ポケットモンスターS   作:O江原K

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第139話 JUMP

 

絶対にモンスターボールに入らない、規格外れの強さを持つというオタチ。

ゴールドがまさかと思い立ち上がった瞬間、フィールドに入るための金属製の

しっかりした扉が破壊され、大きな音をたてて崩れた。場内は騒然とする。

 

「爆弾か!?扉が粉々に・・・テロリストかもしれない!」

 

「何者かがフィールドのトレーナーたちに迫っている!単独犯か!?」

 

ものすごい勢いで駆けてくるその影は人間の子どもよりもずっと小さい。

それなのに扉を粉々にし、比類なき速さをも備え持つ謎の乱入者の

パフォーマンスはそれだけにとどまらず、空中で何回も回転してみせる。

 

「これは・・・ポケモンだ!このポケモンは・・・!」

 

「あ・・・あああ~~~~~~~~っ!!」

 

たった一体のオタチが自慢の尻尾で立っていた。特別なところは何もない、

草むらにたくさんいる皆がよく知るオタチと違いはわからない。とても

あれほどのパワーとスピードを持つポケモンではないので、人々は混乱した。

 

「あのオタチがやったわけが・・・紛れ込んできただけだ!」

 

「でも他に誰もいなかったぞ!仮の姿かもしれない!」

 

真犯人は他にいると考えるのも当然だった。もしくは不気味に沈黙を続ける

上空のフーディンが超能力によって力を授けた新たなる刺客か、それとも

セレビィとルギアに続く第三の神が姿を変えて降臨したか、大声で憶測を

言い合った。だがゴールドにはその正体がすぐにわかった。

 

 

「キヨシ・・・キヨシロー!キヨシローじゃないか!おれは・・・

 夢を見ているのか!?いや、おれはしっかりしている!いったい・・・」

 

かつての相棒、しかしここにいるはずがない親友の名を呼んだ。

 

「あいつが・・・ゴールドの!オレたちも確かに実際に戦った身ではある。

 だがあいつが自分の口で死んだとついさっき言っていたはずだ!」

 

「ええ。いきなりメンバーから外れたからどうしたのかと思ったけれど

 ゴールドがちっともそのことに触れないから私たちも聞けずにいた。

 今日になって真相がわかったと思ったのにこれは・・・」

 

いつの間にかいなくなっていたゴールドのオタチについては敗北という苦い記憶が

シルバーとクリスにも刻まれている。外見だけでは自分たちはわからないが

ゴールドが見間違うはずはない。しかし命を落としたはずの存在が現実に

姿を現すことなどありえるだろうか。主役たちの次なる言葉を待つしかない。

 

 

「キヨシ!お前・・・・・・」

 

「久しぶりだなゴールド、完全復活しちゃったぜ」

 

オタチはもちろんポケモンの言葉で話しているので一見会話は成立していない

ように見えるが、昔からゴールドはこのオタチとだけ、完璧に意思を通わせる

ことができた。そして今もそれができている。

 

「あの日テレビの画面でお前が倒れて死んでいるのを見た!傷だらけで

 生気もない顔で・・・とても希望なんて持てなかった!」

 

「まんまと騙されたようだな。ありゃあ死んだふりだよ。名演技だったろ?

 俺といっしょに捨てられた連中は全員死んだ。皆戦える身体じゃなかった。

 野生のポケモンや糞人間どもの目をごまかすためには頭を使わないとな」

 

白目をむきながらぐったりと倒れ、周りの死体の血も利用して死を偽装した。

どう見ても生きていないと思わせ、敵たちが去っていくのをじっと待っていた。

 

「生きていたのか・・・!あれからどうしていたんだ?教えてくれ!」

 

「へへへ、お前のもとに帰ろうかとも考えたがどうやらお前は俺がいなくても

 立派にやっているようだったからな。これまで俺に頼りっきりだったお前の

 成長のためにはこのまま別れたほうがいいと思ったんだ」

 

「・・・そうか・・・だったらいまのおれはお前にどう映る?」

 

キヨシローと戦った最後のバトル、コガネジムのアカネ戦以降、ゴールドは今日まで

ずっと無敗だった。やがてセキエイの賞金王、世紀末覇王と呼ばれるまでになり、

史上最強のチャンピオンではないかと言う者たちの数も増えていた。

 

