多彩な技による持久戦という得意な戦術を捨ててまで持病を持つキクコに付き合い
運次第で勝敗が入れ替わる攻撃オンリーの超スピードバトルを展開したナツメは、
それでもこれは手加減ではなく真にキクコに勝利するための方法だと口にした。
「・・・意味がわからんよ!現にアタシとあんたの残るポケモンは一体ずつ!
先に教えてやるよ、アタシにはもう時間がない。次に繰り出すゲンガーも
シャドーボールで無理攻めするしかできない。そろそろ発作がきついんでね。
あんたにはいくらでも対処法がある!なのにあんたもアタシの真似をすれば
攻撃が外れたり急所に当たったりという事故がありえる運否天賦の勝負に
追い込まれることになる。それが真の勝利とやらなのかい!?」
キクコだけではない。後ろでバトルを見守るアカネからも疑問の声が飛んだ。
「ナツメ!今日のあんたおかしいで!まるで素人の戦い方やんか!一番強い
攻撃技を連発するだけなんていまどきガキでもやらん。そんなんは・・・・・・」
「そう、そんなものは・・・戦前のポケモンバトルのようだ。それぞれのポケモンの
長所や特徴もわからず相性もはっきりしない中でとにかく最も威力の高い技を
ぶつけ合う。補助技なんか一切ない、守ることもしない愚直な攻撃合戦は」
ここでアカネはバトル開始の時を思い出した。隣に座るスリーパーがほとんど同じ
内容の話をしていた。昔の戦い方は原始的で頭を使わない殴り合いばかりだった。
それを変えたのがキクコであり、そこからポケモンバトルの幅が広がっていったと
聞かされていた。彼女によってこの国のバトルのレベルが高まり始めたのだ。
「そのなかで最初に新たなスタイルを確立したのがキクコだった。だからキクコの
最も得意とする戦法は相手を翻弄する技巧・・・というわけではない。世の中で
言われていることと事実は実のところ違う、それを覚えておくといい」
「・・・・・・へ?」 「・・・・・・!!」
アカネや周囲で聞いていた人々よりもキクコがその言葉に驚愕した。アカネたちは
世間で常識とされていることをナツメが否定したのでびっくりしているだけだが、
キクコはナツメという人間があまりにも自分を知り尽くしているために恐れていた。
思い当たる節があるからだ。自分の全盛期はいつ、どのような戦術であったか・・・
もはや映像や写真はおろか記録すら残っていない時代の話であり、ナツメがそれを
どうやって知ったのか見当もつかなかった。
「発見当時は無敵だったゴーストポケモンの生態が明らかにされていくにつれて
キクコのポケモンたちの勝率が落ちた。単純な殴り合いでは負けることも増え、
そのために新たな戦法を探っただけでありキクコの本質は超攻撃型だ!」
「・・・・・・・・・」
取材はおろか親しくしていた知人に酒の勢いでつい口にしたことすらない、
現代のバトルの形を作り上げたキクコのすべてが集約されていた。攻撃的な
性格の彼女であるので、できることならば攻撃一辺倒で相手を圧倒できれば
そのほうが遥かによかった。しかし勝利を追い求めるためにはスタイルの変化を
余儀なくされ、それを拒んでいれば引退はもっと早まっていたに違いない。
「なあアカネ、今でこそあなたやわたしがジムリーダーとして活動しているが
ジムという制度ができたばかりのときは全員、つまり全てのジムのリーダーが
男だった。カントーとジョウトの16のジムだけではない、国中ぜんぶだ」
「あ・・・ああ。聞いたことだけはあるで、誰から聞いたかは忘れてもうたけど」
「もちろんセキエイ高原での上級者の戦いに参加するのも男ばかりで女の入る
世界ではないという暗黙のルールがあった。それを打ち破ったのがこのキクコ!
