ポケットモンスターS   作:O江原K

146 / 148
第146話

決戦までの最後の一週間、フーディンはナツメと行動を別にしていた。しかし

遠くからその様子を監視し、何をしているかを確かめていた。

 

『ナツメ・・・無価値な真似を』

 

アカネや元ロケット団の女を教え導く姿に疑念といら立ちを隠せなかった。いまから

彼女たちを鍛えるよりも自分自身のポケモンたちへのトレーニングを優先すべきだと

考えたからだ。

 

『そんな者どもの育成・・・我らが世界の頂点に立ちしばらく過ぎた後、物事が

 安定してからでもよいではないか。こんなときにやるべきことではない』

 

フーディンですらナツメが自ら命を絶つ意志を固めていたことを知らなかったので、

なぜいま指導に励んでいるのか理解できなかった。いや、すっかりナツメに傾倒している

彼女たちのパワーアップはまだわかる。自分たちが勝ったとしてもその結果を不服として

各地方のチャンピオンや四天王たちが挑戦してくる可能性がある。戦力は多いほうがいい。

 

問題はそれ以外の大勢、レッドやエリカ、それにワタルたちといった後々味方になる保証は

どこにもない、敵対するかもしれないトレーナーたちすら招き、覚醒を促している点だ。

 

 

『あなたたちは全員新たな力に目覚める資質がある。決して焦ってはならない。いずれ

 その力が発動できたときにわたしが語った言葉の意味をすべて理解するはずだ。

 ポケモンのためなら自分の命すら犠牲にできるその心があれば・・・』

 

『・・・・・・』 『・・・・・・』

 

『それぞれ欠点があり完璧じゃない。それでも絆を深め近づこうとするあなたたちは

 わたしなど簡単に超えていくはずであり、そうでないと困る』

 

 

その場に乱入して力づくで解散させることもできたが、フーディンは何もしなかった。

目的地は同じ、しかしそのやり方が違うナツメと自分のどちらが正しいかを試している

途中であり、暴力で黙らせては負けを認めたも同然だからだ。

 

 

 

 

 

「わたしの間違いを証明したいのなら言葉は不要!この実力差を絆の力で逆転し

 わたしを戦闘不能にしてみせろ、我が妹だったスピアーよ!」

 

フーディンはほのおのパンチを放った。じこさいせいで体力を回復させることも

リフレクターで防御を固めることもせず攻めたのは、もはや回復や防御に時間を割く

余裕はないとわかっていたからだ。

 

「・・・クリフジおねえちゃん・・・いや、世界最強のポケモン、フーディン!」

 

スピアーはそのパンチを寸前でかわし、ミサイルばりを叩き込む。フーディンの肩が

大きく損傷し、バランスが崩れる。しかし被弾を覚悟してフーディンはスピアーに

接近していた。一度はダウンさせ勝利を確信したあの必殺技を出すために。

 

 

「・・・・・・!」

 

『あ―――――っと!攻撃が決まったはずのスピアーの動きが止まったぞ!そして

 フーディンの邪悪なオーラがスピアーを飲み込む―――――っ!!』

 

そして先ほどよりも強く念じ、確実に仕留めにかかった。

 

 

「さあ、わたしが正しいのか、それともお前とサカキが正しいのか・・・この技で

 はっきりさせてやろう!受けてみよ――――――っ!!」

 

「・・・・・・・・・!!」

 

「ディストラクション&クリエーションサイコキネシス――――ッ!!」

 

再びの大技。スタジアムじゅうを飲み込むのではという量の念力を一つにして

スピアーに直撃させた。着弾した瞬間にまぶしい光が発生し、何も見えなくなる。

そのままスピアーが消滅してしまったかと思われたが、光がまだ輝きを失わないうちに

そこから何かが飛び出してきて、勢いよくフーディンに襲い掛かった。

 

 

「・・・何・・・」

 

「ハァ――――――ッ!!」

 

手の針を刃のようにして使い、フーディンの両足のアキレス腱を斬った。技が破られ、

致命的なダメージを受けたフーディンが膝からダウンした。

 

『・・・スピアーが・・・フーディンの必殺技を凌いだ!そして反撃!いまフィールドに

 倒れているのはフーディンのほうだ―――――っ!!』

 

「・・・!い、いけない!これ以上は・・・」

 

ナツメが棄権の意思を示そうとするが、フーディンはそれを手で制した。

 

 

「・・・・・・なるほど・・・人とポケモンの絆が限界以上の力をもたらす。

 意地になって一人で戦おうとしていたわたしは・・・自らが信じ続けた真理、

 夢見た希望すら忘れてしまっていたというわけか・・・」

 

