ポケットモンスターS   作:O江原K

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第138話 ハートゴールド

 

ゴールドは伝説の王者レッドを倒す資質を持っている、ナツメはそう断言した。

その言葉に真っ先に抗議したのはレッドではない。彼の隣にいるエリカだ。

 

「ナツメ!いくらあなたの意見でもそれは到底受け入れられない誤りです!

 あなたは実際に二人と戦い、なのにそのような結論に達したのであれば

 試合のダメージがひどく残っているわけですからすぐに休むべきです!」

 

「ふっ、話は最後まで聞いてほしい。わたしは将来の可能性について触れただけ。

 いまのレッドとゴールドが互いに万全な状態でバトルをすれば千回やっても

 千回レッドが勝つ。それくらい実力の差があるというのはわかっている」

 

「千回では少なすぎます、一億でも足りません。訂正が必要です」

 

エリカの愛は止まらない。アカネがニヤニヤしながらレッドを見る。彼は

嬉しさと恥ずかしさで半分半分といった顔をしていた。

 

「そう、現状では確かにその通り。でも実はゴールドにはチャンスがあった。

 覚醒し本格化してからのレッドは影をも踏ませない快勝続きだったが、

 あの『沈黙の日曜日』、セキエイ高原を突如去ってシロガネ山に籠った年月、

 英気を養うには十分だったし力は落ちていないが何も成長していなかった!

 その間に一人の少年が王者となった。そして世紀末覇王と呼ばれるまでになった」

 

「・・・ゴールドさんですね。私はレッドさんと直接戦ったことはありませんが

 二人が勝負するならゴールドさんが勝つとずっと信じています。チャンスが

 あったという言い方はどこか過去形でしかも確実に勝てるわけではないように

 聞こえます。もっと適切な表現に変えていただけませんか?」

 

 

今度はミカンがナツメにクレームをつけた。そのとき、エリカとミカンの間で

激しい火花が散った。一週間前にもエリカはミカンやクリスといった、レッドを

過小評価する若いトレーナーたちを無知な痴れ者と切り捨てた。一触即発ムードが

漂い始めたが、ナツメは柔軟にどちらの言い分も正しいとして話を続ける。

 

「ミカン、あなたの意見もわかる。事実、ゴールドがずっとトップレベルの

 セキエイリーグで戦っていた間、レッドは全く真剣勝負をしていない。

 だから一時期ゴールドのほうが完全にレッドを上回っていた。いくら弱い相手に

 勝って当然の防衛戦を繰り返したとはいえ山奥でのんびりしているよりも

 ずっとまし。ポケモンの体のキレもトレーナーの勘もゴールドが勝っていた」

 

ゴールドを称賛する言葉にミカンが得意気に上空にいるエリカを見た。ただ、

完全に満足はしていない。ナツメはいまだ過去形で語っていたからだ。

その理由を尋ねる前にナツメは皆が求める答えを口にした。

 

「とはいえそれは最善ではなかった。ほんとうに更なる成長を求めるなら早めに

 王座を返上して未知なる世界に飛び出すべきだった。そうしていればいずれ

 ゴールド、あなたもシロガネ山に導かれ、その最奥にいたというレッドと

 バトルし、勝者となっていただろう。でもタイムリミットは過ぎてしまった」

 

「・・・・・・過ぎた!?真の王者になる機会を逸したと!?」

 

「レッドの止まっていた時計は動き始めた。山から出ただけでなくこれからは

 エリカと共に海外の強豪たちと戦うために世界を転戦すると彼は明言した。

 鈍っていた勝負感覚もほぼ回復しているし、この地で現状維持の毎日だった

 あなたより今の段階ですでに強くなっている。いまのあなたでは勝ち目はない」

 

レッドはすでに停滞期を終え、これまで以上にレベルアップするだろう。ゴールドが

勝つためにはその隙を突いてシロガネ山にいる彼に勝負を挑む必要があった。

もしくはこの先、レッド以上に修行を重ね純粋に彼を上回る力を手に入れるか。

このままではレッドとゴールドの差が広がり続けるのは確実だった。

 

 

「ついさっきも言ったばかりだけど、あなたがセキエイに留まり続けた一番の理由、

 それはアカネへの強い憎しみと恨みのせい。そんな感情で戦い続けた結果が今日、

 わたしなんかを相手にこうして地を這っている。何が悪かったかいまのあなたなら

 もうわかる・・・いや、ずっと前からわかっていたはず!」

 

「・・・・・・・・・」

 