ゴーストやゲンガーを引き連れて文句なしの強さで外野からの雑音を封じた。
シャドーボールにナイトヘッド、さいみんじゅつからのゆめくいという高火力の
攻撃技で敵を倒していく・・・それが当時の紅一点キクコのスタイルだった。
わたしたちがこうして大観衆の前で戦える礎を作ったトレーナーの全盛期をぜひ
この目で見てみたかったものだ。歴史に残る優秀なトレーナーの真の姿を」
この言葉もやはりすべて正確なものだった。キクコの活躍があったからこそ
日の当たる表舞台に出ることがなかった女性トレーナーたちが次々と登場し、
現代ではジムリーダー、四天王という肩書を得る者もたくさん現れた。キクコが
第一人者としてポケモンバトルのこうした面にも大きな影響を与えたことは
間違いない。ナツメの話に嘘偽りはないはずだがそれでも引っかかるところがある。
「・・・・・・ヒッヒヒ。急に気味が悪いねぇ。心にもないくせに何が『歴史に残る
優秀なトレーナー』だい。褒めたって手心なんか加えてやるもんか。あんたと違ってね」
キクコのポケモントレーナーとしての実力を評価しているだけでなく、キクコが
いなければ今の自分たちはなかったと言っているナツメの意図や真意がわからない。
精神的な動揺を誘う罠ではないのかと皆は疑ったが、アカネは違った。
(へへへ・・・ナツメ、それがあんたの本心なんはうちにはちゃんとわかっとるよ)
アカネはいまのナツメの言葉こそ心からの彼女の思いであると見抜いていた。厳しく
罵り見下すような発言をする普段こそが飾られた偽物のほうであると。若さに嫉妬する
老害だと口にしていたが、あれも真意ではないのだろう。ナツメがキクコをどう思って
いたか、この数分でアカネは全て知ることができた。
「・・・百歩譲ってあんたが本心からアタシを尊敬しているとしよう。だったらなおさら
失望したかい?老いたせいでピークには程遠い戦いしかできない惨めなアタシを。
どういう遊びかは知らないけど手加減までして、つまらない戦いだろう?」
自嘲気味に吐き捨てるキクコに対し、ナツメは笑っていた。だが嘲るようなものではない。
エーフィが倒されたときに見せた、白い歯を出して嬉しそうな、純粋な笑みだった。
「いや、むしろ楽しんでいる。確かにあなたは持病の悪化のせいでベストな戦い方を
奪われた。だがそのおかげであなたはいま・・・全盛期の戦法に戻ってきた。
余計な時間を使わず次から次へ敵をなぎ倒す、鬼攻めのキクコが蘇ったのだ!」
「・・・!あ、ああ~~~っ!」
「見ることは叶わないと思っていたあなたの最も輝いていたときの姿・・・それが
少し変わった形であるとはいえ一番近い場所、対戦相手として目にすることが
できている!しかもこれから勝負を決める最高の瞬間が待っている。もちろん
わたしは最後のポケモンにもサイコキネシスしか使わせない。全盛のあなたが
相手なんだ・・・この戦法で勝たなければ意味がないとはそういうことだ」
あえて相手の得意な戦術を受け切って、その上から叩いて倒す。真の強者にしか
許されない豪快な横綱相撲。ナツメの傲慢に思える態度ではなく、かつてキクコが
ポケモンリーグで連勝を続けたときに己に課した最も理想的な勝利の形だったことが
キクコにとっては大きな意味を持っていた。ナツメに釣られるように彼女も笑った。
「ヒヒヒ!とことん人をナメたクソガキだねぇ、あんた!これからどっちが勝つかも
わからない戦いだというのにその笑い!まるで若い日のアタシみたいじゃないか!
