ポケットモンスターS   作:O江原K

68 / 148
第68話 成長

 

ナツメとキクコが互いにポケモンを繰り出したことでバトルが始まった。アカネは

控え席に戻り、モンスターボールの外に出していた自分の残る三体のポケモンたちと

共に観戦しようとした。だが、そこにはあまりにも意外な者が座っていた。

 

 

「おお、こんにちはアカネさん。先ほどは見事な勝利でしたね」

 

「げっ!あんたは・・・ロリコン界の重鎮・・・スリーパー・・・・・・」

 

ナツメのポケモンであるスリーパーが中央に腰かけていた。幼ければ人間だろうが

ポケモンだろうが、性別すら問わないで襲いかかるというとんでもないポケモンで、

前科も多々あり恐れられていた。現にピッピとピィはすっかり怯えてしまい、

ハピナスの背の後ろに隠れてしまっていた。スリーパーの性癖であればアカネと

ハピナスはその対象外であるが、ピッピとピィはまさにストライクゾーンど真ん中だ。

 

「何をしとるんや!まさかうちらがおらん僅かな隙にピーちゃんたちを襲おうと・・・!

 それにあんたの主人がちょうどバトル真っ最中やないか!ここにおってエエんか?」

 

「ええ・・・ナツメさんはこの試合で使うポケモンをすでに決めておられます。

 私は出場しません。ですがそれとは別の任務を与えられました。そのために

 この場にいるのですから、どうかそこのお嬢さんたちを安心させてあげてください」

 

ナツメに命じられたと聞いてアカネは警戒心を解いた。それならスリーパーが

暴挙に至って自分の大切なポケモンに危害を加えることはないだろう。現に

手出しするチャンスはあったのにピッピたちは無事だった。

 

「別の任務・・・?何なんや、そりゃあ?」

 

「申し訳ありません。おそらく聞かれるだろうがふさわしい時まで黙っているように、

 我が主人からそう言われているものですから。いずれお話しします、いや・・・

 そうしなくてはならなくなるでしょうね。ひとまず試合に注目しましょう」

 

はじめのうちは言葉の真意や意図を隠し、後にそれを明らかにするナツメのやり方だ。

ならばそれを待とうとアカネもまずはナツメの戦いぶりをじっくりと観察することに

した。今日までの十日間、何回か練習試合を挑んだが一度も勝てなかった相手の

弱点や癖をどうにかして探し出さなければ攻略の糸口は見えない。

 

「ナツメとあの婆さんの戦い・・・どっちも策士やからなぁ。なかなか終わらん

 長い戦いになるやろ。スリーパー、あんたはどう思う?」

 

「ええ、私たちの勝利は揺らがないとしても長期戦は確実でしょうね。互いに

 能力変化や状態異常を駆使して戦う技巧派ですから。うんざりするほどの

 長時間の試合となったレッド対エリカ戦を超えるとしても不思議ではありません」

 

ナツメの戦法はリフレクターやひかりのかべを最初に用意し、フラッシュで相手の

命中力を下げかげぶんしんで自分の回避力を高め、しっかりと守りを固めてから

攻勢に出るのが主流だった。そこにさいみんじゅつを絡めることもある。

キクコもまた敵を眠らせたり混乱させたりしてからじっくりと攻撃を開始する。猛毒や

マヒで弱らせた相手をくろいまなざしで逃げられなくすることもあれば、みちづれや

のろいという恐ろしい技も使いこなす。ポケモン交代のタイミングも巧かった。

 

 

「この国でポケモンバトルが始まったころは補助技なんて誰も使わなかったそうです。

 ただ互いに最高の威力を誇る攻撃をぶつけるだけだったとか。相性も特徴も

 全然研究が進んでいないため根性で勝てとか特訓の成果を出せだとか・・・。

 それを変えた第一人者がキクコさんだと言われています」

 

「どんな風に変えたんや?」

 

「相手の攻撃をどう受けるか、そもそも攻撃させないためにどう自由を奪うか、

 自分の攻撃の威力を高め確実に相手を仕留めるにはどうすればいいか・・・。

 高火力での技の撃ち合いだけではない、戦術や技構成の読み合いを重視する

 戦い方を確立させ定着させたそうです。その頃にはオーキド博士をはじめとした

 研究者たちによってポケモンの生態が解明され技の種類も増えていたのも

 大きかった。それまで目立たなかったポケモンにも活躍の場が与えられました」

 

