ポケットモンスターS   作:O江原K

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第147話 純情

暴虐の限りを尽くしてきたフーディンがとうとう地に沈んだ。サカキとスピアーは

追撃せずにその様子をじっと見ていた。もし倒しきれずに反撃にでもこられたら

サカキたちに打つ手はもうない。ただ、それだけの力を込めた最後の大技だったのだから、

バトルはもう終わったと確信していた。

 

「・・・・・・・・・」

 

ところが、しばらく倒れたまま動かなかったフーディンがゆっくりと起き上がった。

 

 

「ま、まずい!親父、急いでとどめを!」

 

「サカキ様!やつは何をしてくるかわかりません!早く・・・」

 

そして一歩ずつスピアーに迫る。それでもサカキは何も指示を出さず、スピアーも動かない。

 

「・・・もう動けないのはあちらの方!まさかここから逆転が!?」

 

「・・・」

 

元ロケット団の女とウパーはまだ勝負は続いていると興奮した。しかしナツメは

その言葉に反応せず、ただじっとフーディン、そしてスピアーを見つめている。

 

次の瞬間、ナツメに限らずこの場にいるすべての者が不思議な光景を目にした。

フーディンがスピアーの目の前に立ち、その身体に触れたそのときだった。二体の

ポケモンが姿を消し、二人の少女がそこにいた。

 

 

 

「・・・アイ・・・あなたはほんとうに素晴らしい!何があってもサカキという

 トレーナーを信じ、真の絆を手に入れた。それがもたらす限界を超えたパワーで

 わたしを倒し・・・数十年前のあの日の願いを叶えてくれた。わたしに勝って

 みせるというあなたの誓いがとうとうここに果たされた」

 

「・・・・・・」

 

「わたしの愛する妹、そして最強のポケモン・・・ありがとう」

 

フーディン・・・いや、歴史上最も強いトレーナーだったクリフジ、そして最も強い

ポケモンとなった彼女は目の前の妹アイを優しく抱きしめ、そして足元から崩れた。

うつ伏せに倒れ、起き上がる力はもうない。まさに瀕死状態、戦闘不能だった。

 

サカキが右腕を高く上げ、それが決着を告げる合図となった。

 

 

 

『バ、バトル終了――――――っ!!フーディン、ついに轟沈――――――っ!!

 セキエイ史上最大の戦いとなった一連の騒動、その決勝戦の舞台で最後まで生き残り

 勝者となったのはサカキだ―――――――――!!』

 

スタジアムから大歓声が沸き起こる。シルバーは真っ先にサカキに駆け寄る。

共に戦ったサカキの部下たちは涙しながらこの勝利に安堵し、そして歓喜した。

 

 

「・・・・・・」

 

一方で敗れたナツメ。アカネやワイルド・ワンズに支えられながらクリフジのもとへ

向かい、倒れる彼女に目線を合わせるように自らも座った。

 

 

「・・・ナツメ・・・・・・」

 

「あなたは実力で負けたわけじゃない。わたしがあなたに見限られるような弱い人間で

 なかったなら共に戦えていた。あっちは二人で力を合わせたのにあなたは一人で

 迎え撃った・・・こんなの負けたうちに入らない!」

 

「ふふっ・・・まるで子どもの泣き言だな」

 

「どこかの誰かに心は子どものまま不老の身体にされたから仕方ないでしょう」

 

顔を見合わせて互いに微笑んだ。亀裂が入りかけていた二人の関係はすでに元通り、

それどころかいままでより固いものになっていた。

 

 

「やっとわたし・・・いや、わたしたちを負かす存在が現れた。これからじっくり

 鍛え直してリベンジといきたいところだが・・・それは叶わない夢だな」

 

「ええ。しかし罪に問われるのはこのわたし、あなたじゃない」

 

ここで皆は思い出した。フーディンとナツメがセキエイポケモン協会の長老たちを

殺害していたこと、それ以外にも多くの血を流していることを。そして法律では

トレーナーの意思によりポケモンが殺人などの重い罪を犯した場合、トレーナーに

全ての責任があるとされていることも。

 

国際警察の精鋭を先頭に、地元の警察も一団となってナツメに迫った。

 

 

「・・・ナツメ!」 「ナツメさん!」

 

これまでの戦いでの敵味方問わず、ナツメの名を呼ぶトレーナーたち。長老たちが

間違いなく腐りきった悪人だったとしても、殺していい理由にはならない。逮捕されたら

確実に死刑だ。そして彼女は自らの死を望んでいる。

 

「・・・あなたは優れたポケモントレーナー、このまま捕まえるのは惜しい・・・が、

 あなたが死ぬことでしかこの騒動の収まりはつかないでしょう」

 

「ええ、その通り。わたしの役目はもう終わった。間違った道を歩んでいた人たちは

 みんな正しい道に戻れたようだし、またセキエイが同じことを繰り返そうとしても、

 それを止めるトレーナーたちがたくさんいる。この一月、後悔なんて残らないくらい

 楽しめた・・・」

 

そのまま警官隊のもとへと歩きだす。ところがその身体がだんだんと透けていき、

彼女に触れようとした者たちの手は空振りした。

 

 

「でも・・・死ぬときと場所はやっぱり自分で選ぶことにする。そのときはまた

 迷惑をかけるかもしれない・・・いや、なるべくそうならないように努力する」

 

「ナツメ!お前はまだ・・・」

 

「そういう病気だからね、仕方ない。ただ、いまのわたしは希望と喜びに満ちている。

 わたしの努力や超能力は無価値だった、それでも願った通りの未来が見えること、

 あなたたちに感謝する。ありがとう」

 