勝ちが決まっている戦いよりもこういうときのほうが楽しくて興奮するモンだ。
最近の若いやつらには絶対に理解できない大切なことをあんたは知っていたか!」
「ああ。勝者は名誉と栄光を受け敗者は何も得られず消えていく。紙一重の勝負で
あっても結果は天と地の差がある。だがそれだけを気にしていてはバトルから
真の喜びと満足を得ることはできない。勝った負けたは後で考えたらいい、
いまはどうすればこのバトルを自分が最高に楽しいと思えるものにできるかが
肝心だ。それで負けたところで後悔するわけもないだろう」
「・・・またアタシの若いころの台詞を使うとはね・・・!まったくとんだガキだよ。
なら始めようかい、あっさりと決着はついちまうだろうけどそれがいい!下手な
小細工も展開読みもない一発勝負だ。あとはどっちがツイていたかだね」
「恨みっこなしの最終局面だ。くくく・・・この瞬間はいつ味わってもたまらないな」
ポケモンバトルを他の何よりも愛する二人の対決、その決着の瞬間が迫っている。
敗れたらただでは済まない事態になるのは互いに同じだが、二人は笑顔だ。
最も信頼する切り札と呼べる最後のポケモンに運命を託す。これ以上ない至福の時間だ。
(・・・ナツメ・・・あんな笑顔もできるのか。まるでポケモンを持ち旅することを
許されて希望に溢れる十歳の子供のようだ。フフフ・・・わたしにもあのような
時代があった。そして不思議なことにいまあの日のわたしに帰りつつある・・・)
戦況を見届けながらも幼い日の記憶に浸るサカキだった。勝っても負けても毎日が
楽しかった日々。あの頃はどうだったか・・・更に思い出に耽りそうになったが、
ここで隣にいるスピアーが急に羽音を激しく鳴らして落ち着かなくなった。
「・・・・・・・・・!!」
何かを訴えているのは明白だ。スピアーが両手の二本の針で指し示している方向を
確認すると、なぜ突然危機を知らせようとしたのかがはっきりとした。
「・・・く~っ、痺れるバトルや。うちらのほうが緊張で倒れそうや・・・」
「ハハハ、ナツメさんは勝つと信じましょう。どれだけ力を入れたところで
私たちにできるのはそれだけです。幸運を神に祈る必要はありません。
ナツメさんが勝利し対抗戦が私たちの勝利に終わることを信じて見届けるのです」
「・・・・・・ああ!バトルに夢中になって忘れとった!ナツメが勝てばうちらの
三勝二敗!勝ち越しで対抗戦終了やないか!そうなると残るはうちとナツメの
真の王者の座を賭けた決勝戦・・・あんたとも敵になるなぁ、覚悟しとき!」
この戦いが終われば対抗戦は終わるとアカネは考えている。実際ほとんどの観衆も
同じ考えであり、勝った陣営のなかで頂点に立つ者を決める真の最終戦がその後に
開始されると思っていた。ナツメが自分たちに歯向かう者を全員除き去るまでは
決着とはしないだろうというのはサカキの推察であり、まだバトルは続くと睨んで
いるのは彼を含めごく僅かだった。
「お手柔らかに頼みますよ。とはいえ私も手加減はできませんが・・・・・・」
アカネの話に受け答えをしながらもスリーパーは密かにナツメから与えられていた任務を
遂行し続けていた。彼にしかできない、超能力を用いた作業だった。
(よし、あともう少しといったところでしょうか。ここまでどうにか何事もなく・・・)
スリーパーが最後の仕上げに入る前に万全を期すため脅威となる者の存在を警戒した。
その動向を確認しながら注意深く事を進めるようにナツメから言われていたからだ。
もしその者に気づかれてしまった場合、そばにいるアカネを守るのもスリーパーの
仕事だった。命を張って魔手から逃れさせなくてはならなかった。
(・・・・・・い、いない!?まさか私の行っていることがばれて・・・・・・)
最終チェックまでいったというのに、スリーパーはその姿を見失ってしまった。
こうなると自分を襲うためにどこからか攻撃をしてくるに違いない。アカネや
彼女のポケモンたちが無防備でいるときに巻き添えを食らえば非常に危ない。
スリーパーは全神経を研ぎ澄まして危険極まりない怪物がどこにいるかを
探した。実のところ、スピアーが注視していたのもスリーパーと同じ者であり、
その姿を見つけ出したとき更なる惨劇の幕開けを予感し血の気が引いていくのを感じた。
「アタシの最後のポケモン・・・こいつ以外に誰がいく!いけっ、ゲンガー!」
キクコは二体目のゲンガー、攻撃に長けたメスのゲンガーを繰り出した。一方の
ナツメもモンスターボールを手に取り、規格外の実力を誇るフーディンを除けば
自分の持つポケモンの中で最も高い攻撃力を誇る、もう一体のフーディンを
出そうとした。フィールド目がけてボールを投擲する、まさにその途中だった。
「よし、こちらもこいつの他にはいない!ゆけ・・・・・・」
ナツメの右腕が何者かの強い力によって取り押さえられ、動かなくなってしまった。
手にしていたモンスターボールも奪われた。犯人は一人しかいなかった。
「うぐ・・・!?あ、あなたは・・・・・・!」
「いけませんねぇナツメさん!わたしの他に誰がいるというのですか?」
遠くで観戦していたはずの、そしてスピアーとスリーパーがずっと見張っていたのに
突如いなくなった暴虐のポケモン、自らを転生ポケモンと名乗るフーディンがナツメの
腕をあと少しで折れてしまうかというほどに押さえつけ、代わりに自らが前に出た。
「・・・あなたの出番はない・・・そう言ったはずでは?」
「ホーホッホッホ!あなたが何事もなく勝てばそれでよかったのです。ですがいま
互いに最後の一体での勝負、しかもどちらが勝利を手にするかわからないですって?
