた人間との生活。
とはいえナツメとバリヤードはすんなりと互いを親友と呼べるほどの絆を
築けたわけではない。それまでには多くの衝突、ほとんどの場合バリヤードが
ナツメに対して苛立ち、怒りをぶちまけて反抗していた。
『違うって言ってるのよ!この間も同じ失敗をしたじゃない!』
『ぐっ・・・すまない。頭ではわかっているんだが・・・』
ナツメは自分の能力をまるで引き出せていない、あの規格外の強さを誇るフーディンと
自分がうまくやっているからいいものの、信頼するに値しないトレーナーだと思った。
『バトルの後に皆で何を食べようか・・・あなたの好物が手に入ったからそれをどう
調理しようかと考えていたらつい集中力が鈍くなってしまって・・・』
『ぷっ!何それ・・・それで負けてちゃ意味ないじゃないの!せっかく私の好きな
食べ物があっても負けた後の食事なんて最悪の雰囲気の食卓になるでしょ!たとえ
そのへんの木の実一個だとしてもさわやかな気持ちで食べるほうが余程幸せよ!』
『ふふふ・・・そうかもしれない。でも最善のものを出す力があるのだから
そうせずにはいられなかった。出し惜しみをしたくない』
とはいえナツメのバトルでの采配以外の点、食べ物の好き嫌いや癖、過ごしやすい
環境をすぐに把握し、できる限り快適に生きられるようにしてくれるところを
バリヤードは高く評価していた。人間でありながら超能力を持つナツメだが、
それに頼らずに共に過ごす時間のなかでバリヤードのことを深く知ったのだ。
『まったくしょうがないわね・・・あなた、トレーナーじゃなくて別の道を選んだ
ほうが成功するんじゃない?戦いを除けば文句なしの人間なんだから』
『・・・そこまで言ってくれるのは嬉しいな。確かに昔はポケモントレーナーよりも
料理人に・・・いや、その話はまた今度にしよう。不得意ではあるがバトルで
勝てるようになる必要がある、そのことをいまは話そう。フーディン』
『うむ、ここからはわたしが話す。近いうちに何をするか、そしてしばらく後の
ことになると思われるがその時が来たらどうするか、わたしたちの計画をな。
あなたの群れに来たような邪悪で下劣な人間たちへの裁きへの道筋を教えよう』
その後、モルフォン、ユンゲラー、スリーパーと仲間が加わっていった。モルフォンは
バリヤードと同じように人間に心を閉ざしていたし、残る二体はいずれも
精神もしくは肉体に重大な欠陥がありナツメに引き取られたポケモンだった。
バリヤードは後輩たちに、ナツメがどうして自分たちの救い主であり最高の
トレーナーであると言えるのか、自分で答えを見つけなさいと言い続けた。
実際にナツメの優しさと愛情に触れ、理解するようにと諭した。そして皆が
彼女と同じようにナツメを愛するようになり、親友と呼べる間柄になったのだ。
「私たちは普通の人間ならすぐに匙を投げるような落ちこぼればかりだった。でも
ナツメは私たちを見捨てずに支え続けてくれた!何度私たちが怒りのあまり正気を
失って傷つけるようなことをしても・・・優しく受け入れて覆ってくれた!
だからナツメは傷だらけ・・・いかに超能力で癒しても残ってしまったものも
たくさんある。あんたたちの主人にそんな傷があるとは到底思えないわ!」
後にミカという名前になったバリヤードがゴールドとルギアを言葉で攻撃する。
「・・・・・・」 「・・・・・・」
「ボールの中から聞いていた。ゴールド、あんたはナツメと違って自分の大切な
ポケモンを諦めたそうじゃない。オタチ・・・だったかしら?自分の判断で
別れを選んで、そのせいでそいつが死んだとなったら今度はぜんぶアカネの
せいにして・・・クズね。恥ずかしいとは思わないの?」
サディスティック・ミカの名の通り、挑発を緩めない。当然怒りを買った。
「ルギア!それ以上話をする必要はない!とどめのハイドロポンプだ!」
これまでは大人しく、暴走するルギアを黙って見ていたゴールドが今はルギアに
攻撃を命令した。オタチのことを口にされると我慢できなかった。
「・・・ああ、もちろんだ!殺してやるぞ、ハイドロポンプ————っ!!」
ひかりのかべはまだ健在だが壁があっても大ダメージを受けるのはこれまでの
二回ですでにわかっている。完璧に守る方法は一つしかなかった。
「・・・・・・!!」
バリヤードの『まもる』行動がハイドロポンプを無効化し、ノーダメージで凌いだ。
『バリヤード、ここで鉄壁ガード!ひとまず生き長らえた———っ!!』
「フン、その場凌ぎにすぎんな。どんな攻撃も守るというのはかなりの集中力を
必要とする・・・連続で成功させるのは難しいだろう。よって次はない!」
ここでバリヤードが時間稼ぎをする理由はない。ルギアは余裕を取り戻しているので
戦いを長引かせたところで消耗は期待できないだろう。それでもバリヤードは
何かを狙って一見無駄と思える行動に出たのだ。
「アカネさん、これは・・・」
「う~ん・・・わからん!でも・・・そろそろ外れてもエエんとちゃうか?
