ポケットモンスターS   作:O江原K

22 / 148
第22話 暴虐の食物連鎖

 

太陽が沈み、ナツメとアカネのバトルが始まった頃―

 

セキエイ高原のポケモンリーグではトレーナーの頂点を決めるだけではなく、協会の

本部がそこにはあった。ポケモンに関する全てのことはここで扱われ、また

決められている。勤める大勢の職員たちもポケモントレーナーであるが、そのトップ、

会長をはじめとした『長老』と呼ばれる五人はいずれもポケモンを所持しておらず、

従ってそれに愛情を抱くこともなかった。あくまで金のなる木とみなしている。

 

そのような者たちが権力を独占し、カントーとジョウトの全てのトレーナーから

多かれ少なかれ金を巻き上げ、ポケモンの未来を決めていた。誰も彼らに反論はおろか

意見を述べることすらできず、彼らに比べたらチャンピオンなど何者でもない。

たかがトレーナーの一人に過ぎないのだ。この日も彼らは会合という名目で

集まっていたが、交通費と夕食代は今日の分だけで500万円以上が経費から支払われた。

 

 

「さて、皆さま。今月も最高収益の更新です。このバブルはもう数年は続くと思われます。

 加えてモンスターボールの値上げや有料のスクール卒業を義務化する今回の

 改正案により更なる増収は確実かと・・・」

 

「あとはポケモンセンターの有償化と公式戦の入場料を数十円上げること・・・

 それを推し進めていきたい。これまでが良心的だったのだ。それでもトレーナーたちは

 文句も言わずに従うだろう。頂点に立ち富を得たいという者どもは増える一方だ。

 やつらがたとえチャンピオンの座に君臨し何十回防衛しようが我らからすれば

 子供の小遣いのような額しか得られないというのにな・・・」

 

物事はすべて順調に進んでいる。それを妨げようとする者たちがいようと問題ではない。

 

「ところで昨日の式典を邪魔した女どもの件はどうしますか?放っておいても

 平気だとは思いますが何もしないというわけにもいかんでしょう」

 

「うむ・・・サカキ君がうまくやってくれているようだ。しばらく姿をくらまして

 いたようだが再び姿を現したということは金が尽きたのかな?金儲けの機会を

 与えてくれるのはありがたいね。我々のビジネスパートナーとしての彼は

 頼もしかった。表でも裏でもあれほどの力を持つ男はそうそういないよ」

 

この五人の長老たちはサカキの正体を知っていた。そして彼と結託し私腹を

肥やしてきた。ポケモン界が彼らの思い通りになるためにサカキは裏でロケット団を

使い対抗する者たちを屈服させ、また表ではジムリーダーたちをはじめとした

他の影響力のあるトレーナーを説き伏せ、自分たちの操り人形としたのだ。

 

『うん・・・サカキさんがそう言うのならきっとうまくいきますよ、なあみんな!』

 

『そうね。私たちはポケモンバトルなら一流だけど、こういう頭を使うことだけは

 どうしても弱いからいつも助かるわ。私も空いた時間で勉強したいけれどつい

 ポケモンのことばかり・・・まあしょうがないわよね』

 

こうしてサカキはカントーの、また他の地方のリーダーたちをもバトルの実力、

そして論戦で圧倒してきた。彼に勝とうとする者たちは皆返り討ちに遭った。

そのサカキであっても一人の少年、後に伝説の存在としてその名を知られる

レッドに敗れ、自ら去っていった。そのとき協会の中枢はサカキの失踪を

非常に嘆き悲しんだが、三年もすれば自分たちだけでも彼がいた時以上に

効率よく、また狡猾で悪辣に金と権力をかき集め、積もらせていった。

 

「いまさら彼の力はもう必要ないだろう?今回の騒動の件で私たちに再び擦り寄り

 媚びを売ろうとしているのだろうが・・・彼との蜜月はすでに終わっている」

 

彼らはわかっていなかった。サカキが行動を起こしたのはあくまでポケモンを

愛する心から来ているということを。そのような感情を抱いたことがないのだから

仕方がないのだが、サカキのほうもすでに協会と手を組む気など毛頭ない、

その真実に彼らは至らなかった。

 

 

「しかしあの五人の女・・・ひょっとしたら私たちの弱みを何か握っているから

 あのように強く出ている、その可能性はあるのではないでしょうか?密かに

 絶滅寸前のポケモンを海外に売り飛ばしたりポケモンの毛皮や肉を使って衣服や

 芸術品としている・・・それを公表されたら私たちといえども・・・」

 