ナツメさん、本来の目的を忘れて遊んでいるとはどういうことですか!」
「これも先に説明しただろう。わたしのポケモンたちに経験を積ませるためだ。
このままバトルを再開してもわたしの勝率は九割を超えている。だから・・・」
「九割?ふざけたことを口にするのはおやめください。たとえ天と地が逆になろうが
確実に勝利しなければならないのです。こんなところで万が一にもあのような
死にぞこないのゴミどもに敗れるようなことがあってはなりません!そこで
頭を冷やしていなさい、あなたは大人しくわたしに任せていればいいのですよ」
フーディンはゆっくりとバトルフィールドの中央に立った。そしてゲンガーに対し、
「・・・さて、本来であればこれからナツメさんの持つわたしとは違うフーディンと
一対一の技の撃ち合いを始めるところだったのでしょうが・・・なるほど、
確かにナツメさんの勝率は九割五分くらい・・・あなた方に甘く見積もっても
これくれいはありますね。ピークを過ぎて老いたあなたの力などその程度です」
「ゲ————ン・・・・・・」
「それでも僅か数パーセントの勝機はあった・・・ならば見過ごすわけにはいきません。
わたしを相手に完全なる負け試合を挑むつもりがないのなら降伏は受け入れます。
愚かにも残り少ない寿命を更に縮めたいのなら自慢のシャドーボールを撃ちなさい。
先ほどのグリーン戦でクズポケモンたちにしたのと同じように、先攻は譲りますよ」
またしてもフーディン劇場が始まろうとしている。主人であるナツメを強い言葉で
制してこの場全体の主導権を我が物とし、自らの力を見せつける準備は完了した。
「・・・ヒ、ヒヒヒ・・・これはこれで悪くない展開じゃないか。もともとあんたを
成敗してやるために来たんだ。先に動いていいだって?エーフィと同じ末路を
辿りたいのならお望みどおりにしてやるよ。ゲンガー!気持ちを強く持ちな!」
「ゲ——————ン!!!」
フーディンを前にしてもキクコとゲンガーは恐怖に震えることはなく、全力の
シャドーボールを叩きこむという予定通りの行動を変えなかった。フーディンは
防御や回避の構えを全く見せず、リフレクターを張ることすらしていない。
その油断を突くしか怪物殺しの道はない。最初で最後のチャンスだった。
「さあどうぞ!せいぜい生涯最後のバトルを存分にお楽しみください!」
「・・・ゲェ—————ン!!」
ゲンガーが放つ大きな黒い塊がフーディンを飲み込んだ。一発だけではなく何発も
高威力のシャドーボールを、並のポケモンであれば戦闘不能どころか死んでしまうほどの
苛烈な攻撃を与え続けた。もしかしたら跡形もなくなってしまうのではないかと
思わされるほど、何度も何度もシャドーボールをこれでもかと言わんばかりに放った。
「死ね————っ!」 「ゲ———ン!!」
フーディンは抵抗すらできないのか、黒い影に覆われたままそこから出てこない。
エスパーはゴーストに弱い。もしかしたら予想以上の攻撃に足元を掬われて
闇の海に沈んでいったのか。全ての観衆の意識と視線が集中していた。
「ハァ・・・ハァ・・・」 「ゼェー・・・ゼェー・・・」
持病の発作が出始めたキクコ、ひたすら攻撃を続けたゲンガーが息を切らす。
じゅうぶんダメージは与えたはずだ。あとは怪物が倒れて死んでいるか消滅して
