ポケットモンスターS   作:O江原K

143 / 148
第143話 

フーディンのほのおのパンチの前にスピアーは苦しい。戦いをそばで見守るサカキの

元部下たちも表情が曇る。最強の男と彼がパートナーに選んだスピアーがいきなり苦戦を

強いられるなどとは考えてもいなかった。

 

「ちっ・・・なんてバケモンだ。サカキさまたちがこのまま簡単に負けるはずはない。

 だが楽勝っていうのもどうやら無理に・・・・・・あっ!!」

 

スピアーだけではない。サカキもダメージを受けていた。口から血がこぼれているのが見え、

血は見慣れているはずの元幹部たちもこれはいけないと身を乗り出した。

 

「サ、サカキさま!?まさか!さっきまでの戦いと同じように!」

 

「トレーナーにもポケモンのダメージが!危険すぎます!」

 

慌ててバトルをやめさせようとしたが、サカキは彼らを見ずに前を向いたまま手で制す。

 

 

「何を怯えている・・・まさかこのわたしとスピアーが負けて死ぬとでも?」

 

「い、いえ・・・ですが!万が一ということも」

 

「わたしの先に戦った者たちは皆生きている。わたしがあの若者たち以下だと?」

 

怒りや虚勢ではない。サカキは淡々と事実を語り部下たちを納得させ安心させた。

 

「・・・フッ、そうだった。あのお方がチャンピオンとはいえまだ青いガキだった

 ゴールド、それにバカのアカネに劣っているわけがない」

 

「絶望的な展開から勝利を勝ち取ったシルバー坊ちゃまの父であられるサカキさまは

 カントーの帝王でもあるのだから・・・心配は無用だったわ」

 

 

その思いに応え、スピアーがほのおのパンチから抜け出して上空へ高く飛んだ。

 

「むっ、一気に決めてもよかったが・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

スピアーは休まずにフーディンに向かっていく。体当たりのように見えたが、ポケモンの

使うたいあたりの技、またとっしんやすてみタックルとも違う動きだった。

 

 

「ぐっ・・・これは」

 

『フーディンに直撃だ――――――っ!!しかしこの技は!?』

 

あのフーディンがふらつくほどの威力。ナツメがすぐにその正体を明らかにした。

 

「・・・あれは・・・おんがえし!しかもわたしたちのものより強い!」

 

ゴールドの二体の神を倒したナツメのポケモンたちが繰り出した奇跡のおんがえしよりも

サカキとスピアーの絆が上だと言った。

 

「んなアホな!あんたらのほうがずっと・・・」

 

「いいえ、相手がフーディンだから倒せなかっただけ。ぶつかりあったらわたしたちが

 確実に負ける。それだけあの二人の関係が深いという証明」

 

ナツメがどこかうれしそうなのをアカネもわかっていた。サカキが悪の道に走ったのを

一番悲しんでいたのはあのスピアーかナツメ、そのどちらか・・・いや、同点かもと

考えていた。そして真の意味で復活を遂げたことを一番喜んでいるのもスピアー、もしくは

ナツメ。やはりどちらが上かなんて決められなかった。

 

 

「おんがえし・・・ナツメたちはわかるとしてまさかお前たちがこれほどの威力を出せる

 なんて驚いた。あれほどの悪事に手を染めた男にまだ恩を抱くとは・・・」

 

「わたしも驚き、そして感謝した。わたしを見捨てずにいてくれたこいつの愛の深さに」

 

「フン、見捨てず・・・か。それがポケモンという生き物の尊いところであり悲しくも

 あるところだ。いまのお前はともかく、かつてはそれを逆手にポケモンたちを操り

 利用していた男がそれを口にするとはな・・・・・・」

 

フーディンの言葉にサカキは顔をしかめた。心が痛くなったからだ。

 

 

「尊いっちゅうのはわかる。悲しいって・・・なんでや?」

 

アカネは意味を理解していなかった。ナツメがすぐに教えた。

 

「ポケモンは人間と共に生きるためにいる・・・いつか話したのを覚えている?人と

 ポケモンが力を合わせるのが理想の世界だと。ポケモンは野生でも生きていける。でも

 人間と生きるとき、比べ物にならないほど幸せを感じているという研究結果が出ている。

 都合のいい解釈じゃない、わたしたちも肌でそれを感じているはず」

 

「・・・・・・」

 

「だからどんな人間のもとにいるとしてもその人間を心から愛そうとする。トレーナーの

 ために精いっぱい頑張る・・・それが間違った道だとわかっていても」

 

笑顔が見たいから、悲しみや怒りを見たくないから・・・理由は単純だった。

 