ゴールドがワカバタウンを旅立つ前からの親友、オタチのキヨシローが死んだのは

確かにアカネとのジム戦で大怪我を負ったのがきっかけだった。しかしゴールドは

バトルの途中で相棒の異変に気がつきながら勝ちたいあまりに降参しなかった。

また、もっと悪いのはポケモンセンターと契約していたポケモンのリハビリを

請け負う業者で、彼らが戦えないポケモンたちを野に捨てていたのでオタチも

その犠牲の一人となったのだ。アカネだけを恨むのは間違いだとバトルの前から

ナツメは指摘し、ゴールドの成長を妨げる要因になっているとも言ったのだ。

 

「自分でも無意味で悪影響だとわかっていながらなぜ・・・」

 

これまで明言を避け続けたゴールドだったが、とうとうこらえ切れなくなった。

絞り出すようにして、この場にいる者たちに心の内を告白した。

 

 

「・・・・・・忘れたく・・・なかった!おれだってわかっていた!いつまでも

 キヨシのことを引きずるのはよくないと。でも、振り返らずに前に進んだら

 あいつを忘れていつか記憶から消えてしまうかもと思うと・・・怖かった。

 おれの思い出の中でしかあいつの生きている場所はないんだから」

 

「・・・・・・・・・」

 

「でも、あんたが正しい。おれは自分を責め続けられるほど強くなかった。

 あの業者どもはもう逮捕されていておれの手で復讐することもできなかった、

 だからアカネに矛先を向けたんだ、無意識のうちに自分を守るために。そんな

 気持ちで戦い続けたらそりゃあよくないに決まってる。セレビィたちは

 おれのくだらない保身に付き合って傷ついた・・・・・・犠牲者だ」

 

どれだけ頑張っても愛するゴールドの中にはオタチがいて、絶対に彼を超える

ことはできないという悲しみはゴールドのポケモンたちを苦しめた。今後ずっと

オタチよりも少なく愛される、それを変えられないという絶望は。

 

 

「おれは人間のクズだ。昨日までは優等生ぶって世の中を騙して、自分自身すら

 騙そうとしてほんとうの顔がどこにもない男だ。ポケモンたちやおれの支えて

 くれた多くの人の期待も裏切ったクズの中のクズだ。もちろんアカネには

 謝る言葉すら思い浮かばないほどひどいことをした。そのおれがレッドを

 倒すかもしれないだなんて・・・優しい慰めはいらない。無敗の王者という

 称号すら失ったおれがそんなトレーナーであるはずが・・・・・・」

 

己の失敗を認め打ちひしがれるゴールドに、アカネは何も言えなかった。

ゴールドが負けたら思い切り罵倒してばかにしてやろうと意気込んでいたが、

いまのゴールドを見るとその気も失せていた。シルバーやクリスといった

ゴールドの友や会場にいる大勢の彼のファンたちもどう声をかけていいか

わからずにいた。それでもただ一人、ミカンはすぐにゴールドの言葉を否定した。

 

 

「ゴールドさん!私があなたのそばにいるのはあなたが無敗のチャンピオンだから、

 誰よりも強いトレーナーであり男性だから、そう思っているのですか?」

 

「・・・ミカン」

 

「あなたが私だけじゃない、皆から愛される人間になったのは利口だからとか

 無敵のトレーナーであるとか、そんなものではありません!あなたのどこまでも

 深いポケモンへの愛情、正義を愛する黄金の心・・・ハートゴールドに

 惹かれたからに他なりません!現に私があなたに魅せられたとき、あなたはまだ

 無名の少年だったではありませんか!あなたの真の魅力はここにあります!」

 

ゴールドの胸に手を置いた。その瞬間、ゴールドの脳内を多くの記憶が駆け巡った。

 

灯台のデンリュウを看病するためにジムを休んだミカンをシルバーや街の一部の

人々は非難した。ゴールドは彼らの前に立ち、ポケモントレーナーとして正しいのは

ミカンであり彼女を批判する者たちは全員二流のまま終わると熱弁した。その様子を

遠くから見ていたミカンは、その日以降ゴールドを深く愛するようになった。

 

ゴールドのことを特別な少年だと感じるようになった一番の理由は、自分の王座を

脅かすかもしれないという恵まれた才能ではなく、ポケモンのためならどんな

危険や巨悪にも迷わず立ち向かえる勇気と正義だとワタルは言った。狂暴な赤い

ギャラドスを仲間にし、ロケット団のアジトに飛び込み、複数の団員に囲まれたり

幹部たちから脅されても一切屈さなかった、黄金のような心の持ち主だと。

 

