死んだと思われていた、いや、実際に一度は死んでいたナツメが立ち上がった。
祈りが届いたのだと人々は喜び歓声が上がったが、冷静に考えると戦況は何も
好転していない。蓄積されたダメージは深刻で、いつまた倒れてもおかしくない。
ポケモンたちの状態も不安だが、それ以上にナツメの現在の姿は衝撃的だった。
「あ・・・ああ———————っ!!」 「キャアアァ」 「うっ・・・!」
流血で顔じゅう血まみれだが、血で隠れているだけまだよかった。しかし
それが偶然見えてしまった者たちからの悲鳴が上がるほどひどい状況だった。
「む・・・無駄な抵抗を!そのまま大人しく眠っていたほうがよかったはずだ!
それほどの傷でどうして起き上がれた?なぜ戦いを続けようと思える!?」
ルギアも動揺を隠せない。それもそのはずだ。顔面から落下したせいでナツメは
ぼろぼろだった。鼻が潰れ、歯は割れたか砕けたかしてほとんど残っていなかった。
ガラス片で片目も使い物にならなくなっている。しかし残ったもう一つの目から
放たれる視線は鋭く、これまで以上に熱い闘志に満たされていた。
「惨めに崩壊した顔だけではないはずです!全身の骨が折れ、内臓も痛め・・・
いいえ、いくつかは破れているでしょう。それなのになぜ生きていられるのですか!」
「・・・さあ・・・あなたたち神がわからないのだからわたしも知らない。
だけど一つ言えるのは、わたしたちは無駄に生き返ったわけじゃないということ!
このバトルが始まる前に誓った多くの宣言を果たすためにここにいる!」
ナツメの横にはゴーストがいた。その正体は幼い日のナツメが育てた五体のポケモンの
集合体であり、これまでは鳴き声を含めた一切の言葉が話せずにいたが、いまナツメと
彼らは会話ができていた。ナツメも本来であれば声を発することができないほど顔の
損傷は激しかった。しかし彼女には超能力がある。その力を用いて会話をしていた。
「・・・ただのゴーストじゃ味気ない。これからみんなをどう呼べばいいのかな」
「ぼくら五人は戦うとき、内部で十字の形になっている。だからクルセイダーズ、
言いやすいように最近はクルセダーズと密かに名乗っていた」
「そしてナツメ、きみがスプーン曲げのパフォーマンスばかりでうんざりしていた
ことを知っている。スプーンは捨ててフォークがいい。それをさっきと名前と
つなげて・・・『ザ・フォーク・クルセダーズ』!ぼくらをそう呼んでほしい」
「・・・ちょっと長いな。略して『フォークル』・・・これでいこう。いいよね?」
最後はナツメが決めた、フォークルという名を新たに授かったゴースト。こちらも
満身創痍のはずだが、ここから逆転勝ちする可能性を密かに持っていた。
「さて、どうしようか。ナイトヘッドだけじゃ決め手に欠ける。あとは・・・」
「ナツメ、実はきみが知らない技が一つだけ残っている。ぼくらがついこの間
勝手に覚えた攻撃技なんだけど・・・威力は未知数だ。使ってもいいかな?」
「そんなものが?いいよいいよ、どんどん使おうよ。で・・・それは?」
「きみの親友たちが持っていた技マシンを手に入れた。まあ見ていてよ」
彼ら自身もまだどれほどのダメージを与えられるか試したことのない技だった。
しかしどこかで確信していた。この技こそ神々すら倒せる、自分たちにとっての
究極奥義、最高の必殺技だと。
「そろそろいいだろう!もう一度殺してやるわ!ハァ———————!!」
「こっちもいくぞ!これがぼくらの最後の技だ————っ!!」
ルギアが正面から飛んできた。それを避けずにゴーストは真っ向から迎え撃つ。
自分もルギアに対して突っ込み、ぶつかり合いになるのは必至だった。
力任せの勝負ではゴーストに勝ち目はない、誰もがそう思った。ところが、
