ポケットモンスターS   作:O江原K

71 / 148
第71話 のろい

 

必殺のシャドーボールをいとも容易く受け止められ追い詰められたキクコとゲンガー。

しかし彼女たちにはまだ逆転の可能性を秘めたとっておきが残っていた。

 

「ゲゲゲ・・・・・・ゲ~~~ン・・・・・・」

 

ゲンガーの『のろい』。真っ黒な身体がさらにどす黒くなっていく。

 

『か、完全に打つ手なしと思われていたゲンガー!ここでのろいを発動!

 自分の体力を削って相手に呪いをかける恐ろしい技です!キクコのゲンガー、

 二体いるうちの攻撃役であるこちらのゲンガーがのろいを使うのは

 これまで見たことがありません!苦肉の策か、それとも満を持しての

 初公開なのか——————っ!?』

 

「フン・・・ず———っと昔に使ったことがあるさ。そのときあまりにも恐ろしい

 結果になっちまったから封印していた奥義さ・・・こんな鬼畜どもが相手で

 なけりゃあアタシたちも死ぬまで出さないつもりだったけどね!」

 

「ほう、長年使わなかったどころか墓まで持っていこうとしていた技をここで

 わたしたちを相手に使ってくれるとはうれしいな。後々になってあの時

 遠慮しなければ勝てたなどと言われても困るからな、楽しみだ」

 

禁じ手として自ら封じていたほどの呪いとはどのようなものなのか。

普通のゴーストポケモンが繰り出すのろい攻撃は徐々に敵の体力を奪って

戦闘不能に追い込む技であるが、キクコたちのものは一味違った。

 

 

「減らず口を叩けるのもいまのうちだよ!このゲンガーののろいは自分の体力を

 半分どころか四分の三は削る!だけどその代わりにあんたたちをじわじわと、

 じゃあなくあっという間に地獄に連れていく攻撃なんだ。さあ、味わいな!」

 

「ホッホッホ・・・・・・ムムム!これは・・・!!」

 

余裕を持って構えていたフーディン、それにナツメも顔色が変わった。ゲンガーの

全身から出た黒い霧がフィールド全体を覆うように散ったかと思えば、それが矢のように

フーディンとナツメ目がけて襲いかかってきたからだ。しかも徐々に姿形を変え、

フーディンの眼前で止まったときには五つの人間の生首となった。

 

 

「ゲ————ン!!」

 

「アタシたちにはあんたたちの隠れた悪行を知る方法はない。だからアタシたちの

 作り出したものじゃない。でもあんたたちの心が生み出した幻想だなんて甘い

 モンでもないんだよ!これはあんたたちによってつい最近殺された魂!いまだ

 彷徨っている魂があんたたちを恨み道連れにしようとやってきたのさ!」

 

やがて五つの顔が完全に形作られたとき、それは確かにフーディンが殺害した

五人となった。彼らはとても有名であり、誰もが知っている重鎮たちだった。

 

「あの五人は・・・!会長を含めたポケモン協会の長老たち!」

 

「ふふふ・・・やはりお前たちが殺害していたのか。生死が明らかになっては

 いなかったがこうではないかと思っていた」

 

五人は一夜のうちにフーディンによって命を奪われていた。そのうちの一人しか

世間に死亡したという知らせは届いていないが、サカキは今日の対抗戦が始まる前に

ナツメとフーディンは殺人者であり、カントーとジョウトのポケモン界の頂点に立つ

長老と呼ばれていた者たちを殺したと糾弾していた。そしていま、その五人が

亡霊となってフーディンに襲いかかっていた。観客たちはこの光景をただ恐怖し、

震えながら見届けるしかなかった。フーディンの殺人も、またゲンガーののろいの

恐ろしさも、どちらも背筋の凍るものであることは確かだった。

 

 

「・・・フ~ディ~~ン・・・きさま~~~っ!!よくも我らをあのような目に~~~っ」

 

「私たちの金儲けの道具に過ぎないポケモンごときが~~っ!この恨みを晴らさねば

 とてもこの世を去ることなどできぬわ!共に地獄へ落ちるのだ~~~っ!」

 

心臓の病を急激に加速させられ死んだ男、それに交通事故に見せかけて除き去られた

別の男がフーディンに真っ先に飛びかかってきた。口を大きく開け噛み砕く狙いのようだ。

 

「お前は自分が神によって転生させられたと言っていたな!ならば我らは閻魔の使い!

