新たな条約やポケモン界のルール整備に待ったをかけるだけでなく、自分たちが
現在のポケモン協会を腐敗や不正を一掃するとして立ち上がった五人の女性と、
真っ向から組織に反抗する彼女たちを止めるべく前へ出た五人。無言での
睨み合いはそんなに長い時間は続かず、ポケモンリーグ側として名乗り出た
五人の代表格であったワタルが相手方の中心にいたナツメに語りかけた。
「おれたちはチャンピオンたちに比べたら戦えるポケモンを持っているって
いうだけでそんなに数は多くない。そこで・・・2対2での勝負を希望したい」
「・・・・・・・・・」
2対2でのバトルとは、単純にお互いの使用ポケモンが二体というだけのことだ。
他の地方で流行しているダブルバトルの形ではなく、通常通りの戦いを行い、
二体が先に戦闘不能になるか勝負を棄権することになれば勝負ありだ。
たったの二体しか使えないということは、最初の選択を誤れば取り返しがつかない。
戦う前に相手の手持ちポケモンを表にして渡され、相手はどう考えてくるか、
自分の狙いをどう読んでくるか・・・そんな駆け引きが面白い戦いだった。
「じゃあ私たちのポケモンのリストでもいま手書きで渡そうかしら?」
「ふん、いるかそんなもの。互いのことは嫌というほどよく知っているではないか」
カリンは手をひらひらさせながら言ったが、同じ四天王のシバが不要と返答した。
他の者たちも黙っているので異論はないようだ。全員が四天王もしくは
ジムリーダーなのだから、どのようなポケモンを持っているかは把握している。
皆が自分の好むタイプのポケモンで統一しているパーティを組んでいるからだ。
「いいか、おれたちが勝ったなら負けたやつは大人しく今回の反乱から手を引け。
もうジムリーダーや四天王ではいられなくなるだろうがおれのほうからも
処分を軽くしてくれるよう頼んでやる。だから安心して負けるといい」
ワタルが挑発的に今後のことを述べるが、ナツメはそれに対しあやしい笑みを浮かべると、
「・・・それで結構。でも、あなたたちが負けた場合はどうしたものか・・・。
例えば・・・その瞬間魂を抜かれて人形になってしまうというのは・・・」
その場にいた全員が戦慄した。ナツメならばそれができるとしてもおかしくない
からだ。魂を奪われ物言わぬ人形となり自らの意思で動けなくなってしまうのだ。
「・・・ふふ、冗談冗談。そんなに驚き戸惑ったような情けない顔をしなくても。
ま、あなたたちもこれだけ大勢の前で負けたからにはしばらく・・・
わたしたちが新たなポケモンリーグの頂点に立つまで公の場でポケモンバトルが
できなくなる、それが妥当なところか。どうせわたしたちが最終的に
勝利をものにしたときあなたたちは職なしになるのだから」
冗談だと言ってからナツメは急に明るくなり始めたが、恐怖した人々の
心はいまだ凍りついたままだった。しかしアカネが前に出てくると、
「何や・・・人形の話は嘘かいな!冗談キツイで。ホンマ驚いたわ~・・・」
「・・・・・・・・・」
ほっとした顔でナツメの頭を軽くぱしぱしと叩いていた。あまりの能天気さに
こいつは後々ほんとうに人形にされるのではないかとそばで見ていた者たちは
頭の中で思っていた。それならそれでもいいか、とも。
「・・・さあ、もういいでしょう。観客の皆さんもお待ちかねでいらっしゃいます!
戦いの舞台をいま用意して差し上げますよ!」
無表情のままアカネにされるがままのナツメに代わり彼女のポケモンである
フーディンが超能力を発揮した。すると四つの扉がスタジアムに出現し、
「どうぞ、カンナさん、エリカさん、カリンさん。こちらへお入りください!
