ポケットモンスターS   作:O江原K

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第75話 最後の男

 

サカキとナツメ、それにスピアーとフーディンの静かな睨み合いが続く。互いに

この敵意をどうすればいいかはわかっている。バトルでぶつけ合うだけだ。

放っておくとすぐにでも戦いが始まってしまいそうな空気のなか、能天気な声で

中央に割って入り自分もこの輪に加わろうとしたのはやはりアカネだった。

 

「コラコラあんたら!こんだけお客がいるっちゅうのに無視はアカンやろ。

 ほれ、あんたらのマイクも持ってきたで、これで堂々と語り合おうや!」

 

サカキ、それにナツメも苦笑いが出た。先ほどまでの会話はとても大観衆の前で

できたものではない。サカキがロケット団ボスであったのも、ナツメが彼らの

拠点で大暴れし、シルフカンパニーの資料を大量に盗み去っていたことも。

 

「フッ・・・だがここを決着の場に選んだ以上仕方がないか」

 

「ああ。アカネの言う通りだ、この大観衆を放っておくわけにはいかない。

 世界の運命を決める最後の戦いが突然始まったら驚いてしまうだろうからな」

 

アカネが差し出すマイクを二人とも素直に受け取った。すでに夜となっていて、

この先どうなるのか、今日の戦いで勝ち残った者たちの声を皆が待ち望んでいた。

その期待の空気を感じたアカネは、主導権を握りこの場の自分が主役になろうとした。

 

 

「今日はみんなうちのためにこんな遅くまでおおきに————っ!!」

 

勢いのある軽快な声に歓声で応える者、お前のために来たんじゃねえと

ブーイングを飛ばす者。アカネが話すとやはり反応は両極端だった。ただ、

この日の始めよりいまのほうがアカネの味方が増えていた。彼女が自分で

勝ち取ったものであり、今日一日で多くの人々の心を動かしたのだ。

 

「結局対抗戦は五分に終わった!でもオッサン、いまあんたは一人きりやのぉ!

 こっちは二人おる!それがどういうことかあんたにわかるか———っ!?」

 

「・・・・・・」

 

「あんたを二人がかりで潰してうちらのチームの勝利が決まるってわけや!

 ご自慢のドリームチーム・・・結局誰もおらんやないか!こら傑作やで!」

 

サカキのチームも二勝した。しかしもう一人の勝者レッドはすでに会場にいない。

 

「くくく、そうだったな。レッドはバトルを放棄して女を選んだのだった。

 そんな男を待っていても仕方がない。わたしたちに歯向かい敵意を向けるのは

 すでにサカキ、あなただけだ。いや、わたしたちを憎む者は大勢いる。

 だがわたしたちと互角に戦う力を持つのはあなただけと言うべきか」

 

「せやせや、あとはこのオッサンをどう料理するか・・・そこだけや」

 

このまま二対一の状態で最終決戦に向かおうとする無法者二人に対し、サカキは

別にそれなら構わないと考えていた。圧倒的不利にも全く臆することはない。

 

「フム、いいだろう。そこのフーディンはスピアーが相手をする。わたしの今日

 出番がなかった残りの三体でナツメ、お前のそれ以外のポケモンと戦おう」

 

「・・・・・・あら?うちは?」

 

「ああ・・・ピッピにピィ、ハピナスか。そんな残りカスどもはどうでもいいから

 すっかり忘れてしまっていた。他の戦いの途中に片手間で倒せてしまうだろう。

 よって警戒も対策も不要。攻撃しようが逃げようが勝手にするがいい」

 

「・・・・・・オモロいことを言いよるで・・・なら文句はないってことやな?

