ポケットモンスターS   作:O江原K

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第133話 血に染まる天使

 

「~~~~~~・・・・・・」

 

ルギアの唯一無二にして至高の必殺技、エアロブラストがゴーストに直撃し、

空中をくるくると力なく枯葉のように舞った後、ゴーストは地に落ちた。

 

「がはぁ———————っ・・・・・・」

 

それと同時にナツメも、大量の吐血と共に仰向けになって倒れた。もしバトルが

始まる前、彼女の敗北を誰もが願う状況であれば場内は大歓声に包まれただろう。

だが今、超満員のセキエイスタジアムは沈黙していた。彼女の過去、そして抱える

想いを知り、無意識のうちにその背を押している者たちが大勢いたからだ。

 

 

「・・・あの人は・・・僕らと同じだ。人にはない特別な能力を持ち、それを利用し

 力づくで思いのままの世界を創ろうとした。だけどほんとうは・・・凡庸な普通の

 人間のやり方で理想を現実にしたかったんだ・・・」

 

「・・・・・・化物ではなく・・・人間の方法で!」

 

ポケモンの心がわかり、自在に会話できる若者と、彼に従順なふりをしながら実は

利用することだけを考えていた男。共に人間社会で生きていくには規格外の力を

持つがゆえに、最終的な目標は異なるが夢を叶えるためには強硬な手段しかないと

決意していた点では同じだった。だが、そんなことをしなくても希望はあると

ナツメは教えようとしたのではないか。同じように人々から忌み嫌われた彼女は。

 

 

「なぜだ・・・ゴールドが勝ったというのになぜオレはこんな気持ちになっている」

 

ゴールドが四連続でナツメに翻弄されているのを病院のテレビで目にし、こうしては

いられないと彼のライバルであるシルバーは負傷しているにもかかわらず再び

スタジアムに戻ってきていた。すると二体の神々が登場し、別の意味でとんでもない

展開になったわけだが、気がつけばナツメの戦いを応援していた。輝く黄金を

目指してもその高みに決して届かない、やりきれない思いは彼も持っていたからだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

シルバーが救急車に乗せられた後もゴールドの陣営に残り応援を続けたクリス、

彼女もナツメの悩みは自分の苦しみと同じものだったと気がついた。ポケモンへの

愛情と絆を自信としているのに皆はそこに関心がなく、貴重なポケモンを捕獲した

目に見える実績しか見てくれないと昨晩シルバーに愚痴をこぼしたばかりで、

誰もわかってくれない、というナツメの叫びはクリスのものでもあった。

 

自分の弱さに、大勢の敵たちに、孤独や虚しさに。そんな高く大きな壁や障害と

戦い続け、無敗の王者、果てには神すらも相手にどうにか勝機を探し求めた

ナツメが倒れた。勝負はこれで決まってしまったと誰もが思った。

 

 

「・・・がはっ・・・げはっ」

 

『ナツメはもう起き上がれない—————っ!トレーナーが戦闘続行不可能となれば

 バトルは決着だ!ゴールドの勝利が決定した———————っ!』

 

これ以上の攻撃は必要ない、そう判断しゴールドがフィールドから出ようとした。

ところがルギアとセレビィはゴールドとは反対の方向、つまり倒れたまま動かない

ナツメとゴーストのもとへゆっくりと距離を詰めていた。

 

「・・・ルギア、それにセレビィ。どうしたんだ、すでにバトルは・・・」

 

するとルギアはにやりと笑い、ゴールドの言葉に反し歩みを続けた。

 

「何を言っている?まだ続いているではないか。まだ正式な試合終了の合図はない。

 もともとそういう決まりだっただろう。ポケモン全てがボールに戻るか棄権の

 意思が示されるか、もしくはトレーナーの死か・・・いずれの条件も現状では

 満たしていない。だから我々にはやるべきことがまだ残っている!」

 

「そこのナツメの命を奪う・・・それによる完全な勝利が—————っ!」

 

完璧にとどめをさすまで止まらないつもりのようだ。場内が騒然とする。

 

 

「いや、もういい二人とも!あいつはもう何もできない!これ以上は・・・」

 

「違うぞゴールド。抵抗できないふりをして反撃の機会を探っているかもしれぬ。

 それにやつ自身に動く力がもうなかったとしても・・・・・・」

 

まだルギアが語っている最中だった。そのわき腹を狙って何者かが鋭い蹴りを

放ったが、しっかりと見切られておりダメージを与えることはできなかった。

 

「・・・ぐぐぐ・・・」

 

