対抗戦第五試合、ナツメとグリーンのバトルが始まりを告げた。だがナツメは負傷し
フーディンが一人でグリーンの三体のポケモンをねじ伏せると宣言している。それを
返り討ちにしてグリーンが勝利すれば対抗戦は終了する。サカキたちが勝者となり、
ナツメと彼女に加担した四人には厳しい処分が下されることになる。バトル開始の
合図にスタジアムが大きく沸く様を空を飛ぶリザードンの背からレッドたちが見ていた。
「・・・グリーン・・・僕の親友であり永遠のライバル。あのフーディンからは確かに
とてつもない力を感じる。でもグリーンならきっとやってくれると信じている」
「あら・・・そうですか。ですがレッド、すでにあなたとグリーンさんの決着は
ついているのでは?もうライバルと呼ぶのはふさわしくないのではないかと。
だってあなたが世界で一番強くて凄くて、かっこよくて素敵で・・・・・・」
体を密着させているエリカからの愛の言葉にレッドは帽子で顔を隠さずにはいられず、
ピカチュウがニヤニヤしながら腰のあたりを突いてくるのを睨みたくても届かなかった。
「うふふ、三年以上も待っていたのですからわたくしも興奮を抑えきれません。
しかも今日一日だけであのころよりもあなたとの関係はより深くなった、
これくらいはいいでしょう・・・わたくしもほんとうは恥ずかしいのですよ?」
レッドが視線を上げるとエリカの顔も負けずに真っ赤だった。交際していた時期でさえ
二人は口づけすらしたことがない。しかし二人は結ばれたのだ。ここは誰にも邪魔されない
空であり、とうとうこの時が来た、レッドとエリカの顔の距離が近くなっていく。
ところが、二人の様子など肉眼では確認できないはずの遥か下からの声に阻止された。
「おいレッド―――――ッ!!お前そこでおれのバトルも見ないで嫁さんとべたべた
してんじゃねーだろうな――――――っ!ナメてんじゃねぇぞこら――――っ!!」
「・・・グ、グリーン・・・・・・」
「いいか、おれがこいつをブッ飛ばすところをよく見ておけ!それが終わったら
すぐにサカキとお前、そしておれで誰が一番強いのか決める究極のバトルを
始めるんだからよ――――っ!カントーの帝王と呼ばれているサカキ、それに
チャンピオンだったおれとお前!観客たちも最強が誰かを知りたいだろうぜ!」
「・・・ふふっ、グリーンめ・・・変わっていないようでよかった」
場内からも大歓声が沸き起こる。この三人、サカキやレッドにはブランクがあるが
今日その強さが錆びついていないことを証明した。グリーンもトキワジムの若き
リーダーとして実力は誰もが知っている。確かにカントーの三強はこの三人だった。
「・・・・・・フン、あんな三人ゴールドに比べたら何でもないでしょ」
「そうです!あたしも保証します。ゴールドさんのほうが強いですよ!」
客席のクリスタルとミカンは真ん中に座るゴールドに左右から語りかける。
現チャンピオンであるゴールドの勢いにはいずれも及ばないというのだ。
「どうかな・・・戦ったことがない相手ばかりだから何とも言えないけれど」
ゴールドは冷静に返答した。いまサカキたちと争う理由はないからだ。彼が
憎しみを燃やすのはアカネであり、グリーンが勝利したときは逃走を許さずに
拘束するための用意をしていた。そしてグリーンが負けたとしたら対戦成績は
完全な五分となる。そうなれば自分の出番だと密かに意気込んでいた。
「オホホ・・・ホーホッホッホ!これは面白いことを口になさいますね!」
グリーンの言葉に煽るような高笑いをしているのはフーディンだ。すでに
勝つことを前提に話を進めているグリーンを笑っているのかと思ったが
そうではなかった。グリーンに対して痛烈な侮辱の言葉を浴びせ始めた。
「そこの男サカキの強さは認めましょう。特別な力を持つスピアーは特に要注意です。
レッドさんの実力はもう言うまでもありません。ですがあなたは何者なのですか?
三か月程度ポケモンリーグのチャンピオンだったことは知っています。そう、
史上最短で王座陥落、史上最弱の王者であるというところまではわたしも理解して
いるのですが・・・あなたがどう強者であるのかわからないのですよ」
「・・・・・・おれを苛立たせて冷静さを失わせようとしてやがるのか?
