ポケットモンスターS   作:O江原K

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第144話

フーディンの本気がついに見られる。とはいえそれを楽しみにしている観客など

誰もいない。スピアーは体の自由を奪われ、宙に浮いたまま動けない。

 

「わたしに逆らう者は誰であっても除き去る。それがポケモンにとって、そして

 ポケモンを愛する人間の世界のためだ」

 

「・・・・・・」

 

「お前たちの反逆もこれで終わりだ。なぜわたしに逆らうかをとうとうその口から

 聞けなかったがもはやどうでもいい。どんな理由があろうが関係ないのだからな」

 

 

フーディンは狙いを定めた。あとはパワーを放出するだけだ。

 

「くっ・・・!スピアー!こちらも『まもる』!」

 

「無駄だ・・・もう遅い。くらえ――――っ!」

 

どす黒い光がフーディンを包む。そしてその闇はフィールドのみならずスタジアム全体を

飲み込んでしまう勢いだった。

 

 

 

「ディストラクション&クリエーションサイコキネシス―――――ッ!!」

 

 

スピアーの防御を突破し、大ダメージが入った。ポケモンのダメージをトレーナーが

共有するのだから当然サカキにも・・・・・・。

 

「ぐはっ!!」

 

両膝をついて吐血した。ポーカーフェイスのサカキが苦痛に顔を歪める。

 

「こんなものでは終わらない・・・愚かなるポケモンとトレーナーよ!最期くらいは

 情けをかけてやろう。寄り添って死ぬがいい!」

 

「い、いけない!あれは・・・・・・!」

 

フーディンがこれまでにも見せた残虐な攻撃、ポケモンとトレーナーを激突させる

危険な流れ。いまのスピアーとサカキには止められなかった。

 

 

「・・・・・・・・・!!」 「がは・・・・・・・・・」

 

 

激しい衝突音と同時にスピアーは仰向けに、サカキはうつ伏せになって倒れた。

 

 

 

 

 

「親父―――――――っ!!」 「サカキさん!」

 

病院で最低限の治療を終えたシルバーとゴールドが、エアームドの背から叫ぶ。彼らに

頼まれてスタジアムに戻したのはリザードンに乗るレッドとエリカだったのだが、

目の前でサカキが無残に倒された姿を見て、連れてきたことを後悔した。

 

「・・・・・・あの人なら怪物を倒せると思った。だけどフーディンはそれ以上に強い。

 このままだと・・・・・・」

 

レッドが何かを決意したような目つきになると、エリカはすぐに彼に抱きつく。

 

 

「レッド、一週間前もこのやり取りはしました。行かないでください」

 

「・・・いや、ここは僕がやるしかない。わかっているさ。一週間程度では僕も

 ポケモンたちもまだまだピークには戻っていない。でも僕には『世界最強』という

 以前の肩書きは残っている。無意味な敗北・・・死にはならないんだ」

 

 

この後の展開はレッドだけでなくエリカもわかっていた。サカキが倒されたとなると、

怒りと悲しみに燃えたサカキの元部下たち、加えてシルバーもフーディンに向かっていき、

そして殺される。シルバーが倒れた後はゴールドが復讐のために戦い、殺される。

ゴールドのために次はミカンやクリスが、その後は・・・・・・。

 

次々とトレーナーたちが挑んでは処刑される。各地のジムリーダーやチャンピオンたちも

挑むだろうがやはり敗れて死ぬだろう。フーディンの策略通りだ。

 

「だけど僕があいつに深手を負わせることができたら未来は変わるかもしれない。いや、

 完敗だったとしても、『レッドが何もできず負けたのなら自分たちがやっても無理』と

 皆が思い留まってくれたらそれでいい。僕一人の命で皆が助かるなら」

 

現時点で世界最強の力があるとはレッドは少しも思っていない。でもその名ばかりの

称号を利用して大勢の命を救おうと決意していた。

 

 

「・・・・・・その考えは揺らがないのですね」

 

「・・・・・・」

 

「ならばわたくしも行きましょう!共に生きると誓いましたがそれだけでは

 不十分です。死ぬときもいっしょです」

 

レッドはエリカを止めなかった。二人で向かおうと決めた。しかし死に向かい

突き進む彼らを止める声があった。地上にいるナツメだった。

 

