ポケットモンスターS   作:O江原K

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第25話 カントー対ジョウト

 

コガネシティの街中で囲まれたアカネとナツメ。自ら騒ぎを避けると事前に言いながら

いざこうなるとにやけながらファンの要求に快く応じていた。

 

「・・・ん?隣におるのは・・・ナツメか!気づかんかったわ!」

 

「こりゃあ珍しい・・・アカネちゃんのサインの隣にあんたのも頼んますわ!」

 

「・・・・・・」

 

ナツメは流れるような動きでサインを書いた。アカネのように芸能活動をしている

わけではないが、ジムリーダーという特別な立場はまさに有名人であるため、

ジムリーダーであれば自分のサインは書けるように、という決まりがあった。

求められたら絶対に書いてあげるようにと言われているわけではなく、場合によっては

断ってしまってもお咎めはないのだが、いまは隣にいるアカネが上機嫌で

ファンサービスをしているため、ナツメもそれに付き合っていた。すると観光で

コガネに来ていたと思われる幼い少女が彼女に対してこう言うのだった。

 

「ナツメって・・・テレビで見たら怖い感じの人だったけど・・・優しいんだね!」

 

「・・・・・・・・・え?」

 

それを聞いたアカネがナツメの肩を叩き、にやにやとしていた。

 

「ははは!子どもってのは純粋でしかも真実を見抜くからなぁ」

 

「・・・・・・」

 

アカネに同行せざるを得なくなった時、何でも計算通りに事が運ぶと思ったら

大間違いだとエリカに言われたナツメは、確かに自分の描いていた展開とは

ずれていると感じていた。こんなところにいることすら想定の遥か外だ。

やがてファンサービスの時間も終わりラジオ塔に入ると、またしてもアカネが言う。

 

「ナツメ、もう無理せんでもええんやで?どんな狙いがあるのかは知らんが、

 あんたの正体は掴みつつあるんや。うちから逃げられると思わんことやな!」

 

「ふん、何を言う。わたしからすればあなたも今回の戦いに参加した目的、

 それを偽っているうちの一人だ。あなたこそ早く正直になることだ」

 

「うちは嘘なんかこれっぽっちもついとらん。それは譲れんなぁ」

 

そのまま互いに平行線のまま会話は終わるかに思えたが、意外にも二人の線は

交わるようになった。まだ収録まで時間があるからか、話は弾んでいく。

 

「・・・でも一つだけ、この戦いが始める前からあなたとわたしには大きな

 共通点があることはわかっていた」

 

「奇遇やな、うちもや。あんたもうちも・・・とっても『負けず嫌い』!」

 

それを確信した出来事として、二人が共に挙げたのは半年前のとあるイベントだった。

 

 

 

 

『さあ年に一度のカントー・ジョウトのジムリーダー対抗戦です!十六人の

 選ばれしエキスパートたちによる夢の祭典が今年も始まりました―――っ!!』

 

セキエイ高原のスタジアムは超満員だった。まさにオールスター戦だ。

 

『今よ、スターミー!ハイドロポンプ―――ッ!!』

 

『ニョロボン!ばくれつパンチをくらわせろ―――っ!』

 

誰もが繰り出す技は大技ばかりだ。対抗戦という形ではあるが勝敗など二の次で、

ファンを魅了するための派手な戦いが繰り広げられていた。そんな中アカネは

カントーのクチバジムのリーダー、マチスを相手に全力で勝ちに行った。

 

『あー――っと!これは強力なのしかかりの連続だ――――っ!マヒさせるのが

 得意なマルマインのお株を奪い逆に痺れさせたミルタンクの勝利です!』

 

『よっしゃあ!応援してくれたみんな、ありがとな―――っ!』

 

アカネが飛び跳ねながら勝利を喜ぶ。そしてマチスと握手をすると、彼は小声で言う。

 

『ヘイ!面白い勝負だったネ!ミーが勝っていれば言うことなかったけどネ。でも

 いいんデスカ?本番はこの後の『裏対抗戦』でしょうニ・・・』

 