だったらずいぶんとセコい作戦を使ってくるじゃねーか!」
「いえいえ、事実を口にしているにすぎません。あなたが先の二人と肩を並べようと
している・・・己の実力が全く見えていないおめでたさに笑ってしまったのです。
あなたもわかっているはずです。あなたのチャンピオン在位は三か月未満、そして
レッドさんがタマムシシティで入院し休養していた期間は三か月。つまり彼に
トラブルがなければあなたはセキエイ高原にたどり着く前に追いつかれ・・・
そもそもチャンピオンになることすらなかったのですよ―――――っ!」
「ググ~~~~~っ・・・てめぇ・・・・・・」
グリーンからこれまでの余裕が消え、呼吸すら荒くなっていた。フーディンの
言葉がすべて図星であり、威勢のよさでどうにか忘れようとしていた劣等感を抉る
ものだったからだ。先ほどナツメにもレッドに勝っているところは何一つないと
言われたばかりで、続けざまに攻撃を受けて冷静ではなくなり始めていた。
(落ち着くんじゃグリーン・・・試合前からペースを乱されていてはやつらの
思う壺!お前の三年間の努力が水の泡じゃ・・・・・・)
「・・・・・・・・・」
オーキドの心の声が届いたか、グリーンは目を深く閉じ、深呼吸をした。ナツメや
フーディンへの憎しみを一度捨て去り、己のことに関してのみ考え始めた。
晴れてチャンピオンになったグリーンは毎日のように考えていた。自分はカントー、
そしてジョウトを含めたポケモントレーナーの頂点に立った。なのになぜ心から
満ち足りた気分にならない?これが自分の幼き頃の夢、追い求めていた栄光であり、
いまそれを手にしているというのに。その答えは簡単だ。『あいつ』・・・レッドを
倒さないことには真の王者とは名乗れないからだ。いかにカメラの前で調子よく
自らの才能を誇り、人々から称賛の言葉を受けても真の喜びは得られなかった。
『・・・どこからだ?何がおれとあいつを逆転させるきっかけだった?』
初めて祖父からポケモンをもらったその日、レッドに勝負を仕掛け、そして勝った。
その後も偶然再会したならばバトルをし、連勝した。負ける気がしなかった。
ポケモンの鍛え方、戦術、勝負所を見極めるセンスと思い切りの良さ・・・どれを
とっても自分のほうが遥かに上で、ライバルというよりはいいカモだった。
『・・・!これはグレイトなトレーナーが現れたネ!ユーはバトルの天才ダ!』
『へへへ・・・まあおれもそうなんじゃないかなって思ってはいたけど・・・
あんたのようなジムリーダーにまでそう言われたらますます自信がついたぜ!』
誰が相手でも勝利を重ね、順風満帆なグリーンの冒険に変化が生じたのは、
主力ポケモンでありマサラタウンからの付き合いだったラッタを亡くした
ことが始まりだった。事故であり、突然の悲劇だった。数日してシオンタウンの
ポケモンタワーにラッタを葬ったそのとき、レッドが現れたのだった。
『・・・なんだお前、こんなところで。お前のポケモン死んだのか?』
『いや、そうじゃない。用事は別にある。このシルフスコープで・・・』
『ちっ、冷やかしか。気に入らない野郎だ。いいさ、戦闘不能にしてやるぜ!』
バトルができる精神状態ではなかったが彼の顔を見ると自然と戦いを始めていた。
結果、レッドに初敗北を喫した。しかしこれは力負けではない。自分とポケモンの
コンディションが最悪の状態でさえなければ負ける相手ではないはずなのだ。
『・・・・・・ふん。これじゃああいつも安心して天国に行けねえ。いまおれと
いっしょにいるこいつらのためにももっと強くならねえと・・・』
やがてグリーンはラッタの死を乗り越え、トレーナーとして更に一回り成長し
躍進を続けた。八つの公認バッジを全て手にし、ポケモンリーグ挑戦権を得た。
だが、その間二回だけバトルに敗れている。いずれも相手はレッドだった。
『・・・よし!いいぞマックイーン!とどめの10まんボルトだ!』
『ちっ・・・!くそ、わかった・・・降参だ。今日はお前に運があったな』
もしかしたら、あってはならないことではあるがもしかすると・・・レッドは
自分よりも強くなったのではないか?その思いがグリーンを悩ませ続けた。
ラッタの死はもう引きずっていない。自分もポケモンたちも成長を実感している。
なのにどうしてあのレッドがこのおれに連勝できる?疑問が不安や苛立ちを生んだ。
レッドの覚醒の理由をグリーンは知らなかった。レッドがタマムシジムでエリカと
出会い、彼女との修業によって眠っていた素質が花開いたのだ。ジムの火災に
巻き込まれたためにレッドが入院し旅を中断していたのを知らず、バッジを集める
スピードが遅かったのも彼の覚醒に気がつかない原因の一つだった。エリカと共に
じっくりと成長を続けていたレッドがすでにグリーンを追い越していたなどとは。
『カイリュー・・・戦闘不能!よって勝者は・・・挑戦者グリーンだ――――っ!!
