ポケットモンスターS   作:O江原K

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第15話 ジムリーダーの資格

 

ハヤトの口から告げられた、ジムリーダーの地位からアカネを更迭するという計画、

しかもチャンピオンのゴールドが主導になってそれを行っているという事実。

 

「・・・お前・・・そんなことをしていたのか?確かにカントーにもあんまりやつの

 いい評判は聞こえてこなかったが・・・・・・」

 

ゴールドはグリーンの問いに答えず、視線も合わさなかった。彼がそのような

反応をするのは稀なことだ。代わりに隣にいたミカンが話す。

 

「ええ、ジョウトのジムリーダーの会合では話が進んでいました。それに、

 あたしも賛成ですから。ゴールドさんの判断は正しいです」

 

温厚で誰にも優しいミカンですらそうなのだ。そう思うとカントーのほうは

平和なものだとグリーンはほっとしてしまうほどだった。エリカとナツメが

この度騒動を起こしており現在進行中なのでその平和ももう終わってしまうのだが、

それでもこれまで何事もなかったことに心から安堵していた。

 

 

 

ジョウトのジムリーダー、それに加え四天王とゴールドも参加して行われた

半月前の会議で、ゴールドは皆の前で言った。アカネはジムリーダーに

ふさわしくないので解任し、新たな者を選出しすぐに就任させるべきだと。

 

『もはや見過ごすことはできません。ぼくはチャンピオンとしての権力や特権を

 振りかざすことは一切考えていません。ですがこのことに関してだけは

 皆さんに強くお願いします。どうか賛成してください』

 

隣にいたワタルは今日のグリーンと同じような表情でいた。まさかゴールドが

ここまで強い意志を持って一人の人間を排除しようとしているとは。共に

悪事を働くロケット団と戦ったこともあり、彼が正義感に満ちた少年であるのは

知っていたが、あの犯罪者たちに向けた敵意をアカネに対しても抱いているのだ。

よほど耐えかねることがあり、我慢の限界に達したのだろうと判断した。

 

『わたしは賛成ね。小さい子供じゃないんだからあの負けず嫌いと往生際の悪さは

 見苦しいわ。恥ずかしくないのかしらね』

 

フスベジムのリーダーであり、ワタルの従妹でもあったイブキが同意した。

とはいえ彼女もすんなり負けを認めなかったりする一面もあり、誰も口には

出さなかったが、『お前が言うな』という空気に満たされていた。

 

『あ、あたしも賛成です。ゴールドさんの言う通りだと思います、はい』

 

ミカンもすぐにゴールドの側についた。実は彼女はゴールドのことを

人間として、また男として意識していたので、彼の言うことにはたいてい

同調していた。もしこの件がゴールド以外から出されたものであったならば

持ち前の優しさで反対の立場を示していたかもしれない。四天王イツキ、

またヒワダジムのツクシも賛成の意思を示した。一方で、

 

『う~ん・・・もうちょっと見てやるべきじゃないかな?アカネちゃんは

 頑張っているよ。その頑張り方が少し間違っているだけで・・・あれだけ

 熱意に満ちているんだ。その将来性を潰しちゃいけないよ』

 

エンジュのジムリーダー、マツバは穏やかに自分よりも若き者たちを諭す。また、

 

『ウム。やめさせるのは簡単だが、それではあの子のためにもならない。

 我らも互いに教えあい学んでいくべきだ。我らが指導者として無能であったと

 いうことがあってはならない。早まった決断はしないことだ』

 

最年長、チョウジジムのヤナギ老人もマツバに続き様子を見るべきだと語った。

その後もタンバジムのシジマや四天王のキョウといった、年長の者たちは

ゴールドたちの主張に簡単には同意しなかった。彼らにとってアカネは

娘のような年齢であり、よくない行いをしているのは知ってはいたが、

再教育を施すことで大人になってほしいというのがその願いだった。

ただ罰を与えるだけではなく、これから彼女がより成長するためにどうすべきかを

考えていた。そんななかで、ハヤトが席を立ちあがり大きな声で意見した。

 

 

『何を甘いことを言っている。そうやって好き放題させてきた結果があのザマでは

 ないのか!現に今日あいつは何をしている。この会合に来てすらいないじゃないか』

 

地元のラジオ放送にレギュラー番組を持っているとのことで、アカネはそちらを

優先してこの日は欠席していた。今日に始まったことではなかった。

 

『おれたちはみんな厳しい訓練と試験の末にジョウトでたったの八人、

 それ以外の地方を合わせても決して数の多くないジムリーダーという

 立場に選ばれた。一般のトレーナーたちの模範となり指導者として

 ふさわしいと認められるまでにどれほど苦労したことか!』

 

『・・・・・・』

 

『なのにあんなやつがおれたちと肩を並べていることだけでも許し難いのに

 下劣の極みのような言動を続けている。おれたちまで同じ目で見られるのは

 もう耐えられん!おれの父さんが現役だったとしてもあいつを許しはしない。

 おれも賛成だ、ゴールドくん!あいつを追放しようじゃないか。

 すべてを失わなければ己の罪深さを後悔しないだろうからな』

 