五回に一回は失敗するはずやで、あんな大技・・・」
高威力ゆえに命中が不安定となりやすい技は数多くある。ハイドロポンプも
そのうちの一つだが、果たしてルギアが攻撃を外すだろうか。
「私のミス待ちか?だとしたら甘いぞ、お前たちは!そこそこ経験を積んだ
トレーナーとポケモンであればわかるはずだ、私が失敗などするはずがない!
やはりお前たちは我々に遠く及ばない貧弱な者たちだったか————っ!!」
ルギアはまたもハイドロポンプを放とうとする。これで四連発だ。バリヤードは
完全に見切ったわけではないが、ついに目が慣れてきていた。
(・・・やつの攻撃は完璧・・・だから一切のズレもない!そして威力は今と同じ
ものがくると考えたら・・・一瞬のチャンスを見逃しさえしなければ!)
「今度も守れるかどうか試してみろ————っ!!」
「・・・ここだ————っ!!」
正確であるがゆえに軌道と到達時間が簡単に導き出せる。そのタイミングを
間違えないことだけを考え、バリヤードは左に転がり攻撃を回避した。
『バリヤード!狙いは防御ではなく回避だった!寸前で避けた———っ!!』
「・・・よし!あとはこのまま・・・」
辛うじてノーダメージで済んだが、実際に試してみてこれは一度きりだとわかった。
そしてそれで十分だった。与えられた役割を果たせることが確定したからだ。
バリヤードは転がったまま技を発動する。これまでの三つの技は全て防御のための
ものだったが、なんと四つ目の技も自らの身を守るバリヤードの得意技だった。
「・・・あ、あれを見ろ!バリヤードの姿が・・・」
「怪獣の人形になっちまった!身代わりか!」
自らの体力を削り身代わり人形を生み出した。これで攻撃が命中しても人形が
破壊されるだけとなったが、今回もやはり目的が見えてこない。バリヤードの
体力を考えると身代わり人形を作れるのはこれっきりだろう。たった一回無傷で
凌いだところでそれからどうするのか、いまだ誰もわからなかった。
「フフ・・・すぐに決まるはずの勝負で無駄に足掻きおって・・・嫌がらせをして
私を苛立たせようというのか?だとしたら失敗だ。くだらない小細工を弄する
哀れな姿を見て私にはますます余裕が出てきた。実力の差は歴然だったとな」
「・・・そんなことのためにここまで粘ったわけじゃない。最初からちゃんとした
戦術が私たちにはあった。そしてすでに完遂した!それは・・・」
「お前たちの狙いなどどうでもいい!その粗悪な人形をまずは消し飛ばしてやろう!」
説明の前にルギアがハイドロポンプを人形に向けて放ち、すぐに壊れて消えてしまった。
だが、ここでルギアはナツメとバリヤードの作戦に気がついた。これでハイドロポンプを
五回連続で使った。こんな短時間で五回も発動させたとなると・・・。
「・・・・・・!!き、きさま・・・!」
「うふふ・・・これでこのバトルの間はもうご自慢のハイドロポンプは使えない。
どうやらそこのところの制限は普通のポケモンと変わらなかったみたいね」
もしルギアが無限に使いたい技を使えたならお手上げだった。しかしこの反応から
この海の神と呼ばれる伝説のポケモンであっても何でもやりたい放題というわけには
いかないと知ることができた。これは大きな収穫だった。
「クッ・・・だが私を舐めてもらっては困る。お前たち凡庸なポケモンたちは
せいぜい四つしか一度のバトルで使える技を持たない。一部例外がいるそうだが
お前はそこまでの逸材には見えん。つまりこれ以上何もできないということだ。
もちろん私はハイドロポンプを失ったところでまだまだ攻撃手段がある!」
レッドのピカチュウのような優秀なポケモンは一試合で五つや六つの技を使いこなせる。
とはいえそんなケースは稀で、たいていのポケモンは同時に四つまでしか覚えられない。
すでに全ての技を見せたバリヤードにはもう打つ手はないかと思われたが、素質に
秀でているわけではない彼女が五つ目の技を使える方法が存在していた。
「・・・確かに生まれ持っての能力や才能は変えられない。どれだけ鍛えたところで