 二対一の特別マッチ、今日最後のバトルのスタートや—————っ!!」

 

サカキの挑発にあっさりと乗り、アカネが自分のポケモンたちに突撃の命令を

出そうとしたそのときだった。サカキが手で『待った』の構えを見せた。

 

「・・・あ———?なんやそれ。あんだけ偉そうにほざいとったくせに降参?」

 

「フフ・・・そうではない。わたしはこのまま始めてもよかったのだが・・・

 それをよしとしないトレーナーがいたのを思い出したのだ。レッドが

 手にした勝ち残りの権利、他の者が使ってもお前たちにそれを拒む道理は

 ないと思うのだが・・・その『彼』を呼んでも構わないかな?」

 

突然の提案だった。サカキにはまだ仲間がいるというのだ。何を今さら、と

アカネは鼻で笑って退けようとしたが、ナツメはそうではなかった。

 

「・・・いいんじゃないか。このままではフェアではないと思っていたところだ。

 アカネ、あなただって心から誇れる勝利を求めているはずだ」

 

「まあそりゃあ・・・後からネチネチ言われても困るもんなぁ。それにうちと

 あんたなら誰が来たって負けん。乗ったろうやないか!」

 

互いの白星の数、二人対二人の戦いで勝利することが完全なる決着だと

ナツメは言う。キクコ戦で彼女との真っ向勝負を望み、最大限にバトルを

楽しもうとしたナツメを知っているアカネは、ナツメに同意するほかなかった。

 

 

「どうやら異論はないようだな。だが安心しろ、アカネ!これからわたしが

 この場に呼ぶトレーナーはむしろきみが待ってましたと歓迎する男だ!」

 

「・・・・・・?」

 

「紹介しよう!いや、紹介する必要などないほどの天才、『世紀末覇王』と

 呼ばれる若き無敵の賞金王!現チャンピオン・・・ゴールドくんだ!」

 

サカキがまだ言い終える前にすでに彼はフェンスを乗り越えてフィールドへ

着地し、その勢いのまま本日の主役たちのもとにやって来た。十日前の

記念式典をナツメたちに台無しにされてから今日までずっと我慢していたのだ。

一度はサカキからメンバー入りを拒否されたが、ふさわしい時まで待つように

言われていた。それはまさにいまだった。

 

『・・・きょ、今日は何という日なのでしょう!カントーとジョウトの大物が

 次から次へと登場しましたが・・・その締めはチャンピオン、ゴールド!

 レッドやワタルといった歴代の王者よりも上の存在になるかもしれない、

 いやすでに超えているという声も大きくなってきた覇王、ゴールドがいま、

 乱世を支配するためにセキエイのスタジアムの中央に立つ—————っ!』

 

 

場内からの大きな声援に迎えられたゴールド。観客たち以上に彼自身がいちばん

興奮していた。ようやくこの舞台に立ち、ポケモン界を騒がせる無法者たちを、

特に以前から憎んでいるアカネをこの手で倒す機会がやってきたからだ。だが

彼が何かを口にする前に先制攻撃と言わんばかりにアカネが挑発を始めた。

 

「ようやくおでましかいな・・・客席で愛人どもと一日中よろしくやったまま

 もう出てこんかと思ったわ。そのまま遊んでりゃよかったモンをわざわざ

 やられに来るとはなぁ、どこまでも笑わせよるで」

 

ゴールドはへらへらと笑いながら放たれるその言葉に怒りを覚えながらも、

すぐには反応せず呼吸を整えた。ここでアカネに乗ってしまえば自分の

首を絞めることになり、そもそもそれを懸念されたのでサカキに選ばれず

冷静になるべきだと指摘されたのだ。平常心を保てば負ける相手ではないと

自らに言い聞かせ、それでも決して憤怒の心を捨てずにアカネに返答した。

 

「・・・お前みたいなやつが何を言おうがちっとも響かない。精神異常者だと

 みんなが認めているような狂った心の持ち主め。いや、お前はそれ以下、犬だ。

 人間ですらない犬が喚き散らして頭の悪さをアピールしてるのか?」

 

犬呼ばわりし、逆に彼女のペースを乱そうとした。しかしゴールドの罵りに

真っ先に異議を唱えたのは、すでに戦いの資格を失ったトレーナーで唯一

まだ会場に残っていた四天王カリンだった。ゴールドを諭すように言う。

 

 

「チャンピオン・・・あなた、今日のアカネのバトルを見ていなかったの?

