現役の四天王同士であるカリンとシバの戦い。格闘ポケモンを友とするシバ相手では
カリンのヘルガーであっても分が悪い。ワタルがカイリューのはかいこうせんで
相性のよくないラプラスを一撃必殺狙いで攻めるような戦法もとれず、できることと
いえば距離をとって、怪力無双のカイリキーの餌食にならないようにするだけだった。
そんななか、遠距離攻撃であったかえんほうしゃが見事決まり、カリンの作戦が
功を奏したかに見えた。カイリキーは火だるまとなっている。
「うふふ・・・シバ、あなた私を甘く見ていたんじゃないの?悪タイプを中心に
戦う私なんて楽勝だと。でもやり方次第でいくらでも勝利の目はある。
さっさと次のポケモンに代えたらどうなの?自慢の筋肉が焼き肉になる前に」
カリンが挑発的なポーズでシバを刺激しようとしたが、シバが常日頃から
鍛錬しているのは肉体だけではなく精神もだ。全く彼女の言葉に動じない。
「ふん、愚かな。見る目がないのはお前のほうだ。この程度の炎でおれと共に
一日も欠かさず地獄の特訓に励んでいるポケモンが倒れると思うな!
おい、カイリキーよ!そろそろ遊びはやめにしようではないか――――っ!」
「ウオオオ――――!!ハァァァア――――ッ!!」
シバの激にカイリキーが吠える。すると全身の筋肉が更に増し加わり、より強靭になった。
「すごい声ね。ヘルガーの吠える声よりも人やポケモンを遠ざけそうだわ」
「ウオオオオァァァ―――――――ッ!!!」
「・・・・・・・・・!!」
カイリキーの気迫がついに自らを包んでいた炎を消火させた。傷は浅いようだ。
余裕の態度でいたカリンもこれには意識を改めざるをえなくなった。
「・・・まさか・・・!私のヘルガーのかえんほうしゃがこんな簡単に!」
「あれほど離れたところから放ったのだ。威力など察するべきだ。それとも何だ?
自分の最も信頼するポケモンの必殺技なのだから多少の不都合なことは目を
つむってしまうのか?これで倒せないはずがないと・・・甘すぎるな」
シバの指摘に今度はカリンがいら立ちを露わにした。小さく歯ぎしりまでしている。
「ポケモンを信頼することは絶対に必要だが盲信は逆に危険だ。四天王である者として
そのようなことも知らないとは・・・やはり愚かだ。いや、愚かでなければ
ポケモンリーグ本部への反乱など実行しないか・・・」
「・・・あなたはいまの現状を指をくわえて見ていることができると?
だとしたら脳みそまで筋肉になってしまっているようね」
「そうではない。しかしおれたちはポケモントレーナーだ。おれたちがすべきことは
政治や革命ではない。己とポケモンを限界まで鍛えあげて高みを目指すことだ。
手を出すべきではないところに首を突っ込むなどあってはならぬのだ!」
あくまで自らの置かれた立場で最善を尽くすこと、それがシバにとっての
猛トレーニングだった。ポケモンリーグ四天王は各地のジムリーダーとは違い、
いかなる時も対戦相手に全力で応じるのが仕事だった。トレーナーの育成や
成長のために用意されているジムから認められた者たちが目標とするのが
彼ら四天王なのだ。手を抜いた、また精彩を欠いた戦いなど挑戦者への
無礼に値する。いつでもベストで戦えるようにシバは訓練を欠かさないのだ。
「教えてやろう、おれたちのハイパーパワーの真髄を。余計なものに気を
散らされることなく磨きに磨いた体と技術を!ウ――――!!」
「ハァ―――――――!!!」
シバとカイリキーが同時に咆哮する。カリンは敵の反撃を警戒し、指示を出す。
「ヘルガー!またあのクロスチョップがくる!でもあなたの身のこなしなら
難なく避けられる。かわしたらまた炎で逆襲よ!」
「ガァ―――・・・・・・ガガッ!?」
ヘルガーも主人の言葉に従う。ずっと逃げ続けてはいたが疲れは全くなく、
だんだんとカイリキーの必殺技、クロスチョップの動きも読めてきた。
一撃くらえば戦闘不能になってしまうだろうがまず被弾しない。
有利なのは自分たちだと思っていた。それだけに戸惑いは大きかった。
「ムッハァ―――――・・・」
「ガガ・・・!」
カイリキーは自慢の太い腕でヘルガーを攻撃してくるのではなく、岩を砕いて
抱えていた。このスタジアムはフーディンが超能力によって作り出したものだが、
そのなかにあるものには触れることができるし、こうして技のために利用する
こともできたのだ。
「フハハ、お前たちが離れて戦いたいというのならそれに付き合ってやる。
ほんとうならばその貧弱な体に渾身のクロスチョップを叩き込んでやりたい
ところだが、こちらの技でも威力としては十分だと思ってな」
「それは・・・いわなだれ!これまでだって使うチャンスはあったはず!