ポケモンリーグの四天王たちもゴールドを高く評価した。百体以上のポケモンを

同時に全て超一流と呼べるまでに育て上げるのはゴールド以外にできないことだが、

比類なきセンスと技術よりも、どのポケモンにも分け隔てなく愛情を注ぎそれぞれの

個性や好みを完璧に把握できていることのほうを彼らは褒め称えた。

 

 

「ゴールドさん、たった一回の敗北で私や皆があなたを見限るはずがありません。

 むしろ他に並ぶ者がいないほどあなたが強すぎた、それが逆にいけなかったのかも

 しれません。無敗という呪縛から解放されたいまこそあなたがもう一度進化する

 機会なのかも・・・まずはしっかり休まないといけませんけどね」

 

「・・・・・・休み・・・か。最近ちっとも遊んでなかったな・・・」

 

ゴールドはこの辺りで一回負けておいたほうがいい、というクリスの言葉を

今になってミカンは思い出しながらゴールドに語り掛けていた。自分よりも

クリスのほうが正解に近かったことを多少悔しく感じながらも、これから更に

ゴールドのことを知ればいい、ミカンは気持ちを切り替えていた。ゴールドを

もっと知りたいという願いを抱いたのは彼女だけではなかった。

 

「ええ。その期間にゴールドとちゃんと話がしたい・・・構いませんか?」

 

「セレビィ・・・もちろんだ。もう隠し事はしない。飽きるまで話そう」

 

失神し倒れたままだったセレビィが意識を取り戻していた。セレビィも

ゴールドに愛されようとしながら、そのためにゴールドの間違いを強く

指摘できず、ゴールドとオタチの過去について詳しく聞くのを恐れていた。

だが、真の愛情と絆で結ばれるために避けて通れない道から逃げていては

いつまでもある程度から先へは行けない。ここが転換点だった。

 

 

「この傷が癒えたら・・・カントーを一から旅して回るのも面白そうだ。

 十六個のバッジを持ってシロガネ山を探索したい。それくらいしないと

 あんたどころかアカネやシルバーにも勝てないだろうからな・・・」

 

「それがいいと思う。あなたはまだ若い、いくらでも時間はあるんだから。

 わたしのせいで狂わされた人生を軌道修正してほしい」

 

「あんたのせい・・・?たったいまのバトルのことか?だったら狂わされただ

 なんてとんでもない。あんたたちのおかげでおれは大切な・・・」

 

ナツメの表情が険しくなっていることに気がつき、ゴールドは口を閉じた。

おそらくまたしても自分の知らない何かをナツメが話すつもりなのだろうと

身構えた。単純な話ではないと予感し、実際にその通りになった。

 

 

「今日のことじゃない。あなたがアカネへの強い恨みを抱くに至った経緯を

 先ほど聞いて、これはわたしにも責任があると思った。オタチが死んだのは

 悪質な業者が戦えないポケモンたちの世話を放棄していたからで、あのとき

 わたしも実はその噂を聞き、裏で動いていた。協会の長老たちの親族で

 あったとしても罰を免れないほどの確たる罪の証拠を集めていた」

 

「・・・!じゃあ・・・あいつらが逮捕されたのはあんたの力・・・」

 

「でもそれに時間をかけすぎてしまった。あなたのオタチをはじめ、多くの

 ポケモンの命を救えなかったのが事実。しかも彼らを痛めつけてそれで

 終わりにしたせいで野に倒れているポケモンたちの埋葬をしなかった。

 だからあなたはテレビで親友の遺体というショッキングなものを目撃した」

 

もしゴールドがあの日あの時間、そのニュース番組を見ていなかったら。

事件のことすら気がつかず、きっとキヨシはどこかで達者で暮らしていると

思っただろうか。仮に事件を知ったとしても、力なく倒れている映像を

目にしなければ、こんなことであいつが死ぬわけがないと信じ、残酷な

事実に打ちひしがれることもなかったかもしれない。運が悪かった、

そう結論するしかないのかもしれないが、ナツメはそこに逃げなかった。

 

 

「わたしの仕事が甘かったせいであなたは本来経験しなくても済んだ不毛な停滞と

 アカネとの衝突を味わうことになってしまった・・・まだ若いあなたにとって

 言葉にできないほどの苦しみを与えたのはわたしの責任。申し訳なかった」

 

「・・・・・・ナ、ナツメ・・・さん」

 

 

自分を殺そうとする者すら救いたいとナツメは願っている、エーフィの言葉に

偽りがないとここに証明された。すでに謎の力の光は消えているが、ナツメの

背に現れた天使のような白い翼が見えた気がした。

 