「ん?いやいや、そうとも限らんやろ。うちらが潰してやったロケット団のアジト!連中の

 ポケモンは見捨てて逃げていったやんか!どうやっても救えんトレーナーなんかには・・・」

 

「あれはおそらく彼らがあのポケモンたちを使って一月程度だったから。ただ組織から

 支給されたポケモンを使い回していたのかもしれない。もっと共にいる時間が長ければ

 命を捨ててでもわたしたちから主人を守ろうとした。そう、体に爆弾や毒ガスを巻きつけ

 られても逃げることなく突進してきた・・・・・・」

 

 

ここでアカネは思い出した。数十年前の戦争でポケモンたちが兵器として使われたという

歴史を。死ぬとわかっていてポケモンたちは戦場に消えていったのだ。ポケモンは人間の

命令に忠実だという性質を利用され、夢を奪われたのだ。その時代に実際に生きていた

フーディンも遠くを見ながらナツメの言葉に続いた。

 

「セレビィとルギアを見ただろう。神と呼ばれるほどのポケモンですらゴールドに嫌われ

 たくない、彼の一番でありたいと願い暴走に手を貸したのだ。お前への憎しみが

 逆恨みに過ぎない、成長を阻害するものだとわかっていながら・・・な」

 

「ゴールドに愛されたい一心で・・・あんな恐ろしいパワーを」

 

「そしてそんな二体のポケモンをナツメのポケモンたちは瀕死の状態から倒してみせた。

 人とポケモンの絆の結晶ではあるが、同時に危うさもあった。愛する人間のためなら

 平気で命を投げ出せる、それがポケモンだ。お前やナツメは善いトレーナーであるから

 それだけの信頼と愛情を得るにふさわしい。しかしそれを悪用し自らの野望のための

 道具としてポケモンを使う愚者どもは減るどころか増える一方!」

 

 

フーディンの言葉が力強くなり、改めて全世界に向けて宣言した。

 

「だからわたしとナツメは立ち上がったのだ!世界を変えるために、まずはセキエイが

 管轄するカントーとジョウトから始める。最大の規模と影響力を持つこの二地方を

 支配下に置けば残りの地方はすぐに落ちる。チャンピオンもジムリーダーや四天王も

 簡単に強い者に流され従うクズどもばかりだからな。反抗してきたところでわたしには

 遠く及ばない貧弱な偽りの王者しかいない」

 

トレーナー、協会そのもの、いずれにおいても最高のレベル、影響力を持つのはセキエイ

だった。そしてフーディンやナツメの生まれ育った地だ。ここから侵略と支配を進め、

やがて全世界を手中に・・・そのためにフーディンは準備を進めていた。

 

 

「しかしここにきてわたしとナツメの考えに致命的なズレが生じた。どうしようもない

 人間はもはや除き去るしかないという点では一致していた。だが・・・・・・」

 

「わたしは再生しようとした。道を踏み外した人、自分ではわからずに罪を犯している人、

 大切なものを失って自棄になっている人・・・完全に壊れていないのだから再生できる。

 もう一度やり直しあなたも認めるようなトレーナーになれる可能性を信じた」

 

「再生・・・か。やはりナツメ、その甘さがあなたを完全なるトレーナーになるための

 邪魔をした。それでは生ぬるい。再生してどうにかなる状態ではない。もはや一から

 創造する以外にポケモンのための世界はありえない!」

 

一から創造、つまり今あるものは破壊しなければならないという主張だった。

 

 

「ナツメ、あなたが一人再生させている間に何人悪人が生まれている?わたしたちの時代

 よりもいまは豊かになった。金も、物も、環境も、情報も・・・ただ一つ、人間の心は

 あの戦争のときよりも悪くなった。あなたはわたしが当初処刑するつもりでいたアカネ、

 それにゴールドたちエキスパートから取るに足りない存在だったロケット団の女と

 ウパーに至るまで数多くの人間を救ってきた。それで十分ではないか」

 

「・・・・・・」

 

「このわたしが全てを終わらせ、そして全てを始める!かつて最強のトレーナーだった

 クリフジとして、そしていま最強のポケモンであるフーディンとして!」

 

フーディンは揺らがなかった。ナツメもそれを止めなかった。

 

「・・・アカネ、わたしとフーディンは決意の強さが違う。フーディンはこのことだけに

 自らの生涯のぜんぶを捧げようとしている。そして自分の歩みに間違ったところは何も

 ないと確信している。それがフーディンの強さ」

 

「あいつの強さ・・・・・・」

 

「対照的にわたしは常に迷っていた。自分が間違いだらけの醜い存在だと思っている。

 わたしに生きている価値はあるか、やっていることに意味はあるか・・・口では

 偉そうにいろいろ言いながら心のなかはずっと悩んで悲しんでいるだけだった」

 