年若き天才がついにセキエイのチャンピオン不在に終止符を打った―――――っ!
新チャンピオン、グリーン!彼こそが王者!誰よりも強いチャンピオンだ!』
ポケモンリーグを守る四天王、その総大将ワタルを死闘の末に倒し、グリーンは
空位となっていたチャンピオンの座を手にした。勝利の瞬間は感動のあまり
泣きそうになったが、格好悪いからとどうにか堪え、にっこりと笑って派手な
ガッツポーズを決めた。直後のインタビューでも、その後の雑誌やテレビの取材でも
自らを称え、バトルの采配を自画自賛する言葉を並べた。あまりにも傲慢、
天狗になっていると非難する声もあったが、グリーンには信念があった。
『・・・まだだ・・・まだゴールじゃない。いまはまだ我慢だ・・・・・・』
ほんとうは彼も言いたかった。自分ではなくポケモンたちが頑張ってくれたから
チャンピオンになることができ、その王座を防衛し続けることができている。
主力から控えを含めたポケモンたち全員、そして天国のラッタに感謝している、と。
だが、それを口にするのは自分が真に満たされた瞬間に、と決めていたのだ。
『北や南のポケモンリーグのチャンピオンにも勝っておれがこの国で一番強い
トレーナーになった時か?それとも海外の大会で優勝し世界一になったときか?
いや・・・違う!おれが手に入れたいのは・・・勝ちたいのは・・・・・・』
彼が答えに到達しかけたときだった。明日ポケモンリーグに挑戦するのはグリーンと
同い年、しかも同じマサラタウン出身のトレーナーであると聞かされた。もしその
挑戦者が四天王をすべて倒したならさらに翌日、チャンピオンとの戦いとなる。
『・・・・・・ついに来たか・・・レッド!倒してやるぜ、チャンピオンとしてな!
だから負けんじゃねーぞ、おれの前に立つまではな・・・・・・』
グリーンはレッドが勝ち進むことを望んでいた。そして実際にその通りになった。
しかしスタジアムでレッドが見せたパフォーマンスはグリーンの想像以上だった。
『ピッカ――――――ッ!!』
『うぐっ・・・・・・ば・・・ばかな・・・!うそだろ・・・・・・』
『・・・バ、バトル終了――――――っ!!これは強い、まさに大差の大圧勝!
