ポケットモンスターS   作:O江原K

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第65話 転生ポケモン

 

最大の必殺技だいもんじすら通用せず、それを返されて全身が燃やされてもなお

ブースターの闘志は熱いままだ。むしろここからが本当の勝負だと言いたげだ。

 

『あ―――っとブースター!もはや虫の息ながら根性で向かっていく――――っ!』

 

「もういい!やめろスターオー!この勝負はおれたちの・・・・・・」

 

その先の言葉を言ってしまえばグリーンとブースターのギブアップ負けが決まる。

だからブースターは一瞬だけ憎き敵フーディンから目を逸らしグリーンを見た。

この視線だけで自分が何を言おうとしているか伝わると信じていたからだ。

 

「・・・・・・!お、お前・・・・・・」

 

「ブッシャァァ―――――――!!!」

 

並々ならぬ思いを感じ取ったグリーンは敗北宣言をせず戦闘を続行させた。それに

感謝しながらブースターは再び前を向き、攻撃のため手足に力を込めた。

 

「ホーホッホッホッホ!愚かすぎます!ならばお望み通り最後の一撃を!」

 

フーディンはピジョットを倒したときと同じ構えに入った。サイケこうせんだ。

しかし数倍の威力を秘めた、ブースターの命を奪いかねないほどの破壊力を

こめてそれを放った。ブースターが殺されてしまうと場内から悲鳴が飛んだが、

ロックオンされたブースターは恐れの気持ちを全く抱かずに突進していった。

 

 

「ウオオオオオ――――――!!!」

 

「食らいなさい!サイケこうせん――――――っ!!」

 

これで決着、皆が惨劇を覚悟した。しかしそうはならなかった。

 

「オオオオオオオ―――――――!!!!」

 

『・・・こ、これは――――――っ!あのフーディンがまさかの攻撃失敗!

 サイケこうせんが外れてブースターは無事だ――――!』

 

ブースターを葬るはずの一撃が不発に終わり、猛突進は止まらなかった。

 

 

「遊んでいるようには見えなかった。確実にとどめの攻撃を与えるつもりで

 サイケこうせんを使っていたわ。それなのに回避の動きすらなかった

 ブースターに命中しなかったのはどうしたことかしら・・・」

 

「おお、そうだ!ここでピジョットのどろかけが生きたのだ!」

 

フーディンの技を狂わせたのはバトルの始めに仕込んだどろかけ。加えて

日差しはまだ強い。炎がいつも以上に燃え盛る状況だった。

 

「なんと・・・!この者、死と隣り合わせにいるというのに恐怖の色が微塵もない!」

 

攻撃が外れたことよりも、ブースターの精神力にフーディンは驚き入っていた。

全身に炎を纏ったブースターがもの凄い速さで迫ってきている。

 

 

「ウオオオオオオ――――――!!!」

 

「・・・スターオー・・・!やっぱりお前は大したやつだぜ!あの日お前を

 無理矢理にでもゲットして・・・おれは心からよかったと思っているぜ!

 そんなスゲェー新技をここで繰り出せるなんて・・・いけ――――――!!」

 

グリーンの叫びがブースターの背中を押す。怪物殺しの集大成が近づいていた。

 

「いけ――――――っ!!スタァ―――――オ――――――!!!お前こそが王、

 誰よりも勇敢で誇り高く、そして強い唯一無二の王だ――――――っ!!」

 

「オリャ――――――――!!!」

 

炎の球となったブースターの全力のタックルがフーディンに炸裂した。ただの

すてみタックルよりも炎のぶんだけ破壊力が高いだろう。だが己への反動も

大きく、仮にフーディンを倒せたとしても共倒れになりかねない、それほどの

危険を伴う新技だった。激突音の激しさ、またその瞬間にフーディンとブースターを

真っ赤な炎が覆い尽くし、その凄まじさが誰に対しても十分に伝わっていた。

 

 

「・・・ナッシーのだいばくはつのときと同じだ!炎で何も見えない!」

 

「立っているのはブースターか!?それともフーディンか!?もしくは・・・・・・!」

 

会場全体が勝敗の行方が明らかになるのを静かに待つ。もちろんナツメも控室の

席に座りフーディンのバトルを見守っていた。そこにようやく、ハピナスのタマゴを

食べて過剰なエネルギーを持て余したアカネが暴走を終えて帰ってきた。放出すべき

パワーを捨ててきただけのアカネは汗をかいているだけで疲れている様子はなかったが

彼女を追っていたピッピ、ピィ、ハピナスは息切れし、足の動きが鈍っていた。

 

「おお、ナツメ!もう起きて平気なんか!どれ、バトルのほうはどないな感じや?」

 

「もうすぐ終わる・・・戦いはいまがまさに最高潮だ。グリーンの最後のポケモン、

 ブースターの技が決まったところだ。フーディンもあれは避けられないだろう」

 

それを聞いてアカネの表情が急変した。ナツメが悠然と座っているものだから

てっきりフーディンがワンサイドゲームで相手をねじ伏せ楽勝なのだろうと

思っていたら真逆の返答が飛んできたのだ。無理もない反応だ。

 