 

寂しそうに微笑んだ瞬間、アカネはナツメを抱きしめた。力強くもあり、優しくもあった。

 

「アカネ・・・」

 

「あんたが何を言おうがうちは・・・あんたに救われたんや!あんたのやりたかったこと、

 その大きな夢、ぜ~んぶこのアカネちゃんが叶えたる!そんでうちの大活躍を見て、また

 希望は続いていく・・・それでもナツメ、あんたは価値や意味がないんか!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「フーディン!いや、クリフジ!ホンマのところわかっとるんやないか!?ナツメの

 目指す道のほうがずっとずっと立派で凄いことくらい!ナツメは救世主やけどあんたは

 ただの破壊者、教科書にもそう書かれるで、覚えとき!」

 

アカネが涙ながらに叫んでもフーディンは反応しない。代わりに口を開いたのはこの男だった。

 

 

「・・・ああ、アカネ、お前が正しい。わたしもまたナツメにより救われた者の一人、

 エスパーでありながら人の心を読まずに可能性を信じ続けたその愛によって生き返った

 人間だからな。そのナツメが間違っているというのでは困る」

 

「サカキ」

 

「その証明のためにもこのバトルに勝利する!スピアー!」

 

スピアーはおんがえしの攻撃を続ける。フーディンの体力を地道に削っていく。

 

「・・・・・・」

 

「そうだスピアー、これでいい!やつの動きが鈍り足が完全に止まったその時が決着の

 合図だ!とどめはやはりあの技しかない!」

 

最強のおんがえしも、切れ味抜群のいあいぎりも、無数の針が放たれたミサイルばりも

スピアーの必殺技ではない。宿敵を葬るためには最高の技でないと威力が足りない。

 

 

「・・・・・・!」

 

『あ――――――っと!スピアーがこうそくいどうだ!この素早い動き、もはや肉眼では

 追えないぞ!フーディンはどうだ―――――――っ!?』

 

人間の動体視力ではスピアーが何をしているか、どこにいるのかわからない。フーディンで

あってもだいたいの位置しか把握することはできなかった。

 

 

「いけ!ここだスピアー!」

 

サカキの声と全く同時にスピアーがフーディンの正面にいた。そして両手の針が鋭く光り、

フーディンの肉も骨も貫き通す勢いで迫っていった。

 

「死ね―――――っ!!ダブルニードル―――――っ!!」

 

毒が含まれている針ではあるが、毒が回る前にその威力に耐えきれないだろう。全力の

ダブルニードル、相手がこの規格外の力を誇るフーディンだからこそ使えるようなまさに

文字通りの必殺技だった。並のポケモンや人間では殺されたことにも気がつかないだろう。

 

 

『炸裂した―――――っ!!ついにフーディンの最期か―――――っ!!』

 

 

激しい衝撃音と同時に人々の目に映る光景、それはまさに絶望だった。

 

「・・・・・・!!」

 

「どうした?さすがのお前でも動揺を隠せないか」

 

スピアーのダブルニードルを完全に両腕でガード。針は止められていた。

 

『こ、これは・・・・・・スピアーのダブルニードルが!フーディンの完璧な防御に

 よって無効化されている!ダメージゼロだ――――――っ!!』

 

フーディンが『まもる』を使った。そのガードを崩せなかった。

 

 

「ぐっ・・・・・・」

 

「わたしにこの技を使わせただけ誉めてやろう、サカキにスピアー。これまでの敵の攻撃は

 こいつを使うまでもなかったのだから。しかしお前たちの願いは叶わなかった。わたしに

 実力を認めてもらいたいというのなら目的は達成されているがわたしを滅ぼしたい、

 そんな夢は実現するはずがなかった」

 

「・・・・・・」

 

「わたしを超えるトレーナーも、わたしを超えるポケモンも数十年現れなかった。ならば

 わたしがこの世を変えなければならないのは必然!それに歯向かう者どもには容赦なく

 死を与える。それが神より二度目の命を授かったこのわたしの・・・・・・」

 

 

スピアーの針を持つ力が強くなる。そのまま力任せにスピアーを上空に放り投げた。

 

「・・・・・・・・・!」

 

すぐに地上に戻ろうとしたスピアーだったが、身動きが取れない。フーディンの目が

光っているところを見ると、超能力で自由を奪われたようだ。

 

 

「じゅうぶんカントー最強の実力は見せてもらった。もういいだろう。次はわたしの

 必殺技を見せてやろう。それで終わりとしようではないか」

 

 

フーディンが身に纏う禍々しいオーラが、これまで決着に使っていたサイコキネシスは

手加減に手加減を重ねたものであり、本気の威力で襲ってくると告げていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。