キクコの功績は大きかった。ポケモンバトルのあらゆる方面での可能性を広げたのだ。

 

「キョウさんとアンズさん父娘、それにエリカさんといった相手の行動を封じ

 直接的な攻撃ではない方法で体力を奪い沈めていくスタイル、それらの祖は

 キクコさんなのです。おそらくキョウさんには年代的に直々に教えているでしょう。

 そのキョウさんからまた下の世代に伝わっていき・・・今に至るのです」

 

「うちは誰からも教わっとらん独学やから関係ない話や。そんな回りくどいマネ

 するより攻めて攻めて攻めまくる!鬼のような攻めがうちの特徴や!」

 

アカネは自らを超攻撃型だと主張する。ところがスリーパーは小さく微笑むと、

 

「フフフ・・・ナツメさんは違う考えを口にしていましたよ。確か・・・」

 

アカネとのスパーリングの後、ナツメは自分のポケモンたちにこう言っていた。

別荘での十日間、しかもその早い段階で正確に答えを出したのだ。

 

『アカネはおそらく自分のことを攻撃タイプだと思っているだろうが実は違う。

 メロメロやうたう、あまえる・・・優秀な技はサポート系が多かった。

 それにエースのミルタンクがミルクのみを使えるんだ、本質は耐久型だ。

 本人の性格が邪魔をしているのかもしれないが持久戦でこそ真価を発揮する』

 

このときアカネはまだカビゴンやハピナスといった回復技を持ちしかも体力のある

ポケモンを隠していたのだが、それでもナツメはアカネに最も適した戦術を見抜き、

単なる技術タイプではなく長丁場を想定した戦いに向いているとしていた。

 

「・・・持久戦・・・!確かにホンマや、さっきのバトルじゃシンシアに

 食べ残しを持たせてねむるを使わせた。たえこのたまごうみもある」

 

「我が主人の目は本物ですからね。間違いはありませんよ。あなたに関して

 ナツメさんが述べられたことがまだあります。これは昨日のことですが・・・」

 

スリーパーは語る。ナツメが笑顔で自分たちに近づき嬉しそうに話した言葉を。

 

『あなたたちも一週間程度戦ってみてわかっただろうがやはりわたしは正しかった。

 あのアカネにはチャンピオンとなる資質がある!この短い期間でこれほどまでに

 急成長を遂げているトレーナーをわたしは知らない。先日あれは耐久型だと

 言ったが違う。おそらくは超万能型!何をやらせても人並み以上にこなせる、

 チャンピオンとしてポケモンリーグの頂点に立つ能力がある!』

 

『・・・それは言い過ぎでは?確かに成長の速さには驚かされますが』

 

『アカネはまだ発展途上中だ。明日の戦いではまだその真価は見られないかもしれない。

 だがその秘めたるものが爆発すれば、わたしなどよりもずっと上のトレーナーに

 なれると確信した!超能力・・・エスパーではない、更に素晴らしい力によって!

 ただしそれまではまだわたしのほうが上、わたしを超えるかどうかは本人次第だ』

 

 

「・・・・・・ナツメ・・・・・・!」

 

ナツメにとても高く評価されていることを改めて実感し、アカネは目を潤ませて感動した。

 

「ナツメさんはあなたを他の誰よりも信じ、期待していました。そしてあなたは先ほどの

 戦いのとき覚醒しナツメさんの求めていた力を発現させたことでそれに応えてみせた。

 ですから今から始まる戦いに我が主人は必ずや勝利を収められることでしょう。万が一 敗れるようなこととなればあなたは正真正銘一人になってしまいます。そんな事態を

 決して許すはずがない愛情深い方であることをアカネさん、あなたはもう知っています」

 

「・・・・・・せやな!ナツメ―――っ!!絶対勝つんやで―――――っ!!」

 

大きな声で声援を飛ばした。一方スリーパーは離れたところからバトルの行方を

眺めているフーディンの様子を確認した。幸いなことにこちらのほうをほとんど

気にかけていない。スリーパーのこれから行おうとしていることもわからないだろう。

 

(・・・では始めますか。私が失敗すれば多くの命が失われることになる!)

