ポケットモンスターS   作:O江原K

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第31話 舌戦

 

ついにこの日がやって来た。ポケモンリーグと協会本部に反旗を翻した五人の

女トレーナーと彼女たちを制圧するために立ち上がったサカキ、またその仲間たちによる

対抗戦のセカンドステージだ。試合開始の一時間前にも関わらずすでにセキエイの

スタジアムは超満員だった。そんななか、グラウンドでは予定にないイベントが

すでに三十分続いていた。マイクだけの、即席のトークショーだった。

 

「じゃあ今回の衣装は前々から大舞台のためにスタンバイさせとったと・・・」

 

「ええ。この全身を包む漆黒、まさに悪ポケモンの使い手にふさわしいでしょう?」

 

「それでいて上品さも失っとらん。確かに大人の女、あんたみたいなお人に

 ピッタリや。値段は・・・恐ろしいから聞くのはやめとこか・・・」

 

司会兼聞き手のアカネの軽快な進行のもと、いまの話題は今日のファッションに

ついてであった。特にバトルとは関係のないトークが続いていたが、観客たちの

反応はよく、これを提案したアカネの狙い通りの展開となっていた。

 

 

『・・・興味ないわね。別に話すことなんてないもの。ただ戦って、挑みに来る

 愚かな者を冷静に返り討ちにする、その遂行にムードなんて関係ない』

 

『ええ。客のご機嫌取りなんて不要よ。むしろブーイングこそが私たちの

 エネルギーでしょう?何を今さら・・・』

 

仲間たちははじめ冷ややかな態度だった。しかしアカネは四人に対し、

 

『いいや、うちらはよくても、ポケモンたちがかわいそうや。いくらあんたらが

 氷の精神だとか悪女だとか言われても構わんとしても、ポケモンたちには

 歓声と声援のもとで戦ってほしい、そうは思わんのか!?』

 

『・・・まあ・・・そうですね。この子たちに罪はありませんから。ですが・・・』

 

『せっかくの大一番なんや、とにかくあとはこのアカネちゃんに任せてくれや!』

 

 

ポケモンたちのため、と言われると皆弱かった。観客を味方につける作戦が

始まり、最初は何事かとどよめきが起きたがすぐに盛り上がりをみせた。

 

「あんたはいつも通りやなぁ、カンナ。普段の自分に絶対の自信ありってわけかい」

 

「さあ。この戦いも通常のリーグでの戦いと同じ、あまり特別視していないだけよ」

 

「なるほど・・・クールやなぁ。一方でエリカ、あんたはその着物・・・新品か?」

 

「いいえ、これは三年前まではよく着ていたものです。初心に帰ってみようかと

 思いまして。ああ、最近の方には見新しいものでしたね」

 

まだ触れられていないが、人々が気になっていたのはアカネの服装だった。

上下虎柄の派手な服で、胸の部分には『覇者』と二文字大きく書かれている。

彼女の地元、コガネの後援会から提供されたものだった。

 

「・・・目が痛くなってきそうだな。派手ならいいというものでもないだろう」

 

「そう言うあんたはもうちょっと女っぽいモンを着てもよかったのに。

 どう見たって男物やんか。露出も一切なしときた!がっかりやわ」

 

ナツメはアカネと出かけたとき同様、普段のイメージとは異なり上はジャケット、

下はスラックスであり、カンナやカリンとは違い体のラインを強調してはいなかった。

 

「お二人とも珍しいですね。いつも決まったお姿で出てこられるのに」

 

「ふ・・・よく気がついたなぁ。そう、これには意味があるんや。いつものは

 ジムリーダーとしての服。でももうそれを着ないっていうことは・・・」

 

「もはやこれまでの地位や立場に未練はないという意志の表明だ!ならば

 着たいものを着る、誰にも縛られず自分の思いのままにな!」

 

多くの人々がそれよりもナツメについて言いたいことがあったのだが、それは

禁句なのではないかと黙っていることが一つあった。ところが、アカネはすでに

昨晩彼女に対してそれを指摘している。大観衆の前でも遠慮はなかった。

 

 

「まあそのファッションのセンスはエエとして・・・以前のコスチュームに比べて

 ナツメ、あんたのその胸・・・えらく小さくなっとるねぇ!」

 

一瞬で会場が凍りついた。カリンが小さく『バカ』と呟いた。どうしてわざわざ

明らかになっている地雷を踏みに行ったのかと。周囲の者たちも気が気では

なかったが、ナツメはなんと動揺することも激怒することもなくむしろ、

 

「くくく・・・ま、そういうことだ。ここにこの間まで使っていた詰め物がある。

 これを使わないと蒸れるからな・・・なに、そういうことではないだろうと?」

 

その言葉にスタジアムも一転して爆笑に満たされた。この結果に、今後ナツメにとって

都合の悪いことはぜんぶアカネに言ってもらおうか、誰もがそう思った。

 

 

「じゃあここでカントーのジム攻略講座を始めるで。いまはうちらのせいでカントーも

 ジョウトもジムはどこも閉鎖されとるけど、講師のナツメはん、いかがでしょうか?