挑戦者レッド四連勝!その強さにスタジアムからは大きな拍手だ!』
一番初めのカンナとのバトルのみ残り二体まで追い詰められたが後は圧巻の
試合だった。シバ、キクコに完勝し、四戦目のワタル相手にはなんと一体も
倒されることなく勝負を決めた。最後はピカチュウが衝撃の一日を締めた。
四天王たちは格下であるはずのレッドに惨敗したことにショックを隠せず、
彼らが早々に引きあげていく中、グリーンは最後まで席を立たなかった。
『・・・・・・・・・』
これはまずい、ライバルとの決戦を楽しむどころではないと彼は焦り始めていた。
いい勝負どころか善戦すらできずに自分も敗れる未来しか見えなかった。
チャンピオンの座を賭けた戦いは独特の緊張感をもたらし、初めてその舞台に立つ
レッドは緊張して力を出し切れないかもしれない。今日の連戦の疲れが抜けずに
ポケモンのコンディションは悪いかもしれない。そんな相手のミスや泣き所に
頼るしかない時点でグリーンに勝機はほとんどなかった。外野の人間たちは
どちらが勝つかわからないなどと言っていたがグリーンはすでに追い詰められていた。
『どうすればいい・・・?なあお前ら、お前らはどう思う?』
答えてくれるはずもないポケモンたちを相手に尋ねてしまうほど苦しい夜だった。
レッドのエースはピカチュウだ。ならば地面タイプを並べたらどうか?いや、
あのピカチュウはどうしたわけかなみのりを覚えていた。それにカメックスや
ラプラスといったレッドの他の主力相手にこの戦法は自殺行為だ。
もう何度も対戦していることを利用し、ほとんど表に出さないポケモンたちを
使うことで意表を突き、レッドとそのポケモンたちが動揺している隙に押し切る、
それも考えた。しかし慣れないことをすれば転ぶのはたいてい自分のほうだ。
『策に溺れるくらいなら・・・おれが信じるお前たちと心中だ!それなら
負けても後悔はねぇ!お前たち六体はチャンピオンロードを乗り越えて
四天王どもを倒した・・・おれの考えた最強のパーティだ!』
『ピジャア―――!』 『ギャアァァ―――――ス!』
細かい作戦を練ることを放棄し、共に歩んできた特に思い入れのあるポケモンで
真っ向からレッドを迎え撃つことを決めた。そのとき自然と心に余裕が生まれた。
愛する主人に全てを任されたことでポケモンたちの闘志も最高に満ち満ちていた。
『・・・戻れ、フシギバナ!もう一度がんばれ、マック・・・ピカチュウ!』
『このまま押し切れ――――っ!ブースタァ―――――っ!!』
公式戦であるためポケモンを本来の呼び名で呼ばねばならず、疑わしいと判定される
行為は本人にその気が全くなかったとしても減点対象となる。一足早くポケモンリーグの
試合に慣れていたグリーンはその点で有利だった。それだけでなく、これまでの
トレーナー人生で一番と断言できるほどに手応えのあるバトルだった。ポケモンとの
息がぴったりと合い、相手の思考が読め、常にその場の最善手を選択でき・・・。
『・・・・・・!ピカチュウ、かみなりだ!』
『そんなもん当たるか―――――っ!だいもんじで焼き尽くせ――――――っ!!』
『ブースター・・・戦闘不能!バトル終了、挑戦者レッドの勝利!』
それでもグリーンは敗れた。彼の最後のポケモンであるブースターが倒れたとき、
体力は僅かしかないが、それでも三体のポケモンがレッドには残っていた。
これは勝てるかもしれない、追い越されたはずのレッドに追いつき再びかわせる、
バトルの途中でそう確信したがついにレッドの影を踏むことはかなわなかった。
捕らえたと思ったところで、もうひと伸び。力及ばずグリーンは負けた。
『・・・やった。ありがとう、マック。それにみんなも・・・・・・』
『・・・・・・』
ガッツポーズや雄叫びは一切ない、いつものように静かに、静かにポケモンたちを
撫でて褒めるレッド。するとフィールドにグリーンの祖父であり、レッドとグリーンに
ポケモンを与えたオーキドが登場した。彼はバトルを終えた二人を並んで立たせ、言った。
『まずはレッド!ポケモンリーグ制覇おめでとう!ピカチュウと二人で旅立った
あの日からきみはトレーナーとして、人間として、男としてずっと成長した!
このわしですらきみの真の力を見抜けず、引き出すこともできなかった。
果たして何がきっかけだったのか・・・まあ後々聞かせてもらうことにしよう!』
新チャンピオンとなったレッドに対しての心からの祝いの言葉がその後も続いた。
それが終わると、次はグリーンに向けてオーキドは話を始める。先ほどまでの
笑顔は消え、厳しい顔つきで、どこか悲しそうな声で言うのだった。
『そしてグリーン・・・残念だ!お前は今日どうして負けたか・・・わかるか?