限界がある。だからナツメは私たちに持っている力を最大限効果的に使うように
教えてくれた!バリアー、ひかりのかべ、まもる、みがわり・・・今の私が
使えるのはこれがぜんぶ。でも、バトルの途中でも技の入れ替えができるように
訓練を続けた結果・・・こんなことができるようになった————っ!!」
同じポケモンでもその試合ごとに使う技が全く違うことは多い。対戦相手のメンバーを
確認し、メインのアタッカーとして活躍させたいのなら攻撃技を、逆に他のポケモンを
エースにするときはエースを援護するための補助技を多く覚えさせてバトルに臨む。
そのバトルが終わると技マシンなどを使い、また一から技の構成を考えるのだ。
「みがわりはもういらない・・・代わりにあの技を————っ!」
不要となったみがわりを自ら忘れ、脳内にストックしていた別の技と交換した。
並のポケモンには真似できない、長い期間に及ぶ修行の成果だった。
「・・・!!こ、こんな芸当が!ここで私に一矢報いる攻撃技を、というわけか!」
「ふふ・・・やっぱりあんたは最後までズレていた。私がいくら攻撃しても
大したダメージは与えられない・・・だから攻撃は次のポケモンに任せた!」
五つ目の技すら攻撃ではない。だとすれば一体何だというのか。
「壁を用意して厄介な技を封じて・・・お膳立てはできた!バトンタッチ!」
自らの能力を引き継いだまま次のポケモンに後を託せる技、バトンタッチ。今回の
特殊なルールでは、まだ戦う余力はあるが一度戻りたいポケモンはモンスターボールに
戻らずに外で待機する。よってただ交代するだけではバリアーでの大幅な防御力アップは
バリヤードに残ったままだ。バトンタッチで引っ込むことで仕事は完璧に果たせた。
「・・・くっ・・・さすがの私も今回は疲れた・・・・・・」
「ああ、よくやってくれた。しばらくそこで休んでいろ」
本来ならボールに戻してもいいほどバリヤードの体力は限界に近かった。それでも
まだ出番に備えさせておくのはこれが苦しい戦いであることの表れだった。
「・・・これじゃあもし勝てたとしても・・・この先は・・・」 「うぱ・・・」
ルギアを倒してもゴールドにはもう一体残っている。さすがにルギアほどの大物は
もういないだろうが、その一体が残っていたせいで負けるという可能性がある。
また、ゴールドとのバトルに勝ったとしてもサカキが待っている。ここまで
傷ついていては決勝は消化試合になるだろう。敗北の未来が近づいていた。
「いや、先のことなんかどうでもエエ。まずはルギアに勝つ、そこに全力や。
余計な計算なんかしとる場合やないわ、今は。ゴールドに勝ちさえすりゃあ
次はどうにでもなる。うちの温存してた子たち、それにあんたの相棒もおる。
それに決勝戦は・・・あいつも参戦する。だからぐだぐだ悩まんでもエエんや」
「・・・・・・そうですね」 「うぱ!」
この対抗戦はいくつかのルールが定められているが、何でもありが許されていた。
ナツメのポケモンたちが試合後全員瀕死でもアカネのポケモン数体とウパー、
それに上空にいるフーディンが出場すればいいだけで、心配はないとアカネは言った。
「だからここや・・・ナツメの最後のポケモン、こいつにかかっとる!」
「ええ、バトルの勝敗も私たちの未来も・・・全ては!」 「うぱ~~~っ!」
実力者バリヤードが自らを犠牲にして運命を託すナツメの六体目。これまでバトルで
使われていない、それどころか存在すら知られていない隠し玉だった。今日までの
一週間ナツメの別荘にいたトレーナーたちでもこの最後のポケモンについて知るのは
アカネとワイルド・ワンズ、それにレッドとエリカだけだった。
「ナツメのポケモン・・・あの五体の他にまだいたのか!」
「満を持してなのかそれとも追い詰められてなのか・・・このポケモン次第だ!」
直前に自分が出ると言ったフーディンを制し、ハナダの洞窟でミュウツーをブルーに
譲ったときにはアカネに対し六体目は『他でどうにかする』と言っている。
そのポケモンがとうとう全世界に披露される瞬間となった。
