ポケットモンスターS   作:O江原K

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第63話 怪物の倒し方

 

追われる立場だったのに、届きそうにない音速で走る背中を追う立場になった。

自分は十年に一人の天才だと思っていた。だがあいつは百年に一人の天才だった。

王者でなくなったグリーンはプライドがズタズタになりながらも足を止めなかった。

敗れた翌日からすぐに特訓のために山にこもりポケモンたちと基礎から練習を

始めた。レッドの戦術や彼の使用するポケモンの癖も研究し、針の穴ほどもない

勝機を探した。そして季節も秋になり、リベンジマッチにとある大会を選んだ。

 

『今日はチャンピオン戦でもなければ最高峰のトーナメント戦でもありません!

 しかし会場は超満員!それもそのはずです、なんと地元の王者レッドはもちろん、

 北と南のポケモンリーグの現役チャンピオンが参戦しているのです!加えて

 前チャンピオンのグリーン、カントー四天王のワタルも含めた全九人、

 もっと大きな舞台で見たいと思われたバトルがここで実現するのです!』

 

現役チャンピオンが三人揃った、それ以外のトレーナーも豪華な顔ぶれの

この大会、まずは三つに分けたグループリーグ戦を行い、成績上位が準決勝に

進むという流れだった。レッドは北のポケモンリーグの女チャンピオンと同じ

グループに、グリーンは南のポケモンリーグのチャンピオンと同組に入った。

 

『・・・あいつと戦うには・・・こんなところで負けるわけにはいかねぇな!』

 

長い修業の後の公の場での初戦であり、レッドに至るまでは全て通過点という

過剰なライバル意識を抱いて臨んだ。ところが彼以外のトレーナーを軽視したのが

災いし、グリーンは予選で二敗してしまった。念願の再戦を果たせずに見物に

回ることになったが、そこで再びレッドとの差を思い知らされる。

 

『こんなものなのかカントーは・・・これならぼくの優勝はやるまでもないかな?』

 

『・・・・・・・・・』

 

国内であっても南のポケモンたちはカントーやジョウトでは馴染みのない種類の

ものたちがいて、グリーンはそれに対処しきれなかった。前チャンピオンの

グリーンを倒したことで南の皇帝と呼ばれるチャンピオンはレッドをも楽に

倒せるだろうと思っていた。だが、バトルは予想外の決着を迎えた。

 

『・・・!エアームド戦闘不能!しょ・・・勝者はレッド!』

 

『準決勝第一試合!勝ったのはカントーの王者レッドだ――――っ!なんと・・・

 チャンピオン同士の戦いであるというのに、しかも六対六のバトルであるというのに!

 スコアは6対0!一方的に突き放してねじ伏せました―――――っ!!』

 

レッドは予選で北の女王を下して予選敗退に追い込んでいた。この準決勝でもグリーンを

倒した相手を完膚なきまでに粉砕した。しかもポケモンたちにもまだまだ余力がある。

もう一つの準決勝ではワタルが勝ち上がったが優勝が誰なのかはすでにこの時点で

決まっていたようなものだった。誰一人として並ぶ者はいない異次元の逃亡者に

人々は史上最強のトレーナーがいま目の前にいるのだと興奮し、熱狂した。

その異常な熱のなかで、グリーンは自分だけ急速に冷めていくのを感じていた。

 

 

『え――――・・・まずはお疲れ様でした。準決勝敗退ということでしたが』

 

『うーん・・・そうだね、ここまで何もできずに負けたのは初めてかもしれない』

 

『今日の優勝トレーナーでありあなたを破ったレッドについては?』

 

『レッドくんの前にチャンピオンだったというグリーンくんとも直前に戦ったから

 実力を見誤った。彼らがライバル関係、いや以前はグリーンくんの連戦連勝

 だったなんて信じられないね。レッドくんは彼よりも遥かに強かったよ』

 

 

この日を最後にレッドに勝とうなどという目標はグリーンから完全に消え失せ、

今度ばかりは静かな故郷に帰り休養に入った。その途中でレッドがいなくなったと

聞かされ、友人であるグリーンも心当たりのある場所を探したが無駄だった。

なぜレッドがチャンピオンの座を捨てて失踪したのか、事件に巻き込まれたか、

それとも死亡したのかしばらく人々の間で議論されていた。もちろんグリーンにも

レッドが消えた理由はわからなかったが、ある一つの結論に至っていた。

 

『・・・レッドは飽き飽きしていたんだ。おれたち相手じゃつまらないと。

 くそ・・・おれがもっとあいつを満足させられるようなトレーナーなら!』

 