「馬鹿め!力も素早さも私の方が上!全身を粉砕して・・・フグッ!?」
負けたのはルギアのほうだった。弾き飛ばされ、後方に背中から叩きつけられる。
『まさかの展開だ———————っ!あのルギアがゴーストにアタり負けた!』
「・・・ぐふっ・・・どうなっている・・・何だ、その技は!わるあがきか!?」
技を使っているような素振りは見えなかったが、何らかのバトル用の技でなければ
こんな事態は起こらないはずだ。五つの魂は胸を張ってその技の名を告げた。
「わるあがきなんかじゃない・・・この技の名前は『おんがえし』!ポケモンが
相棒である人間をどれほど愛しているかでその威力は増減する・・・まさに
人とポケモンの絆が力の源と言える素晴らしい技だ!」
おんがえしの入っていた技マシン、それを聞いたアカネと元ロケット団の女は
つい数日前に自分たちがちょうどその話をしていたことを思い出した。
『・・・あんたらのアジトから持ってきた戦利品やけど、こいつだけずいぶん
大量にあるやないか。でもこの技マシン、うちは見覚えがあるで・・・?』
『ええ、コガネシティにあったものですから。ロケット団がコガネの街を占拠した
時期に他の技マシンやポケモンに使う薬といっしょに奪ったようですが、いざ
これを起動して覚えさせたところ・・・ちっとも技の威力が出なかったとか。
だからみんな見向きもせず余っていたんです。というのも・・・』
その技マシンを実際に手に取ると、アカネは全て理解し、話の全容を掴んだ。
『その先は言わんでもわかるで。だってこいつは『おんがえし』の技マシン!
ポケモンを大事にしないアホどもにとって一番使えんやろ、懐くどころか
ピンチになったら真っ先に逃げとったもんな、あのポケモンたちは。でも
あんたとウパーは別や。文句なしの一撃になるやろ、きっと』
『・・・どうでしょう。これでいざ使ってみてそうでもなかったら・・・
きっと立ち直れません、私。自殺しちゃうかもしれません。ウパっちと私の
絆は本物だと信じていても・・・やっぱり怖いですね。それにまだあの子に
返してもらえるほどの恩をあげてもいませんし、いまはこの技の習得はしません』
屋敷の上空をふわふわと飛んでいたゴーストは二人の話を聞き、これこそ自分たちが
求めていた最高の技だと五つの魂全てが同じ思いに至り、おんがえしを覚えた。
「ぼくらがこれまで何十年もずっと言えなかった、そして形にできなかった
愛する人への感謝の気持ち・・・いま伝えるときがきた———————っ!」
「・・・ほざけ!そんなもので圧倒的な実力差が埋められると思うか!ゴールドは
史上最強の王者であり我らは神!クズの寄せ集めであるきさまらがどれだけ
思いと力を込めようが私を倒すことなど天と地が逆になってもありえん!」
ルギアは再度ゴーストに力任せにぶつかっていく。だが、またしてもこの激突で
ダメージを受け地面に背中から落ちたのはルギアだった。二回連続の屈辱だ。
「ぐうう・・・なぜここまでの威力が・・・・・・!?」
「簡単なことだ!ぼくたちはみんなナツメちゃんを最高に愛している。そんな
魂が五つ揃ったクルセダーズのおんがえしは普通のポケモンが使うこの技より
五倍のパワーと思ってもらっていい。もうお前に抗う術はない!エアロブラストも
ハイドロポンプも上限ぶん使い切ったんだ、ロクな技も残っちゃいないだろう!」
「愚弄しおって~~~っ!許さぬ、許さぬぞ!技など必要ない、お前たちの
自惚れを今度こそ粉々に粉砕し魂ごと消滅させてやる———————っ!!」
ゴーストのほうも限界が近い。次の攻防が終われば必ずどちらかが倒れるだろう。
「ルギア!その強い気持ちを捨てるな!お前が勝つんだ!お前にはまだ