 

にこりと笑い、やがて完全に消えてしまった。ただ、消える寸前にこの場にいる皆が

ナツメのそばに彼女のポケモンたちの姿を見た。すでにポケモンセンターに

搬送されているのでここにいるはずはない。幻だった。

 

 

「・・・・・・まあ、しばらくはやつが死ぬことはないだろう」

 

「当たり前や。ナツメがポケモンたちを置いていなくなるわけがあるかいな」

 

本人は二度と公の場に姿を現すつもりはないだろうし、友となった者たちにも会わない

気でいるだろう。しかしこれが最後の別れではないと皆は信じていた。

 

 

「さて、レッド君、きみはどうする?誰かに負けてセキエイのチャンピオンの座を

 失ったわけじゃない。もう一度頂点を目指すか?」

 

「・・・いつかは。しかしいまは別の夢があります。海外のポケモンリーグを転戦して、

 どれだけやれるかを試したい・・・エリカといっしょに」

 

チャンピオンではないからこそできる自由な挑戦。レッドの意思は固かった。

 

「そうか。きみとももう一度本気で戦ってみたいからな・・・わたしが年老いて

 今度こそ完全引退、そうなってしまう前に帰ってきてほしいものだ。そしてこれは

 他のリーグのトレーナーたちにとっても残念なニュースとなったな」

 

「ええ。彼らはレッドの前に完敗し己の弱さを知ることになるのですから。レッドこそ

 フーディン・・・いや、伝説のトレーナー、クリフジを超える存在です。史上最強と

 誰もが認める活躍を見せてくれます」

 

エリカの言葉にサカキが、そしてクリフジとアイも微笑んだ。いつかほんとうに

自分たちを超えてくれると思うと楽しみで仕方なかったからだ。しかしこの発言に

嚙みついた者もいた。

 

 

「・・・その選択は正しいですね。セキエイに残っていれば世代交代を実感させられる

 ことになっていましたから。ゴールドさんのいないところで戦っているうちは自分が

 世界最強だと思い込みながら生きていられますもんね」

 

「・・・は?」

 

ミカンの言葉をエリカは聞き流すことができなかった。互いに自分の愛する男が

最強だと疑わないのだから衝突は時間の問題だった。

 

「神と呼ばれるポケモンを二体も使ってナツメに敗れたトレーナーが・・・最強?

 最強という言葉の意味を理解していないようですが・・・」

 

「そちらのレッドさんも今回は弱いトレーナーを一人倒しただけじゃないですか。

 史上最強どころか現時点のトップ10すら眉唾物ですね」

 

二人とも笑顔を崩さない。しかし怒りが頂点に達しているのは明らかだった。

 

 

「・・・決着をつけましょう!今すぐに!」 「タッグバトルで!」

 

 

レッドとゴールドは巻き込まれた。しかしこの新旧チャンピオンも、相手に興味を

持っていたことは事実。今すぐというのは無理でも、数日以内に対戦できると

いうのなら願ってもないことだった。

 

「・・・・・・」

 

「やりましょう。どちらが強いか、決めましょう」

 

 

こんな些細なことでビッグマッチが決まってしまった。ただ、物事の始まりというのは

案外単純だったりする。

 

「フッ・・・わたしも最初のきっかけは・・・トキワの森で出会った少女に自分が

 最強になると誓った、青い小僧の初恋だ。それだけでこの年までやってきた」

 

「それを言うなら私たちもそうだ。わたしは妹に己を超えてもらうため、アイはわたしを

 超えるために姿や名前を変えても生き続けてきた」

 

フーディンとスピアーも今日が一つの区切りとなった。ただ、命を賭したバトルに

共に生き残ってしまった以上、これも一つの運命と受け入れた。

 

 

「ナツメは早く逝こうとしているがわたしたちは違う。この永遠の命をこれからも

 ポケモンと人間が真に手を取り合って生きる世をつくるために用いる」

 

「ただし裏方として、暴力を使わずに。きっと長い仕事になる」

 

今を生きる世代が中心になって変えていかなければ意味がない。フーディンたちが再び

介入しなければならないほど人とポケモンの仲が険悪な状態に陥らないように努力する、

トレーナーたちはそれを思いに留める必要があった。

 

 

「ま、うちより弱い連中が集まったとこで前座にしかならん。せいぜい頑張って

 盛り上げてくれや」

 

「・・・・・・お前も倒してやるさ。そして・・・・・・」

 

ゴールドはアカネに何かを言いかけた。しかし二人が必要以上に接触するのを恐れた

ミカンや、今度こそ文句のない勝ち方をすると誓うシルバーによって遮られた。

 

「ゴールドさん!いまはレッドさんたちとの勝負に集中するべきです!」

 

「そいつの相手はオレがやる。ポケモンたちとの真の絆を知ったオレならこいつを

 踏み台にして・・・ゴールド、お前に挑戦してやる」

 

若いトレーナーたちの間で火花が散る。それでも彼らに憎しみや敵対心はない。

エリカとミカンのところはやや怪しいが、バトルが終わればもとの良好な関係に戻る、

そんな予感がした。それがポケモントレーナーだ。

 

 

「・・・彼らの姿を見てもう安心だと身を引くべきなのだろうな。しかし・・・」

 

サカキは輪の中に入っていった。せっかく一度は挫折した最強を目指す夢、その炎が

再び蘇ったのだから、これで終わりではつまらない。ここまできたら一生涯それを

目指し続けるのもいいだろうと。

 

 

 

「・・・・・・わたしたちが思っていた以上に・・・・・・」

 

「未来は明るいね、お姉ちゃん」

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