レッドが王座を返上したことで前チャンピオンのグリーンに声がかかったが

彼はそれを辞退し、同じく空位となっていたトキワジムのリーダーに就任

したいという意思を表明した。第一線から退いて指導者として生きていくのかと

聞かれ、しばらくは別の視点でポケモンについて勉強したいと答えたのだ。

 

『ジムにはいろんな挑戦者が来る。一個もバッジを持っていない新人も、おれさえ

 倒せばポケモンリーグに挑戦できるっていう強豪もな。たくさんのトレーナーや

 数多くのポケモンと戦ってみることで新たな扉が開けるかもしれない。おれが

 考えもしなかった戦法やポケモンの連携が見られる、それが楽しみなんだ』

 

 

 

 

フーディンの挑発に対し、グリーンは静かにこれまでの自分の歩みを思い返す

ことで気持ちを落ち着かせていった。レッドに遠く及ばないと指摘し、グリーンの

ポケモンならば一人でも楽勝と笑うフーディンの言葉をあえて否定しなかった。

 

「・・・確かにこれまでのおれはそうだった。勝手にライバルだと意気込んでいたが

 どう間違っても勝てないほどに差をつけられちまっていた・・・」

 

「よくわかっておられるではありませんか。素晴らしい」

 

「だがいまのおれは違う!自分の弱さを認め、謙虚に学び続けた。ジムリーダー仲間や

 ポケモンリーグお抱えのエリートたちはもちろん、必要ならおれより年下、初めて

 ジムに挑戦しに来たようなガキにもアドバイスを求め、それを受け入れた!

 その結果おれのバトルは幅が広がって、どんな相手と急に戦うことになったとしても

 勝利できるようになった――――っ!お前みたいなやつの攻略法もすでにある!」

 

ほう、と頷くフーディンをよそに、グリーンは上空のレッドに向かって叫ぶ。

 

「レッド――――っ!お前がいなくなったのはおれが不甲斐ないせい、そう思い

 今日まで修業を続けてきたのにまさか女絡みのくだらねー理由で三年もシロガネに

 身を隠してたなんていうふざけた野郎が―――――っ!一度は失いかけたお前を

 倒すという夢!フーディンを殺したら次はお前だからな―――――っ!」

 

改めてレッドとの戦いを申し込む。返事は聞こえないが、ここまで言われて逃げる

レッドではない。喜んで仕掛けられた勝負を買うだろう。

 

 

「このわたしが通過点に過ぎないと・・・面白い冗談ですね。ですがもう結構です。

 愚かな挑戦、その無謀さにふさわしい結末をプレゼントして差し上げましょう!」

 

「フン・・・どっちが愚かだったか、やりゃあわかるさ!いけ―――――っ!!」

 

審判団の合図が出る前にバトルが始まった。フーディンはそのまま前に出て

フィールドに立ち、グリーンは最初のポケモンにピジョットを選んだ。

 

 

 

「・・・そういえばエリカ、ジムリーダーとしてのグリーンはどうだった?

 仕事ぶりとか他のリーダーの人たちとうまくやっていたかとか・・・。

 どうしてもグリーンがジムで毎日働いている姿が想像できなくて・・・」

 

「特に問題はありませんでしたよ?悪い話は聞いていませんね。試合前の

 トークショーでナツメが話したように、初心者相手に手加減するのがやや

 苦手で力を抜きすぎてしまうくらいですが些細な問題ですよ」

 

三年前のグリーンであれば考えられないことだった。自分よりも遥かに弱い

トレーナーを気遣うような男ではなかった。成長し大人になっている証明だった。

 

「わかったよ。そうか、あのグリーンが僕の知らないうちに立派になって・・・。

 ナツメさんやフーディンはさっきからグリーンより僕のほうが上だとか言って

 いるけれどほんとうのところは真逆だ。グリーンが世の中の役に立っている間、

 僕は山で自分とポケモンだけの世界に籠っていたんだ・・・」

 

自分の生き方を恥じるようにしてレッドがぽつりとそう言った。衝動的で勝手な行動が

人々に迷惑をかけ、何も生みだしていなかった無価値な日々に至ったのを悔いていた。

だが、そんな彼をずっと待ち続けたエリカはレッドを優しく包み込むようにして、

 

「・・・うふふ、だからといってまた『僕よりもあなたを幸せにしてくれる人がいる』

 などと考えてどこかへいなくなってしまうのはやめてくださいね、レッド」

 