『ええんや。うちみたいなスターは勝たにゃあ会場が白けちまうで。もちろん

 裏の戦いだって勝つつもりに変わりはない。そこは心配せんでも構わんで』

 

『オー・・・頼もしい言葉デスネ。楽しみにしてマース!』

 

 

そう、ジムリーダーたちにとって本当の勝負はこのオールスター戦ではなく、

無観客で行われる裏の対抗戦だった。こちらは見栄えよりもとにかく結果重視で、

どちらが勝ち越したかによって今後一年、そちらの地方に有利になる数多くの

決まりも定められていた。何より誰もが真剣勝負で負けたくなかった。

 

『・・・うちはぜんぶ勝たにゃあならんのや。他の連中にとっちゃ遊びだろうが

 これだけ客が入ってるんや・・・うちの夢のためには負けられんわ』

 

『・・・・・・・・・』

 

アカネの独り言を偶然聞いていたのはナツメだった。アカネとマチスの試合が

終わり、次の出番は彼女だったからだ。フスベジムのイブキとの勝負だった。

しかしアカネとは対照的に、ナツメからは勝利への意志が一切感じられない戦いになった。

 

 

『試合終了―――っ!ジョウトの大将格イブキの完勝です!スコアはパーフェクト、

 大技も見事に決まりました!ナツメのポケモンにほぼ何もさせず勝利です!』

 

イブキのキングドラやカイリューのはかいこうせんが華々しく観客を魅了する中、

ナツメの繰り出した三体はろくに技を出すこともなく敗れた。あまりに一方的な

試合に、一部のファンからは無気力試合だとブーイングも起きた。この結果に

満足できないのは勝ったはずのイブキも同様だった。ナツメに迫ると、

 

『・・・ちょっとあなた!真剣に戦ってないでしょう!?いくら裏の勝負が

 大事だからってあまりにもやる気がなかった!ふざけているわ!』

 

憤るイブキに対しナツメは特に表情を変えることもなくさらりと返した。

 

『いや・・・あなたが強すぎた。反撃の機会も与えてくれないとは・・・さすが

 四天王たちにも劣らないと言われる実力だけある。勉強になった』

 

『・・・そ、そうかしら!?まあそんな当たり前のことを言われてもねぇ!』

 

イブキは単純な性格をしていた。ナツメの言葉にすぐに上機嫌となり、どうして

今まで自分が不機嫌であったのかも忘れていた。バトルの実力は確かに四天王と

呼ばれる最高峰の者たちと同等以上であったが、この内面の若さが弱点だった。

 

『・・・・・・うちにはわからんなぁ。わざわざ負けに出てくるなんて』

 

『・・・・・・・・・』

 

この時点ではアカネは当然ナツメのことを自分と同族、非常な負けず嫌いだとは

思わない。それが明らかになったのは裏対抗戦が始まってからのことだ。

 

 

 

『・・・よっしゃあ!どうにか勝ったで!ハァ・・・ハァ・・・まず一勝!』

 

『あらあら、負けてしまいましたわ』

 

対戦相手も再抽選され、客のいないフィールドで始まった真の勝負。ジョウト側の

先鋒はアカネで、エリカを相手に苦戦しながらも勝利した。

 

『エリカさ~ん・・・こんなときくらい真面目にやってくださいよ~・・・』

 

『ふふふ・・・ごめんなさい。グリーンさん、お願いします』

 

エリカに関して言えば、ここでも彼女から気迫や熱を感じられなかった。ジムでの

認定バトルもただ毎日淡々とこなしているだけだ。その仕事ぶりに何も落ち度は

ないのだが、果たしてどのような状況であれば彼女はやる気を出すのか、また

ポケモンバトルに少しでも楽しみを感じているのか。それが全くわからないからこそ、

ナツメを中心とした反乱軍に加わり、しかも『ポケモンマスター』と呼ばれる者を

目指すなどと宣言したので、誰もが目と耳を疑ったのだった。

 