「スリーパー!いつの間に・・・いまのはメガトンキックか!」

 

主人の生命の危機にスリーパーが行動を起こし奇襲攻撃を仕掛けた。ルギアたちの

足が止まったのでナツメを守るという最低限の成果は上げたが、それだけだった。

 

「このようなことがあるのだ!だから歯向かう敵は全力で打ち砕かねばならない!」

 

スリーパーの左足を掴むと、ルギアは物凄い力で上から叩きつけた。

 

「ガアァ———————!!ぐああああ・・・・・・」

 

まさに粉砕され、痛みに悶え転げまわるスリーパー。ポケモンが命を落としたときも

トレーナーの死に繋がるので、ターゲットはゴーストからスリーパーに変更された。

今度は足ではなく頭部を粉々に砕いて息の根を止めようとした。

 

「させるか———————っ!れいとうパンチ———————っ!!」

 

「・・・!性懲りもなく次々と!」

 

続けてフーディンが果敢に特攻する。しかしこの攻撃すらも通用しない。

 

「私の弱点、しかも運がよければ凍るかもと?確かにそこそこの威力はあった。

 だがその程度でこの私を倒せると思ったか!弱いところを突くというのは

 どんなものか、私が直々に教えてやろう!ハァ———————!!」

 

フーディンの右腕には幾度も行われた痛々しい手術の痕跡がある。古傷をあえて

庇わずに前面に出してヘラクロスを倒したが、とうとう餌食になった。

 

「うぐおっ・・・!!」

 

次に大きな傷を負った場合は使い物にならなくなると警告されていたが、ルギアの

攻撃を受けてフーディンは悟った。もうこの右腕で戦うことはできないと。

 

 

「こ、幸之助・・・うう・・・」

 

自分だけ寝ているわけにはいかないとナツメが起き上がろうとする。

 

「ナツメ!まだ動かないほうが・・・ここは私が!」

 

モルフォンが飛んでいく。どの技でどう危機を脱するか、そんな具体的なプランは

何一つなかったが、先に倒れた仲間たち、そしてナツメを思うと勝手に体が動き、

敵に向かって飛行していた。だが熱意だけでどうにかなる相手ではなかった。

 

「う・・・!」

 

あっさりと捕まえられ、身動きを封じられる。ルギアはすでに狙いを定めていた。

どうにか両足で立ったばかりのナツメ、最初からその一点を見ていた。

 

「ようやく立ち上がったところ気の毒だがお前はもう這いつくばる以外できん!

 私ではない、お前たちの処刑法で致命的な一撃を与えてやる!」

 

「な、何を・・・うわ———————っ!」

 

なんとルギアはモルフォンをナツメに向けて投げ、激突させた。嫌な音がした。

 

「あぐっ!」 「フグッ」

 

モルフォンの羽はぼろぼろになり、ナツメの肋骨や肩の骨が何本も折れた。この

攻撃方法は彼女がイツキやグリーン、キクコを倒したものと全く同じだ。残虐さに

おいてもナツメの上をいくことをルギアたちは証明してみせた。

 

 

 

「・・・・・・アカネさん・・・こうなってしまってはもはや・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

もはや勝ち目などない。続けたら続けるだけ傷口を広げるの戦いだ。アカネと

ワイルド・ワンズのコンビもそれはわかっている。しかし自らの死を望むナツメが

助かるために棄権するとは考え難い。ワイルド・ワンズ、つまり元ロケット団の女と

ウパーは視線を合わせて頷くと、強い決意のもと深呼吸し、アカネの前に出た。

 

「あんたら・・・そっちはフィールドやで・・・」

 

「アカネさん、これでお別れかもしれません。仮に助かったとしても私たちは

 破門になるでしょう。後のことは・・・よろしくお願いします!」

 

彼女たちが何を言いたいのか、何をしようとしているのかアカネにはわからない。

次の瞬間、実際に二人が行動に移して初めて真意が理解できたのだった。

 

 

「う、嘘だ!ナツメさんが負けるだなんて・・・ありえない———————っ!!」

 

「うぱ・・・うぱ———————っ!!」

 

突然発狂し、大声で叫ぶとまだバトル中のフィールドに揃って駆け出した。

 

『ああ—————っと!これはいけない!乱入だ———————っ!』

 

「許されるはずがない!くらえ———————っ!!」 「うぱ—————っ!」

 