「いつまでもオタチのことを想っているのはあなたをよく知る者たちが言うように

 あなたの優しさとポケモンへの愛情の証。駆け出しのころのポケモンの記憶なんて

 あまり覚えてないというエリートトレーナーもいるし、ひどい人間になると自分が

 経験を積むための必要な犠牲だったと言い切る始末なのだから、ポケモンを親友と

 みなしてその死を悼む・・・だからあなたはいつかレッドに勝てる可能性がある」

 

「そう言ってくれるのが・・・いまはほんとうに心の支えになる。キヨシを忘れる

 ことはできないがいい加減前に進まなきゃいけない・・・大きな目標ができて

 そのための力が湧いてきそうだ。体はボロボロだけど心は熱く燃え立っている!」

 

「わかってくれたようで何より。新しい仲間と新しいステージに進むとしても

 失ったものを忘れたり裏切ったりするのとはまた違う。そのぶん悲しみも

 完全には消えないけれどあなたには支えてくれる仲間たちがたくさんいる。

 決して救われてはいけない存在であるわたしとは全く違って・・・・・・」

 

 

何かを言いかけたところで、ナツメは黙ってしまった。遠くを眺めながらしきりに

瞼を開閉させ、明らかに驚いている。突然の異変に事情がさっぱりわからない

周囲の人間はもっと動揺するが、すぐにナツメは口を押さえて笑い始めた。

 

「うふふ・・・あははは!これは・・・!」

 

「いきなりなんやナツメ!変なモンでも食べたんか!急に笑いよって・・・」

 

「いいえ、違うの。ポケモンとの心から信じあう絆や何よりも固い愛情が生み出す

 奇跡はやっぱり素晴らしい。わたしの超能力なんてまるでちっぽけで些細な力に

 過ぎないと改めて思っただけ。いまからすごいことが起きるから・・・」

 

「すごいこと~~~?そんなん今日はもう何度も・・・」

 

ナツメが指さす先に皆が視線を向けると、スタジアムの入り口に一人の男が

立っていた。白衣姿で、全身傷つきボロボロだ。戦いが終わって時間が過ぎた

アカネやシルバーと比べてもその男のほうが生々しい傷跡が残っている。

 

「どこにでもおる冴えないオッサンやないか・・・どこが奇跡・・・」

 

「・・・ウ、ウツギ博士!」 「博士、来ていたんですね!」 「・・・!」

 

 

ゴールド、それにクリスとシルバーは遠くからでもすぐに彼に気がついた。いや、

この三人が彼と関わりがあるからというよりはアカネが無知なだけで、海外から

観戦に来たトレーナーでもこのウツギの顔と名前、それに数々の研究成果を

よく知っていた。それほどポケモン研究界において重要な人物だった。

 

「博士!今日は来られないと言っていたはずじゃあ・・・」

 

「いやいやクリスちゃん、事情が変わったんだ。だけど大急ぎで来てみたらすでに

 第二試合まで終わっていた、しかもゴールドくんが負けているじゃないか!

 空高く光り輝くエーフィの姿だけはスタジアムの外からでもよく見えたけどね」

 

ゴールドはまだ自由に体を動かせない。クリスが一人でウツギを迎えた。シルバーは

静かに背を向け、できるなら自分をスルーしてほしいと思っていた。研究所にいた

三体のポケモンを手に入れたのは三人とも同じだが、シルバーはワニノコを盗み出し、

しかも今日の朝になってオーダイルに進化したそのポケモンを強引に返したのだ。

だが、わざわざ彼が来た理由など自分以外にないというのもわかっていた。

 

 

「シルバーくん・・・だったね?まずは勝利おめでとう。ぼくも移動中に

 ラジオで聞いていた。見事な大逆転勝利だった」

 

「・・・譲られただけだがな。対戦相手であるそこの女がその気ならとっくに

 オレは死んでいる。誇るところなんて何もない恥ずかしい勝利さ」

 

「そんなことはないだろう。きみはエースポケモンを使わずに戦った。

 そう、オーダイル抜きで戦い抜いてしかも勝ったんだ。胸を張っていい」

 

やはり話はそこか。いつかは話をしなければならなかったとはいえ、病院を

抜け出してスタジアムに戻ってきたことをシルバーは少し後悔した。

 

「薄々察しているんだろう?ぼくが来たのは・・・」

 