それはポケモンへの愛情と信頼を忘れていたからだ!自分の手柄ばかりを
口にして浮かれる最近のお前は目に余っていた。それではトップには立てんぞ!』
このときグリーンは心のなかでオーキドを侮った。もし本気でこんなことを言って
いるのなら祖父はすでに耄碌してしまっていると。レッドの強さはもはやそのような
次元で語れるものではないのだ。現に誰もレッドに手も足も出なかったではないか。
これでは彼以外の皆がポケモンへの愛や信頼が全くないということになってしまう。
『・・・・・・そうかもしれないな、じいさん。おれは間違っていた』
しかしグリーンはオーキドに反発せず、自分の気持ちを押し殺して同意した。
そういうことにしておけばいい。それならばまだ救いはある。確かに少し
ガールフレンドたちと遊んだりコマーシャルに出る時間が増えたり、ポケモンを
思う機会が減っていたかもしれない。もう一度初心に帰り、レッドに挑戦
すればいい。そう自分を納得させられるのだから。そう思っていたときだった。
『・・・博士、それは違います!』
なんとあの無口で物静かなレッドが大きな声で、尊敬するオーキドの言葉に反論した。
レッドは憤りに満ちていて、オーキドはもちろんグリーンもただただ驚くだけだった。
会場も騒然としていたが、レッドはオーキドに向かって恐れることなく話した。
『僕はグリーン以上にポケモンへの愛情と信頼に満たされたトレーナーを知りません。
カントーを旅してたくさんの人と出会いましたがグリーンは最高のトレーナーです』
自分をかばうつもりなのか、それとも本心からそう思ってくれているのかはわからない。
だが、やめてくれ。グリーンは小さな声でそう呟いた。これ以上はやめてくれと。
『今日のバトルのポケモンたちを見ればそれは明らかです。マサラタウンのすぐそばで
捕まえたポッポをずっと大切に育てている。ここにいないとはいえ、何事もなければ
コラッタだってきっとその牙で僕のポケモンを苦しめたことでしょう』
グリーンのピジョット、それにすでに死んでしまったラッタにもレッドは触れた。
旅の途中で多くのポケモンをゲットしても初めからの二体を彼は使い続けたのだ。
ここでレッドは視線をグリーンに向けた。彼を心から称えたかったからだ。
『あのギャラドス・・・恥ずかしいから黙っているんだろうけれど騙されて500円で
買ったやつだろう?僕もやられたからわかるよ。でも貧弱なコイキングをそこまで
強くは僕にはできなかった。テレポートしか使えなかったケーシィも同じだ。
いま立派なフーディンとして強力な技を見せてくれた。すごかったよ』
『・・・・・・』
『それにサイホーンやタマタマ・・・サファリゾーンの珍しくもないポケモンを
きみは自分だけのポケモンにした。サイドンのつのドリルもナッシーのふみつけも
今日は不発だったけれどそこから崩されて逆転される可能性があった。そして
きみの最初のポケモン、イーブイ。もしほんとうに愛情や信頼がないのなら
あんなに輝いた目をしていたかな?きみのために全力以上の力を出せたかな?』
グリーンとポケモンたちの信頼関係を力強く説くレッド。するとオーキドが彼の肩を叩き、
『・・・もうよい。どうやらわしの目が衰えてしまっていたようだ』
『博士・・・そんなことは』
『いや、これからはお前たち若い者の時代じゃ。バトルの質も昔よりずっと上がって
きた。それにこんなにポケモンを愛する二人が今後のポケモン界を引っ張っていく。
未来は明るいぞ、さあ、二人で会場の声援に応えてやれい!』
観客から新旧のチャンピオンに向けられる歓声はいつまでも鳴りやまなかった。
『レッド――――っ!お前の黄金時代の幕開けの生き証人になれてうれしいぜ――――!』
『おれはグリーンの反撃に期待するぜ――――っ!また王座に返り咲いてくれ―――っ』
レッドは相棒ピカチュウを頭にのせて共にスタンドに手を振った。大勢の人々に、
もちろん会場に来ているであろう自分の母親にも、そしてこの出会いがなければ
セキエイのスタジアムに立つことすらなかったと断言できる最愛の女性にも。
本格化したポケモンバトルの天才少年が五連勝で栄冠を手にしたのだ。
一方でグリーン、その瞳は彼自身にしかわからないほど僅かに潤んでいた。今日
負けた悔しさからではない。今日がレッドに勝つ最後のチャンスだったからだ。
これからレッドはますます強くなっていくだろう。もしグリーンがポケモンとの
絆を蔑ろにして自分のことばかりを考えていたならばまだ逆転の目はあった。
反省し誇り高ぶった自分を低めてやり直せばいいからだ。しかし・・・・・・。
((・・・だったらおれは・・・どうやってお前に勝てっていうんだよ・・・!))
天に選ばれし真の天才はレッドだったのだ。大きな挫折感に打ちのめされた
グリーンが再びチャンピオンに戻ることは二度となかった。