 初心者はどこから行くのがベストなのか・・・」

 

「そうだな。バッジを八つ集めたいと思う者も、記念に一個欲しいと思うだけの者も、

 わたしが勧めるのはトキワジムだ。余程問題がなければバッジが手に入る」

 

現役のジムリーダーによる攻略指南だけあり、これから挑戦を考えている

トレーナーたちも注意深く聞いていた。ここでカンナから異議が入った。

 

「トキワジム?あれは元チャンピオン、グリーンがリーダーのジムでしょ?いくら

 彼の後のチャンピオンたちのほうが在位期間が長かったし印象に残る勝ち方を

 していたとはいえ侮っていいはずがないでしょう」

 

「ふふ・・・真剣勝負ならな。だがこれはジム戦だ。やつは手加減が下手なんだ。

 実のところ一個も認定バッジを持っていないトレーナーに対してバッジを

 渡してしまう割合はカントーで一番高い。だから真っ先にやつのところに行くべきだ。

 逆にすでにバッジをいくつも手に入れたトレーナーにとってはかなりの難関となる。

 早めに消化させないと制覇が怪しくなるというわけだ。覚えておくべきだ」

 

ジムリーダーではないトレーナーも噂では知っていた。ポケモンジム攻略の難易度には

無視できないくらい差があると。リーダーたちの実力差ではない。相手に合わせた

戦い方がうまくない者たちがいて、特に若い者、経験の浅いリーダーたちにありがちだ。

それがグリーンのようにトレーナーに優しい結果になればよいが、イブキやアカネと

いった初心者にも上級者にも厳しいリーダーのジムは難関として有名だった。

 

「じゃあ最後のほうに選べばいいジムというのは・・・?」

 

「まあ弱点が多いタイプを使うやつを残しておけばいい。岩とか毒とか・・・

 そこのエリカも草タイプ、それにこいつはどこかの誰かと違って負けたくないと

 ムキになったりしないからな。タマムシジムを終わりまでとっておくといいかもな。

 あとはヤマブキシティの格闘道場、あいつらは雑魚だが一応認定バッジを渡す

 資格は持っている。やつらのところにゴーストでも連れて行くといい」

 

「どこかの誰か・・・いったい誰のことなんやろか?思い浮かばんわ・・・」

 

本気で言っているのか、それとも冗談なのか。アカネは全くとぼけた様子だった。

 

 

「ふふ・・・で、それならジョウトはどうなんだ?」

 

「おっちゃんたちは二人とも優しいで。でも生意気なトレーナーには厳しく

 指導する、よくできたリーダーやで・・・。あとはマツバやな。若くてきれいな

 姉ちゃん相手なら手を抜いてくれるって評判や。でもうちのジムの女の子が

 バトルの後にナンパされたとか言うとったからそこは要注意やけどな・・・」

 

再び大爆笑が起きた。カリンも笑いを堪えながらアカネに確認する。

 

「それホント?誰よりも鍛錬の鬼で修験者とか呼ばれているのに?」

 

「まあしゃーないわな。男なんてみんなそんなもんやろ。普段修業漬けなぶん

 女遊びにだらしないのはしゃーない。でも基本的には気のいい兄ちゃんやからな、

 みんなそこは悪く思わんでやってくれや!他の高慢チキなカス四人に関しては

 もう言うことはない。その必要もないで・・・」

 

アカネが悪く言う残りの四人、それは彼女を解任しようとしたゴールドの意見に

賛同した者たちだった。皆彼女と同世代の若者たちだが、とにかく仲は険悪だった。

特例の形でジムリーダーになったアカネを快く思わずその言動を問題視する彼らと、

生まれながらのエリートである彼らへの反骨精神によりそれに反発するアカネの

対立は深まり、いよいよ誰の目にもわかる形で表面化したのだった。

 

「その理由は簡単や。今回の戦いでうちが優勝したら逆にその四人まとめて

 ジムリーダーをやめさせたるからや。せやな、うちがコマーシャルをやっとる

 モーモー牧場のフン拾いでも朝から晩まで一日中やってもらおうかな!」

 