 

「どんな理由があろうと死ぬのはだめ。特にあなたたちはこれから幸せになるんだから。

 わかっているでしょう?現状では勝ち目がないことは。そばにいるゴールドたちも

 同じこと。命は大切にしないといけない」

 

「ははっ!さっきまで自殺したがってた女の言葉とは思えんな!」

 

アカネは安心したかのように弾んだ声で言う。しかしナツメは続ける。

 

「いいえ、わたしはやがて消えていなくなる。だけどわたしとあなた、それに彼ら

 希望溢れる若い人間は全く違う。どれだけ苦しくても再生できる、立ち上がれる。

 だからいまは我慢して、こらえてほしい」

 

「・・・ナツメ!あんたはまだ・・・」

 

「わたしのことなんてどうでもいい。戦いの行方を見守りましょう。フーディンの

 究極の必殺技の前にはさすがのサカキとスピアーも屈した。審判はいないからバトルの

 決着をコールする者はいない。でもあの様子だと・・・・・・」

 

倒れるサカキはピクリとも動かず、生死すらわからなかった。

 

 

 

 

 

サカキは幼い日にトキワの森で誓った。世界最強のトレーナーになると。彼が考える

最強とはただチャンピオンになるだけではない。ポケモンを利用し悪事を働く者たちを

打ち倒して一掃するのも最強のトレーナーの務めだと。

 

『・・・力もないのに群れになっただけで強くなった気でいる哀れな馬鹿どもが

 こんなに大勢いたとはな。虫けら退治もなかなか終わらないな』

 

『ぐっ・・・強すぎる。お前さんならボスよりも・・・・・・』

 

カントーでポケモンを使う悪党たち、だいたいそのトップは同じ組織に行き着いた。

ならば彼らの言うボス、組織の頭さえ潰せば悪人の数は激減すると考えたサカキは

彼らのアジトに乗り込み、ついにそのボスを倒した。

 

『ば、馬鹿な―――――っ・・・!こんな若造に私が・・・・・・!』

 

『あんたのポケモン、動きにキレがない。技もスピードも全てがダメだ。手下どもや

 武器に頼りすぎてポケモンの訓練なんかサボってたんだろ。死ね』

 

 

遠い後にサカキ自身を追い詰めることになるレッドの活躍と似ていた。ただしサカキが

レッドと違ったのは、このボスを殺害したこと、そして死んだ男が遺した莫大なる

財産と権力が目に映ったことだった。

 

『この金と人脈・・・組織は使えるぞ。利用しない手はない』

 

自らが組織のボスとなった。自分が正しい行いをすれば組織の人間も変わっていく。

ポケモンたちを奪い、利用し、殺す集団は真逆のものへと生まれ変えらせる、最初はそう

考えていたのだ。

 

 

『・・・・・・そうか、研究所も金で転んだか。よくやった』

 

なぜそのサカキが悪の総帥となったのか。理由はいくつかある。簡潔に言うなら、正義が

悪に堕ちるのは簡単だが悪が正義に変わるのは非常に困難で苦労するからだ。壊すほうが再生させるよりもずっと楽で、目に見える成果もすぐに表れる。

 

目に見える、という観点で言うなら金や力はとてもわかりやすかった。しかし最強の

トレーナーという夢の達成はわかりづらい。チャンピオンになればゴールなのか、

何回防衛すればいいのか、世界大会に出場し優勝すべきなのか・・・答えもなかった。

結局サカキは目に見える欲望に心を蝕まれ、楽な道に向かってしまったのだ。

 

『グレン島も我らの手中だ。実験用のポケモンをもっと捕まえてこい』

 

ポケモンリーグの長老たちや大企業のトップもマフィアのようなものだった。彼らと

手を組むことで簡単に富が、名誉が、勝利が手に入る。命令一つで何でもする部下たちも

数百人、数千人と増えていく。最強になった気がした。

 

 

『なるほど・・・確かに。ポケモンバトルの普及につながりますね』

 

『さすがはサカキさん。バトル以外のことは頼りっきりですよ』

 

