ポケットモンスターS   作:O江原K

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第3話 五対五

カントーとジョウトの新たな一ページとなるべき日を台無しにしたのは、

ヤマブキジムのリーダーナツメと彼女のポケモンフーディンだった。

その様子をテレビで見ていたサカキだったが、午後の訓練の時間になっても

サカキが来ないのでスピアーだけでなくそれ以外のポケモンたちも室内に

やってきて、主人と共に画面を見ていた。更なる大きな波乱の幕開けで

あることをポケモン独特の直感で感じ取っていたのかもしれない。

 

「ナツメ・・・やつが絡んでいるとなると・・・まったく予想がつかないな」

 

 

サカキがナツメのことを厄介だと評したのは様々な理由があった。まず最初に、

彼女はサカキの裏の顔を知っているということにあった。今日に至るまで

そのことを彼女が世に公表したり脅迫したりはしてこないのでこれからも

まずないだろうが、自分の秘密を知られているというのは薄気味悪い。

 

ロケット団がヤマブキシティで暗躍していた際にサカキは偶然ナツメに

正体を知られてしまったのだが、ナツメは正義感に満ちた人物では

なかったのだろう。サカキとロケット団の企みを咎めようとも、まして

力づくで止めようともしなかった。決して金銭や利権を要求しなかったが、

彼らの活動拠点に時々訪れると、必ず何かしらを得て帰っていったとの

ことだった。それも金目の物を持っていくというわけではなく、そこで

研究されている理論や技術を密かに盗んでいるとサカキは部下から聞かされていた。

 

「結局やつが何をしたかったのかはわからずじまいだったがいまだに気にかかる」

 

そしてナツメがエスパー少女と呼ばれる超能力者であるということがその

不気味さを際立たせる。噂に過ぎないが、人の心が読めるとも言われている。

サカキは彼女にその力があると信じていた。かつてカントーのジムリーダー

八人が集結して定例会議を開いていた時のことだ。

 

 

『というわけで・・・より多くのトレーナーがジムに足を運びやすくなるために

 どうすればいいか話し合ってきたわけだが・・・・・・』

 

サカキは人格者として通っていた。カントー最強のジムリーダーでもあり、

このような機会のまとめ役はいつも彼だった。意見が割れたり口論になっても

彼が仲裁すれば事はすぐに収まった。しかし、皆の中心に立ち言葉を並べる

サカキを見るナツメの視線に、サカキは底知れぬ悪寒を感じていた。

 

『・・・・・・・・・』

 

(・・・・・・!!やつのあの目つき・・・)

 

表と裏の生活を送り、うまく人々を欺いている彼を嘲笑っているのか、それとも

ほんとうに何がしたいのか見失っている彼を哀れんでいたのか。抱えている悩みや

葛藤、心の深淵を覗きこまれている気がしてならなかった。ナツメはほとんど

議論に参加しない。賛成反対の挙手をする程度だ。なのに彼女の存在感にサカキは

常にストレスを感じていた。ヤマブキで活動を本格的に始めてからは特にそうだった。

 

「・・・わたしの知るあやつは正義の心からこの穴だらけのルール成立を阻止しに

 くる女ではない。いったいどういうつもりだ?」

 

 

 

 

サカキと同様、会場にいたナツメをよく知る者たちも驚きに満たされていた。

 

「ナツメさん・・・!あなた確か賛成票を投じたはずじゃあ・・・」

 

「あのような場所で反対したところで意味はない。お前たち権力者の

 犬コロどもにはきっと考えも及ばないだろうがな。わたしの未来予知では

 今日この日、この時刻こそが行動を起こす最高のときであるとわかっていた!」

 

「あんた恥ずかしくないのか!責任あるジムリーダーとしてこんな真似をして!」

 

「フン。未練などもともと一切ない。どうせ最近は隣にある格闘場に

 バッジを賭けた戦いもほとんど委任していた。このごろやけにゴールドバッジを

 手に入れたとかいう報告が増えておかしいとは思わなかったか?」

 

ナツメの後ろにいる人の言葉を話すフーディンも気になるところだったが、

そこへ皆の追及が向かう前にナツメは再び念力を発動し始めた。

 

 

「・・・そして彼女たちがわたしと同じようにいまのポケモン協会、いや、

 ポケモンに関わる事柄すべてを一度全て解体し、新たなポケモン界を

 創造しようという決意に満たされた者たちだ――――っ!!」

 

すると四人のポケモントレーナーがナツメの背後に姿を現した。これまでは

どこにいたのだろうか。先ほどからずっとナツメの超能力ワンマンステージが

続いていたが、その四人もやはり誰もが知る人気も実力も高い優秀な

女性トレーナーたちだった。観客からこの日一番の大きな歓声があがった。

 

 

「おお!見ろ!あれは・・・四天王のカリンだ!おれはカリンのファンなんだよ!