するとここでこれまで無言を貫いていた会長が口を開いた。齢八十を超える、

ポケモン界はおろかこの国をも動かす力を持つ大物が他の者たちの不安を一蹴する。

 

「・・・・・・かつて・・・似たような記事を書いた若い記者がいたな。彼は今

 どうしている?また・・・我らを一時期張っていた警察・・・やつらは?」

 

協会の腐敗を指摘した者たちはこれまでもいた。しかしそれらは憶測や妄想に

過ぎず、ポケモンバトルや協会の評判を下げようとする者たちが出まかせを

広めようとしているだけだという認識が世間に広まっていた。

 

「はっ、その記者ならば今は・・・もはや何もこの世に残ってはいないでしょう。

 海のポケモンたちの餌となりましたから。彼の失踪後すぐに家族もまた不幸な

 事故によりすでにいない・・・死人に口なし、とはこのことですよ」

 

「警察への根回しも完璧ではありませんか。上層部を金で買収し、現場の二、三人の

 巡査や刑事を消すかわりに天下りを約束する。それで事は終わっています。

 すべてはあなたが命じたことではありませんか、会長」

 

「はっはっは!そうだ、そう。彼らはいなくなった!我らに傷の一つもつけられず!

 ではこの度も同じようにすればよいだけの話だろう。なあ、どうすればいい?」

 

この場にいる誰もが醜悪な笑みで、五人の女たちをどう扱うべきか意見を交わしあった。

 

「当人たちをいきなり狙うのはまずいでしょう。初めはその自宅やジムに車を

 突っ込ませるか全焼させておけばそれで終わるかもしれませんよ」

 

「若い女たちだものな。すぐに心折れるだろうがもしそれでも意地になって抵抗する

 ようであれば・・・彼女たちの家族かポケモンを始末しよう。そうなってはもう

 ポケモンバトルどころではない。泣きついてくるだろう」

 

九日後に迫る勝負の場に立たせる気など全くない。もっとも、サカキやナツメが勝手に

ポケモン界の命運を決する戦いなどと言っているだけで、この長老たちが健在である

限り、誰も好き勝手に振る舞うことは許されていないのだ。まずはナツメとその

仲間たちの家を襲うということで方向性は定まったが、ここで会長がぽつりと言う。

 

「・・・・・・だが・・・もし謝ってきたのなら許してあげなくてはならないな。

 彼女たちはまだ若いのだから寛大にチャンスを与えてやらないと。とはいえ何も

 お咎めなしというわけにもいかん・・・ほんのちょっぴり懲らしめてやらんとな」

 

残りの者たちはそれだけで会長が何を言わんとしているかを理解した。

 

「・・・へへへ、私も賛成です。しかしよろしいのですか?場合によっては

 懲らしめ、というよりは快感を与えてしまうことになりかねませんよ?

 ちなみに私は強気な女を徐々に堕としていくのが趣味でして・・・」

 

「おや、私はポケモンバトルの達人であっても女の真の悦びについて無知な

 若いトレーナーにそれを教え込むのが素晴らしいと思うのですが。

 今回は私好みの美しき幼い者はいませんが・・・このレベルなら大歓迎です」

 

それぞれが五人の女性の写真を眺め、品定めを始めた。誰が誰を味わうのか、

議論はあまりにも下劣な内容へと向かった。彼らが若き女性トレーナーを性的に

食い物にするのはこれが初めてなどではなく、よくあることだった。資金援助、

将来の有力なポストと引き換えに・・・十代前半の幼い者も餌食になっていた。

 

「しかしこのタマムシのエリカ、彼女の家を知らないはずはあるまい。手を出すならば

 他の何の背景も持たない四人にしなさい。いずれも取るに足りない者たちだ」

 

「む・・・そうだったな。あれはいい商売相手だものな。では・・・・・・」

 

すでに数日後には彼女たちと寝ることが決定済みであるかのように話を進める。

彼らが何かを求めてこれまで実現されずに終わったことは一度もなかった。

何者にも決して侵されない聖域で彼らは神のように振る舞っていた。

 

 

「ははは!確かこの女どものうちの一人はエスパー少女・・・超能力者とかいった。

 しかし我らはその上をいく。やつは未来を予知することしかできないがこちらは

 願った未来を自在に実現させることができるからだ!エスパーなどいかに無力で

 無価値な存在であるかたっぷりと教え込んでやるとしよう!わっはっはっは・・・」

 