サイコキネシスがあるだろう、バカ正直に正面からいくな、冷静になれ!」
「・・・ぐぐぐ・・・下等相手に逃げるわけには・・・いや、ここは
従うことにしよう、万が一にも敗北は許されん!」
敗れるかもしれないという恐怖に襲われたゴールドがルギアを激励する。
一方のナツメはすでに両目の視力が完全に失われていたが、エスパーの力で
何が起きているかを見ていた。決着に向かう前の最後の指示を叫んだ。
「・・・いけ——————っ!やっつけろ———————っ!!」
具体的な作戦も策もない、ただの叫びだった。まるでアカネがハヤトとの戦いで
ピクシーに向かって飛ばした檄と同じで、中身などない。だが、それこそが
ポケモンにとって最高の力添えだ。どんなに辛くても背中を一押ししてくれる。
ルギアの作り出した念力の渦を裂きながら突破し、その懐に迫った。
「くらえ———————っ!!五倍おんがえし———————っ!!」
「ガァファ——————————————ッ!!」
二百キロを超えるルギアの巨体が自らの意志に関わらず空高く舞うと、くるくると
回転しながら落下した。その落下音はスタジアムじゅうに重く響いた。ルギアが
墜落したのを見届けるとゴーストはフィールドを離れナツメのもとへと帰っていく。
「・・・ぼくらの仕事はここまでだ。少しきみのそばで休むことにするよ」
「・・・・・・みんな・・・・・・ありがとう」
すでに終わったかのような雰囲気だが、ルギアにもジョウトの神の意地がある。
三十秒ほど動けずにいたが起き上がり、ふらふらとした足取りではあるものの
ナツメとゴーストを一点に睨みつけながらゆっくりと近づいていった。
「・・・グ・・・ハハハ!一度は死んだ状態からここまで私を追い詰めるとは!
お前たちをこの私自ら認めてやろう、神と戦う資格を持つ者たちだと!」
「・・・・・・」 「・・・・・・」
「だが勝負はこれからだ。私の力の前にひれ伏すがよい。私の威厳と誇りのため、
何よりゴールドのためにこの程度で倒れることなど・・・私はルギアだぞ。
古くよりジョウトを守り、いまはゴールドを守る海の神・・・・・・・・・」
再びズシン、と音を立ててルギアは倒れた。体がついていかず、ついに沈んだのだ。
「やった・・・やった————っ!!あのルギアをナツメさんたちが・・・!」
「ああ、夢やない、現実や!バケモンをとうとう・・・いや、まだや!
ナツメ————っ!もう一人残っとる!ルギアの後ろから———————っ!」
アカネの叫びと同時にセレビィが超スピードで飛んできた。これまでナツメへの
直接攻撃は控えてきたセレビィだが、ルギアが敗れたいま、もともと感情に
左右されず冷静に状況を判断し行動に移すタイプである幻の神は迷わずに
ナツメの心臓を貫くと決めた。ゴーストもルギアを倒し安堵しているのか
いまからではその奇襲を受け止めきれないだろう。喜びから一転、窮地に
追い込まれたかと思われたがゴーストの余裕は別のところからのものだった。
「・・・ぼくらの仕事は終わりと言った。でも油断していたわけじゃないさ。
あまり手柄を独り占めするとナツメちゃんの他の親友たちが怒るからね。
彼らだって恩返しがしたいんだ。その役割を譲ったに過ぎない」
「何を戯言を・・・・・・はっ!!」
セレビィの目の前にスリーパーがいた。足を破壊されて動けないはずなのに
なぜ一瞬のうちにこの距離まで迫れたのか、その理由をセレビィはすぐに理解した。
羽根がボロボロになり倒れていたモルフォンがそばにいる。最後の力を振り絞り
スリーパーを運び、羽根が使い物にならなくなる寸前にスリーパーを投げたのだ。
『後は頼んだっすよ。あのセレビィが小さくてかわいいからって・・・
手加減なんかしたら許さないっすよ、パトリックさん」