しかし今日、ゴールドはその日以来の敗北を喫した。二体の神を仲間として

繰り出しながらもポケモンとの絆と愛情の差でナツメに屈したのだ。

 

「ウツギ博士をこんなに痛めつけてまでおれのところに来たってことは・・・

 お前もナツメさんのようにおれの異変に気がついていたんだろう?」

 

「いや、違う。お前が変だと思ったのはもっと前、チャンピオンになって

 すぐのときだ。たまたま街に食い物を漁りに来た日、テレビでお前を見た。

 俺抜きでも夢を叶えやがったかと喜んだが・・・」

 

 

 

レッドがいなくなった後ずっと王座を守り続けてきたワタルを一度の挑戦で

あっさりと破った新たなるヒーロー、ゴールド。セキエイ高原付近の道路を

車に乗って新王者誕生の記念パレードが行われていた。そこにゴールドと共に

いたのは、ポケモン協会においてチャンピオンよりもずっと高い地位にいる

五人の長老と呼ばれた権力者たちだった。彼らの悪い噂をゴールドは知っていたが、

彼らと仲よくしなければチャンピオンだろうがすぐに追放される。

 

 

『ええ・・・協会のトップの方々は皆さんとてもポケモン界の発展と充実、それに

 トレーナーの待遇改善に熱心ですからぼくは安心してバトルに専念できますよ。

 恵まれた環境でポケモンと戦えることにとても感謝しています』

 

彼らが望む優等生を演じた。対戦相手やスケジュール、彼らの言う通りにした。

ユニフォームや装飾品まで全て指定された物を使用した。ポケモン協会の腐敗は

次々に目と耳に入ったが、見えないふり、聞こえないふりを続けていた。

 

協会の長老たちは殺人者だ。気に入らない人間を闇に除き去った。若い女性の

トレーナーに肉体関係を強要し、後にそれを苦に自殺した者がいることも彼らが

殺人者である証だ。加えてポケモンを密売し虐待する商人たちと手を組んでいる。

悪魔たちが頂点にいるという事実を受け入れなければいけないのはゴールドにとって

とても苦しく自分を見失う日々だった。己のことを人間のクズだと言い切ったのも

これが原因だった。王者で居続けるために悪党たちの片棒を担いでいると。

 

 

 

「他の奴らはごまかせても俺は無理だ。笑顔でパレードしているっていうのに

 俺には悲しい嘘ばかりが聞こえてきたぜ。それから俺は真剣にトレーニングを

 再開したよ。これまでずっと俺に夢中なメスどもと気持ちいい毎日だったせいで

 昨日になってやっと元通りのキレが戻ってきたぜ!お前をもう一度楽しかった

 日々に戻してやるために来たわけだが・・・俺が介入しなくてもよかったな」

 

「戦える準備までしてくれたというのに・・・ほんとうにすまない。

 でもおれを勝たせるためじゃなくてあの頃に戻すために来たってことは、

 まさかまた・・・おれといっしょにいてくれるということなのか!?」

 

「まだまだ俺の力が必要みたいだからなァ。せっかく完全復活したんだ。

 荷物をまとめて旅に出ようぜ。時間はたっぷりある」

 

再びゴールドと行動を共にするという。ゴールドの体は震えていた。

 

「でも・・・おれはお前をあの日捨てたんだ。治る見込みが薄いとかいう

 ポケモンセンターの無能どもの言葉を信じて・・・いや、お前の世話を

 放棄すると決めたのはおれだ。お前の回復に付き合うより先に進もうとした

 最低の決断をしたのは他でもないおれなんだ。それなのに・・・」

 

「結果的にこうして無事に再会できたんだ、構わねぇよ」

 

「死んでいたかもしれないんだぞ!そんな簡単におれを許してくれるのか!?」

 

キヨシローはゴールドの叫びに答えず、意識こそ戻ったが横になったままの

ルギアとセレビィ、そしてバトルを終えてボールに戻っている四体のポケモンを

次々と指さした。ゴールドの注意を彼らに向けさせた。

 

「お前が謝るとしたら俺じゃねぇよ。こいつらに・・・だな」

 

「・・・・・・・・・」

 