「私怨に満ちているわね。呆れて物も言えないわ。それより・・・そろそろあれに

 触れておいたほうがいいんじゃない?どうしてグラウンドにあんなものが

 あるのか・・・私たち五人の誰も知らないというのは大問題だと思うのだけど」

 

「・・・あの箱ですか。朝からすでにあったらしいですね」

 

ようやく本題に入る、といった空気だ。誰もが問題視しているのは、ポケモンバトルが

行われるグラウンド上に、さらに言えばポケモンに指示を出すトレーナーの立ち位置の

後ろに、人が何人も入れるほどの大きな黒い箱が置かれているのだ。バトルの妨げには

ならないものの、中が全く見えないそれは不気味そのものだった。何者かが用意した

罠ではないかとナツメたちはもちろんのこと、今日の試合を裁く審判団、中立の

立場で対抗戦を見届けるために運営の立場にいるトレーナーたちも、そのそばに

近づくことを躊躇った。凶暴な肉食ポケモンや武器が待ち構えているかもしれないからだ。

トークショーを続けていた五人も沈黙しながら心のなかであれこれと推察していたが、

ここでついにその仕掛け人が満を持して登場することになる。上空から声がした。

 

 

「まったく女どもはいつも無駄な話を延々と途切れなく続けるから困る。しかし

 お前たちがこうして公の場で自由に振る舞えるのも今日が最後なのだから

 一段落するまで待ってやった気遣いに感謝してもらおうか」

 

数匹のオニドリルが一斉に降下してくる。かなりの迫力であったが、オニドリルたちが

くちばしに結わえていた糸をほどき、そのままどこかへと飛び去って行った。

そしてグラウンドに残ったのは今日の主役である一人と彼のポケモンだった。

 

「・・・・・・サカキ!」

 

「その箱が気になって仕方がないようだな。いかにも、それはわたしが数日前に

 用意させてもらった!今日の戦いを一層手に汗握るものとするためにな」

 

サカキがかつての信頼できる部下四人に命じたのはこの二つの黒い箱の設置だった。

立ち入り禁止となっていたセキエイに大規模な重機で乗り入れて、短い期間での

工事を完了。彼らの仕事ぶりは見事だった。

 

「なるほど・・・まあこいつの正体はあとで聞くとして・・・お前の仲間は隣にいる

 スピアーだけか?共に戦ってくれるお友達がいないのなら無理するな、やめておけ」

 

ナツメが煽るように言うが、サカキはそれを気に留めず、鼻で笑った。

 

「フン、さっきのわたしの気遣いへのお返しのつもりか?それならば余計な世話だ。

 いま入場してもらおう、お前たちを討つ四人の者たちに!」

 

サカキが指を鳴らすと、彼の仲間たちが入ってきた。どのような者がナツメたちと

戦うのかと人々は注目していたが、その姿に大きなどよめきが起こった。

 

「・・・な、なんだありゃあ・・・」

 

「覆面・・・いや、装束か?全員同じ格好で誰が誰だか・・・」

 

四人とも黒い布で顔を含めた全身を覆い、隠していた。靴などで調整して

いるのか背丈は同じで、正体に関して全く見当がつかなかった。もちろん

誰も言葉を発しない。己についてどんな小さなことも知られたくないのだ。

 

「お待たせした。さあ、バトルを始めようじゃないか」

 

「ちょっと待てや!まずはそいつらの顔を見せてからにしてもらわんと!」

 

「フフ・・・バトルが始まったときに誰なのかわかったほうが面白い・・・

 そう思いこうさせてもらったのだ。悪いができんな、それは・・・」

 

「いやいや、何を言うとるんや!それじゃうちらが圧倒的不利やんけ!

 認められるか、そんなもん!アホか!」

 

アカネだけではない。彼女の仲間たちも同じ思いだった。サカキ以外誰が相手なのか

わからないままでは相性の差で五戦全敗でもおかしくない。もともと彼女たちは

不利な立場なのだ。あらかじめ出場する五人は明らかで、おそらくサカキもそれに

応じてこの四人を選んだだろう。勝利を盤石なものとするつもりなのだろうが、

姑息だ、卑怯だとアカネはサカキたちに対して文句を言い続けた。だが、それを

制したのはナツメだった。アカネの前に立ち、言葉を遮った。

 

 

「・・・くくく、まあいいじゃないか。誰が誰だろうが」

 

「ナツメ・・・!でも・・・」

 