 もし見ていたならそんな言葉は出てこないはずだわ。ポケモンへの愛情、

 それも一方的なものではない互いの心からの絆が生んだ奇跡の逆転勝利。

 あなたが以前からアカネを追放しようとしている理由もこれで完全に

 なくなった・・・私はそう思っているけれど」

 

「どういうことですか、カリンさん。あんな偶然に等しい勝利が?」

 

「要はジムリーダーとしてふさわしくないからやめさせるって話だったでしょう?

 皆の模範にならないし言動は目に余るから追い出すとあなたやあなたを支持する

 リーダーたちは口にしていた。でもアカネのポケモンに対する接し方、信じる心。

 これは全てのトレーナーが見習うべきものじゃないかしら?わたしは態度を

 保留していたけれど今日のバトル、そして十日間共にいてアカネをよく知った

 結果、あなたの提案に断固反対、そう言わせてもらうわ!以前がどうであれ

 いまのこの子は確かに変わって成長した。あなたにはわからないの?」

 

ゴールドだってほんとうは理解しているはずだ、とカリンは考えていた。彼は

柔軟に人々の意見を聞き受け入れる。自分が間違っていなくてもそうするのだ。

ところが、今日この場に限りそれは違っていた。ゴールドは両手を広げて笑うと、

 

「わかっていないのはカリンさんのほうです。そいつは何も変わっちゃいませんよ。

 結局自分に優しくしてくれる人間にだけ、自分の持つポケモンにだけ愛情を注ぐ。

 全国で最難関、地獄のコガネジムという悪評が広まったのは全部そいつのせいで、

 野放しにしていたらもっと大変なことになると主張していたのに・・・」

 

「・・・・・・」

 

「カントーとジョウトだけの問題では収まりそうにない。下手したら世界中を

 巻き込む大事件・・・その首謀者たちにほんの少し優しく接してもらっただけで

 言いなりになって悪魔の手先として暴れている。だから犬だと言ったんだ」

 

説得は不可能だと知りカリンは戦いの輪から退いた。今度はナツメが前に出た。

 

「これほどまでの敵意・・・なかなかないな。チャンピオン、以前から

 アカネに対して常軌を逸した憎しみを抱いているようだが、いったい

 何があったというんだ?親でも殺されたか前世からの因縁か・・・」

 

以前アカネに思い当たるところはないかと尋ねたところ、ゴールドは最初に

コガネジムで戦いを挑んだとき、もう少しのところまで善戦したが結果は

アカネの勝利、それを相当恨んでいる証に三か月後のリベンジマッチでは

たった三か月とは思えないほどポケモンを強化してバッジを持っていった。

余程敗北が堪えていたのだろうとアカネは言った。しかしただの一敗で

そこまで恨むはずがないとナツメは考え、直接ゴールドに質問したのだった。

 

「・・・あんたも知らないということは・・・どうやらそいつは完全に

 忘れてしまっているらしいな、自分の犯した罪を。そいつが自分で思い出し

 懺悔しなければ意味がない!だからここでぼくがそれを言うことはない」

 

ゴールドはそれに応じず、こうなるとこのことに関してはどうしようもなかった。

彼の怒りが正当なものなのか、もしくはただの逆恨みなのか。それを知るための

材料が得られないのでは、ナツメもカリンもゴールドの心を動かすことはできない。

アカネとゴールドが互いに歩み寄る姿勢が一切ないところからも戦いは必至だった。

 

 

「・・・もうエエよ、ナツメ。それにカリンも。どうせチャンピオンはうちの

 何もかもが最初から嫌いなんや。顔を見るだけで腹が立つ、そんなレベルや。

 今も犬呼ばわり・・・ああそうや、うちは狂犬!噛みつく相手は選ばん!