「エリカ・・・・・・いや、もうそんなことは・・・」

 

「あなたがグリーンさんより上か下かなど、わたくしたちに何の関係があるでしょうか。

 それにわたくしはあなたが初めてタマムシジムを訪れたときからすでにあなたが

 他の誰にも増して輝いているとわかっていました。それこそ他の誰もが無名の

 あなたを気にも留めないころから、今日までその思いは揺らいだこともありません」

 

「・・・・・・ありがとう。同じことで悩んで失敗を繰り返すところだった」

 

これまでよりもこれからのほうが長いのだからもう振り返るのはやめにしようと

二人で決めたばかりだった。まだ不安定ではあるがその未来は明るく輝いている。

 

 

「ピカ~ッ」 「グルルル・・・・・・」

 

レッドのシロガネ山での三年が決して意味のないものなんかではないと言いたかった

ピカチュウとリザードンであったが、いまレッドとエリカの世界には入り込めない。

しょうがない、といった感じで自分たちだけで会話をするのだった。

 

『・・・やれやれ、離れていた時間が長かったからか?一気に関係が進みそうだぜ』

 

『それはどうかな?二人とも奥手だし純粋だからね。昔だってキスすらしなかった。

 そこまでいくのにまあ短くて三か月くらいかかるんじゃない?』

 

二人と一体を乗せるリザードンのパーマーの頭のあたりまでピカチュウ、レッドが

マックイーンと呼ぶ小さな名優がやってきた。レッドたちの邪魔をしないためだ。

 

『ハハハ・・・そうかもな。だが羨ましいぜ。マック、お前ももう少ししたら

 あのモンジャラといろいろ楽しむつもりだろ?くそ・・・俺にも彼女が

 いたらなァ。キレイハナちゃんなんかかわいくて俺好みなんだがむこうは

 俺を好きなわけがない。この図体でしかも苦手な炎なんだからな・・・ハァ』

 

『希望は捨てるなよ。それにいろいろ楽しむってなんだよ。ぼくらだって

 レッドたちのように清い交際を・・・・・・』

 

『ちっ・・・クソが――――っ!』

 

マックイーンとパーマー、この二体が何を話しているのかレッドたちにはわからないが、

だんだん飛行に安定感がなくなってきているため、機嫌が悪いというのは明らかだった。

 

「おいパーマー!どうしたんだ、揺れ始めたぞ・・・うわっ!」 

 

「・・・きゃっ!レッド・・・・・・」

 

落下するところまではいかなかったが、一瞬ヒヤリとさせられた。このときまたしても

レッドとエリカは密着し、互いに少し顔を近づけたなら唇が触れ、僅かに腕を伸ばした

なら相手の胸に手が届く状態であったのだが、ピカチュウの予想は的中した。

 

「・・・・・・あ、あれを!もうバトルが始まっている!ちゃんと見なきゃ・・・」

 

「そ、そうですね!せっかくあなたが楽しみにしていたグリーンさんの試合ですもの!」

 

先は長いな、とピカチュウたちに笑われたのを二人は知らなかった。

 

『だから言っただろ?おい、もう少し下まで行けないか?バトルの様子を・・・』

 

『ああ、そうだったな。あのグリーン、自分が勝ったら次の対戦相手に俺たちを

 指名してきやがった。あいつらがどれくらい強くなったのか見てやらないとな』

 

ポケモンたちもグリーンのバトルには興味があった。レッドとグリーンが因縁の

ライバル関係であるのならそのポケモンたちも当然何度も戦ったライバル同士であり、

久々に目にする彼らがどのくらい強くなったか、ピカチュウもリザードンも

気になっていた。だが、もう一つこのバトルを見ておかなくてはいけない理由がある。

 

『・・・グリーンのポケモンたちはまだいいとして・・・問題はあのフーディンだ。

 ぼくたちも今日まで知らなかったやつだけど、あの禍々しいオーラ、遠くからでも

 よくわかるほどだった。もしぼくたちがあいつと戦っていたら・・・・・・』

 

『死んでいたかもしれねぇな。あいつは普通のポケモンじゃない、何かあるぜ。

 ポケモンリーグでバリバリやっていたころの俺らでも全員無事というわけには

 いかんだろう。どう動くか油断せずにマークしておくべきだな』

 

ポケモンだからこそフーディンの異常性を人間よりも鋭く感じ取っていた。見た目は

自分たちと同じポケモンという種であるはずなのに、どこかが決定的に違う。

ただ圧倒的な強さを誇るだけではなく、その強さの秘密もしくは意外な弱点を

明らかにできない限りは戦えないと歴戦の強者である二体が認めたのだ。

 