打撃に固執しているからてっきり使わないものだと・・・なのになぜ!」
「追いかけっこは飽きたというだけだ。おれは常に実力が足りないにも関わらず
勝利できると思い込んでいる者に何が足りないのかを教え込むようにして
戦っている。お前たちの場合は革命軍のまねごとをして訓練を怠ったせいで
勝負勘が鈍っていることを明らかにした!ハァ――――っ!!」
カイリキーのいわなだれ攻撃がヘルガーをとらえた。直撃は免れたうえ、カイリキーの
本職ではない岩による攻撃であったため一撃で決着とはならなかったが、ヘルガーに
とって痛い一撃であることには変わりなかった。
「ググ・・・・・・ガァ――――――ッ!!」
「グオオオン!!ウ――――ハァ――――――!!」
それでも反撃のかえんほうしゃを先ほどよりも至近距離でカイリキーに放ち、
やけどを負わせることに成功した。それでもなお体力が残っているのは
カイリキーのほうで、カリンとヘルガーは窮地に追い込まれた。
「・・・!ヘルガー・・・あなた、足を!」
「ガアァ・・・・・・」
不幸なことにヘルガーは岩によって足を痛めていた。この傷自体は軽傷だが、
いま行われているバトルにおいては致命傷と言わざるをえなかった。素早い
動きを封じられた以上、もうカイリキーの攻撃をかわすことはできないだろう。
「・・・勝負ありだな。お前にはそのヘルガー以上のポケモンは用意できん。
おれたちの勝利が確実になったが・・・もう一度心身共に鍛えなおしてやろう。
二度とふざけた考えを抱かないように一からな!」
「・・・・・・!このままじゃ・・・・・・」
これまでの鬱憤を晴らすように全力のクロスチョップを放つカイリキー。
その瞬間、カリンはたまらずにモンスターボールを取り出した。どうやらこの
どうしようもない局面でポケモンを交代するようだ。
「・・・なるほど、目の前で自分の最も愛するポケモンが無残に倒されるのを
見てはいられないか!だがこんなところで代えられた側のポケモンはたまった
ものではないな!何せボールから飛び出てすぐにカイリキーの餌食ではな―――っ!」
カリンはヘルガーを引っ込めた。カンナとワタルのバトルでは両者が倒されそうに
なったポケモンを相手との相討ち覚悟で場に残したが、カリンは決定的な一撃を
くらう寸前で交代した。感情的にはわからなくもないが作戦としてはよくなかった。
「・・・・・・いけっ!!」
「誰が来ようと無駄だ!打ち抜いてやる―――――ッ!!」
新たなるポケモンが場に登場した。それと同時にカイリキーのクロスチョップが
そのポケモンを襲った。だが、直撃したはずなのに手ごたえは全くなかった。
「・・・・・・!?ウオァァ・・・・・・!?」
「どうしたカイリキー!あの距離から攻撃が外れたというのか・・・・・・はっ!!」
シバは見た。攻撃は確かに決まっていた。貫通していたのに失敗したわけは・・・。
「ゲ――ン・・・・・・」
「そ、そいつはゲンガー!きさま・・・!」
ゴーストタイプのゲンガー相手に肉弾戦は通用しない。それは常識中の常識だ。
カリンの登録メンバーにゲンガーがいて、試合で使用していることもシバは知っていた。
しかし悪タイプのポケモンを愛するカリンがたった二匹しか使えないルールで行われる