 お前を土産に地獄へ行けばこの現世同様甘い蜜を吸い続けられるだろう!」

 

「逆にお前は永遠に業火で責め苦に遭うのだ!それを我々は高きところから・・・」

 

だが、二つの生首の攻撃はあっさりとフーディンが片手ずつで受け止めてしまった。

自分が殺しもうこの世にはいないはずの者たちが復讐のために戻ってきたというのに

それに対する動揺すら一切ない。むしろますます邪悪な笑みを浮かべるだけだった。

 

「フホホ・・・ホッホッホ!いやいや、これはむしろありがたい!あなた方が

 のこのこと再びわたしの前に現れるなんて素晴らしい、大歓迎ですよ!」

 

「ググググ・・・・・・」 「き、きさま~~~・・・」

 

「あなた方が数十年もの間ポケモンを虐げ、ひどく扱った罪・・・たった一回の

 死刑では足りません!わたしを連れていくことができなければあなたたちは

 地の底で裁きの日々が待っているのでしょうが・・・それだけでは生ぬるい。

 二度目の死を与えてあげましょう!もう一度ポケモンたちに詫び、懺悔しなさい!」

 

両手に込めた力を徐々に強めると、亡霊たちの顔に指が食い込み、鼻や頬が砕けていく。

 

「ぐぅおぼぼぼ・・・・・・」 「ごが~~~~っ・・・・・・」

 

すでに死んでいる魂とはいえ顔面が崩れていくグロテスクな様子などとても直視できた

ものではない。カリンたちのように近い場所からバトルを観戦していた者たちだけでなく

ほとんどの観衆が悲鳴をあげてフーディンの処刑人としての仕事から目を逸らした。

 

「グヌヌヌ・・・!きさまらさえいなければ我らは今日も・・・いや、我らの子や孫の

 世代までポケモン界の支配者でいられたのに・・・!若きチャンピオンや経験のない

 ジムリーダーたちは無知であるため我々のために動く傀儡、年寄りどもはかつて

 共に悪事に加担し、または見て見ぬふりをした罪悪感のせいでそれを止められない。

 全てがあの大戦の間、そして戦後から今日に至るまで変わらずに・・・・・・」

 

「ええ、そうでしょうね。これまでのチャンピオンもポケモンリーグに認められた

 トレーナーたちも正真正銘のクズばかり。あなたたちの道具のような存在でした。

 ですがナツメさんはただ一人違う。あなたたちの悪を明らかにし、それに意図的に、

 または無意識のうちに従う脳無しどもの粛清をわたしと共に行うと決意されました!」

 

フーディンはサイケこうせんを放つ。すると怨念に満ちた男の顔が中心から裂け、

ぼたぼたと地に落ちていきながら消滅した。先の二人もすでに消えてなくなっており、

残るは会長とその右腕であった彼の後継者のみとなり、ほぼ大勢は決していた。

 

「・・・そ、そうか・・・私たちのみならず操られている連中までも容赦なく

 滅ぼすつもりでいたとは・・・。私たち上層部に対してだけじゃない、いまの

 ポケモン界全てに強い憤りと憎しみを向けている。こんな怪物が立ち上がり

 行動を開始した時点ですでに私たちの破滅は決まっていた・・・」

 

「ハァ—————!!」

 

サイコウェーブの念波が絶望に沈む魂を食らい尽くし、跡形もなく消し去った。

最後に会長が残されたが、フーディンが手を下すまでもなく消滅が始まっていた。

 

 

「・・・ゲ、ゲガ・・・・・・」

 

ゲンガーの体力が限界に達していた。いくら攻撃を続けようがフーディンには

効果がない。心が折れ始め、のろいの力が弱まっていた。

 

「ホーホッホッホッホ!これで手品のタネも明らかになりました!この魂たちは

 やはりわたしたちの脳に残っていた殺しの記憶をあなたが利用していたに

 過ぎない、そうでしょう?ゲンガーさん。罪悪感や恐怖によってわたしたちを

 潰そうとしたのでしょうが甘すぎです。あの五人が死んだのは当然でありわたしは

 神に代わって裁いたのですから罪悪感などありませんし、仮にほんとうに地獄から

 甦ってきたとしても何度でも打ち殺してやるだけです!」

 

キクコとゲンガーの作戦は失敗だった。フーディンには効果のない攻撃だった。

フーディンだけでなくナツメに対してものろいを発動させていたが、こちらも

少しずつ消え始めていた。フーディンに襲いかかるポケモン界の重鎮たちの姿に

人々は気を取られていたため、ここでようやくナツメを取り囲む幻に皆が

目をやった。すると、数体のポケモンたちが彼女を囲んでいた。

 

