『さあ試合が始まりました!五試合がいっせいに行われるというのは例がなく、
私たちも大きな動きがあった試合をメインに実況していきたいと思います!』
それぞれの会場で2対2バトルの先鋒ポケモンがボールから飛び出し姿を現した。
いきなりエースポケモンを使うのか、相手の思考を読み予想外の一匹を選ぶのか。
いずれのトレーナーもジムリーダーか四天王であるためそれぞれにファンがいて、
観客たちは大きな声で熱い声援を飛ばした。そんななか、唯一モニター越しでない、
メイン会場のナツメ対イツキ戦で早くも異変が起きていた。
「・・・・・・?どうした、ポケモンを出さないのか?」
「ハハハ、そう焦らないでよ、ナツメさん!これだけ多くの試合が同時に
始まったんだ。観客も目移りしてしまうよ。どうだろう、ボクたちの
バトルだけ少し遅らせて始めるというのは・・・」
「・・・まあいい、そんなに自分の敗北に注目を集めたいのなら」
二人ともエスパーポケモン使いではあったが、魅せる勝負が多く若者を中心に
人気急上昇中のイツキと、淡々と戦いを進め、『塩試合』を量産するナツメの
評価は対照的だった。しかしどちらが真に強いかの結論は出ていない。
イツキは彼女を倒し、名実ともに自分が最強のエスパー使いになろうとしていた。
目立ちたがりの彼にナツメは呆れたような目つきだったが、イツキは更に語気を強める。
「そこで提案だけども・・・ボクたちの戦いだけ3対3、つまり公式バトルの
やり方に変えないか?大勢の目の前であんたを完膚なきまでに打ち砕く!ボクが
絶対的な完全勝利を華麗に見せつけることこそこの会場の皆さんの望みなのだから!」
「・・・・・・・・・構わない。ただ、一つ予言しておく。後悔するわ、あなた」
ナツメは共に立っているフーディンと視線を合わせ、不気味に笑った。相手を
圧倒的に打ち倒そうとしているのはナツメのほうも同じだった。
超能力によって出現した四つのバトルステージ。そのうちの一つ、カンナ対ワタル戦に
まずは注目が集まった。こちらもやはり開始がやや遅れていた。
「あなたのドラゴンたちは私のポケモンと相性が最悪なのは知っているはず。
なのに私を選ぶなんて・・・どういうつもりかしら?私以外の四人であれば
あなたならきっと楽勝できていたでしょうに」
「フッ、確実に勝ってしまう勝負なんて案外つまらないものだからな。
昔からの付き合いのお前相手にせめてものハンデってやつさ」
「・・・・・・ふざけたことを・・・!いけっ!!」
カンナが最初のポケモンを繰り出した。それと同時にワタルも先鋒を出す。
実際にその姿が見えるまで相手のポケモンはわからないはずだが、長年共に
腕を磨いてきた二人は相手の腹の内も完全に読んでいた。
「・・・やはりこう来たわね。まあ知っていたわ。氷に対抗できるのは
あなたの手持ちではギャラドスくらいだもの」
「そう言うお前もパルシェンか。はかいこうせんに耐えるのはこいつだ」
ワタルはギャラドス、カンナはパルシェンを繰り出した。共に相手の攻撃を
抑え込み、粘り勝ちを狙う算段のようだ。ギャラドスであればカンナの
ポケモンたちの氷の攻撃を受け止められる。パルシェンは体力こそ低いが、
その強靭な殻が相手の物理攻撃を凌ぐ、防御中心のポケモンだ。
「お前と戦うことになるのがわかってりゃあ誰かに10万ボルトでも覚えさせたって
いうのに・・・いや、やっぱりやらねえかな。それで勝ってもおもしろくない。
このギャラドスとパルシェンのように底力のぶつかり合いのほうがきっと
見ていて楽しいだろうからな」
ワタルは笑いながら語った。手加減でも手抜きでもない、あくまで彼の戦いの
楽しみ方だった。しかしそれがカンナには気に入らなかったようで、
「・・・あなたのその態度!ずっと気にいらなかったのよ!いや、あなただけじゃない!
女というだけで軽く見て、不当な扱いをして見下すやつらみんなが!パルシェン!