この一戦でゲンガーを起用するとは考えてもいなかった。彼女の悪タイプへの思いを
よく知っていたからこそシバは虚を突かれたのだ。
「・・・悪ポケモンにこだわりがあったはずのきさまが・・・それすら捨てたのか!」
「いいえ、ちょっと違うわ。私は厳密には悪ポケモンというよりかは・・・
悪そうなポケモンが好きなのよ。うふふ、ここまで笑いをこらえるのが
大変だった。どのタイミングで出してやろうかと待ちに待っていたわ」
まさに悪女の笑みだった。ゲンガーで格闘技を空振りさせシバと彼のポケモンが
唖然とするさまを見るのを楽しみにしていたようだ。
「くっ・・・小細工を!ならばいわなだれで・・・・・・」
「もう遅い!ゲンガーはうらみの目でそのカイリキーを見つめ続けていた!」
ゲンガーのうらみがカイリキーのいわなだれのためのパワーを奪っていた。
もはやいわなだれを繰り出そうと思ってもそれはできなかった。
「さあ、これでもうそのカイリキーに私のゲンガーを攻撃する方法はない!」
「くっ・・・・・・!!しかしおれも知っているぞ。そいつはお前の手持ちの中でも
補助の役割がメインでロクな攻撃技などないということを!」
「ええ。せいぜいしたでなめるくらい・・・『だった』わ。でもこの戦いに備えて
新たな必殺技を特訓した!あなたたちに負けないほどの特訓を密かにね!
くらわせてやりなさい!シャドーボール!」
「ゲ――――ン!」
ゲンガーのシャドーボールが至近距離にいたカイリキーに直撃した。攻め手を失い
茫然自失としているカイリキーは回避すらできず急所に受けてしまった。
「グァァ――――――・・・・・・」
『カイリキー!戦闘不能!シバ、残り一体となってしまった――――っ!!』
「グオ―――ッ!!バカな――――っ!!くっ、イワーク!地震攻撃だ―――っ!」
シバは少し考えた末にイワークを出した。れいとうパンチで相手を凍らせる
チャンスのあるエビワラーと迷ったが、ダメージを多く与えられるほうを
選んだ。ゲンガー相手にそこそこの効果ではあったが、シバにとって残り
一匹にまで追い詰められた時点で万策は尽きていた。
「ゲンガー、みちづれ」
「・・・・・・そうか・・・すでに・・・」
新たにシャドーボールという攻撃技を手に入れたとはいえ、カリンのゲンガーは
直接攻撃ではなく、呪いに恨みに道連れ・・・そんな物騒な名前の技の数々で相手を
闇へと引きずり込む。一撃で倒せなければいまのシバに勝機はなかったのだ。
「・・・イワーク、じしんだ」
「あら・・・その攻撃はたぶん耐えられないわね。残念残念・・・」
もうどうやっても勝てない以上、前のめりの敗北を選んだ。ゲンガーは根性を見せて
耐えようとすれば戦闘続行できそうな相手の攻撃をあえて受けて倒れた。
それと同時にイワークが悶え苦しみ、その巨体が地に落ちた。カリンはゲンガーを
モンスターボールに戻すと、再度ヘルガーをスタジアムの中心に放った。
いま生き残っているのはヘルガーだけだ。これが決着の証だった。
『ああ――――っと、四天王同士の対戦となったこのバトル、勝ったのは
革命軍のカリンだ――――っ!ポケモンリーグ側は苦しい二連敗と
なってしまいました・・・!』