「あれは・・・コイキングにコラッタか?その隣にいるのはナゾノクサ!」

 

「あとはパラスにポッポ。下等なポケモンばかりだ。きっとナツメに殺された

 ポケモンたちだろう。技の実験か何かで犠牲になったに違いない」

 

ナツメも無傷であり、技はうまく決まらなかった。こうなると恐ろしいのはこの後だ。

 

「・・・く・・・くくくく。フーディン、わたしは最初からこの亡霊どもが偽物なのは

 見抜いていた。確かにわたしたちがこの手で殺した魂が現れるというのは驚いた。

 だが所詮は作り物であるためわたしたちを直接攻撃したりはできないというわけだ!」

 

「ヒヒ・・・ヒヒヒ・・・こ、ここまで見抜かれちまったらお手上げだよ。普通の

 トレーナーであれば事故や不幸によって亡くしたポケモンへの罪悪感によって

 心を壊されるというのに・・・早々に仕掛けに気がついたということはあんた、

 自分で命を奪ったポケモンを何とも思っていない証だ。そうでなくちゃそこまで

 冷静沈着に判断ができるはずがない・・・・・・ぐうぅっ」

 

キクコがついに両膝を地面につき、持っていた杖すら手放してしまった。だがこれで

容赦するナツメとフーディンではない。決着にはまだもう一撃足りないからだ。

 

「・・・・・・なぜすぐにわかったか教えてやろう。もしこいつらがわたしに殺された

 本物のポケモンたちであるならば・・・わたしへの恨みはこの程度ではないだろう!

 わたしの顔を見た瞬間すぐにこの命を奪いに来るはずだからだ——————っ!!」

 

ナツメが叫びと共に強い念力を放つと、五体のポケモンたちが粉々になって

いなくなった。それに続くようにフーディンが右手に力を溜めている。

 

「さて、悪あがきもこれまでです。締めに入りましょう、サイコキネシス————ッ!!」

 

放っておいても消えるであろう長老の姿をした幻にサイコキネシスを浴びせた。

とはいえフーディンの狙いはそれだけではない。強力な念動力はのろいの術者である

ゲンガーまでも巻き込み、抵抗する余力のないゲンガーは後方に吹き飛んだ。

 

『ゲンガー吹っ飛ばされる————っ!!あ、ああ—————っ!』

 

その先にはキクコがいた。いまの彼女にゲンガーを避けたりするのは無理だった。

 

「ぐああぁぁっ!!」 「ゲフッ!」

 

フーディンのこれまでのやり方と同じだった。四天王イツキ、ジムリーダーグリーンの

最後の一体のポケモンに決定的な一撃を放つとき、ポケモンだけでなくトレーナーをも

襲いダメージを与える。あくまでポケモンへの攻撃が不幸にもトレーナーを巻き込む形に

なっただけであり反則ではない。キクコも先の二人と同じく血を吐いて倒れた。

 

「キクコ——————!!き、きさま————っ」

 

フィールドのすぐ外で試合を見守っていたオーキドがフーディンに向かって叫ぶ。だが、

 

「怒ったところであなたに何ができるのです?ポケモントレーナーではないあなたが。

 まあどの道あなただけでなくどんな邪魔者も入らないようにフィールドはわたしが

 見えない壁で覆っていますからトレーナーであろうが無駄なのですがね」

 

「ぐぐぐ・・・」

 

「わたしはあなたも罪人だと言ったはずです。研究のために外道どもと手を組み彼らの

 悪事を容認した。そしてキクコ、もちろんあなたもですよ!自身の立場と名声を

 失いたくないからとあの戦争のとき行われた悪魔のような所業の数々を隠し

 日和見主義者であり続けた。何の行動も起こさず今日までのんびりと生きてきた、

 その愚かな人生を懺悔しながら死んでいってもらいましょう!処刑開始です!」

 

フーディンの張った壁は完璧な出来であり、グリーン戦のときのものを更に強固にして

いたため、スピアーであってもそれを破壊することはできなかった。外部からの介入は

完全に不可能であり、キクコとゲンガーが殺害されるのは避けられそうもなかった。

そのキクコは意識がまだ残っており、フーディンに向かって最後の力を振り絞って

自分の愛するポケモンを守ろうとした。

 

 