もう一人のあなたは・・・いつまでそうやっているおつもりですか?」
「ああ、せやった!ほな、また後で!」
「・・・・・・ええ」
すでに打ち合わせ通りのようで、いきなり現れた扉にも躊躇うことなく
ナツメを除いた四人はその中へ入っていく。彼女たちはどこへ行ったのかと
騒然とするなか、今度はアカネから解放されたナツメが力を放った。
すると、場内の四つの大きな電光掲示板が映り、いま扉に入り姿を消した
四人が立っていた。そこはこのスタジアムと全く同じ形状の部屋だった。
「恥をかくのを覚悟で出てきたあなたたちにせめてものチャンスを与えましょう!
いまから五試合同時にバトル開始といこうではありませんか!戦う相手は
選ばせて差し上げましょう!誰に敗北するのかご自由に!」
フーディンが相変わらず人の言葉を流ちょうに使いこなしてワタルたちを煽る。
目の前にはそのフーディンとナツメが立っている。背後の四つの扉にそれぞれ
誰が入っていったかはさっきのことなので皆覚えていた。
「さて、どうしようかしら。あんたたち、誰と戦いたいって希望はあるの?」
「ウム、あるにはあるが重なってしまうかもしれんな。ひとまず各々が
戦いを望む相手のもとへ向かおうではないか」
「ええ。シバさんの言う通り、それがいい。行こう」
五人はまずは自分が最も戦いたい相手のもとへ歩き出した。すると奇跡的な
出来事が起きた。なんと、一回目ですんなりと決まってしまったのだ。
四つの扉の前に一人ずつ、そしてナツメの前に一人が立っている。
「これで決まりだな。じゃあ・・・」
「全勝だ!全勝してこの反乱を早々に鎮圧する!それがおれたちの役目だ!」
勢いよく四人は扉を開けて、そして姿が見えなくなった。それと同時に、
先に入っていた者たちとすぐに顔合わせした。対戦カードは決まった。
「・・・あなたが相手とはね。私相手だけは避けると思っていたけれど・・・
間違えたのなら今からでも他の人に頼んで交代してもらったらどうかしら?」
「いいや、ここで合ってる。おれはお前と戦いに来たんだ。同じ時期に四天王として
君臨していた者同士、おれがお前を止めてやらなきゃと思ったんでな!」
元四天王、氷の女と呼ばれるカンナと、チャンピオンになった経験もある
ドラゴン使いのワタル。ベテラン扱いされる二人ではあるが、その実力は
いまだ衰えるどころか成長し続けている。激しい戦いは必至だった。
「・・・お久しぶりですね。カスミさん。変わらずお元気なようで何よりです。
時間があればぜひいっしょにお茶でも飲みたいところですが・・・」
「あんたは変わっちゃったわね。こんなバカなことに乗るような人間じゃ
なかったのに。ま、そのあたりのことも私が勝ってから聞いてあげるわ」
共にカントーのジムリーダーである草ポケモンの使い手エリカと水ポケモンを
愛用するカスミ。それぞれ絶大な人気を誇るカントーの華同士がここで激突する。
華麗で美しい、見る者を魅了する戦いが繰り広げられることは確実だ。
「ほ―――・・・うちをご指名とは・・・賢いで、あんた。
うちが相手なら負けたってしゃーないってことになるからなぁ」
「四の五の言っていないで早くバトルを始める準備をしようじゃないか。
お前みたいなやつと話しているだけで不快だ。速攻で終わらせてやろう」
こちらもジョウトのジムリーダー同士の対戦となった。ノーマルタイプで戦う
アカネに、鳥使いのハヤトが立ちはだかる。パワーで押すほうが勝るのか、
素早い身のこなしで翻弄するのが正しいのか。これも注目の一戦だ。
「あら、シバ・・・あなたが来たのね。どこの部屋も何か縁のある相手が
対戦相手みたいだけど、狙っているのかしら?」
「もちろんそうだろう!身内の不始末は我が手でケリをつけたいと思うのは