目の前にはスピアー、そしてサカキがいる。決して順風満帆ではなかった二人がいま、

確かに一つとなっていた。戦いの傷と痛みを共有し、そして倒すべき敵を見つめながら

同じ思いでいた。

 

「お前にそのような気持ちを抱かせてしまった人間の筆頭がわたしだ。金や名誉という

 手っ取り早い成果だけを追い求め、お前やスピアーを失望させ続けた」

 

あのサカキが自らの歩みを悔いていた。しかしそれで終わる男ではない。

 

「だからこそこの人生が終わるまでに自ら清算する!命が尽きるまで戦う!真に正しい

 ものは何か、後世に伝えるために―――――っ!!」

 

サカキが言い終えると同時にスピアーがフーディンを空中に放り投げる。そして

全身が光り輝くと、その身体に残っていた針のすべてが合体し、大きな一つの針へと

姿を変えていった。無数のミサイル針やダブルニードルの連射ではなく、それらを

たった一本にすることで、すべてのパワーが集まっていた。

 

 

「ずっと昔・・・お姉ちゃんに勝つと誓ったあの日からの思い、それにお姉ちゃんを

 愛しているからこそその暴走を止めたいという思いをこめて・・・!!」

 

遠い過去からの一途な気持ちをぶつけるために、放り投げられ落下するフーディンの

身体を完全に射程にとらえていた。

 

 

 

「インフィニティ・フューチャー・ニードル―――――――!!」

 

 

 

その針が直撃する直前に、フーディンの視界が変化していた。そうか、これが死の間際に

己の生涯が一瞬のうちに再生される走馬灯というものかとフーディンはぼんやり考えていた。ところがその光景はつい昨日、ナツメたちの様子を遠くから眺めていたそのときの

ものだった。決戦に向けて最後の調整、ジョウトとカントーの力あるトレーナーたちが

見守るなか、ナツメとアカネがバトルをしていた。

 

 

 

『ここや!ミルちゃん!決めたれ―――――っ!!』

 

『・・・フーディン!サイコキネシス!』

 

互いに残り一体。ナツメも本気でアカネを迎え撃っている。ミルタンクとフーディンが

必殺の得意技を放つと、両者ともダメージに耐えきれず、その場に倒れた。

 

『こ、これは・・・!ダブルノックアウト、戦闘不能!よって・・・』

 

引き分けだった。あと少し何かが違えば勝っていたかもしれないというアカネの快挙に

トレーナーたちが駆け寄った。

 

 

『すごいじゃないか!俺たちが誰も勝てなかったあいつ相手に・・・!』

 

『手加減していた感じはない!実力で引き分けたんだ!』

 

皆に祝福され、いつものように調子に乗るものだと思われていた。ところがアカネは

バトルの間の真剣な表情を崩さず、笑顔はなかった。

 

 

『いや・・・まだまだや。この不思議な力があるのに何も使っとらんナツメにまだ

 勝てん、うちのゴールは遠い先や。こんなモンで喜べるか!』

 

『・・・アカネ』

 

『うちは・・・正直この先ポケモン界がどうなろうがいまはそこまで興味ないんや。

 ただ、ナツメに勝つ。うちが生まれて初めて師匠と認めたナツメを超える・・・

 そのためにポケモンたちといっしょに絆を深め強くなり続ける!』

 

サカキが用意するというトレーナー、憎しみをぶつけてくるゴールドや彼の仲間たち。

彼らへの興味はだんだん薄まっていた。己のうちに眠っていた才能を見出し、大事な

ことをたくさん教えてくれるナツメに勝つことこそ、彼女への最大の恩返しだ。

その指導が正しく、語る言葉は皆のためになると明らかにできるからだ。

 

ナツメはポケモンたちを回復装置に入れると、アカネのもとに近づいた。しかしすぐに

彼女に話しかけるのではなく、まずはこの場にいるトレーナーたち全員に向かって話し

始めた。

 

 

『あなたたち、よく聞いてほしい。わたしは今回の騒動を起こすよりずっと前から

 ある一つの夢があった。単純で簡単に思える、しかし実現には長い年月がかかる、

 わたしが幼いころからの願いが・・・』

 

人とポケモンが真に力を合わせ共に生きる世界、ナツメは最初からそれを口にしていたが

フーディンの残虐な戦い方や強引なやり方のせいで本来の意味から遠く離れて理解されて

いた。しかし彼女はずっと揺らいでいない。

 