 

「ホッホッホ!ピジョット・・・ですか。まあいいでしょう、わたしを相手にして

 本気で勝つつもりのようですから・・・わたしとしてはあなたの思い上がりを

 徹底的に打ちのめしたくなりました、あえて先に攻撃する権利を差し上げましょう!」

 

グリーンのピジョット。鳥ポケモンのスペシャリストであるハヤトの主力である

ピジョットとの対決に勝利したこともあるほどの強さを持つ。それでもフーディンは

何の脅威でもないと見下し、一通り攻撃を受けてやってから圧倒するパフォーマンスを

見せつけるというプランを選び、余裕を持って身構えていた。

 

「・・・ハハッ!ならありがたくそうさせてもらうぜ!十日前のイツキとのバトルで

 お前の弱点はすでに見抜いていたんだ、その慢心と油断がお前の命取りとなる!

 いけ!ショウリ!まずはあの技からだ―――――っ!!」

 

「ピジャア――――――ッ!!」

 

ショウリと呼ばれたピジョット、彼はグリーンがマサラタウンを出て最初に

モンスターボールによって仲間にしたポケモンだった。よっていまグリーンが

自分に何を求めているのか具体的な指示などなくてもわかっている。

 

「威勢と鳴き声のやかましさだけは超一流のようですが・・・ん?」

 

真っ直ぐ飛んでくると思われたピジョットが素早い動きで体の向きを変え、地面に

その足先を擦らせると泥の塊が完成し、それをフーディン目がけて投げつけた。

 

「ピッジャーーーーーッ!」

 

「うぬっ・・・これは!どろかけなどという小細工を・・・・・・!」

 

フーディンの視界を泥によって妨げ、命中率を下げるための技だった。反撃が

こないことを利用し、ピジョットはもう一度同じ動きでどろかけを放った。

 

「・・・ぐっ!小汚い泥を二度もこの顔に・・・!やってくれますね・・・」

 

「フン!一番汚いのはてめぇとてめぇのトレーナーの腐り切った根性だろうが!

 その腹黒い心を泥できれいにしてくれてありがとうと礼が欲しいところだぜ!」

 

「・・・わかりました、では感謝を込めてあなたのポケモンを倒させてもらいます!」

 

フーディンが攻撃態勢に入った。動作からしておそらくはサイケこうせんだ。

二回もどろかけを当てたのに狙いはほぼ正確で、ピジョットは逃げる術がない。

 

「クソッ!化け物め・・・だが後々この仕掛けは効いてくるさ。ショウリ、お前は

 十分仕事をした!だが最後にもう一つ頼んだぜ!」

 

自分でも避けきれないとわかりながらピジョットは慌てずに、後に続く二体と

グリーンを信じた。愛する主人を嘲るフーディンに一泡吹かせてやりたい気持ちを

堪えて与えられた指令を全うする、ピジョットの行動と信念は最後まで揺らがなかった。

 

「あなたの出番もこれで終わりです。せいぜい大技を披露して華々しく・・・」

 

どんな技が来ても大したことではない。あえて受けてやるもよし、決まったと相手が

ぬか喜びした瞬間にサイケこうせんを炸裂させるのもよし。攻撃の構えの最中で

ありながらフーディンには多くの考えを巡らせる余裕があった。しかし、まさか

倒れる寸前までこれしかしてこないというのはフーディンをも驚かせた。

 

「・・・ピジョ―――――ッ!!!」

 

「ま、またしても・・・!これ以外には一切の役割もなかったとは」

 

三度目のどろかけ攻撃。フーディンの攻撃を乱すことさえできればピジョットは

十分だった。泥はフーディンの顔に直撃したが、それと同時に強烈なサイケこうせんが

襲いかかり、たった一撃でピジョットは倒れたまま瀕死となってしまった。

 

「・・・・・・ビャ―――――ッ・・・・・・」

 

「よくやったショウリ。お次はこいつだ、ローレル!」

 

フーディンに一息入れさせないため、戦闘不能の合図を待たずにポケモンの入れ替えを

瞬時に行ったグリーンの二体目のポケモンはローレルという愛称を持つナッシーだ。

 

「ナッシッシ・・・ナッシッシシ・・・」

 

「お前もどうすればいいかはわかってるはずだ―――――っ!」

 