「・・・いけ、ゴースト!」
ふわふわと浮遊するそのポケモンはゴースト。エスパータイプではない上に
最終進化系ゲンガーですらない。観衆たちは唖然となり、言葉が出てこなかった。
「・・・・・・・・・・・・」
鳴き声を発することもないが、一応戦う意欲はあるようだ。ナツメのもとを離れ
フィールドの中心に、ルギアと正面から向き合うところまで近づいていった。
『ゴ・・・ゴ・・・ゴースト!?いや・・・間違いない!ゴーストだ・・・!』
「・・・ど、どういう考えだ・・・さっぱりわからないぞ!」
このゴーストのことを知っているのはナツメの別荘に招かれたごく少数の者たちだけだ。
しかし彼らであってもまさか屋敷をふわふわと漂っていただけの戦闘力などまるでないと
思われていたポケモンがここで登場するとは全く想像できなかった。アカネたちだけが
事前に話を聞かされていた。もし六体目を使わざるをえないほど厳しい戦況になったら
こいつを使うと。その能力についても実際に見て確認している。
「ナツメ・・・!とうとうクライマックスやな!一気に決めたれ———っ!」
「ああ、そのつもりだ!こいつの出番が来る前に終えることができればよかったが
もはや勝ち方を選ぶ余裕はない!ルギアを倒すためにはこいつに賭けるだけだ!」
苦し紛れや数合わせではないというのはゴールドたちにもわかる。だからこそ
謎が深まった。この実戦経験に乏しいゴーストがバリヤード以上に期待できるとは
考え難い。さすがのルギアも一度動きを止め、ゴールドの方針が定まるのを待った。
「・・・ゴーストだと・・・お前はエスパーのスペシャリストじゃなかったのか?
せめてゲンガーに進化させてからバトルに使おうとも考えないのか?」
返答はないかもしれないがゴールドは尋ねてみる。試合を有利に進めるためなどという
狙いはなく、心から疑問に感じその答えを聞いてみたいと思ったからだ。すると
ナツメは彼の問いに対し、攪乱や脅しの言葉もなしにあっさりと真実を語り始めた。
「このゴーストはずっと昔からわたしと共にいるがこうしてバトルで使うのは
初めてだ。どうしても六体目が見つからなかった・・・。ゲンガーへの進化は
もちろん考えた。アカネたちと進化のための手順を踏み、これで完了と思った。
ところが進化できなかった。何度試みてもゴーストのままだった!」
「・・・!ということは・・・まさか!」
「察しの通り、こいつ自身が心底拒んでいるのかもしくは欠陥があるからなのか、
絶対に進化できないポケモンだった。レッドのピカチュウ、それにわたしの仲間の
相棒であるウパーも・・・先ほどの話ではあなたとかつて旅をしたというオタチも
そうだったのだろう?進化できない代わりにとてつもないパワーがあるということだ!」
病気や障害、ショックな出来事のトラウマのために無意識に成長を拒むポケモンも
いる。複雑で特殊な条件を満たさなければ進化できない種族のため人間が勝手に
問題のあるポケモンだと決めつけることもある。珍しいケースでは、アカネのピィは
このままでいたほうが皆からちやほやされるからという理由で進化を拒んでいる。
それらのポケモンのうちほとんどは特別な力などない。だが、極めて稀に存在した。
進化しないというデメリットを補って余りある突然変異体が。
「もし順調に六番目が見つかっていれば、またはフーディンの力に頼っていたならば
決して気がつくことはできなかった。まさかこんな身近にあのピカチュウや
あなたのオタチのような逸材がいたというのだから世の中わからないものだ・・・」
「黙れ!お前みたいな極悪人がおれの最高の親友キヨシのことをこれ以上
口にするな!ルギア、早く勝負を決めよう!クズをさっさと黙らせろ!」
もういないオタチのキヨシローについて触れられるとゴールドはもうダメだった。
あのまま無事でいればいまも自分の隣にいるはずの大親友。後がなくなって
出てきたゴーストなんかといっしょにされ、怒りは一瞬で最高潮に達した。
「全てお前の言う通りにしよう、ゴールドよ!まずは小手調べのかぜおこしから