老人が絶頂感に満ち笑っていたそのときだった。扉も窓も開けられていないというのに

突如として現れた人影があった。しかも完全に気配を殺して入り込んできたので

それに皆が気がつくのに時間がかかった。いきなり会議の輪の中央にその者は立っていた。

 

「・・・・・・!?き、きさまは・・・・・・!?」

 

「エスパー・・・そう耳にしましたので呼ばれたような気がしてやって参りました。

 ご存知でしょうか?フーディンといいます!以後お見知りおきを。そして・・・」

 

前日最も大暴れした、並外れた力を持つフーディン。自己紹介を終えたと同時に

一番近くにいた男の頭を掴むと特殊な念力を送り込んだ。男のほうは呻き声すら

出せずにされるがままだったが、フーディンが手を放すと、すっと立ち上がる。

 

「・・・・・・・・・アハッ」

 

「・・・お、おい!急にどこへ行く!?」

 

その目からは生気が一切感じられない。仲間の長老たちの声も届いていないようで、

ふらふらとした歩調で部屋から出て行ってしまった。何がどうなっているのかと

残された男たちはフーディンを一斉に見た。彼にいったい何をしたのかと。

 

「ああ・・・あの男には失踪してもらいます。自ら山奥へと足を踏み入れ、

 そのまま二度と帰ってはきません。これが永遠のお別れでした!」

 

「なんだって―――っ!?」

 

「しかしご安心を。リングマとヒメグマの親子あたりが残さず食してくれるでしょう。

 決して発見されないようにしますからわたしのことはご心配なく。あなたたちが

 これまでしてきたことと同じやり方で進めさせていただくだけです」

 

 

動揺する重鎮たちが『どうやってここに入ってきた』などと尋ねる前にフーディンは

次の男にも同じようにして、やはり彼も先の男と似たような様子のまま部屋を去った。

 

「彼は確か車で来ていたようですから車で帰っていただきます。ですが残念ながら

 運転を誤り帰らぬ人となってしまうのです。彼からは薬物の反応が出るため

 警察の結論も早いでしょう。面倒なので勝手に死んでいただくことにしました。

 わたしが処刑すべき者はまだ三人もいるのですからねぇ」

 

フーディンの目的はポケモン界の真の頂点、『長老団』を一人残らず除き去ることだった。

 

「ポ・・・ポケモン風情が偉そうに・・・!私たちを誰だと思っている!それに

 お前たちはポケモンバトルで物事を解決するはずではなかったのか!」

 

「ええ。ですからあなた方の駒ともいえるトレーナーどもはバトルにより退けました。

 ところがあなた方はポケモン協会のトップにいながらポケモンを所持してすらいない。

 そして権力と金にものを言わせ身勝手な欲望を満たしている。ですからわたしも

 そのやり方に合わせたまでです。文句は言わせませんよ!」

 

フーディンは裁きを続けた。残るは三人。まずは会長の隣にいた男から始めた。

今度は頭ではなくその心臓のあたりを軽く一突きした。

 

「う・・・・・・」

 

最初の二人とは異なり、操られているというよりは苦しみに満ちた顔つきになる。

同じように部屋から出ていくが、あの足取りではそう長くは歩けないだろう。

 

「彼は心臓に持病があったようですから、その進行を早めさせてもらいました。

 明日の朝にはトイレですでに死亡している彼を誰かが見つけることでしょう」

 

「・・・・・・!!そんなことまで可能だというのか・・・!」

 

「どうです、これでもポケモンは小さな存在ですか?エスパーが無力だとか

 仰られていましたがその認識はまだ変わっておられませんか?」

 

 

護衛たちも職員も誰一人やってこない。きっとフーディンが眠らせるかして

無力化したのだと会長、それに会長の右腕ともいえるまだ黒髪の残る初老の男は

助けが来ることを諦めていた。こんなことなら緊急のときのために

ポケモンを持っていればよかった、そう悔やむことしかできなかった。

 

「あなた方のような人間が生きていては事態は悪化する一方です。もう十分に

 この世の贅を堪能したことでしょう。あとはわたしとナツメさんに任せて

 ゆっくりとお休みください。あなたたちがいなくなってほんとうによかったと

 思われるような・・・いや、存在すら忘れ去られるほどの支配を行いますから」

 

「たわけたことを・・・!お前たち殺人者になんて誰もついてくるはずは・・・」

 