 

話をこの日のことに戻すと、ジョウトはアカネの勝利でまずは優位に立った。

 

『おら―――っ!うちに続け!今年こそジョウトが勝つんや!』

 

アカネは調子よく叫んでいるが、まだゴールドによる彼女の解任の話が出る前から

彼女を快く思っている者は少なく、特に同年代の者たちには嫌われていた。

 

『・・・お前に言われなくてもわかってんだよ』

 

『ううん?何か言うたか、いま?』

 

『・・・・・・いや、何でもない』

 

二戦目はツクシ対グリーン。さすがに一度チャンピオンにまでなった男の実力は

十六人のジムリーダーのなかでも頭一つ抜けており、ツクシの虫ポケモンたちを

それほど苦戦することなく打ち破った。これで勝敗は五分五分となった。

 

『へへ、おれのほうが強かった、それだけのことだな!』

 

『くっ・・・僕の虫軍団が・・・!もう少し素早ければ・・・・・・』

 

一年に一度の大きな勝負の場であり、誰もがこの日を前から楽しみにしてきた。

アカネやグリーンのように普段から感情を表に出す人間でなくとも喜びや悔しさを

隠さない。エリカのような何を考えているのかわからない例外はいたが。

 

 

『・・・う~ん、これは最後まで縺れるかも、と言いたいが・・・』

 

『・・・・・・・・・二戦目までで二勝できていないと厳しかったな』

 

カントー側にとって、今年はくじ運が最悪だった。三戦目のマチスがよりによって

地面タイプを含む氷ポケモン、イノムーを使うヤナギと当たってしまい敗れる。

その後もシジマの格闘ポケモンたちがタケシのゴローニャやイワークを粉砕し、

カスミのポケモンはイブキのドラゴン軍団に攻め手がなくパワーで押し切られた。

もう一敗もできなくなったチームカントーであったが、あえなく第六戦目で、

 

『あ・・・ああっ・・・!あたい・・・いや、拙者のアリアちゃんが・・・!』

 

『ふふふ、ごめんね。でもこれもいい経験にしてよ。これからだよ、キミは』

 

ゲンガーにサイコキネシスを覚えさせていたマツバの前にアンズが敗れ万事休す。

父親のキョウからセキチクジムを引き継いで今回が初の対抗戦参加となった

幼い彼女にこの窮地をどうにかしろと言うほうが酷だった。二戦を残し勝敗は決した。

 

 

『これでおれたちの勝負はやるまでもない、ということになりましたが』

 

『一応そうなるな。でもきみはそれでいいのかね?ハヤトくん。わしは勿論・・・』

 

『ええ・・・当然、バトルでしょう!』

 

カツラがボールを構えて誘い、ハヤトがそれに乗った。やはり皆バトルが好きなのだ。

一方で、自分たちもバトルをしようと今にも言ってきそうなミカンに対し、カントーの

第八戦目、つまり最終戦に登場予定だったナツメはというと、

 

『・・・ミカンさん・・・だったか。やる気のところ悪いけれども、実はわたしの

 ポケモンたちは揃って調子を落としている。そこで・・・真剣勝負ではなく

 試合形式の練習・・・その程度のものにしてほしい。どうせ対抗戦は終わったのだ』

 

意味のないバトルなどしなくても構わないだろう、といった態度で提案した。

ミカンはというと、口に手を当ててしばらくしてから小さな声で返答した。

 

『う――ん・・・えっと・・・ダメです!』

 

『・・・・・・・・・は?なんで?』

 

ナツメがやや威圧的に聞いてきたが、ミカンは恐れたりしなかった。

 

『はい、ナツメさんは・・・負けるのが嫌だからそう言っているだけ、だと思います!