 

結局この日の会合では意見はまとまらず、終わるころには険悪な空気になってしまった。

ただ、ゴールドは強い意志を曲げずに、次に集まった時には最終的な結論を

必ず出すことにすると宣言した。それはポケモンリーグのルール改正の調印式の後と

され、投票権のある者は必ず賛成か反対のどちらかの立場をとるように迫った。

 

 

 

 

「ふふふ、あんな彼は初めて見た。皆驚いていたよ。しかしつくづく運のいいやつだ。

 本来ならこの式典の後に正式にお前を更迭することになっていただろうからな」

 

「・・・こうてつ・・・はがねのことを言うとるのか?どうしていま?」

 

アカネが無知を晒したことにハヤトは失笑した。アカネの頭の中には

ハガネールが動き回っているだろう。本来ジムリーダーであれば高い教養も

兼ね揃えているのが常だが、アカネの場合のみそれが必要なかった理由があった。

 

 

「そもそも最初からお前は運がいいだけだったんだ。あれは協会の愚策だった。

 コガネシティの小さな大会、しかも少年少女限定とかいう大会で優勝した

 お前をそのまま一気にジムリーダーにまでしてしまったのだからな。

 確かにあの時は早急に新しいリーダーが必要であったうえ、信頼回復や

 注目集めのためにはお前みたいなやつを据えるのも一つの手では

 あったが・・・本来ならお前なんか天地逆になろうが筆記試験を

 通過できるはずがなかったんだ」

 

「確かセクハラで辞めさせられたな、うちの前のおっちゃんリーダーは。

 しかしその絶好のタイミングで現れたうちはまさにポケモン界の希望の星、

 そしてこの豪運は天に愛されている証ってわけや」

 

「しかし今日お前を特例で抜擢したポケモン協会を裏切ったのだからお前はとことん

 自分勝手な人間だ。やはりジムリーダーを更迭されて当然の人間だったと

 いうことだ。さて・・・もうそろそろいい頃合いだろう」

 

 

ハヤトは突然口笛を吹いた。するとそれを聞いたピジョットが空高く舞う。

防戦一方であったピジョットだったが、この試合一番のキレのある動きだった。

 

「ま~たお空に逃げるんか。何がいい頃合いなんや。あんたの負けがか?」

 

「底なしの馬鹿が・・・おれは初めに言ったはずだ。お前なんかとは

 話をするのも嫌だから速攻で終わらせてやるとな。なのにここまで

 付き合ってやったことに違和感はなかったのか?」

 

「いちいち覚えてられるかい、あんたごときの言った下らんことなんか」

 

ハヤトはもうアカネの言葉に一々反応するつもりはなかった。この時点で

彼には確かに勝利への道筋が見えていたからだ。まずはその第一段階だ。

 

「くらえ――――っ!!そらをとぶ攻撃――――っ!!」

 

「おっ、おっ、おっ!?不意打ちかい!ピーちゃん、避けたれ!」

 

ピジョットが猛スピードで急降下してきた。ピクシーはそれをかわして

反撃しようと試みたが、ピジョットのほうが速さに勝り、翼で、そして

全身を使ってピクシーにダメージを与えた。ピクシーが捕まえてやろうと

腕を伸ばしても再び空に舞い上がる。連続攻撃の構えだ。

 

「ピジャ――――!!」

 

「ピッ・・・ピ―――ッ・・・」

 

先ほどまでとは違いピクシーのほうが息切れしている。これでは攻撃を

うまくかわすというのは難しいだろう。ハヤトはすでにこのまま勝負を

決める『勝利の方程式』に入っていたが、気を緩めたりはしない。

アカネの反撃の可能性がある限りは様々なアクシデントや偶然の出来事を

警戒しつつ、パートナーと共に確実に勝利へ突き進む。

 

「まさか・・・スタミナ切れ!?こんな早く・・・」

 

「お前はさっき守ってばかりでは疲れると言っていたな。それは攻撃する側も

 同じだ。ずっと攻勢だったのに決めきれずにいたら攻め疲れするのは当然!

 ここからお前たちは何もできず敗れ去るのみだ――――っ!!」

 

ハヤトの声と共にピジョットも勢いよくピクシーに襲いかかった。

目にもとまらぬ速さで襲いかかり、確実にダメージを蓄積させていく。

 

「ジョワッ!ジョワッ!」

 

「ピッ・・・ピィッ・・・」

 

ピクシーが大きくよろめいた。どうにか倒れまいとしているが休む間も

与えてくれない敵の連続攻撃の前に体力も気力も奪われていく。

そしてついに片膝が地に着いた。だがその瞬間を待っていたのはアカネの

ほうで、再度主導権を取り返すために身を乗り出して指示を出した。

 

「よーし、ちょうどいい感じに弱っとる。これなら効果バツグンが狙えるで!