 

 

 

 

フィールドにはナツメのエーフィ、キクコのアーボックがすでにいる。だがどちらも

最初の技を出そうとしない。その原因はエーフィにあった。

 

「へっへ~、やっぱナツメちゃんが一番頼りにしてるのはこの私なんだよね~。

 大事な最初のポケモンとして選んでくれたんだからわかるよ~。でも相手が

 トレーナーもポケモンもあんなヨボヨボのおばあちゃんでちょっと拍子抜けかな」

 

ナツメのポケモンたちはいずれも人の言葉を話す。よって何を考えているのか、

何を言いたいのかが誰にでも伝わるのだ。ナツメがそのようにしたのだから当然

メリットは大きいが、このエーフィのような若くてしかも口の軽い者となると

デメリットを見過ごすことはできなかった。キクコたちを不必要に刺激したからだ。

 

「ほう、面白いじゃないか。小便臭いガキが上から物を言うとはねぇ」

 

「シャァ———・・・・・・・・・」

 

「そうじゃないって。おばあちゃんを一方的にいじめるのってイヤだな~って

 思っただけだよ。絵的に何だか私が悪者みたいじゃん?イメージとか人気にも

 関わるしさぁ、間違って大けがさせちゃったらどうしようって心配でさ」

 

エーフィの物言いにキクコは、そしてアーボックは憤りを抱いていた。だが彼女たちは

経験豊富な大ベテランだ。怒りに我を忘れるのではなく、この感情を勝利のための力に

うまく変えるためにどうすればいいかわかっている。安い挑発など無意味だった。

 

「いいことを思いついちゃった。私はあのフーディンさんをリスペクトしてるんだよね。

 あの無敵の強さで次々と圧勝を繰り返す!憧れるね。だからマネしちゃおうかな。

 さっきフーディンさんは力の差がありすぎるゴミカスたち相手に先制権をあげた、

 だから私も・・・まずはそっちから動いていいよ、おばあちゃんたち!これなら私が

 弱い者いじめをしてるって思う人もいないだろうし、いいでしょ?」

 

一応の確認のためにエーフィはナツメのほうを振り返る。ナツメの指示は試合前に

与えられたものと変わらなかった。『全て任せる』、バトル中の何もかもが自由だと

いうことで、このたびのフーディンを模倣する行為をも止めなかった。

 

「よーし、ナツメちゃんのオッケーも出たし・・・いつでもどーぞっ!」

 

「ヒヒヒ・・・そうかいそうかい・・・」

 

 

歴連の強者キクコを相手にいきなりの侮辱に近いサービス。観客たちもどよめいた。

ナツメのポケモンはフーディンだけでなく他の五体も規格外のレベルであるのかと

ある者は恐怖し、ある者は興奮した。それに、これはナツメとキクコという何重にも

策を張り巡らす業師同士の対戦だ。この一つの出来事にも互いの思惑が行き巡り、

一見キクコ有利と思える無条件での先攻にも何か裏があるのではないかと思わされ、

いずれにせよこのバトルがすんなりと進むとは思えない、そんな幕開けだった。

 

 

「自信満々やなぁ・・・いくら相手は毒タイプ、相性は絶対的有利やけど・・・

 なかなかできんで。スリーパー、あんたもフーディンには憧れとるんか?

 ロリコンやからそーいう対象じゃないにしても・・・」

 

人や動物と同じように、強いポケモンに惹かれるのは種族として当然なのだろう。

お喋り好きでとにかく何かを話していたいアカネはスリーパーに尋ねてみた。

するとスリーパーの表情は曇り始めた。彼はエーフィとは真逆の思いだった。

 

「いいえ・・・私の克服しなくてはならない性的嗜好は別として、私はあの方が

 あまり好きではありません。ポケモンとは成長し強くなっていくもの。それには

 深い絆で結ばれた人間との真の友情と心からの信頼が欠かせません。ナツメさんも

 それをたびたび口にしています。なのにあの方はその別領域にいる歪な存在だ!