この世からいなくなっていることを願いながら闇が晴れるのを待つ。多くの観客も
キクコたちと同じく、フーディンの死を求めていた。
「・・・おおっ!シャドーボールの闇が・・・なくなっていく!」
「倒せたのか!?それとも凌いだか!?」
人々は祈るように期待していた。だが、その思いは裏切られた。
「・・・・・・・・・」
「ゲ——————ッ!い、生きてやがる!しかも大した傷もなしに!」
フーディンは何事もなく生還した。攻撃を受けた後に見えないほど元気な様子で。
「こ、こんなことが・・・・・・!アタシたちの全身全霊の攻撃が・・・・・・」
さすがのキクコもショックを隠せない中、フーディンとナツメは和やかに談笑していた。
「ホ————ホッホ!期待させておいてこの程度とは!これならブースターさんの
タックルのほうがまだ痛かった!どうやらわたしが出る必要はなかったようです。
ナツメさん、出過ぎた真似をしてしまったことをお詫びします。私が出ずとも
あなたの勝つ確率は九割五分どころか十割、負ける要素など最初からなかった」
「くくく・・・わたしが敵の力を、それにこの状況を見誤るはずがないだろう。
勝つか負けるかの手に汗握るバトルなんてするか!まず敗北はないとわかって
いたからこそあえて希望を持たせるような戦いにしてやったのだ」
「ホッホッホ、なるほど!確かにそのほうがあの者たちのショックも大きいでしょう!
一進一退、ほぼ互角の熱い勝負をしていたかと思ったら実は遊ばれていただけ、
ほんとうはどう転ぼうが埋めようのない差があったと知ったときの絶望が!」
「・・・身の程もわきまえずわたしたちに逆らうためにやってきた老害相手には
面白い作戦だっただろう?まだ通用するじゃないかと勘違いさせてから残酷な
現実を叩きつけ粉砕・・・心は折れてますます老化が進むことだろうな」
二人の会話に場内からは大ブーイングが響いた。ついさっきまで純粋にバトルを
愛するトレーナーだと思っていたナツメが結局のところフーディンと変わらない
畜生に過ぎなかったと知り、観客たちの声援は全て罵声へと変わった。
「くくく、クズ共の家畜のような鳴き声が響いているな」
「所詮は無力な輩の喚きにすぎません。あまりに耳障りであれば黙らせますよ」
まさに悪魔のごとき笑顔でいるナツメ。観客のブーイングすらむしろ歓声よりも
心地よいものであるかのようにして受けている。だがアカネにはいまのナツメから
発せられる言葉に違和感を覚え、人々とは違い自分の思いを変えなかった。
(・・・違う!やっぱりさっきのナツメがほんとうのナツメ、皆が本物や思うとる
こっちのナツメは偽物や!嘘をついとるのはいま、それはわかる!けどなんで
こんな嘘をつく?うちにもまだわからん!)
なぜ血も涙もない悪魔のふりを続けるのか。その理由と目的が見えなかった。
「さて・・・もう終わったようですし・・・よろしいですか?」
フーディンが再びゲンガーを、その後ろにいるキクコをも睨みつける。
今からの降伏は認めず、先ほどの攻撃のお返しを始めようといったところか。
「く・・・バケモノめ!こ、こうなったら・・・奥の手を使うしかない!」
「ほう、奥の手・・・まだ策が残っていたとは。どうぞお試しください」
「そのナメた口の利き方もこれまでだよ!ゲンガー!のろい!」
最終手段、ゲンガーののろい。窮地に立ったキクコたちの最後の力を使った魔技だった。