「・・・はぁ!?じゃあ勝負は・・・」

 

ナツメはにやっと笑った。そして口を開こうとしたと同時に炎が消えた。

 

 

「・・・・・・ああ、フーディンの勝ちだ!」

 

ブースターの共倒れ覚悟の決死の特攻すらフーディンは受け止めていた。

全くの無傷というわけにはいかず、吐血していたが倒れるまでには至らなかった。

 

『フ、フーディン!ブースターの新必殺技までも凌いでみせた―――――っ!』

 

「ブ・・・ブガァ~・・・」

 

そんな馬鹿な、と落胆を隠せないブースター。すでに体力は限界で、フーディンに

がっちりと捕らえられた状態から抜け出すことはできなかった。

 

「ゴホッ・・・・・・こ、これはわたしの計算外でした。あなたの・・・いえ、

 あなたたちのことを侮りすぎていました。あなたたちに対しての数々の

 見下げるような発言・・・ほんとうに申し訳ありませんでした。ですが!」

 

フーディンはブースターを軽く空中に放った。フィニッシュは目前だった。

 

「それでもわたしには遥かに届かなかった!ホッホッホ、残念、残念です!

 この距離では多少泥の影響があったところで攻撃が外れることはありません。

 つまりあなたたちはもうおしまいです!サイコキネシス――――――ッ!!」

 

 

とうとうフーディンの必殺技が決まった。ブースターは成すすべなく吹き飛ばされる。

念力の渦に自由を奪われ吹き飛ばされた先には、愛する主人がいた。たった一秒にも

満たない速さでブースターが目の前に迫ってきても避けられるはずがなかった。

 

「うげぇっ!!!」 「ブギャガァ―――――ッ!!」

 

『こ・・・こ・・・これは何という暴挙だ!十日前のイツキとネイティオに次ぐ

 犠牲者が出てしまった――――っ!トレーナーまでも巻き込む一撃――――っ!』

 

『・・・グ、グリーン!』

 

 

激しく衝突させられたグリーンとブースターは揃ってフィールドに落下した。

互いに意識はまだあり、その腕を伸ばして手を取り合おうとする。

 

「ス・・・スターオー・・・・・・」

 

『・・・グ、グリーンとブースター・・・傷つきながらも前へ前へと・・・!

 これもイツキとネイティオ、彼らの時と同じ光景!熱い友情だ―――っ!』

 

確かに一見十日前と同じだ。しかし違うところがある。そのときフーディンは

イツキたちを殺すつもりでサイコキネシスを放った。ナツメが密かに介入し彼らは

生き残ったのだが、今回ナツメは手を出していない。フーディンが意図的に

この程度の威力に止めていたのだ。つまり、まだ終わってはいなかった。

 

「・・・・・・・・・」

 

 

グリーンたちの右手がしっかりと握られた瞬間、フーディンは無慈悲にも

足で力いっぱい踏みつけた。手の骨が砕けた音がはっきりと聞こえた。

 

「グオオオ――――ッ・・・!」 「ブガ・・・・・・」

 

痛みのあまりグリーンは悶絶し、ブースターは失神した。地を転がりまわる

グリーンをじっと見下すフーディン。その醜悪な笑みは嫌悪感を抱かずには

いられない、それを目にしただけで気の弱い人間は体調が悪くなるほどだった。

 

「さあ・・・ギブアップの時間です。といってもただバトルの負けを宣言する

 だけではありません。あなたとあなたのポケモンたちがわたしたちに屈し、

 今後はわたしたちのために己の財産も頭脳も労力も全てを捧げる、そう誓えば

 命を取るのは容赦してあげましょう。あなたたちにはなかなか見込みがある。

 生かしておいてもいいと思いましてね・・・どうでしょう?」

 

ナツメとフーディンは自分たちに従う者は救うと最初から明らかにしている。

しかし逆らう者は新たなポケモン中心の世界に不要として容赦なく除き去る、

それも明確に口にしている。ここでグリーンに与えられた選択肢は二つ、

命乞いして服従の道を選ぶか、反発して死を選ぶか、二つだけだった。

 

「・・・く・・・クソ・・・これほどまでに強いだなんて・・・何なんだお前は。

 普通のポケモンじゃあないというのはわかっていたが・・・クソったれめ!」

 

それでもグリーンはあえてどちらでもない事柄を口にした。オーキドは立ち上がり、

 

(や・・・やめろ!余計なことを言うな!殺される・・・!)