ジムリーダーに就任すると、表でも政治力を発揮した。ポケモンバトルの腕に優れ、

若くにしてジムリーダーや四天王となったトレーナーたちの無知を利用して、自然と

金儲け主義に移行させた。いろいろ理屈を並び立てても最終的にはサカキの組織、

『ロケット団』が繫栄するようになっていた。カントー最強のジムリーダーとして、

ロケット団の首領として、まさに無敵だった。

 

 

 

『・・・・・・・・・』

 

そんななかで、ヤマブキシティの新たなジムリーダー、ナツメの謎の視線だけがいつも

気になっていた。超能力者で人の心が読めるという彼女は自分の秘密を知ったのでは

ないかと。とはいえしばらく何もしてこなかったので無視することにした。

 

その意味、そしてその後の出来事・・・・・・絶対に安泰だと思われた王国が崩壊し、

最強だと思っていたポケモンバトルで完敗した。すでに人生の半分以上は過ぎた年齢、

償うことなど不可能に近い、多くの罪と失敗。それでもサカキはもう一度最強を目指した。

自分を見限らずにいてくれたスピアーや他のポケモンたちと共に。

 

 

 

 

 

『サカキとスピアー、このままフーディンの前に沈むのか!?』

 

「審判もいない、ギブアップもできないのなら・・・その命が完全に絶たれることでしか

 決着はない。どれ、二人の首を同時に粉砕し終わらせるとしよう!」

 

フーディンがゆっくりと倒れるサカキたちに近づいていく。それを阻止しようと上空から

リザードンが急接近していた。だが、一度はフーディンへの攻撃を指示したレッドは突然

中止させた。後から続いてきていたゴールドたちにも止まるように言う。それと同時に、

フーディンもその場で立ち止まった。

 

 

「・・・・・・こんなことが・・・・・・なぜ」

 

レッドの周りの人間たちが彼に尋ねる前に、サカキの仲間たちが自分を犠牲にしてでも

彼を救おうとする前に、フーディンが口を開いた。問いかけている相手は、もちろん

サカキとスピアーだった。

 

「これは世界最強のポケモンであるわたしが放った最高の技だ。なぜ道を踏み外し愚かな

 歩みをやめないお前たちが耐えきってみせた?」

 

支えあうようにして立ち上がってきた二人を忌々しく見つめる。フーディンの心の内とは

真逆にスタジアムはカントーの帝王の復活を大歓声で喜んだ。

 

 

『な、な、なんと―――――――っ!!戦闘不能は確実と思われたサカキ、それに

 スピアーが再び立ち上がる!しかもバトル続行の構えだ!』

 

「フッ・・・お前の攻撃を受けて生還できた理由はわからぬ。だが・・・戦う理由なら

 ある。わたしが敗れてしまったらナツメが間違っていたことになる。それだけは絶対に

 あってはならない!だからわたしはお前に勝つのだ!」

 

「サ・・・サカキ・・・・・・くん」

 

ナツメの目が輝いていた。しかしナツメは涙を流せない体だ。アカネが彼女の手を握り、

やり場のない気持ちを受け止めていた。

 

 

「ナツメのため・・・なるほど、それなら納得がいく。だがわたしがわからないのは

 スピアーのほうだ。なぜポケモンのための未来を創りあげることに賛同しない?

 そのサカキを見限らずに行動を共にし続けるだけでも謎だというのに・・・」

 

「・・・・・・」

 

何を問われようがスピアーは無言・・・誰もがそう思っていた。

 

 

 

「・・・私の願いはただ一つ!クリフジ、その野望を止めるため!」

 

 

「え・・・?」 「ス、スピアーが・・・」 「喋った!?」

 

鳴き声一つ発さなかったスピアーがついに沈黙を破り、しかも人の言葉を話した。

スタジアムが騒然とするなか、フーディンは顔色一つ変えずに質問を続けた。

 

 

「やはりわたし個人を敵視していたか・・・その敵意、ナツメや他の数合わせどもには

 ちっともなかった。わたしに操られるかわいそうな者として憐みの目すら向けた。

 このわたしをそこまで憎む理由・・・いや、別に言わなくても構わないが」

 

「・・・敵意じゃない。言ったように、野望を止めるために私はあなたを倒す。

 クリフジ・・・史上最強のトレーナーであり・・・そして私のおねえちゃん!

 その間違った歩みをやめさせるために私は戦うんだ!」

 

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