 私たちナツメさんのポケモンでもあの方を快く思っているのはいまフィールドにいる

 彼女くらいのもの。まだ年若いため仕方のないことではありますが」

 

「年若い・・・あんた、あのエーフィを襲ったりしとらんやろな?」

 

「・・・・・・ハハハ、それはさておき・・・試合が動きますよ!」

 

その並外れた暴虐的な強さのためにフーディンは仲間たちからも嫌われている、そして

スリーパーにピッピとピィを近づけるのはやはり危険だ、二つの情報を得たアカネは

会場の大歓声に意識をフィールドに戻した。アーボックが技を繰り出そうとしていた。

 

 

「そうそう、それでいいんだよ、おばあちゃん。若者の親切は受け入れなくっちゃ。

 どーせ私のサイコキネシスで一発退場するんだからその前に思い出作りしなよ」

 

「シャ——————ボック!!」

 

「うわっ、すごい睨みつけてきてる。でもそんなのちっとも怖く・・・」

 

エーフィの気が緩んだ瞬間だった。アーボックの腹の模様がエーフィの眼前に現れた。

恐ろしい顔つきのように見えるその模様にエーフィは思わず一瞬怯えてしまった。

 

「うわぁっ!び、びっくりした!何それ、こんなところで驚かさないでよ、まったく!

 てっきり攻撃してくると思ったけど・・・もういいかな?私の番ってことで・・・」

 

いまだに心臓の鼓動が速くなっているエーフィがアーボックを一撃で倒すべく

サイコキネシスの体勢に入ろうとした。だが、体が言うことを聞かず、動かそうと

思っても動けない。気がつけば痺れが全身を覆っていた。

 

「あ・・・れ・・・?わ、技が出せない・・・・・・」

 

「ヒヒヒ、何をされたかもわかってないのかい。アーボックの十八番だよ、アンタ。

 ただ睨みつけたわけじゃないよ。こいつはへびにらみ、アンタの体はマヒして

 技が出辛くなっちまったのさ。ただ攻撃するだけじゃ反撃されて終わり、ところが

 この技が決まったことで勝敗までも変わってしまったのさ————っ!」

 

エーフィというポケモンは二股の尻尾や全身の細かい体毛を用いて空気の流れを読み

相手の思考や未来を予知できる。へびにらみという技も予期できたはずだった。

ところが相手がエスパーに無力の毒タイプポケモン、しかも老いているときた。

気の緩みからそれらを怠ってしまったのが運の尽きであり、挽回しようのない

大失態だった。マヒのせいでアーボックに純粋な速さでも先手を奪われると、

 

「シャガァ——————ッ!」

 

「あいたたっ!!ちょ、ちょっと待って・・・・・・」

 

強烈なかみつく攻撃の前に怯んでしまいまたしても技が出せなかった。威力も

そこそこあるうえにマヒと怯みの二重苦で一方的に攻撃される泥沼から抜け出せない。

 

「サ、サイコキネシスさえ使えたら一撃でおしまいなのに・・・・・・!」

 

「シャババ———!!」

 

アーボックはいまだ無傷のままエーフィを追い詰めていく。そして機が到来した。

 

「ここだよ、アーボック!ヘドロばくだんだ————っ!」

 

体内の毒を爆弾の形に変えてエーフィ目がけて投げつけた。高威力ながら命中率も

安定しているこの技がアーボックの絶対的な自信を持つ必殺技だった。これが

出たということは確実に相手を倒せるとキクコが確信したということだ。

 

「あ・・・これ、ヤバ・・・うわぁ—————っ!!」

 

危機を察しながらもすでに時遅しのエーフィにヘドロが着弾し、激しく爆発した。

アーボックは技を出し終えるとエーフィから距離を取り、バトル開始時の位置に

戻った。追撃は必要ないと判断したのだ。

 

「・・・・・・きゅううぅ・・・・・・・・・」

 

目を回したままダウンした。キクコとアーボックの読み通り、起き上がってはこなかった。

 

 

『な・・・なんと!エーフィ戦闘不能!戦闘不能です!大方の予想に反しキクコが

 先制しました!余裕たっぷりに構えていたエーフィ、一回も技を繰り出すことが

 できずに倒れてしまいました!これは痛恨————っ!!』

 

場内から大歓声が起きた。キクコ不利と思われたこのバトルがこれで面白くなった。

どちらが勝つか全くわからないからこそ興奮と緊張感を抱きながら観戦できる。

加えて観客からすれば外道な悪役であるナツメのポケモンがあっさりと倒されたことは

爽快以外の何物でもなく、彼女が苦々しい表情をするのを心待ちにしていた。だが

当の本人はこれといって落胆する様子もなくエーフィをボールに戻した。

 

「ヒヒッ・・・痩せ我慢する必要はないよ、悔しさや焦りをぜひアタシに見せとくれ。

 期待を込めて送り出した最初のポケモンが無駄死にとあってはさすがのあんたも

 内心穏やかでないのは当然だろ?勝利の目も薄くなってきたのだから・・・」

 