観客たちから見れば、ナツメの敗戦を受け入れることができずに頭が壊れ、

その事実をどうにかして打ち壊そうと愚挙に出たと映るだろう。しかし実は

彼女たちはとても冷静だった。このまま黙って見ていればナツメの死以外に

終わらせる方法がないように思える戦いを打ち切らせる手段だったからだ。

しっかり考えた末の突撃であり、狂ってしまった者を演じることすらできた。

だが、その彼女たちであってもこの直後に起きる事柄は予測できていなかった。

 

 

「一気になみのり攻撃でぜんぶ流しちゃえ・・・はっ!!」 「ぱ!」

 

一秒の誤差もなく、互いが全く同じ瞬間にそれを感じ取った。女も、ウパーも

相手を守るための動きをした。二人とも、自分ではなく親友の命を救うために。

 

「~~~~~~~~っ!!」 「う・・・うぱぁ・・・・・・」

 

共に無事だった。だが周りをよく見ると、二人を囲むようにしてフィールドが

ひどく損傷していた。セレビィのげんしのちからによる攻撃であり、少しでも

互いの位置がずれていればどちらか、もしくは両方ただでは済まなかった。

 

「あ・・・あああ~~~~っ」

 

命を捨てる覚悟で乱入したが、それは試合を台無しにした後で神々の怒りを買い、

邪魔しやがって、どうしてくれるんだと新たにバトルになる展開を考えていた。

まさか予告もなしに殺意に満たされた攻撃を顔色一つ変えず放ってくるとは。

 

 

「・・・ふむ、そうですか・・・。二人が二人とも相手の安全を優先しなければ

 そのような体勢になることはなく、命を落としていたでしょうに・・・」

 

友情や愛情が本物で、真の絆がそこにはあった。そのため死なずに済み、

しかも当初の目的通り事が運ぶので二人の賭けは大成功だった。

 

「い、いまのは重大なルール違反だ!自分たちの仲間が負けそうだからと

 資格もないのに立入禁止区域に入った!つまりこの勝負は・・・」

 

「わかっている!ナツメの反則負けだ———————っ!」

 

今回の特殊な一連のバトルでは審判団の仕事も少ないが、反則行為をジャッジし

悪質な場合は試合を終わりにする権限は与えられていた。ヤナギ、シジマ、

さらにマチスの三人が全員これはアウトだと認めた。試合終了のコールを場内に

響かせるためのボタンに手を伸ばしたところだった。

 

「な・・・な・・・」 「何ィ———————ッ!!」

 

なんと、彼らの眼前にルギアがいるではないか。観客への説明用のマイクや今まさに

押そうとしていたボタンなどが置かれていた机を一瞬のうちに跡形もなくした。

 

「わ、我らが畏れ敬う海の神ルギアよ!なぜこのようなことを!?」

 

「決まっているだろう、これから行う処刑の妨げとなる者を私は排除する!

 お前たちが身を守るために配置していたポケモンたちはすでに私の奥義

 エアロブラストによって戦闘不能状態にある!」

 

ニョロボンが、エレブーが、デリバードが倒れていた。三人の理解が追い付く前に

ルギアは手加減しているとはいえ人間相手に技を放った。ふきとばしを使ったのだ。

 

「ぐあっ!!」 「ぐふっ」 「ガッ!!」

 

数メートルは吹き飛ばされた彼らはどう見ても審判の役割をこれ以上果たせる

状態ではなかった。すぐに病院に搬送すべき負傷だった。審判団に攻撃を

加えるという暴挙は護衛用のポケモンがいたことからある程度警戒されていた。

だが、それはいま上空にいる暴虐のフーディンを想定してのことだった。まさか

ゴールド陣営がこのような行為に及ぶとは誰一人予想できなかった。

 

 

「・・・どうしてこんな真似を・・・・・・」

 

倒れたままのナツメが小さな声でルギアに問う。するとすぐに答えてきた。

 

「お前の手先が反則行為を犯したからだ。これではバトルが終わってしまうだろう。

 だから私も審判団を襲撃するという反則をしてみせた。これでイーブン、つまり

 どちらも失格とはならず戦いは続行だ!お前を殺しゴールドの王権を確たるものと

 するためには妥協は許されない!さあ、この世に別れを告げるのだ・・・」

 

 

「待てや!!」

 

 

ナツメを守る全ての要素がなくなったのであとはじっくりと裁きを下すだけだと

ルギアとセレビィは急いでいなかった。そのため次なる横槍を許すことになった。

その主はもちろんアカネで、彼女もナツメのポケモンたちやワイルド・ワンズ、

審判団のように自分が使える力を用いてナツメの死を阻止するものかと思われたが、

そのやり方はこれまでの者たちとは異なっていた。

 