放つつもりでいたが・・・サイコキネシスで決めてやるとするか———っ!」
ハイドロポンプがなくなってもサイコキネシスまで使いこなせる。バリヤードが
ひかりのかべを残してくれているとはいえ、貧弱なうえにエスパーを苦手とする
ゴーストが攻撃に耐えられるのかどうか、常識的に考えたら絶望的な状況だった。
「ミカの作り出す壁は世界一だ!まだまだ消えやしない!ゴースト、やつの攻撃を
恐れずに・・・最初から全力で行け!」
「・・・・・・・・・」
ゴーストは一直線にルギアとの距離を詰めていく。被弾覚悟の突撃だ。
「愚か者め、苦しむ間もなく倒してやるわ!くらえ—————!!」
最初から全力のサイコキネシス。ゴーストにまともに直撃した。このバトルで
ナツメのスリーパーやモルフォンが繰り出したサイコキネシスと比べても
倍以上の威力を誇る強烈な念の塊がゴーストを包み込み、はじけた。
『ルギアの第二の奥義が決まった————っ!!戦闘不能かどうかというよりは
ゴーストの命があるかどうか、そちらを気にするべき一撃だ———っ!!』
「フフフ・・・さて、念力が収まっていく・・・死体を確認してやるか!」
念力がゴーストを完全に覆ってしまい、どうなったかがわかるのはしばらくして
からだった。ルギアはすでにこれで決着だと思っていた。ところが、今回の
バトルはポケモンが死んでしまえばトレーナーも即、命を失う決まりだ。なのに
遠くのナツメは元気に立っている。しかも大きなダメージを受けた様子すらなかった。
「・・・!!な、なに・・・!まさか失敗か!?この私の技が・・・」
「くくく、残念だったな。だが忠告はしたはずだ。このゴーストは特別だと。
わたしたちがこの数日でこいつについてわかったことは、防御面において
弱点を持たないという驚くべき真実だった。エスパーや悪という天敵の技を
涼しい顔で受けきってしまう・・・しかもいまはひかりのかべもある!」
「弱点がない・・・だと?となると・・・」
「他に類を見ない、固有のタイプが一切ないポケモンだ!だからどんな攻撃も怖くない。
そしてどうやら三、四十年は生きているようだ。ポケモンバトルをしていなくても
経験は豊富・・・生き残るために自然と防御が磨かれていったのだろう」
どんなポケモンも必ずどこかに分類される、タイプそのものがないというゴーストに
会場の誰もが驚いた。常識を覆す異色の存在だが、疑うことはできなかった。
ルギアの攻撃を容易く受け止めてしまったことで嘘ではないと証明されたからだ。
「・・・タイプがない、とはいえ格闘技やノーマル攻撃は無効化できる。
どうだチャンピオン。伝説の神を従えていても倒すのは難しいと思わないか」
「倒すのに時間はかかるだろうな。でも勝つことは簡単だ。苦手だけならいいが
得意技までなくなっているじゃないか。防御だけじゃバトルには勝てないぞ!」
互いに僅かずつしかダメージを与えられない展開になればさすがに体力ではルギアに
分がある。ルギアの求める圧倒的な力の差を見せつけての勝利は諦めることになるが、
地道に攻防を続けていればそのうちひかりのかべも消え、ゴーストが先に倒れる。
「ああ、あなたの言う通りだ。こいつも完璧なポケモンではない。守りは得意だが
攻撃はまるでだめだった。これまでの生涯で積極的に攻撃をしたことがないらしい。
しかも物理攻撃も特殊技も試してみたが攻撃力そのものが悲惨だ。短い期間の
訓練ではどうすることもできないまま今日を迎えてしまった。これだけ経験値を
積み重ねているポケモンで、攻撃以外は即実戦で通用するレベルだというのに」
「・・・・・・・・・」
それでもゴーストはルギアに向かっていく。そして攻撃の体勢に入った。
「だから攻撃力に依存せず、高いレベルを無駄なく活かせるこの技に頼ることに決めた!」
「・・・ぐおっ・・・!この幻影は————っ!?」
互いの能力に影響されずに自身のレベルの高さに応じてダメージを与えられる、
まさにこのゴーストのための技、恐ろしい幻を見せるナイトヘッドだった。