必然!おれたちのハイパーパワーを受けてみるがいい!」
現四天王二人のバトル、つまりいま勢いのある二人の高レベルな戦いに
観客の歓声もいっそう大きくなる。悪タイプを中心に戦うカリンと
格闘ポケモンを鍛え続けるシバ。どちらの実力、そして信念が勝るのか。
「ナツメ、あんたの相手はこのボクだ。同じエスパーポケモンを極めた者だ。
どちらが上か決めるのにこれ以上ない舞台だ!ボクが対戦を申し込んでも
あんたは逃げ続けていたからな。さあ、このメイン会場で楽しい戦いの幕開けだ!」
「・・・別に逃げていたわけじゃない。無意味な戦いをする必要がないという
話だったが・・・まあいい。今に関しては無意味ってことはない。
この大観衆の前で見せしめになってもらう」
ジムリーダーナツメと四天王イツキの直接対決はこれまで一度もなかった。
新鋭イツキがライバル視するナツメを破り更なる高みへと駆け登るのか。
目を覆うマスクが特徴的なイツキ、その奥では確かな闘志が燃えていた。
「これは大変なことになりました!記念すべき一日にまさかの五試合同時に
ポケモンバトルが開催!急遽ニビジムのリーダー、タケシさんに解説に
来ていただきましたが・・・これは台本ではないんですよね?」
「もちろんですよ。僕はいますぐに戦えるコンディションのポケモンを
用意できないのでこちらにいるわけですが、ワタルさんたちには
頑張ってほしいですね。試合になったら中立の解説をしますが・・・」
実況と解説まで揃い、いよいよバトル開始が近づいていた。会場はもちろん、
テレビなどで視聴していた人々の期待と興奮も高まっていた。放送内容を
変更し、このバトルを完全中継することになった。自身のポケモンたちと
この模様を眺めていたサカキも感情が昂っているのを感じていた。
「・・・これはポケモンとそれに関わる最も大なる者から小なる者に至るまで
大きな影響と変化を被ることになる戦いに発展する予感がある。お前たちも
そう思いこうして真剣に画面に食いついているのだろう?」
もしサカキが数年前までと変わらず、つまりロケット団ボスとしてポケモン絡みの利権を
ひたすら追い求めている男であれば、それをよしとせずにこのような行動に至った
ナツメたちに敵対し、どうにかして排除しようと動いただろう。もちろん公の
目の前でバトルで打ち負かすというような真っ当な手段ではない。彼女たちの
家やジムに車が突っ込むか、一人でいるところを狙い複数の男たちに襲わせて
暴行するか、ひたすら中傷し続けるか。ロケット団の力で制圧したはずだ。
しかしいまのサカキは悪の歩みから足を洗い、ポケモンを愛する一トレーナーだ。
どちらかといえばナツメたちの主張に賛同していた。不正な利得ではなく、真に
ポケモンたちのための未来を追い求めようというその言葉をどこまで信用
できるかはわからないが、彼女たちからはいまの自分と同じ、純粋さが感じられた。
「ふふ・・・もしかしたらわたしたちの修行はこの日のためのものだったのかも
しれないな。今から行くか?あの戦いに。とはいえ、若い女だらけのなかに
こんな中年男が仲間に入れてくれというのも厳しい話だがな・・・」
自虐的にくすくすと笑い、立ち上がりかけた体を再びソファーに沈めた。
「これからの時代を創るのは若き彼らだ。わたしのような者はここで大人しく・・・」
「・・・・・・・・・」
彼とともにいたポケモンたちは不満そうにしていたが、サカキは『見』に回ることに
決めた。だが、その瞬間彼の目の前が真っ白になり、気がつくと見慣れぬ場所にいた。
ただまぶしい光に襲われただけではなく、己の精神が白く輝いた光に満たされた。
「うおっ・・・!どうなっているのだ、これは!いったいわたしは・・・?」