ゴールドの記憶の中でずっと一番の親友であり続けたポケモンの存在をどうにか

超えようと励んできたポケモンたちだった。ゴールドは多くを語らないが

親友を忘れられず、よって自分たちは彼よりも少なく愛されている、心のどこかで

彼と比べられている。そんな気持ちと長い間戦わなければならなかったのだ。

 

 

「・・・み、みんな・・・・・・」

 

四つのボールが勝手に動き始め、中からバクフーン、ムウマ、バンギラス、

ヘラクロスが出てきた。いずれも戦闘不能級のダメージが残っているが

揃ってゴールドの前に立ち、その目をじっと見つめていた。もちろんルギアと

セレビィも重い体を引きずって自らゴールドのそばまで来た。

 

「おれは・・・自分が思っていた以上にみんなにひどい仕打ちをした。一人で

 悲劇のヒーローを気取って、みんなの幸せも喜びも奪い、プライドを傷つけた。

 そのことに今日までちっとも気がつかずに・・・誰よりもバカなやつだ」

 

ゴールドがどれだけ自分を貶す言葉を並べても、ポケモンたちはそれに同意しない。

誰も何も言わないが、その視線と表情がゴールドへの思いを物語っている。この場に

いない他の百体以上の仲間たちも同じ反応をするだろう。

 

 

「こんなトレーナーならいないほうがマシかもしれない。なのにキヨシもみんなも

 おれを受け入れてくれるのか!どうして愛想を尽かさずにおれなんか・・・」

 

「何言ってんだバカが。生き物なんだから失敗して当然だろ。俺たちにもそれぞれ

 欠点はあるしお前もまだガキだ、この先何度もまたやらかすだろうよ。でも

 そんなことで一々落ち込んでぶっ倒れたら何もできやしねーだろうが!」

 

親友に一喝され、ゴールドはビクッと小さく震えたがすぐに平常心に戻った。

キヨシローの声には怒りではなく優しさが込められていたからだ。

 

「人間はポケモンと、ポケモンは人間と力を合わせ共に生きることで真の幸せが

 得られる、もうその答えは出ている。互いに夢を見せてやる関係だ。

 こんなもん許したうちにも入らねーよ。俺は最初からお前への恨みなんか

 持っていなかったがそれはこいつらも同じだったようだな」

 

「・・・・・・・・・!!」

 

 

ポケモンたちとの真の絆がないという宣告も同然の、謎の力に目覚めることが

できずにナツメに敗戦。そのナツメからバトルの後に優しい言葉をかけられた。

ゴールドはいずれのときも涙を流さずに堪えていた。王者である自分がこれだけの

注目を集めるなかで無様な姿は晒せない。力を入れてぐっと我慢していた。

 

だが、死んだはずの親友が帰ってきた。そして彼だけでなく他の仲間たちも

自分を心から許し、これまでの全てを水に流すというのだ。築き上げてきた

理想のチャンピオン像は強固に見えて実は危なっかしい張りぼてに過ぎず、

ずっと抑えてきたものがとうとう溢れ出して止まらなくなるのも仕方なかった。

 

「・・・ゴ、ゴールドが・・・!」

 

「ただ泣いているだけじゃない!年相応の少年そのものの顔だ!」

 

敗北を味わったのがアカネに負けた日以来なら、感情が動かされて泣いたのは

悪夢のニュースを知ったあの夜以来だった。ゴールドは激しく泣いた。視線を

気にせず、自身の世間でのイメージや評価も気に留めず、涙を止めなかった。

 

「うううっ・・・!うあああ――――――――っ!!」

 

そばにいた彼のポケモンたちやミカンも、友人たちやそれ以外の者もその間

彼に近づこうとしなかった。慰めの言葉をかけたり泣き止ませようとするよりも

気のすむまで泣き喚くほうが彼のためだと思ったからだった。ゴールドが

落ち着きを取り戻すまでにはそれから十五分ほどかかった。

 

 

「・・・・・・一から修行のやり直しだな・・・・・・」

 

まだ正式にその手続きを行ってはいないがゴールドはもうチャンピオンではない。

優等生の仮面は一週間前にアカネに破壊され、無敗の覇王の座はナツメに引きずり

降ろされ、最後に残ったプライドも崩れ去った。この様子は世界中に中継されているの

だから、どこへ行こうと人々はゴールドを見た途端、涙だけでなく鼻水、涎も

まき散らしながら嗚咽する彼を真っ先に思い浮かべることだろう。

 