「顔を出せないような奴らなどたかが知れている。そこの男のことだ、どうせ

 犯罪者か適当なごろつきにポケモンを持たせているだけだ。そんなゴミクズ共の

 寄せ集めなどどうして恐れる必要があるだろうか。もっと自信を持つといい」

 

サカキがほんとうに人を集められなかったなどとはナツメも考えていない。

自分の挑発にサカキは怒らなかったがこの四人はどうなのか、それをナツメは

探っていた。声を出すか、もしくは自ら犯罪者やゴミなどでは断じてないと

正体を明らかにするか・・・それを確かめたかったのだ。思惑通りこの無礼な

物言いに体を震わせる者たちもいたが、サカキが彼らを止めた。そしてナツメに、

 

「それはお前のことだろう。いいか、後ろの四人に関してはまだ情状酌量の余地が

 ある。しかしお前とそのポケモンたちはクズだ。まさか目的の成就のために

 殺人まで平然と行うとは・・・さすがにわたしも驚かされた」

 

その発言に場内はいっそう騒然とする。確かに十日前、ナツメのフーディンは

対戦相手のイツキとネイティオを試合中に殺害しようとしたが未遂に終わっていた。

まさかそれ以外にも何かをしていたのか。ナツメの返答を皆が待った。

 

「・・・さあ・・・言葉の意味がわからないが」

 

「とぼけるな。ポケモン協会の長老と呼ばれる頂点に立つ五人・・・お前たちが

 殺したことはわかっている。証拠など残ってはいないだろうがな」

 

 

正しい推察だった。フーディンが彼らの会合に入り込み、様々な殺害方法で除き去って

いた。そのうちの一人は翌日トイレで持病が悪化し病死しているところを発見され、

すでにニュースとなっていた。もちろん他殺であるとは誰も疑わなかった。

 

だが、他の四人については一切の公表がされていなかった。交通事故で死ぬように

された男に関しては、違法な薬物が検出されそれが事故原因であったこと、また一人は

自宅で首を吊り自殺するといった死に方であったため、名声の高い彼らの名に傷を

つけてはならないと、いまだ何も世間には伝えられていなかった。残る二人も

失踪という事実は警察も把握しているのだが、身代金目的で誘拐されたのかも

しれないし、彼らが不正な利得を手にし、その過程で多くの人間から恨みを買うような

悪事を重ねていたことも知られていたので、トップシークレットとなっていた。

 

「以前にも言ったように、お前たちの罪はそれだけではない。敗北した瞬間に

 ナツメ、お前は逮捕される。それを覚悟しておくのだな」

 

ところが、この脅しにもナツメは表情を変えず、嘲るような笑いを見せた。

 

「・・・フーディン!」

 

「はい、なんでしょうか、ナツメさん!わたしはここに!」

 

何もない空間からフーディンが出てきた。今日の初めからずっとここに

いたのだが、名前を呼ばれたことでようやく姿を現したのだった。

 

「なあ、どう思う!さっきからわたしの耳が悪くなってしまったのか、

 それともこの男がまだそんな歳ではないはずなのに痴呆なのか・・・」

 

「ナツメさんはどこもおかしくありません。目の前の彼がすっかりぼけて

 しまっていて妄想や夢の話を垂れ流しているにすぎませんよ」

 

「フン・・・クズどもがよく言う。だがわたしとしても今日の目的は

 お前たちをバトルで倒すことだ。それ以上追及はしないでやろう。

 そのバトルのためにわざわざそのブラックボックスを用意したのだからな!」

 

いつまでも続くと思われた舌戦が休止され、話は皆の気にしていた箱に戻った。

サカキが合図をすると、二つの箱の扉が開いた。その中は部屋になっており、

椅子が五つあった。どうやらこれは控室のようだ。二つの陣営とも同じ内装だった。

 

「なかなか高そうないいものを使っているわね。で、果たしてこれがどう

 手に汗握る戦いにするために役立つというのかしら」

 

「扉を開かない限り中は決して見ることができない。中継カメラも入れない。

 つまり作戦会議や次に戦うメンバーの選出、それを敵に知られずに行えると

 いうわけだ!お前たちの懸念する、我々が対戦カードを決める点で優位で

 あるということにはならない。まさしく対面してようやく誰と戦うかわかる、

 公平でありスリルにも満ちた・・・面白い対抗戦になると思わないか?」

 

サカキの提案はナツメたちにとってもよいものに感じられた。よって誰も異議を

唱えることはなく、ついにバトルが始まろうとしていた。

 

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