 今日はどこにもいないから残念に思っていたが・・・嬉しいサプライズだぜ!」

 

「その隣にいるのは少し前までやっぱり四天王だったカンナよ!私、カンナに

 あこがれて氷タイプのポケモンを集め始めたの!」

 

ジムリーダーよりさらに格上の、トレーナーの最高峰ともいえる二人だった。

 

「あっちは・・・タマムシジムのエリカか!?久々に見たが相変わらず美人だな」

 

「もう一人は確か・・・ジョウトのジムリーダー!アカネ・・・とかいったかしら?」

 

残り二人もカントーとジョウトのジムリーダーからそれぞれ一人。エリカとアカネ。

静のエリカ、動のアカネ。性格や言動は対照的な二人だが、並んで立っていた。

 

ここまでくると会場の客はもうこれはショーなのだと思い始めた。ただの調印式に

しては高い席料だという話題は前々から出ていたのだ。金儲け主義ではないかと

批判もあったが、このようなイベントが始まるのであれば客の不満も吹っ飛んだ。

だが、その主役たちは真剣そのもので、緊張した空気が絶えず流れている。

 

「くっ・・・仕方ない!エリートトレーナーたち、あの五人を制圧するんだ!」

 

「はっ!!」 「了解!」

 

ワタルの声に十人ほどのトレーナーが前に出てきた。すでにモンスターボールを

構え、いつでもポケモンを繰り出せる構えだった。

 

 

「ああ~?なんや、お前ら。うちらに何か用か?」

 

ジョウト地方のコガネシティのジムリーダーで、コガネ弁と呼ばれる独特の

話し方をするアカネが彼らを威圧するように睨みつけるも、若き精鋭たちは

まったく怯むことなく、それぞれのエースポケモンを出した。

 

「いかにあなたたちのような方々とはいえ容赦は致しません、サンドパン!」

 

「このような暴挙、もはやこれまで通りいられるなどとは思わないでいただきたい!

 つまり、あなたたちを倒せば私たちが代わりにその席に・・・いけ、キングラー!」

 

「それはいい!俺たちの新時代が来るってわけか!では・・・みなさまお覚悟を。

 カメックス、証明してやれ、俺たちの強さを!」

 

 

勢いよく飛び掛かってくる鍛えられたポケモンたち。そのうちの一匹、

ゴルダックがアカネめがけて俊敏に向かっていったが、勝負は一瞬だった。

 

「ミルァ――――ッ!!」

 

「ゴガゴガァ~~~~っ・・・・・・」

 

アカネの主力である怪力の牛ポケモン、ミルタンクが見た目に合わない素早さを

発揮し、ゴルダックの頭を容赦なく踏みつけた。一撃で地に沈む。

 

「ゴ・・・ゴルダックが!ええい、怯むな!サンドパン!」

 

「あらあら・・・今のを見ていたら大人しくやめるべきだったものを。ジュゴン」

 

元四天王のカンナはジュゴンをボールから放つ。すると温厚なあしかポケモンの

ジュゴンが凶暴な顔つきになると、強力なオーロラビームをサンドパンに浴びせた。

至近距離から急所を突かれたサンドパンに攻撃をこらえるすべはなかった。

 

「ガァ――ッ!ウシャア―――――ッ!」

 

「うふふ、頼もしいわね。他の子たちに負けていられないって感じ?ヘルガー」

 

現四天王のカリンの相棒ヘルガーは地獄の使いとも呼ばれる悪タイプのポケモン。

すでに何匹もかえんほうしゃによって焼き尽くし、また自慢の牙で噛み砕いていた。

エリカのラフレシアもまた、挑戦者たちを次から次へと退けていった。

 

「確かに皆さまの勇気と行動力は素晴らしいものがあります。ですがこの程度の

 力で私たちに勝てると思っているのであれば・・・考えが未熟すぎます!」

 

「があっ・・・!こ、これが本気のラフレシアの・・・はなびらのまい・・・!」

 

気がつくと仲間たちは皆打ち倒され、最後の一人、最後の一匹となってしまった

エリートトレーナーの青年とカメックス。それでも闘志は滾ったままで、

五人の乱入者の中心にいたナツメとフーディンに向かって駆けていった。

青年のほうはナツメを、カメックスのほうはフーディンを捕まえようと

手を伸ばしたが、あともう少しでその体に触れられそうなところで急に

腕が固まってしまい、見えない力によってあらぬ方向へへし折られた。

 