「なあ頼む、お願いや!ナツメの命を取る・・・それだけはやめてくれ!」

 

「・・・あなたが何を言おうが私たちの考えは変わりません。むしろこのナツメの

 命によってあなたは容赦されるでしょう。それでも救えと?」

 

「ええい、後のことは後で考える!何でもしたる、だから・・・・・・」

 

涙を流して哀願するアカネに、どうしようかと二体の神は顔を見合わせる。

するとここでゴールドが前に出てきた。最初は神々の暴走を制そうとしていた

はずだったが、憎きアカネが弱っているからか、それとも神々の影響を受けて

王者である自分は何をしてもいいと思い始めたのか。弾んだ声でこう言った。

 

 

「そうだな、どうしてもって言うならおれはいいぜ。その条件として・・・

 アカネ、今すぐここで服を全部脱げ。そして土下座してお前のせいで死んだ

 キヨシに、そしておれと今回迷惑をかけた全ての人間に誠意をこめて謝れ。

 全世界が見ているなかで最大限に恥を晒せば許してやってもいいだろう」

 

アカネのプライドを完全にへし折りにかかった、傲慢な要求だった。

 

「ちょっとゴールド!そんなの酷すぎるでしょ!何様のつもりよ!」

 

これに真っ先に抗議したのはクリスだった。いくらアカネを恨んでいるとしても

あまりにも悪辣すぎると怒りに満たされたからだ。だが、当のアカネはというと、

 

「・・・な・・・なんや、そんなんでエエんか。ありがたいこっちゃ。うちが

 ほんのちょっぴり恥をかきゃあナツメが助かる!悩むまでもないわ・・・」

 

躊躇うことなくすぐに虎柄の上着を脱ぎ捨て、そしてシャツを掴むとその豊満な

胸元が見えた。ゴールドの気が変わらないうちに早くしないといけない、まずは

急いで上半身から裸にならなければ、アカネの頭にはそれしかなかった。ナツメを

生かすためにはこれ以外ないので誰も彼女を止められなかったが、シャツを完全に

脱いでしまう前にこの行為を一喝する声がスタジアムに響いた。

 

 

 

「やめないか———————っ!アカネ———————っ!!」

 

「ナツメ・・・・・・あんた・・・!」

 

そんな大声を出すほどの力がどこに残っているのか、ナツメが叫んでいた。

折れた骨、痛めた内臓、それらに響くこともお構いなしに彼女は続ける。

 

「誰がそんなことを頼んだ———————っ!あなたといい先ほどの二人といい、

 わたしが洗脳しているというのに使えない役立たずどもめ!余計な真似のせいで

 敗北となったらどう責任を取ってくれるんだ、ああ!?」

 

「・・・いやいやいや、わかるやろ!もううちらに勝ちの目は・・・」

 

「ふざけるな・・・わたしはまだ戦える、この通りな!」

 

またしてもナツメは起き上がった。しかしどう見ても限界なのは明らかだ。

これ以上続けたならどのような結末が待っているか、誰でもわかる。ナツメの

迫力に黙らされた仲間たちに代わり、敵であるこの男が賢明な決断を呼びかけた。

 

 

「ナツメ!そこのアカネたちが言うように大勢は決した!お前の思いは我々にも

 じゅうぶん伝わった!ここでギブアップするのだ———————っ!」

 

「サ・・・サカキ!」

 

隣にいたキョウが驚くのも無理はなかった。これまでずっと火花を散らし合い、

絶対に生かしてはおけない敵と公言していた女に向かってサカキが大声で

命を捨てるなと言ったからだ。かつてナツメがトキワの森で出会った少年が

サカキだと気がついた者は古くからの友キョウを含め、誰もいなかった。

 

「ふふふ・・・だいぶ・・・丸くなったじゃないか。わたしが死ななければ

 この騒動は収まらないと・・・あなたもわかっているだろうに・・・サカキ」

 

「今からでも遅くはないとわたしを含め全世界の大勢の人間に教えたのは

 お前ではないか!無意味に命を散らすことに何の意味がある!?」

 

ナツメは何も答えなかった。協会への反乱に巻き込んでしまった者たちへの

罪滅ぼし、またはどうせ首を吊って自殺する予定だったのだからここで死のうが

同じこと、理由をつけるならいくらでもあった。だが、だんだんと会話すら

億劫になっていた。気を抜いたらいつ気を失ってもおかしくない状況だった。

 

 

 

 

「・・・ああ・・・ああああ・・・・・・」

 