「・・・ヒ、ヒヒ・・・あんたの言う通りさ。アタシは偉そうなことばかり言って

 おいて実際にはただの小物、クズ同然の人間さ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。

 そんなアタシに育てられたこの子たちはかわいそうだ。だから殺すのはアタシだけ、

 そうしてくれないかい?ポケモンに罪はない、あんただってそのくらいは・・・」

 

「いいえ、わたしは確かに言いました、無能なトレーナーに付き従ってきたポケモンも

 同じく有罪だと!人間の思い上がりを助長させる許し難い行いです。あなたの死は

 人間どもへの警告となりますが、あなたのゲンガーの死、それはポケモンたちへの

 警鐘として重要な役割があります。どちらもわたしに裁かれなければなりません」

 

「・・・そ、そんな・・・・・・」

 

「もうよろしいですか?せめて一瞬で葬ってあげましょう。病や老いによって

 じわりじわりと死んでいくよりも幸福かもしれませんよ。それでは・・・・・・」

 

 

キクコの嘆願を退けたフーディンがとどめを刺そうとキクコたちに一歩近づいた

その時だった。それに待ったをかけたのは主人であるナツメだった。

 

「待てっ、フーディン!そいつらを殺すな!そのまま生かしておけ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「殺してしまったら終わりだ。だがあえて命を長らえてやるんだ。わたしたちに

 逆らったことを後悔しながら生き恥を晒し続ける、そのほうがいいだろう。

 愚かにもわたしたちに勝てると歯向かった高慢な老害どもにはそのくらいの

 お仕置きは必要だ、そう思わないか?」

 

あえて生かしておいたほうがキクコたちは悔しがるだろう、ナツメの言葉は

人々にはそう聞こえた。何と残酷で血も涙もない女なのかと。ところが

フーディンはそれとは違う受け止め方をした。そしてこれを聞いた瞬間、

雰囲気が急変した。物柔らかな雰囲気が消え、これまでも時々見え隠れしていた

フーディンの本性が露わになった。とはいえそれは敵に対してのみ向けられていた

ものであり、まさか主人のナツメにまでそうするなどとは誰も予測できなかった。

 

 

「・・・ナツメ、これで三度目だ。あなたがわたしをがっかりさせたのは。

 あなたには覚悟が足りないのか?イツキ、グリーン・・・やつらに続き

 またしても死すべき者たちを容赦しようというのか。新たな世界に不要な

 無価値な連中を除き去ろうと共に誓っておきながらどうしたことか!」

 

威圧的に語りかけてくるフーディン。しかしナツメも怯む様子は一切ない。

 

「そいつらにはまだ生かしておく価値があるということ。敗者として惨めな姿を

 世に晒すことでわたしたちに逆らう者の末路を人々に明らかにする役目がな。

 もし己の罪深さに気がつきわたしたちに泣きついて許しを請うならそれでも・・・」

 

「黙れっ!!いつまで甘いことを言っている!」

 

まだナツメが話を続けている途中でフーディンはそれを一喝し遮った。血走った

両眼はナツメのみならずこの世のあらゆるものへの憤りを隠そうとしていなかった。

 

「この数十年、罪人どもは誰も生き方を変えようとはしなかった!いまも同じことが

 起きている!十日前わたしたちと戦って敗れた五人、その中で自分の愚かさを

 恥じてわたしたちに従うことにしたトレーナーが果たして何人いたというのか!」

 

「・・・」

 

「そして今日この日も、無様に散っていったカンナにカリン、それにエリカ!

 彼女たちは皆最後まで悔い改めないままだった!一応の仲間であったというのに

 そうなのだ、わたしたちに牙を剥いた愚者どもを生かしておく価値などない!」

 

二人の意見は激しく衝突した。だがフーディンのほうが優勢となって事は進む。

 

「あなたはわたしの言う通りにしていればいいのだ、ナツメ。わたしがいなければ

 ジムリーダーにすらなれなかっただろうに・・・それでも対等な立場で接し続けた

 わたしの気配りが逆にあなたを思い上がらせたのなら失敗だった。誰のおかげで

 いまのあなたがあるか・・・じっくり考えてみるといい。とりあえずはそこで

 わたしがこれから行う裁きを見て、何が自分に足りないかを学ぶのだ!」

 

やがてナツメは何も言えなくなる。この仲間割れの光景も異常だが、いまだに

バトル終了の合図が審判団から出ないことに観客たちは騒ぎ始めた。

 

 

「おいおい!いつまで仕事をしないつもりだ審判どもは!第四試合の終わりから

 今までずっと何もしていないじゃないか!試合終了だろうが!」

 

「寝ているならまだわかるが起きていて地蔵のように固まったままとは・・・。

 まさかまだキクコさんたちに戦う余力と意思があるからって判断で続行か?