 ゴールド、あんたの喉と股にぶら下げとる貧相なアレを食い千切ったるわ」

 

今すぐにでもバトルを始めたいというアカネは闘志に満ちているものの、今日の

バトルで活躍した三体のポケモンはまだポケモンセンターで傷を癒している。

このままゴールドと戦えばどうなるかは目に見えていたが、過激な言葉を

口にするようになってきたところからも相当頭に血が上っている。戦う前から

負けが見えているのではそれを見過ごすことはできず、彼女を一旦落ち着かせるため

なだめようとナツメが動き出す前に、ゴールドがアカネに対して首を横に振った。

 

「いや、お前を殺すのは今日じゃない。最高のコンディション、ベストメンバーの

 お前に完全敗北を与えなければおれは満足しない。一切の言い訳ができない、

 トレーナーとして再起不能になるほどのダメージを与えてやるためにも」

 

ただ勝てばそれでいいというわけではない。アカネのトレーナー生命すら

奪うほどの圧倒的勝利のためにあえてアカネの状態が整うのを待つというのだ。

これにはサカキやカリンも驚いた。優等生として知られるゴールドの面影はない。

 

「・・・これは思っていたよりかなりのものだな。アカネ、あなたの言う通り

 やつは生まれたときからあなたを憎み、あなたのやることすべてを忌み嫌って

 いるようだ。衝突は避けられないようだが・・・」

 

ほんとうに生まれた日からの因縁であるとか前世での行いが関係しているなどとは

ナツメも信じていない。もう一度記憶を呼び覚まし彼と何があったかを早く

思い出すように勧めようとした。しかし、ここでゴールドがナツメの声を遮った。

 

 

「生まれたときから・・・?それは違う。こんなときだからこそ教えてやる。

 ぼくは・・・アカネのことが好きだった。いや、憧れだったと言うのが正しいか」

 

思いもよらなかった衝撃の発言にスタジアムは騒然とし、驚きの声が沸き起こる。

ゴールドに好意を寄せるクリスタルとミカンは思わず客席で立ち上がり、

あと少しでフェンスを越えてゴールドに詳しく問い詰めに行くところだった。

 

「知っての通りぼくの家は母子家庭、お金に余裕はなかった。ポケモン研究所が

 そばにあるとはいえ簡単に出入りできる場所じゃない。ポケモンスクールにも

 通えず、同い年の子どもたちに比べて知識も技術も足りない状態だった。

 だからぼくはずっと萎縮して自分に自信が持てなかった。初めてのジム挑戦を

 終えてバッジを手にしてもまだ不安は残ったまま、ヤドンの井戸で悪党どもを

 追い払っても劣等感に悩まされていた。ぼくなんか夢を叶えるチャンスが

 そもそもない、最初から住む世界が違うんだと毎日思っていた・・・」

 

故郷を旅立ってからのゴールドはトレーナーたちとのバトルで優秀な勝率を誇り、

ポケモン図鑑を持っての旅も順調に進んでいた。それでもポケモンリーグを

制覇するという夢に向かって迷わず一直線に進んでいたわけではなかった。

ジムリーダーのハヤトとツクシは優しい人格者であったが、彼らはエリートであり

ゴールドより遥かに恵まれた環境でポケモンの育成を進めている。自分がどう

頑張ったところで彼らとの差は毎日広がる一方なのではないかと気持ちが沈んでいた。

他人と比べず自分なりの成長スピードでいいと思えるほどゴールドは大人ではなかった。

 

 

 

『・・・さすがジョウト一の大都市だ・・・迷子になりそうだな。デパートを

 見て回るだけで一日が終わっちゃうな。ん・・・?これは』

 

コガネシティに到着したゴールドが目にしたポスターに、彼女の姿があった。

大人気のコガネジムリーダーがデパートにやって来るというイベントの告知だ。

 

『この街のジムリーダーは女の子なのか。しかもけっこうかわいいな。

 やっぱりどこかの有名なトレーナーや研究家の子どもなのかなぁ』

 

『何や兄ちゃん、さてはヨソ者やな?アカネちゃんを知らんやつなんてもう

 この街にはおらんで。あの子はホンマに普通の貧乏な家から突然出てきた

 雑草魂の星、ワシら庶民の希望や!見たとこポケモントレーナーのようやし、

 記念にジムで戦ってみたらどうや?ま、兄ちゃんじゃ勝てんにしても・・・』

 