『わたしが生きている間には不可能だ、遠い未来の話だとばかり考え諦めていた。

 しかしあなたたちのようなポケモンへの純粋な愛情、その命すら投げ出せるほどの友情、

 言葉は通じなくても意思を通わせ同じ夢に向かい進む信頼関係・・・この数十年で

 最も光り輝いていた。だからわたしはいま、このときに動いた』

 

話を聞いていたトレーナーたちの様子が変わった。これは自分たちにかかわる話で、

大事な何かを聞き逃したくはなかったからだ。

 

『あなたたちの時は止まっていた。ジムリーダーやセキエイ四天王として日々の責務に追われる者、誰も来ない山の頂上で偽の楽園を楽しむ者、その彼をいつまでも想い

 毎日涙を流していた者・・・しかしいまあなたたちは動き始めた。ポケモンたちも

 それを理解し以前よりも動きがよくなり機嫌がいい。これならあと十年もすればきっと

 このカントーとジョウト、そして世界中へと希望は広まっていく・・・わたしの死後に

 果たされる夢だ、そう思っていた』

 

『し、死後?それはどういう意味だ?』

 

『いまは誰もわたしを超えることはできない。所詮偽物に過ぎないわたしの野望や暴力、

 狂気に絶望、この超能力や長年の経験・・・それを打ち負かせない限りは無理だ。

 だからわたしがいなくなった後のこと、そう結論していたが・・・・・・』

 

 

ここでナツメはアカネ、そして元ロケット団の女とウパーのほうを見た。今のところは

まだ彼女たちだけが正式な仲間、『リニア団』のメンバーだった。

 

『以前にも話したかもしれないが、わたしの幼いころはリニア計画など夢のまた夢、

 きっと実現しないだろうと思われていた。百年とか二百年は先の話だと。ヤマブキと

 コガネとの間があんなに短い時間で・・・待ち望んではいたが非現実的だと』

 

このときトレーナーたちはまだナツメの秘密に気がついていない。見た目通り二十歳か

そのくらいの年齢だと思っているので、その話に疑問と矛盾を感じていた。しかし話を

遮ることはせず、彼女の言葉を待った。

 

『それがいま、当たり前のものになっている。夢のリニアは夢ではなくなった』

 

ロケット団のボスだったころのサカキが金儲けのため強引な方法で計画を進め工事を

完成させたのは事実だ。しかし彼が止まっていたリニア計画の時を動かしたのも事実、

彼がいなければいまだに皆にとって漠然とした夢だった。それをナツメは知っている。

サカキにはそれだけの力があり、正しい方向に向かえば素晴らしい未来が開ける。

レッドに敗れ姿を消していた彼が再び現れ、彼に自分を倒してもらうことを期待していた。

 

ところが、ナツメですら読めなかった希望の星がいた。

 

 

『アカネ、わたしたちのチーム名をリニア団としたのは正しかった。あなたはわたしの

 想像以上に速いスピードで成長し、進化し、夢を見せてくれる。あと一歩でわたしを

 倒すほどにまでなるとは出会った日には想像できなかった』

 

『・・・・・・』

 

『わたしは確かに見ることができた。ポケモンと人間の真の平和が実現する世界、

 その片鱗を。いま、わたしはほんとうに感動して・・・・・・』

 

まさかナツメが泣いているのではとアカネはその顔を見たが、涙を流してはいなかった。

しかし彼女が涙を流せない体だと知ったのは翌日で、もしできるのであればこのとき

ナツメは・・・・・・。

 

 

『いつかあなたたちがわたしの想像もできない形で若い日のわたしやフーディンが願った

 夢が実現する・・・そのときがくるという希望を抱いて消えていくことができる。

 どうか数多くの悲しみや苦しみに負けずに戦い抜いて最後まで・・・・・・』

 

 

そこまで言うと、ナツメは超能力を用いて自分の言葉の数々に関する皆の記憶を

消してしまった。ナツメとアカネが引き分けた、それだけのことしか残らなかった。

 

『・・・・・・・・・』

 

 

 

 

しかし隠れていたフーディンだけはナツメの言葉を覚えていた。それを思い出したのは

まさにいま、スピアーの技を受けている瞬間だった。なぜ走馬灯が自分ではなくナツメの

出来事だったのか、フーディンは気がついた。自分も不可能に思える夢を抱き、それを

無理やり実現させるための暴走を誰かに阻止されることで、未来に希望を抱いて敗北し、

死ぬことができる・・・無意識のうちに心の奥底で願っていた。

 

 

(そうか・・・あいつの言う通り、わたしたちは同じだったから・・・・・・)

 

 

 

最後の針によって貫かれたフーディンが地に叩きつけられ、沈んだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。