まずはれいとうビーム!そのにやけた笑みを固まらせてやりなさい!」
「パァ――――ッ!」
守りを固めるのではなく、いきなりの攻撃。憤りがそのままバトルにも表れていた。
「おお・・・氷の女とか言われながらバトルになれば熱くなるのは変わらんな。
だがお前にそんな不満があったとは・・・それが原因でポケモンリーグをやめたのか?」
「ええ。新たなるリーグが必要。わたしたち女性ももっと活躍できるように」
「じゃあお前たち五人の狙いは女性トレーナーの地位向上というわけか!日ごろから
そのような怒りを抱えていて・・・だがその怒りは更なる怒りで抑えてやる!」
ワタルの言葉にギャラドスが応えた。りゅうのいかりを放ち、反撃する。
どんなに防御力が高い相手でもこの技であればある程度のダメージが保証された。
体力に不安のあるパルシェン相手ならこうして削っていくのが有効な戦法だった。
一方でパルシェンからのれいとうビームも、ギャラドスならワタルの他のポケモンよりは
ましというだけで、そこそこの痛手にはなっていた。
「私たちの目的、ではないわ。あくまで私が頂点に立ったらこうしたいと思う
だけのこと。いつの時代も真の頂点は一人だけでしょう?ポケモン協会の会長職も
チャンピオンも。私以外の四人にもそれぞれの野望と悲願があるのでしょうね」
「・・・じゃあお前たちは完全なる同志ではないということか」
「その通り。あなたたちを倒した後は私たちの間でも誰が一番かを決める
戦いとなるわ。そして最終的に最も強い者による新たなポケモン界が
幕を開けるの。ま・・・それは私以外にないのだけど」
カンナはくすりと笑うと、パルシェンに攻撃を続けるように指示する。
対するワタルも小細工無用の構えで、打ち合いの応酬となった。
「ギャオ――――――ッ!!」
「パ―――ルァッ」
もちろんこの戦いでは道具の使用は禁止されている。ジムでの戦闘は道具の効果的な
使い方を学ぶために使用可としているところもあるが、公式戦ではたいてい
ポケモンの力のみで勝負する。ただ、ポケモンに木の実や特殊な道具を持たせることは
認めている場合があり、戦術に組み込むことができた。
「うーむ、このままでは倒れるのはほとんど同時、といったところか・・・」
「どうやらそのようね。さて、どうしましょうか」
このような状況でトレーナーはそのポケモンを瀕死に追い込まれるのを承知で
そのまま戦わせ続けるか、もしくは一度引っ込めて別のポケモンに任せることも
できた。ただし今回は2対2で、相手が使ってくるポケモンのタイプも知れている。
かなり消耗したポケモンを残しておいても大した戦力にはならない。だったら
動けなくなるまでに少しでも相手にダメージを与えておくほうがいいのかもしれない。
『三体、もしくは六体でのバトルであれば活躍できる機会が残っている
可能性がある。入れ替えの隙を突かれようとも代えるかもしれません。
ですがいまの状況ではおそらく・・・』
『なるほど・・・つまり、倒れるまで続ける、ということですね』
ギャラドスとパルシェンはやがて目に見えて傷を負い、動きが鈍くなっていった。
限界が近い自分のポケモンを見殺しにするのは辛いが、そうするしかなかった。
「ギャラドス、今ならいけるぞ!はかいこうせんだ!」
「くっ・・・オーロラビーム!」
互いの光線がクリーンヒットした。二体が倒れるのはほぼ同時だった。
『お―――っと、まさかの両者ノックアウト!これで残るはともに一体!』
カンナは倒れたパルシェンをモンスターボールに戻し、新たなボールを
取り出した。このルールでは早くも大将戦ということになる。
「・・・ありがとう、パルシェン。あなたのおかげで勝利への道筋が完全に見えた。
あとは私たちの頼れるエースに任せてゆっくり休んで・・・さあ、ラプラス!」
カンナの切り札ラプラスの登場に場内の歓声がいっそう大きくなった。
だが、その盛り上がりを更に増し加えたのは、ワタルの最強ポケモン
カイリューが堂々とその姿を現したことによるものだった。
「燃えてきたな。お互いに一番の愛情を注ぐポケモンで勝敗を決するんだ」
「ええ・・・でも残念ね。せっかく観客も大歓声だというのにこの勝負は
一瞬で終わってしまうのだもの。ラプラスの吹雪が当たればあなたの
カイリューは耐えることができない。終わりだわ」
カイリューが特に苦手とする氷を自在に操るのがラプラスだ。圧倒的有利な
相性関係にカンナはもう勝利を確信していた。しかし、その思いはワタルも同じだった。
「ああ、残念で仕方ない。おれのカイリューのはかいこうせんでもうこの戦いが
終わってしまうというのはなぁ―――――っ!!」
「・・・・・・!!いけない!ラプラス、吹雪で・・・・・・」
「技の命令が遅い!くらえ――――っ!!」
カイリューの圧倒的なはかいこうせん。ギャラドスのものとは威力が違う。
ギャラドスもパワーファイターであるはずだが、カイリューは更にその上で、
ラプラスを破壊したその光線が巻き起こした煙はいまだに収まらなかった。
別のスタジアムにもこの強烈な一撃のインパクトは届いていた。
「・・・あんな派手な技を使われたらこっちが地味になっちゃうじゃないの、ねぇ?」
「さすがはワタル。そのスーパーパワー、遺憾なく発揮しているようだな。
だがおれも負けてはいない!怪力ならおれの代名詞なのだからな―――っ!」
四天王同士、カンナとシバの戦いもいきなり最高潮を迎えていた。カンナは
ヘルガー、シバはカイリキー、互いに主力を先鋒として繰り出していたからだ。
これ以上のポケモンはいないのだから、ここで倒されたほうはほぼ敗北が決まる。
「ヘルガー!あんな筋肉ダルマ、その素早さなら相手にならないわ!」
「・・・なるほど、速さで錯乱か。お前のポケモンはおれたち格闘タイプとは
相性が悪い。一撃でもくらったら瀕死かその寸前まで追い込まれるのだ。
その作戦を責めはしない。しかし逃げてばかりでは勝利はないぞ―――っ!!」
シバの長年の相棒カイリキーのチョップがヘルガーめがけて放たれた。
「・・・ふふふ・・・ナツメ、あんたの仲間はもう一人負けてしまったようだね。
いや、二人かな?悲しいねぇ。遠慮せずにその無表情を崩してもいいんだよ?」
イツキはくすくすと笑いながら挑発するが、ナツメは眉一つ動かすことなく、
「悲しむ・・・?仲間・・・?勘違いするな。カンナも言っていたはず。わたしたちは
あくまでゴミの掃除を手っ取り早くするために組んだに過ぎない。結局最後には
誰が頂点にふさわしいか争い戦う相手だ。そんなやつの敗北を誰が悲しむものか」
その言葉に嘘はないようだ。ナツメは仲間であるはずのカンナたちの勝敗など心底
どうでもいいという様子でいる。謎が多いエスパー少女と呼ばれた彼女が
ますますわからなくなった。まさに得体の知れない相手を前に、イツキの顔から
笑いが消えた。