「一どころかゼロからのスタート・・・いや、マイナスだ・・・」

 

ゴールドが栄光を取り戻すには長い時間と厳しい努力が必須で気が遠くなりそうだ。

しかし彼のポケモンは主人ほど悲観していない。それどころかワクワクしている。

 

 

「マイナスから・・・面白いな。今までは確かに高みにいたが何だか身動きが

 できずに窮屈で退屈だったからなぁ。もともとおれたちは周りのエリートどもと

 比べたらマイナスみたいなモンだった。もう一度成り上がりを楽しめるわけか」

 

「でもただのマイナスじゃない。足りなかったもの全てはもう揃っている。

 だからこれまで以上の光景を見るための仕込みと考えればいい」

 

ここで驚くべきことが起きた。今後の展望をポケモンたちが語り合っているのだが、

彼らの語っていることがなんとゴールドには理解できたのだ。心通わせるオタチや

人の言葉を使う神々ではない。これまでできなかったことが突然可能になっている。

 

「・・・これは・・・どうなっているんだ!?おれの勘違いか!?」

 

「いいえ、ゴールドさん!あなたの体が・・・!黄金に光り輝いています!」

 

「あああ・・・!そうか、これがおれが使えなかった・・・あの力!」

 

ライバルや親友たちが先に手にし、自分は命を失いかねない状況でもついに

発動しなかった力がいま、ゴールドを包んでいた。しかもアカネと同じ金色、

その効果も彼女と同じくポケモンたちと自在に会話ができるというものだ。

 

 

「そしてそいつはゴールの証と思ったら大間違いだ。俺たちの未来、

 これから始める新しい旅のためのパワーに過ぎない。あの日のように

 もう一度・・・空高くJUMPするためのなぁっ!」

 

「キヨシ・・・!だったらおれも言わせてもらうぜ!」

 

ゴールドは息を深く吸い込んだ。ポケモンたちもそれに続く。そして、

 

 

「ジャア~~~~~~~~ンプッ!!」

 

その場で高く飛び跳ね、JUMPした。悪い予感の欠片もない。止まっていた

時間が動き始め、何が起ころうとそれを糧とし更なる高みへ飛び立つ。

彼らの旅はいまからがほんとうのスタートだ。

 

 

 

ゴールドたちのJUMP、彼らが呪縛から解放された満面の笑顔でいるのを

眺めていたアカネが感極まり泣いていた。純粋な感動によるものだった。

 

「まったく・・・遅すぎるで、ホンマにしょうがないガキや。やっとナツメの

 言葉の意味をわかったんやな。世話のかかるやつや・・・」

 

そこにナツメが近づいてきた。アカネは慌てて涙を拭うも間に合わず、

 

「・・・へへっ・・・アカンなぁ。泣き虫は卒業したはずやったのに相変わらずや。

 これじゃあゴールドやなくてうちのほうが昔のまんまやんか・・・」

 

そのアカネの頭をナツメは優しくなでると、首を横に数回振ってそれを否定した。

 

「いいえ、あなたは確かに成長した。以前のあなたは試合で負けて悔しいから

 大泣きしたり、たとえ動機が正しくても自分や自分に好意的な人間に関する

 出来事でしか泣かなかったはず。でもいま、敵でありあなたのトレーナー人生を

 終わらせようと企んでいたゴールドのことで涙を流した。以前のあなたなら

 考えられなかった・・・急成長トレーナーと呼ばれるだけはある」

 

「ナツメ・・・」

 

「あなたたち若いトレーナーが試練と苦難を乗り越えてポケモンたちと更なる

 成長を遂げた。数多くの復活と再生をこの目で見ることができた。わたしの

 今回の行動の目的は果たされたし、もうわたしがいなくても大丈夫。アカネ、

 あなたや多くの若者たちの未来は明るく希望に満ちている・・・」

 

話の途中で突然ナツメはその場に座り込んだ。不穏な空気が流れ始める。

 

 

「・・・これでようやく・・・わたしは心置きなくいなくなることができる」

 

塞がったはずの傷が開き、頭部からぼたぼたと血を流すその顔は赤く染まっていた。

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