「ああ、貴重なワニノコを盗んだ犯人が目の前にいるんだ。誰でもわかるさ。

 しかも勝手にオーダイルに進化させて研究を台無しにした。ちょうどそこに

 国際警察とやらの二人組がさっきの試合前からいる。あんたの研究所に

 連れていくもよし、あいつらに引き渡すもよし・・・好きにしてくれ」

 

「・・・シルバーくん・・・」

 

逃げも隠れもしない、シルバーは両手を上げて何でも受け入れるポーズをした。

 

「サカキ、いいのか?助けに入らなくても」

 

「フッ・・・あいつの問題だ。それにおそらくは・・・」

 

息子の危機にもサカキは動かなかった。犯した罪の罰を免れさせようとするほど

非常識で馬鹿な親ではないというのがその理由だが、ウツギの様子を見る限り

皆が心配しているような展開にはならないと見ていたからだ。

 

 

ウツギがシルバーの目の前に立つ。そして一つのモンスターボールを取り出す。

このボールにシルバーは見覚えがあった。今朝、このなかにオーダイルを入れて

研究所に返したからだ。そのボールをウツギはいま手にしていた。

 

「・・・わざわざ見せつけるのか?オレの罪の証拠品を・・・」

 

「ああ。ぼくは怒っている。あろうことかぼくの研究所を面倒が見れなくなった

 ポケモンの引き取り所と勘違いしている少年がいたからだ。これを見過ごすと

 皆がまねして収拾がつかなくなる。さあ、持って帰ってくれ」

 

そのままシルバーの手をつかむと、有無を言わせずそのボールを持たせた。

 

「か・・・返してよこすのか!こいつをオレに・・・なぜっ!?」

 

「フフフ、研究用のポケモンとしてもう使えないからさ。オーダイルに進化したのが

 原因じゃない。あまりにきみになつきすぎてしまってぼくらの命令をちっとも

 聞いてくれそうにないんだよ。テレビできみの姿を見た途端大暴れしてね。

 とても手に負えない、こんなポケモンを渡されても困る、さあ!」

 

「ガァ―――――ッ!!」

 

たった半日でシルバーのもとに戻ってきたオーダイル。ボールから勢いよく

飛び出したその顔は満面の笑みだった。短い時間とはいえ愛するトレーナーと

引き離されたのがいかに苦痛だったか、こうしてすぐに帰れたことがいかに

嬉しいか、その様子を見れば誰でもわかるだろう。

 

「・・・それに全く研究に役立たずってわけじゃない。人とポケモンの絆が生み出す

 限界を超えた力・・・科学とは正反対に思える要素でありながらぼくたちが永遠に

 追い求め続けるテーマだ。きみたちならその謎の究明ができると信じている。

 オーダイルだけでなくクロバットや他のポケモンたちと共にね」

 

「・・・・・・そういうことなら・・・ありがたく受け取ってやる!フン、

 オーダイル!研究所でゴロゴロしていたほうがよかったって後悔するほど

 これからシゴきまくってやるぜ。覚悟しやがれ!」

 

オーダイルは力強く頷いた。オーダイルも、シルバーの周りの人間も皆知っている。

口ではこう言いながら彼はこれまでと同様、愛情豊かにポケモンと接するだろう。

そして過去の罪を反省しながらも、罪悪感に潰されることは二度とないだろうと。

 

 

「しかしあんたには悪いことをした。こいつが暴れたせいなんだろう?オレ以上に

 病院に急いだほうがいいぜ、その怪我だらけの身体じゃあ・・・」

 

「いや・・・違う。きみのオーダイルはすぐにボールに入れたから問題なかった。

 でも、もう一体どこからかポケモンが来て自分も連れて行けって言いたそうで、

 大人しくさせようとしてもどのポケモンでもすぐに倒されてしまったし、絶対に

 ボールに入ってくれなかった。信じられるかい、マスターボールすら弾かれて

 しまったんだ!要求を受け入れたらようやく攻撃をやめてくれたよ・・・」

 

絶対にボールに入らないポケモン、ゴールドは思い当たるところがあった。

 

「マスターボールを!?しかもそんな危険なポケモンが街の中に!博士、いま

 そのポケモンはどこにいるんですか!?ここにはいないようですが!」

 

「ああっ!!い、言われてみればいなくなっている!みんな、協力して

 もらえるかい!?一見どこにでもいるオタチなんだ・・・・・・」

 

「――――――――――!!」

 

 

ナツメの言う奇跡、その本番はここからだった。オーダイルすら『彼』の前座に

過ぎなかった。かつてゴールドがKINGとも呼んだあの幼き日からの友の。

そして後にミスター完全復活と皆から称えられる偉大なポケモンの。

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