「ガメ―――――ッ!!」

 

「ぎゃああァァ――――!」

 

悶絶するポケモンとそのトレーナーに対し、フーディンは無慈悲に狙いを定めた。

 

「こんなクズどもがエリートとは・・・おお、嘆かわしい!真の強者とは

 どのようなものか、その身で思い知り反省しなさい!」

 

サイコウェーブという不思議な念波を放ち、自身とその主に危害を加えようと

した者たちを凄まじい勢いで飲み込んだ。カメックスは甲羅に大きな亀裂が入り、

トレーナーの若者も全身を酷く痛めたようだ。死んではいないがすぐに病院、

ポケモンならポケモンセンターに運ばなければいけないというのが見てわかった。

 

彼女たちを止めるために出てきたエリートトレーナーと優秀なポケモンたちが

僅かな時間で返り討ちに遭い、チャンピオンのゴールドは頭を抱えていた。

 

(・・・だめだ!あの五人のポケモンに勝てるほどのポケモンがいない!)

 

ゴールドをはじめ、ジムリーダーや著名なゲストたちはポケモンを所持してはいたが、

バトルのための用意ができていなかった。この後にポケモンによって行われる

ダンスやただのお披露目のために用意されたポケモンばかりで、強さよりも

見た目重視であったり、主力のポケモンだったとしても戦うための調整が

されておらず、バトルになっても精彩を欠いた動きしかできない状態だった。

 

「ふふふ・・・若手のトレーナーには戦うように言いながらあなたたちは

 ちっとも向かってこないのね。早くも降参かしら?腐った協会と不平等な

 ルールを正しく変えようという私たちの活動に異議はない・・・と」

 

カンナの言葉にもゴールドはこぶしを握り締めながら堪えるしかなかった。

 

「まずいぜゴールド!おれたちの手持ちポケモンが貧弱な、しかも全国にその模様が

 放送されているこの日をあいつらは狙っていやがった!こっちが何も手出しできない

 のをいいことにあいつらは好き勝手なことを言い放題ってシナリオだ!」

 

「しかしグリーンさん、あの人たちは悪いことをしようとしてはいないのでは?

 不正や腐敗と戦うとか・・・あたしたちだってそうすべきじゃ・・・」

 

「ミカン、惑わされるな。こんな強引で無法な手段を使うやつらのすることが

 悪いことじゃないわけがないだろう。いいことだったら正々堂々やればいい。

 これから何を言われようが間違ってもあいつらの仲間になんかなるなよ」

 

 

主役であったのにその座から引きずり降ろされた三人が、ただ小声で

話しているだけで具体的な対策が何も出せないでいると、彼らの窮状を

知っているかのようにフーディンが両手を広げて笑い始めた。そして、

 

「会場の皆さん!そしてこの様子をご覧の皆さん!カンナさんの言う通り

 彼らは私たちを止めるどころか後押ししてくれていますよ!私たちの

 正しく善良な道を!ナツメさんは戦うことが好きではありませんが

 このままではポケモンの未来が危ういと立ち上がったのです!皆さんも・・・」

 

自分たちに同調する者、仲間たちを集うようなフーディンの演説が

始まりかけたが、それに横槍を入れる大きな声が響き渡った。

 

 

「待ちな!お前たちがやりたい放題やるのは・・・おれたちを倒してからに

 してもらおうか!そうでなければこれ以上は許さん!」

 

「・・・ワタル!」

 

声の主はワタルだった。元チャンピオンとしてこのピンチを見て見ぬふりは

できないということだ。そして彼一人ではない。やはり四人の仲間がいる。

 

「・・・・・・お前らは・・・!四天王のシバとイツキ!それに・・・

 カスミにジョウトのハヤトまでいるじゃねーか!」

 

グリーンの声が弾んだ。それだけ頼りになる面子だった。

 

「ふふ、いざというときのために戦えるポケモンを持っていてよかったわ」

 

「ここは僕たちに任せてもらおう。彼女たちの暴走を止めてみせるさ」

 

ジムリーダーのカスミとハヤトが自信の表情でゴールドやグリーンを

安心させる。四天王のイツキとシバは何も語らなかったが、その闘志は

すでに満タンといったところか。ゆっくりと戦うべき相手のもとへ歩く。

 

 

そして睨み合いが始まる。この雰囲気に場内の客もさすがに気がついた。

ショーなどではなく、これは本気のポケモンバトルが幕を開けるのだと。

だからこそ、更に歓声は増した。超上級者たちの真剣勝負が始まる。

スタジアムの外にまでその熱気があふれ、盛り上がりは最高潮に達していた。

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