 ピーちゃん、あの澄ました鳥野郎をメロメロにしたれ―――っ!」

 

「ピッ・・・ピピッ、ピィィ~~~ン・・・・・・」

 

上目遣いでピジョットを誘惑する。自分がか弱い乙女であることをアピールし、

これ以上傷つけるつもりなのか、と潤んだ瞳で訴える。それまでのバトルでの

汗や傷もまた効果を高める道具だった。そして最後に色気を出してダメ押しだ。

 

「どうや!これだけやって落ちなかったオスポケモンは・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

しかしピジョットは白けていた。全く効いていない。当然ハヤトも同じ反応だった。

 

「ア、アホな!どうなっとんねん!全然効果ナシやんけ!」

 

「フン、性懲りもなくくだらない戦い方だ。お前らクズどもの戦法への

 対策など毎日の訓練ですでにバッチリなんだよ。残念だったな。

 そんな色気程度でこのピジョットが崩せると思うな」

 

「対策・・・!?ま、まさか・・・アレをとったっていう話かい!つまり金のた・・・」

 

「・・・それ以上は言わなくていい。まったくとことん下劣な女だ。去勢なんか

 していない。通常のバトルのためのトレーニングに加え精神修業を欠かさなかった

 おかげだ。おれもポケモンたちと共にそれを毎日続けてきたのだ」

 

厳しい鍛錬が本能を克服し、戦うためのポケモンとしての心を完成させていた。

ハヤトもまた余計なことに気を奪われないように、精神力を鍛え、磨いた。

思わぬ敵の挑発や予想外の行動にも動じずに対処できるようになっていた。

 

 

「そう。誰の目にも留まらない、褒められもしない地道な努力と訓練こそが

 本物の強さを、そして与えられし立場にふさわしい人格を完成させる。

 そんなものとは無縁に気楽に生きてきたお前にはわかるまい」

 

ハヤト自身、ジムリーダーになるまでも相当の苦労をした。早朝から日暮れに至るまで

ポケモンバトルの修業をしているのに日に数時間は机に座り勉学に励んだ。

彼が尊敬してやまない父のジムを継ぐとはいえ試験が免除されるというわけでは

なかったからだ。それでもハヤトは求められる以上の技量を、知識を求めた。

父の名を、そしてジムリーダーという立場に恥じないような人間になるために

青春のすべてを費やしたのだ。そんな彼であるのでアカネみたいな者を

決して許せないという思いは人一倍強かった。

 

 

「お前のことを長い目で見てやろうと言う寛大な方々もいたが、おれはそれには

 猛反対だった!そしてチャンピオンも同じ考えだ。さあ、もういいだろう。

 お前はこの敗戦でもうジムリーダーではいられなくなるのだ。観念しろ」

 

「・・・・・・なるほどなぁ。ようやく話がわかってきたで。あんたらはうちを

 追い出したかったんやな。まあそれならもうそれでエエわ。別にうちはあんたらや

 チャンピオンのあのガキに認められたくてリーダーやってたんと違うわ。

 いい機会や。このアカネちゃんはジムリーダーなんかにおさまる小さな器や

 なかったんや。もっと遥かな夢へと続く道を歩めってお告げかな?」

 

 

不遜で傲慢な態度を崩さないアカネ。対面するハヤト、そして戦いを見ている

ゴールドは特に激しい怒りに満たされた。しかしそれではアカネの思うつぼだ。

 

「ハヤトさん!そいつの言うことなんか気にしないで予定通りのバトルを・・・」

 

ゴールドが画面越しに叫んだ。するとその声が届いたようだ。意外なことに

ハヤトの口元は笑っていた。その目は全く笑っていなかったが。

 

「安心しなよ、ゴールドくん!確かにおれはもうこいつ相手に冷静ではいられない。

 でももう問題ない!戦いはすでに最終局面を迎え、おれはもはや指示を出す

 までもないのだから。勝敗はいま・・・決した!」

 

ついに勝利宣言が出た。ゴールドもその理由を察し、数回深く頷いた。

隣にいるグリーンとミカンにもハヤトの自信の裏付けを説明した。

 

「さすがはハヤトさんだ。全てが計算づくだったんだ。この長期戦も、口論も。

 あのピジョットの体を包み込む光を見ればわかります!」

 

「おお・・・!あの技は!」

 

はじめは何もわからずにいたアカネも、次第に輝きを増すピジョットが

これまでよりもずっと高く舞い上がっている姿に気がつき、目を大きく見開いた。

 

「こ・・・これは・・・!これはアカン!」

 

「もう遅い!この戦いの間ずっとこの時のために力をためていたんだ」

 

ハヤトは息を大きく吸う。このバトルでポケモンに命じる最後の技名だ。

高く高くにいるピジョットと目が合ったような気がした。そして叫ぶ。

 

 

「くらえ――――っ!!ゴッドバード―――――っ!!」

 

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