キクコが煽るような言い方で語りかけてもナツメの表情は変わらず、動揺は見られない。

 

「無駄死に・・・?それはない、むしろ素晴らしい収穫があった」

 

「・・・ハァ?」

 

「これでエーフィは二度と同じ失敗をしないだろう。無様な敗北という痛い経験から、

 相手がどんな見た目でどれだけ自分が有利であっても決して慢心せずに相手に

 敬意を払うことの大切さを学んだはずだ。以前からこの悪癖は見られていたが

 口で言っても改善できないのはわかっていた。失敗しなければ変わらないだろうと」

 

ナツメは白い歯を見せて笑っていた。エーフィが確実に精神面で成長するであろう

価値のある一敗に満足し、喜んですらいたのだ。キクコはやや呆れた顔で言った。

 

「・・・悠長だねあんたは。アタシに負けたらあんたは破滅!どんな罰を受けるにせよ

 二度とポケモンバトルをすることは許されなくなるんだよ?いくら弱点を克服しようが

 成長しようが勝たなきゃあ意味がない一戦のはずじゃないのかね?」

 

「くくく・・・そうだった、あまりに嬉しくて忘れてしまっていた。しかしあなたも

 わかるはずだ、この気持ちは。どんな大事なバトルの最中であったとしても自分の

 ポケモンの成長を感じ取ることができたらつい勝敗などそっちのけで喜んでしまう。

 これまで一日として欠かさず大切に育ててきたのだから・・・笑みを抑えられなかった」

 

「・・・・・・・・・!!」

 

ナツメの返答にキクコは驚きの表情を浮かべたまま声が出なかった。まさかナツメから

こんな言葉が出るとは思ってもみなかったからだ。すでにナツメという人間の本質を

掴みかけているアカネからすれば意外でも何でもないことであり、隣に座っている

スリーパーと顔を見合わせ、互いに頷くだけだった。

 

(ふふふ・・・これならうちがあたふたせんでもええな。結局自分が勝つ、

 そう信じとるからこその余裕!このバトルは通過点に過ぎんっちゅう話やな)

 

(やはりナツメさんは大したお方だ。どのような状況に置かれても己の信念を

 見失われることはない。だからこそ私たちはあの方についていくと決意した)

 

キクコが驚き戸惑っているのはナツメを感情の乏しい冷たい人間だと思い込んでいる

せいで、派手な超能力以上にポケモンの地道な成長を価値あるものとしている

ナツメをわかっていないからだ、アカネもスリーパーもそう思い疑わなかった。

しかし真相は違った。キクコは彼女だけが知る全く別の理由で心を動かされていた。

 

 

 

『初の女性トレーナーの優勝まであと一歩でした・・・キクコ選手、残念でしたね。

 ですがそれほど落ち込んでいるようには見られませんが・・・準優勝という結果に

 満足している、ということでしょうか?』

 

『いーや、優勝できなかったのは悔しいよ、でもそれ以上にこの戦いの途中で

 アタシのポケモンたちが確かに強くなったってわかったのさ。これからもっと

 成長できるという光が見えて、明日からの鍛錬と試合が楽しみで仕方がないんだ。

 何よりずっと大事に育てたポケモンの成長は勝ち負け以上に嬉しいモンだからね、

 だから笑ってるんじゃないのかね、いまのアタシは』

 

 

 

四十年は前だろうか。栄冠を逃したというのに心は晴れやかで希望に満ちていた。

そのときの自分とほぼ同じ内容の言葉をいまナツメが口にしている。狙っているのか、

それとも偶然か・・・。キクコは両手で自分の顔を二回叩いて気合を入れ直した。

優位に立ったのは自分だ。バトルと直接関係のないくだらないことでリズムを崩し

付け込まれてしまうのは愚の骨頂だ。動揺したのを悟られることすらあってはならない。

 

 

「ヒヒヒ、まあいいだろう。何を言おうがあんたたちに明日はないんだ。

 長話をするつもりもちっともない・・・早く次のポケモンを出しな」

 

「・・・・・・いけ、バリヤード」

 

エーフィが倒れ、残りは二体。ナツメの次なるポケモンはバリヤードだ。

補助技のスペシャリストであり、劣勢を変えるには最適のポケモンだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。