『安心してください、もはや私は小児性愛界の重鎮ではない、ナツメさんを何よりも
愛する大勢の仲間たちの一人なのだから!次に話すときは私たちも敬語抜きで
語り合いましょう、かずみさん・・・ナツメさんにはZUZUと呼ばれた人よ!』
「たとえ神だろうとこの方より上になることはない!たとえ神殺しの汚名を
着せられるとしても名誉なことだ———————っ!!」
「がっ・・・!このパワーは・・・!!」
モルフォンの思いも乗せたアタック。セレビィを吹っ飛ばし軌道をずらした。
表情の変化に乏しかったセレビィが苦痛に顔を歪ませる。それでも簡単には
止まらない。一度立て直し、またしてもナツメの命を奪おうとする。
「ルギアが倒れたのは慢心のため・・・しかし私はゴールドの勝利と栄光を
最優先に考えている!あなたたち程度の絆では通用しない!」
「それはどうかしら?あんたの言葉、そのまま返すわ。あんたとゴールドの
ちっぽけなハリボテみたいな信頼関係じゃあ私たちには勝てやしない!
あんたらはゴールドがいま最も素質のある若者だからそれに乗っただけ、
ゴールドは私たちに勝つために神の力を利用しているにすぎない。だから
限界以上のパワーに溢れた私たちを見て驚き、恐れている————っ!!」
ルギアのエアロブラストが至近距離で直撃し、どう考えても立ち上がれないはずの
バリヤードがセレビィの前に立ちはだかる。しかも腹に膝蹴りを食らわせるほどの
軽快な動きも見せた。これがバリヤードのミカが言う限界以上のパワーの現れだった。
「ぐ・・・!!」
「確かに我々の絆も完璧ではない。事実我が主の過去については知っていたものの
今なお抱える心の病には誰一人として気がつくことができなかった。だが、
不完全だからこそ更なる発展と進化の余地がある!我が主ナツメはそのための
土台を据え、我らがその道に従えるようにしてくれたのだ!ハァッ!」
バリヤードの次は幸之助という名のフーディンだ。古傷を抱えているだけでなく
先ほどルギアに破壊されたはずの右腕でセレビィを殴り飛ばした。彼が得意とする
三色パンチのいずれでもない。とはいえ技でも何でもないただのパンチかと
言われても違う。紛れもない、おんがえしだ。
「ナツメのポケモンたちの根性・・・どうしてあの体であんなに動ける!?」
「・・・いや、ナツメはすでにそのための訓練をしていたわ!」
ナツメの屋敷に招かれたトレーナー、特に最初の四人であるカンナとカリン、
それにエリカとアカネはよく知っていた。自分たちがバトル形式のトレーニングを
しているなかで、ナツメのポケモンは彼女の指示のもと筋力強化や体術といった
体力や勝負根性を底上げするトレーニングに重きを置いていた。
あとひと踏ん張りする助けになる、負けられない真剣な戦いでこれが生きてくる、
ナツメの説明はこうだったが、まさかほんとうにこれ以上ない舞台が来るとは。
もしこれまでであれば人々はナツメを真の超能力者、予言者と思ったことだろう。
でもいまは違う。たとえトレーナーとしての才能が凡庸であってもポケモンのことを
常に愛し、努力を注ぐならばポケモンが己の持つ能力を超えた最高のパフォーマンスが
できるように備えさせられる、その希望の道を教える者だった。
「いけ———————っ!!そのままぶっ飛ばせ———————っ!!」
「やっちまえ———————っ!」 「反撃に気をつけろ—————っ」
大勢の観客が思い思いに声を飛ばす。怒鳴るような口調であれ、願い求めるような
叫びであれ、誰もが他人に配慮せず大きな声援をフィールドの主役たちにぶつける。
その様子を病院のテレビで見ていたキクコは、自然と涙を零していた。
「・・・ああ、そうだよ・・・この熱気だ!まったくあの小娘め・・・!