 畜生どもが内輪もめしているいまのうちに終わらせて助けに行かないと・・・!」

 

審判席にいるマツバ、タケシ、ツクシの三人はいまだにバトルをやめさせない。

確かにゲンガーは立ち上がろうとする構えを見せているが、もし立ったならば

フーディンによってキクコと共に命を散らすことになるのは確実だ。そうなる前に

ストップをかけるのが審判たちの仕事であり、アカネとカツラのバトルのときは

二回も中断を入れてポケモンの負傷を確認していた。それなのにキュウコンや

カビゴンよりも遥かに重傷、トレーナーまでもが倒れているのに試合続行とは

どういうわけなのかと疑いたくなるが、やはりフーディンに恐怖しての判断か。

 

「ナツメにすらあれなんだ。あいつの邪魔をしたら大変なことになるぜ」

 

気持ちはわからなくもないが審判が自分の保身のために判定を捻じ曲げたら

いよいよ無法地帯と化す。フーディンの公開殺人が行われるだけだ。

 

 

「ところでフーディン。こんな状況になってもいまだバトルの決着が

 告げられない・・・少しもおかしいとは感じないのか?」

 

「・・・さあ、いまはそんなものどうでもいい。話を逸らすつもりか?」

 

「あなたが何かをしたのはわかっている。グリーンとのバトルのときからすでに

 いろいろと変だったからな。ルールを重んじるあなたのこと、終了の合図が

 出た後に相手に攻撃を仕掛けたら反則で勝ちを取り消される。それを避けるため

 バトルの前にあらかじめ用意をしていたのではないかと思ったのだが」

 

ナツメの指摘に今度はフーディンが何も答えなくなった。密かに行っていたことが

発覚し決まりの悪い思いをしていたわけではなく、返答する必要がないというのが

主な理由であり、また今さら言われたところで事態は変わらないと高を括っていた。

審判団の横槍を心配せずにゆっくりと粛清を楽しめるように準備し、その機会が来た。

 

「ずいぶんと用意周到だったな。わたしたちはただの殺人鬼ではなかったはずだ。

 それなのにいまあなたはポケモン界の改革ではなく殺人が目的になってはいないか?」

 

「何を言うか。あなたのせいで処刑し損ねた二人、そしてこのキクコも新たな時代には

 必要のない人間だ。わたしたちの言うことを聞かずに旧体制のために戦っている、

 腐った者どもの手先だ。目的を見失っているのはナツメ、あなたのほうだ。こんな

 無能を相手に残り一体になるまで追い詰められるようなバトルをするとはなぁ!」

 

またしても議論が始まりそうだ。だが二人のやり取りを見ていたサカキは違和感を

覚えていた。怒りに燃えるフーディンはともかく、ナツメにとってこんな言い争いは

意味がない。フーディンを説得するのは無理であり、もしかすると逆上して矛先が

キクコから自分に向かう危険もある。何らかの狙いがあるはずだ。

 

(まるで時間を稼ぎ何かを待っているかのような・・・。だがこの壁はわたしの

 スピアーですら突破できない。レッドとそのポケモンたちでも無理だ。誰も

 助けに入れない・・・それなのにやつには確かなアテがあるというのか)

 

観客席最前列のゴールドたちでも、最も近い場所で観戦しているカリンたちでもない、

この状況を打開するためにナツメが希望と信頼を寄せた者がいた。ナツメはそれを

ひたすら待ち続け、どうにかフーディンを足止めしていたがついにそれは実った。

 

「・・・・・・くくく、どうやら間に合ったようだ」

 

「・・・?」

 

「あなたと同じようにわたしも仕込んでいたということだ、このときに備えてな」

 

「・・・・・・はっ!!まさか・・・!」

 

ナツメが指を鳴らした瞬間、スタジアムに試合終了を告げる機械音が幾度も繰り返し

響いた。審判席からのもので、フーディンからすればありえないものだった。

 

 

『し、試合終了や!このバトル、ここまで!それ以上の攻撃は反則負けにするで!』

 

フーディンが気にも留めていなかったアカネがいつの間にか審判席にいた。

そして彼女の大きな声がフーディンの用意したもう一つの場内を覆う超能力を解除した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。