フーディンはここでも最初は様子を見るだけのようだ。果たしてナッシーが

何のために起用されたのか、グリーンの狙いを知るためだった。この時点で

すでに大方の予想はついていたが、ナッシーの行動はその裏付けとなった。

 

「ッシ―――――ッ!」

 

いきなりしびれごなを放ってきた。やはりこの後に控える最後のポケモンの補助を

命じられているようだ。もし自分でフーディンに少しでもダメージを与えたいのなら

多彩な攻撃技を持ち、動きを封じたいのならさいみんじゅつも得意なナッシーだ。

ピジョットがそうであったように三体目のポケモンが戦いやすくするための技

ばかりを仕込まれているようだ。下手をすれば攻撃手段はないかもしれない。

 

『・・・これは・・・第四試合でエリカのラフレシアもどくどくが唯一相手に

 ダメージを与える方法であり直接攻撃の術を一個も持っていなかったということが

 ありましたが・・・このナッシーも・・・でしょうか?』

 

『ウム・・・グリーンは三体で確実にフーディンを仕留めたいのじゃろう。

 規格外の怪物を倒すためにはこのような形で力を合わせねば・・・』

 

フーディンはしびれごなを楽々とかわした。するとナッシーは両手を広げ、

 

『ナ―――――ッシ―――――――――ッ!!』

 

にほんばれを発動させた。すでに太陽が沈む時間であるのに日差しが強くなった。

ナッシーは草のポケモンであり弱点である炎ポケモンを助けるにほんばれを

わざわざ使うということはこの状況であれば答えは一つだ。

 

「・・・やはりそうでしたか、グリーンさん。最初の二体は捨て駒、あなたが最も

 信頼を置くエースのために犠牲として使ってきましたか。このにほんばれも

 そこのナッシーにソーラービームを使わせるためではなく・・・」

 

「まあそんなところだ。マヒしてくれたらもっとよかったがこんなもので準備は

 完了だ!三回も泥をくらったお前をおれたちのエースが燃やし尽くしてやるぜ!」

 

「ホッホッホ!あなたはわたしとナツメさんの言葉をお忘れですか?ポケモンを

 物のように使い捨てる輩を許しはしないと。自身の無能の責任をポケモンに

 押しつけて過酷を強いる腐ったトレーナーの排除のために来たと――――っ!」

 

フーディンがナッシー目がけて突進した。グリーンの作戦が忌み嫌うべきものであれば、

それに異を唱えることなく従うポケモンも許せないというのがフーディンの考え方だ。

人間たちに媚び続けた結果がポケモンを酷く扱うトレーナーの増加につながったとして、

ナツメと共に目指すというポケモン中心の新しい世界にふさわしくないと判断した

人間とポケモンを裁くことこそフーディンが自らに課した使命だった。

 

「フム・・・確かに悪くない作戦だ。だが同時にやつの怒りを買った。

 これが吉と出るか凶と出るか・・・次なる策はあるのか?」

 

カツラとアンズは勝利を得られずに去り、レッドは勝ったものの上空へと消えた。

サカキは自分のほかにはスピアーしかいない陣営からグリーンの戦いを一瞬でも

見逃すまいとしていた。グリーンが勝ってしまえばそれでいい。しかしその確率は

かなり低く、厳しい勝負だというのはわかっている。彼が敗れたらフーディンの

次なる標的はサカキとスピアーだ。初めて顔を合わせたときからスピアーが

これまでにないほど敵意を向けただけに、対決は避けて通れないだろう。

 

「・・・・・・・・・!」

 

「ああ。わかっている、スピアー。そのためにお前は、そしてわたしもここに来た。

 やつの野望を阻止し平和を守る、わたしたちがやらなくてはならないことだ。

 他の誰でもない、わたしとお前があの怪物を葬り去るのだ」

 

サカキたちだけではなく、スタジアムのほとんどの人間がグリーンの勝ち目が薄いと

思いながらバトルを観戦している。激怒したフーディンの攻撃に、このままでは

ナッシーが危ない、さらにその後に出番を待つ最後のポケモンとグリーンも

どうなるかわからない、そんな不安に覆われていた。だが、このときグリーンと

ナッシーは静かに笑っていた。描いていた作戦の通りに事は進んでいたからだ。

 

 

「無能な主人に服従した己の愚かさと不運を恨みなさい!タァ―――――ッ!!」

 

「シャ―――――――!!」

 

フーディンの攻撃が届くよりも前にフィールドは突然の大爆発に覆われた。

全ては至近距離でだいばくはつの大技に巻き込むための算段だったのだ。


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