 

その不安通り、フーディンがグリーンに向かって腕を伸ばそうとする。すると

失神したはずのブースターの目が鋭く光り、鋭い牙で腕に噛みつこうとした。

 

「ガァ――――ッ!」

 

『お――っと!主人の危機にブースター飛び起きて立ちはだかる――――っ』

 

気を失っていたふりをして、最後の反撃のためのチャンスを探っていたのだ。

グリーンもそれを知っていたからこそあえて意味の薄い言葉を語り自分に注意を

向けさせたのだが、フーディンはかみつく攻撃を楽々とかわしブースターの

首元を掴んだ。その首からは並外れた握力によってみしみしと音が聞こえてくる。

 

「ブグゥ―――――ッ・・・」

 

「ホッホッホ、無駄なことはおやめなさい。そんな悪あがきなど何にもなりません。

 わたしの体を見てごらんなさい、先ほどの傷はだいぶ癒えてしまっていますよ?」

 

じこさいせいによって回復したフーディン。グリーンたちの万策は尽きた。

 

「この期に及んでこのような反抗的な態度・・・それが答えですか―――――っ!」

 

ブースターを鷲掴みにしたまま投げ捨てるようにして地面に叩きつけた。

 

「ブガハ―――――ッ!!」

 

今度こそ完全に意識を失ったブースターにもう用はないとしたフーディンは次に

グリーンの髪の毛を掴んで起き上がらせ、強制的に座らせた。

 

「ぐぐぐ・・・」

 

「これで決着・・・のはずですがなかなか審判団の方々から合図が出ませんね。

 いい機会です、グリーンさん、先ほどあなたはわたしが何者なのかと尋ねて

 いましたね?いいでしょう、教えてあげますよ。これを聞けばもしかすると

 あなたも気が変わるかもしれませんからね。何度もチャンスを与えるわたしの

 寛大さに感謝してください。それに・・・そろそろこの会場、またこの試合を

 中継で眺めている全ての人間やポケモンに明らかにする時がきました!」

 

 

通常のポケモンとは何から何まで格が違うこのフーディン。その正体を自ら明らかに

するとあっては悲鳴やブーイングも止み、聞き逃すまいと誰もが耳を傾けた。

どうにか意識を保っているグリーン、上空にいるレッドたちも同じであり、

すでにこの謎を聞いているナツメ以外は例外なくフーディンの言葉を待っていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

いや、サカキの隣にいるスピアー。実は彼女はフーディンのことをよく知っていた。

フーディンを倒すために当初は傍観を決めたサカキを動かし、並々ならぬ敵意を

向け続けている。それでもフーディンが何を語るのかは気になるところだった。

真実を語るとは限らず、新たなる混乱や災厄をもたらすかもしれないからだ。

そうであれば今すぐにフィールドに乱入し、バトルを始める決意でいた。

 

 

 

「・・・わたしの強さの秘密・・・皆さん、よくお聞きなさい!」

 

フーディンはまたしても笑う。比類なき悪魔の笑顔を見て人々は悪寒が走った。

 

「わたしはただのポケモンではありません。この世にただ一人、神によって

 選ばれし・・・『転生ポケモン』なのですよ!」

 

 

転生ポケモン、その言葉にスタジアムはざわつき始めたが、どうもそれだけでは

事の全容が伝わってこない。その中の一人であるアカネがフーディンに質問を投げた。

 

「転生・・・?ピンと来んなぁ。それがどうあんたの強さにつながるんや?」

 

「それならアタイたちみんなそうじゃないか!たとえ体が死んでも魂は不滅で

 また別のものとして生まれ変わる・・・ほんとうかどうかはわからないけれど」

 

アンズもまた疑問を抱く。年若い二人だけでなく、皆が更なる説明を求めている。

 

「ホッホッホ、普通はそうです。自らが前世ではどのような者であったか知って

 命を受けることはありません。ですがわたしはその例外!神が愛した特異な

 存在であるわたしはほぼ全ての記憶を引き継いだだけでなく、この命の全てを

 崇高な目的のために捧げると誓ったために素晴らしい力を授かったのです!

 そう、世界を正しい形に・・・ポケモンが人間を支配する世とするために!

 かつての過ちから学ばず再び愚かな道を進む者どもへの裁きのために!」

 

 

前世からの記憶、加えて圧倒的な能力を生まれながらにして得ていたというのだ。

決して誇張や妄言には聞こえず、神が選びしは我という言葉には説得力があった。

比類なき力を散々見せつけられてきた後であり、他のポケモンと次元が違う理由は

にわかには信じがたい現実離れしたようなものでなければもう納得ができなかった。

皆がそれを受け入れつつあったとき、いまだ抵抗を続けるグリーンは反発し、

 

「ケッ・・・な、何が崇高な目的だ。新しい世を創るだと?誰もお前なんかに

 頼んじゃいねーよ。お前の前世がどんなモンだったかなんかちっとも興味はねぇが

 生まれ変わってまでこんな気の狂ったやつになったんだ。たかが知れてるぜ・・・」

 

安い挑発だった。もはや敗者の捨て台詞でしかなかった。相手にもされないだろうと

思われたが、フーディンはそれに反応し、眉間にしわを寄せながら体を震わせていた。

グリーンに暴行を加えようとはしなかったが、その憤怒は激しかった。

 

「・・・へへ・・・どうした?怒ったのかよ?」

 

「いいえ・・・あなたは無知なだけです。対象外ですよ、感情を向ける相手としては。

 許し難いのはあなたのような若者に何も教えてこなかった連中です。あなたたちは

 全く知らないのでしょうね。たったの数十年前です、それが起きたのは!

 狂っていたのはわたしではない、このカントー・・・いや、この国の全てが

 甚だしく狂い、断罪されるべき惨めなものだったのですよ――――っ!!」


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