『・・・・・・普通の・・・貧乏な家から・・・・・・』

 

実力だけでジムリーダーの座を勝ち取った、ゴールドにとって衝撃だった。

ポケモンセンターに泊まった夜、アカネについて書かれている雑誌や書籍を

読みふけった。確かに彼女がポケモンを全く知らない家の無学な少女であり、

初めて参加した大会で二世トレーナーや裕福な家庭のトレーナーたちを

たった二体のポケモンで打ち破って優勝したことが評価され、特例で

大都市コガネシティのジムリーダーに選ばれることになったと紹介されていた。

アカネのことをすごい、と称賛すると同時に、ゴールドには勇気が湧いてきた。

 

『・・・余計なことを考える必要なんてないんだ。アカネちゃんが言うように、

 夢へと続く道を大切なポケモンたちと走り抜けることだけを思い続ければ!』

 

他のトレーナーに比べて恵まれない環境で育ったというのは言い訳であり、夢が

叶えられなくても仕方ないという理由にはならない。本来ポケモンバトルにそんな

不純物は入り込む余地がないはずであり、ポケモンへの信頼と愛情、そして強さが

あれば自然と認められ、高められていく。ゴールドは名声や富のためにチャンピオンに

なりたいと願っている野心家ではないが、誰にでもチャンスがある世界だと

アカネに教えられたのは彼に光り輝く希望を与えていた。

 

『だからこそ焦らずにポケモンをもっと鍛えてじっくりと旅を楽しもう。

 明日からはしばらくここを中心に・・・街外れの草むらで修行だ。

 コガネジムに行くのはもうちょっと後でいいな』

 

急ぎ足になっていた旅のスピードを緩め、ポケモンのレベルアップ、それに

自分のレベルアップが重要だとゴールドは結論を出し、この街に長期滞在して

ポケモンたちとの絆を深めていこうと決めた。ポケモンに関わる施設の数も種類も

他の街に比べて豊富なコガネはそれに最も適した場所と言えるだろう。

 

『・・・そう。だからそれ以外のことは何も・・・・・・ない!』

 

テレビで彼女が『ポケモンを大事にして、それでいてバトルが強い男がタイプ』と

口にしているのを見たのでこの決定を下したわけじゃない。この街にいれば

デパートのイベントやラジオ塔のそばで彼女を見ることができ、地元のメディアは

毎日のように彼女の情報を発信するのでここを特訓の拠点に選んだわけじゃない。

決してそのような下心はないんだと自分以外誰もいない部屋で何度も弁明した。

 

 

 

「あのときお前の姿は輝いて見えた。こんなトレーナーになりたいと思った。

 ジムに挑戦しに行くときは今までとは違った緊張があった。この子と

 友だちになれたらどんなに素敵だろう・・・わくわくしながらバトルに臨んだ」

 

ついに憧れのアカネとバトルの瞬間がやって来た。勝っても負けてもいい思い出に

なるはずだった。ところがそれは、ゴールドにとっていまだ忘れたくても忘れる

ことのできない、いまだに彼を苦しませる最悪の一日になったのだ。

ゴールドの顔がみるみる憎悪に染まり、声の調子も明らかに変わっていた。

 

 

「だがあの日・・・おれの憧れはとんだ勘違いだったと思い知らされた。

 美しく見えていたものが実はいかに醜く嫌悪すべきものだったか・・・。

 お前に少しでも好意的な感情を抱いていたことを後悔している」

 

「・・・・・・!」

 

「いまではこの手でお前を潰し破滅させることが最大の悲願だ。お前が

 無限の可能性を秘めているというのなら・・・それらも一つ残らず

 跡形もなくこの世から消してやる」

 

 

ほんとうに殺してしまいかねないような憎しみの眼光。予想していた以上に

深刻な出来事があったのだとそばにいるサカキやナツメだけでなく会場中の

皆が戦慄していた。クリスとミカンも、ゴールドがまだアカネを好きでいた

わけではなくよかったと安堵するよりも、怖れや不安が先行していた。


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