 あなたのポケモンは鋼を砕くことができません!あなたの噂は知っているんです。

 勝てそうにないと無気力試合で早々に流したり・・・さっきもそうでした。

 真面目に戦ってください。それでも誇り高いジムリーダーの一人ですか?』

 

小声であったがその内容は痛烈ではっきりとしていた。それを耳にした他の者たちが

よく言った、という顔をする。彼らにもナツメの言葉はそう聞こえていたからだ。

ナツメもアカネと同じく評判がいいとは言えない人間だった。敵が多かったのだ。

 

 

『なるほどね、あなたの言いたいことはわかった。そこまで言われてわたしも

 黙ってはいられないな・・・・・・やろう、バトルを。ただし!』

 

『ただし・・・?』

 

『これは対抗戦とは関係のない野良の戦いだ。つまり・・・賞金が発生する!

 もしわたしが勝てばその財布の中身を貰う。それで構わないか?なに、わたしも

 鬼じゃないんだ、家に帰るくらいの金は残してやるさ』

 

ナツメの狙いは明らかだった。脅して勝負から降ろそうというのだ。

 

『ちょ、ちょっと!あんた何言って・・・!ミカンちゃん、こんな奴は相手にするな!』

 

一番近くにいたツクシがミカンを守るようにしてナツメから引き離そうとする。

彼はときどき女性に間違われるほどの中性的な容姿をしているが、密かに恋をしていた

ミカンの前で男らしさを見せるため立ち上がった。彼女がゴールドのことを想って

いるのは知っていたが、まだチャンスがゼロではない以上諦めはなかった。

だがそんな彼に感謝しつつも、ミカンは再びナツメに近づき、精一杯睨みつけた。

 

『・・・わかりました。それで結構です!でも、あたしは優しく・・・ありません!

 ですからあなたから一円残らず頂きます!あ、いやなら無理にとは言いません。

 あたしに勝てないってナツメさんが認めるのなら・・・バトルはやめましょう』

 

立場は逆転していた。ミカンのほうがナツメに対し、劣勢な勝負に挑んで有り金全て

失うか、もしくは潔く負けを認めるかを迫った。確かに相性からすればミカンが勝つ

可能性は高いが、確実ではないうえに大金がかかっている。ミカンの財布の中には

この後ゴールドとセキエイの高級レストランで食事をするための金が入っていた。

だがそのミカンを後押ししたのも、ゴールドの存在が大きかった。

 

ミカンはゴールドから勇気と強さについて学んだ。彼がミカンの街の灯台を守る

デンリュウの『アカリちゃん』が病に苦しんでいた時に颯爽と現れ、快くミカンの願いを

聞き入れてその命を救ったときにはもう彼に惹かれていた。その後もジョウト各地で

暴れるロケット団の残党相手に危険を顧みず戦いを挑んで勝利し、ついには

ポケモンリーグのチャンピオンとなったのだ。ゴールドをセンスのある天才だと

評する声も多いが、ミカンは彼の強さを、どんな相手にも臆さずに戦う勇気と

勝負根性にあると見ていた。彼に憧れると共に、自分もそんな人物になりたいと願った。

 

『じゃあ・・・始めましょうか。どちらが勝つか、決めましょう!』

 

『・・・いいだろう、果敢な挑戦と無謀な暴走の違いを教えてやろう』

 

最終的にミカンの望みが通り、二人はバトルをすることになった。騒ぎを知った

他のジムリーダーたちが一人、また一人とやってくるなかにアカネもいた。

 

『おーおー・・・結局やるんか。あのナツメからすりゃあアテが外れたって

 ところか?これからどないするつもりかいな・・・・・・』

 

 

そのとき、ナツメは何かを秘めた笑みをちらりと見せた。それはアカネだけが偶然

目に入ったもので、対戦相手のミカンも、審判役を買って出たツクシも気がつかない

ほんの一瞬の出来事だった。すぐに元通りの無表情に戻っていた。

 

『あれは・・・秘策あり!そんな顔やな。どんな作戦があるのやら・・・』

 

アカネがナツメを自分と同族、どうしようもない負けず嫌いだと認知する

その始まりだった。

 

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