新しいもの好きのくせにあの素晴しかった日々の・・・もうなくなったと
思っていたものまでたくさん復活させちまうなんて。大したモンだよ!」
応援歌や楽器による演奏などない。それでもキクコの全盛期、戦後間もない
混乱のなか、ポケモンバトルの熱気は今以上だった。トレーナーのレベルも
戦術もずっとシンプルな時代なのに、スタジアムは確かに燃えていた。
失われていた光景がいま、キクコの目の前に確かにあった。
『これは・・・!ナツメのポケモンたちが次々と入れ替わりながらセレビィを
おんがえしの技で攻撃している!でも反則ではない!二体以上で同時に
攻めてはいないしよく見ればちゃんとタッチもしているぞ!』
セレビィのダメージもだんだんと目に見えるものになっていた。自己再生の
能力があるはずだが、バトルの始めに多用したためすでに使えなくなっている。
ならばやどりぎのタネで体力を吸い取ろうと考えたが、敵たちは全員すでに
体力が空っぽに近い。回復を実感できるほどのエネルギーが入ってこないのだ。
「動きが鈍くなり捉えやすくなってきた!いよいよ追い詰めたぞ———っ!」
「・・・!私はまだ・・・・・・はっ!!」
ここでセレビィは重要な事実に気がついた。このバトルはポケモンがダメージを
受けたとき、トレーナーもそれを共有する。ナツメ、それに前の試合の二人は
自分の体との戦いもあったなかでゴールドだけがそれを免除されている理由、
つまり神々による保護のことを思い出したのだ。それもトレーナーの資質だからと
ナツメや上空でバトルを眺める暴虐のフーディンが認めたのでセレビィたちも
遠慮せずゴールドを守ってきた。しかしいまその力はどうなっているのか。
「・・・・・・うぐっ・・・・・・」
「あ・・・あああ!ゴールド!何ということ・・・ゴールド!」
ルギアは気を失って倒れた。そしてセレビィも体力を半分以上奪われている。
ゴールドを守るベールはほとんど取り除かれたも同然だ。スリーパーとの
戦いからすぐに離脱し、ゴールドのそばに駆け寄った。
「・・・あなたが血を流すことになるなんて・・・私たちとしたことが!」
「いや・・・このくらいは平気だ。シルバーだって・・・あのバカ女だって
いまのオレ以上に傷つきながら最後まで戦い抜いたんだ。ナツメはそれより
もっとひどい、もう死にそうだ。それに比べりゃオレなんてかすり傷だ。
戦ってくれているお前たちに心配されるほどの痛みじゃない・・・」
「ですが!くっ・・・!すぐにあの者たちを滅ぼし尽くしてきます!」
今すぐ勝負を放棄すればゴールドがこれ以上傷つき危険な状態に至ることは
なくなる。だが無敗の覇王が敗北を喫し、黒星という屈辱が残る。敵は皆
半死なのだから倒してしまったほうが手っ取り早い、セレビィが再びナツメに
的を絞って全てを終わらせようとした。光の矢のごとき速さであり、不意を
突かれたナツメのポケモンたちはそれに対応できなかった。
「うっ・・・!まずい!」 「ナツメさん!」
「もう遅い!あなたたちの力の源が愛と絆であるならば・・・私にもそれが
使えると証明してみせましょう!私のゴールドへの愛を侮り軽んじた罪、
神である私がいま裁いて差し上げましょう!シャ———————!!」
セレビィの腕はまるで刃のように見えた。ナツメの首を斬り落とす、まさに
罪人を処刑するための剣だ。神自ら有罪と判決した罪人に手を下すのだ。
「ナツメ———————!!」
すぐそばにいたゴーストですら間に合わない。それだけ速かったのだ。
このときナツメは、やっぱりこうなる運命なんだと迫る死を受け入れつつあった。
精一杯頑張ったけれどまたしてもあと僅か歓喜には届かなかった。でもそれが