神が登場してからずっと怯え震えていたエーフィ。すでに四体の仲間が倒され、

隣にいるバリヤードも傷だらけだ。何よりナツメが危ない。エーフィを襲う

絶望や恐怖はこれまでの生涯で比べる対象がないほど深く、大きかった。

 

「情けないわね!いつもの調子のよさはどうしたの!覚悟が足りなさすぎる!」

 

よく口論になる年上のバリヤードに叱られても憎まれ口の一つも返せない。

順番的に次は自分だ。そう思ったとき、彼女は全力でダッシュしていた。

 

「うわあああ———————っ!」

 

とはいえ向かうのは敵のいる側ではなく、スタジアムの出口目がけてだった。

 

「こら!待ちなさい!まだ終わっていないのに逃げるなんて最低よ!」

 

「あああ————っ!!やっぱり無理だったんだ!ルギアやセレビィと戦って

 勝つだなんて!もうやめよう、死にたくないよ———————っ!!

 私はまだ若いんだからこんなところで・・・うげっ!!」

 

もう少しで外に出られる、涙を流しながら走る彼女だったが、突然現れた

何かに正面から激突して転倒した。鼻から血がぴゅーっと噴き出した。

 

「え・・・何で・・・・・・あああ・・・!」

 

そこにはルギアが立ち、エーフィをとても冷めた目で見下ろしていた。

 

「私たちに勝てないという判断は賢明だが・・・この戦いに参加した以上

 裁きを免れることは決して不可能!しかも仲間たちを見捨て己だけ

 助かろうとするどうしようもない愚かで卑劣極まりない精神。断じて

 許すわけにはいかない!さあ、罪の報いを受けるがよい———————っ!!」

 

「あ・・・・・・あああ———————っ!」

 

「くらえ、エアロブラスト———————ッ!!」

 

 

エーフィは目を閉じた。この超至近距離でルギアの必殺技を受けるのだ。

どんな衝撃と痛みが襲ってくるのか・・・激しい破裂音も聞こえた。ところが

いつまで待ってもそれはやってこない。おそるおそる目を開けてみると・・・。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「ミ・・・ミカさん・・・!?」

 

バリヤードのミカが寸前のところで割って入り、エーフィの身代わりとなっていた。

事あるごとに喧嘩となり、しかもその原因はエーフィの態度や口の悪さにあったと

いうのに、この危機にバリヤードは一人逃亡したエーフィを守ったのだ。

 

「どうして・・・どうして・・・!!」

 

いつもきつい目つきのバリヤード。だがいまは優しい、愛に満ちた顔だった。

 

「ふ・・・ふふっ・・・ルギアがあなたを狙っているとわかったとき・・・

 勝手に体が動いていた。あなたを傷つけられるわけにはいかないもの」

 

「そんな・・・いつも私を怒ってばかりだったのに・・・・・・」

 

「ふふふ・・・バカな子ほど可愛いもの。だけどつい私のほうも厳しい接し方に

 なっちゃったことを謝らなきゃいけない。あなたはこれから成長する若さと

 才能に溢れている・・・だから指導につい力が入りすぎて・・・」

 

この現状、そしてバリヤードの言葉。エーフィの頭のなかはぐちゃぐちゃだった。

 

「・・・私はかつて人間をこの手で殺したせいで群れを出ていくことになった。

 そのとき家族も失ったし将来結婚して子どもを産む道も閉ざされた。この境遇、

 私たちのよく知っているナツメと・・・かなり似ていると思わない?」

 

「・・・あ・・・」

 

「そのナツメはアカネのことを親友であり恋人、娘のようで妹のようでもあると

 口にした・・・それはナツメがこれまで、これからも決して手に入らないはずの

 ものだった。わ・・・私もあなたを密かに・・・永遠に得られないと思われた

 大切な妹・・・時には娘のように思い・・・・・・愛していたわ。なのにあなたを

 不快にさせてばかりで・・・ほんとうにごめんなさい」

 

バリヤードの体から力が抜けていく。そして意識を失う前に涙ながらに言った。

 

「私もナツメも・・・あなたを愛している。だから逃げたければ逃げてもいい。

 絶対に死なないで・・・何をしてでもこの戦いを生き残ってほしい。たとえ

 どんなに不器用で格好悪いことをしても・・・勇ましく死ぬよりはずっといい。

 後は・・・・・・・・・あなたに任せたわ・・・・・・うっ」

 

 

「あああ・・・あああああ~~~~~~っ!」

 

倒れて動かないナツメと仲間たち、いまそうなったバリヤード。一人残された

エーフィの目の前が真っ暗になった。


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