「それはあなた方のことを言っておられるのですか?ポケモンたちをどれだけ

 意味もなく駆除してきたのか・・・金になるポケモンとそうではないポケモンを

 勝手に選別してきたではありませんか。ですからわたしもあなたたちを無価値な

 存在であると認定し、処分することに決めたのです!」

 

「そ・・・そんな!私はただ会長の言う通りに・・・!」

 

自分に生涯ついていくと誓ったはずなのにいざとなるとこれなのか。無事に生きて

帰ることができたとしてもこの男にはもはや自分の持つ何をも与えることはない、

会長はこの状況下でも先のことを考えていた。ポケモンとは言葉も意思も通じない

動物と同じ畜生であるという認識でいたが、このフーディンとなら話ができ、

説得が可能だと睨んだからだ。まずはフーディンが自分の右腕だった者を

言葉通り除き去るのを傍観することにした。

 

 

「自分が好きでやったのではないと・・・?わかりました。その言葉、信じましょう。

 では最後くらいご自身で幕を下ろしてください。あなたは家に帰り、ちょうど日付が

 変わるころ首を吊るのです。あなたの筆跡に似せた遺書はわたしで用意しておきます。

 ですから遠慮なく・・・さあ、お行きなさい!」

 

「あああっ・・・あ、足が勝手に!やめ・・・やめろおお・・・・・・」

 

己の意に反して部屋を出ていく。どうやら途中で声を発することを封じられたようだ。

これで誰の邪魔も入らずに自室で静かに命を断てるということだ。ついに残りは

一人だけとなったところで、ポケモン界の最高権力者が両手をあげた。

 

「・・・わかった。完敗だ。君の超能力!わたしは降伏する。君の要求を受け入れよう。

 そうだ、私の後釜に君と君の主人が座るといい。それまでは協力関係を結ぼう。

 いまわたしを殺せば混乱は免れず君らの思い通りに事は進むまい。君はポケモンとは

 思えないほど賢い。獣のような振る舞いではなく賢者として行動すべきだ」

 

必死に命乞いをしているような様子ではなく、あくまで悠然と取引を持ちかける。

 

「フム・・・いいでしょう!ではまず一つ、どうしてもお願いしたいことがありまして」

 

「何でも言うがいい。わたしに不可能なことなどないのだ・・・」

 

 

その瞬間、老人の右腕が消えてなくなった。超能力による消失であり、まるで

手品のようだったが、刃物で切断されたかのような激しい痛覚が襲ってきた。

 

「ぐぎゃ―――――――っ!!」

 

「・・・この場で死んでください!それがわたしの願いです」

 

だんだんと血が滲んできた。だがその右腕に気をやっていると、今度は左足をも

奪われ、片足では体を支えきれず顔面から地に沈んだ。あが、あが、としか

言葉が出てこない彼のもとへ、フーディンがゆっくりと、一歩ずつ迫ってきた。

そして倒れる男の首を絞めながら無理やり起こした。

 

「ごががが・・・・・・ぶげげ」

 

「自分がこんなところで死ぬはずがない・・・この期に及んで甘い考えを抱いていた

 ようだがお前の重ねてきた罪は重すぎる。極めつけに我が主人たちに害をもたらそうと

 意気込んでいた。なぜこれで明日からも生きていられると思ったのか。まるで

 動物のような脳だ。それでよく我らポケモンを蔑んできたものだ。このわたしが

 今日この場に来た理由をしっかり考えたならば自分が命を断たれると、そして

 裁きを免れられることは決してないとなぜわからぬか・・・・・・」

 

口調が変わったフーディンから感じられるのは明確な殺意。しかもそれは小さな虫でも

潰すかのような、冷酷でいて確実に殺すという目つきだった。かつて自分も幾度も

このような顔をしていただろうが、実際に向けられたのは初めてだった。

 

フーディンの手に力がこもる。王として君臨し続けてきた男の首の骨が砕けていく。

 

「か・・・かぐぅあっ・・・・・・」

 

「・・・・・・何もかも消えてなくなれ」

 

 

蒸発して一切の跡形もなく消え去った。内密の話し合いをするためのこの部屋には

当然カメラなどついていないため、フーディンの連続殺人の証拠は一切なくなった。

 

「さて、事は終わったと・・・知らせるとするか」

 

フーディンは不思議な空間の中に姿を消し、誰もいなくなった部屋はただ静かだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。