わたしの人生だった。セレビィの言う、黄金のあと一歩手前で手に入れられない
『ステイ・ゴールド』だったのだと。最後まで自分らしくていいじゃないかと
どこか満足していた。
「・・・・・・?」
だが、自らの首を刎ねようとしたセレビィが激しい音と共に突然いなくなった。
ナツメが上に目をやると、セレビィの顎に二本の足がまとわりついていた。おそらく
これが二つの飛び道具としてどこからか飛んできて、ナツメを救っただけでなく
強烈なアッパーとなりセレビィを空へと吹っ飛ばしたのだ。その二本の足には
セレビィもナツメも見覚えがあった。すでに上空に仕掛け人が待っていた。
「・・・カエラ!その足は・・・!それに・・・動いても大丈夫なの!?」
「へへへ・・・私だけ寝てるわけにはいかないよ。エスパーパワーで足を
ミサイルにしたってわけ。みんながそいつを怒らせて周りを見えなくさせた
おかげでここまでうまくいった。あとは私に任せて!」
皮だけで繋がっていた前足を二本、自ら切断し道具として使ったのだ。
「愚かなことを・・・!これで二度とあなたは四本の足で歩けないのですよ!?」
「あのまま何もしなきゃナツメちゃんが死んでいた。だったらこんな足の二本、
いや、四本全部捨てようが私は迷わなかった!他のことはこれから考えればいい!
私たちがどれだけナツメちゃんを愛しているか、思い知れ———————っ!!」
「・・・・・・カエラ・・・それにみんな・・・・・・!」
ポケモンたちとナツメの真の絆が明らかになったその瞬間、彼女の体が光った。
これまで幾人かのトレーナーが到達した、謎の力に満たされた証だった。この力を
最初に発見し研究したのはナツメだったが、犯した罪の罪悪感や己の資質が足りないため
決して自分は手にできないだろうと諦めていたそのパワーがついにナツメのものとなった。
「・・・あの光・・・どこまでも美しい純白だ!まさに天使のようだ・・・!」
愛に飢えた最後の天使、サカキはナツメをそう評した。そしていま、この光景を
目にした誰もが同じ思いになった。奇跡の力がみるみるうちにナツメの崩れた
顔面を癒し、目や鼻、耳は元通りになった。彼女の持つ自己治癒能力がフルパワーで
働き、砕かれた骨や破裂した内臓までも再生していく。それでも余ったエネルギーは
ナツメの体から溢れ、上空のエーフィに届いた。失った足は戻らなかったが、全身が
ナツメと同じように真っ白の光で覆われ、限界を突破した力を与えていた。
「私たちがどうしてこんなにナツメちゃんを愛しているか、あなたにわかるかな?」
「・・・・・・わ、わからない・・・・・・」
「ナツメちゃんは自分を愛してくれる相手だけじゃない、みんなを愛しているからだよ。
自分を憎む人も、大事な約束を裏切った人も、いままさに自分を殺そうとしている
あなたたちのことも!そこまで優しい人を大好きになるのは当たり前じゃない!」
エーフィは残った後ろ足二本を使ってセレビィの首を絞めつけた。これによって
セレビィは息が苦しくなるのと同時に、完全に身動きが取れなくなった。
「ナツメちゃんは知っている。あなたとゴールドの間にもちゃんとした愛情と
信頼があることを。でもそこには重大な欠陥がある。だからあなたたちは
無意識のうちに助けを求めていた!それをナツメちゃんは聞き逃さなかった!」
「・・・・・・・・・ううっ」
「そんなあなたたちを救うために・・・そして私たちが黄金を手にするために、
絶対に勝ってみせる!私たちの出せる最高の技、おんがえしで———————っ!!」
このとき、ナツメとエーフィを満たす光はセレビィの神々しさを超えていた。