初めてその存在を知ったときは、自分と似た境遇から這い上がって一流の仲間入りを
果たした彼女に勇気をもらい、憧れの気持ちをも抱いていた。だが満を持して
コガネジムで戦ったその日から。ゴールドがアカネへ向ける感情は大きく変わった。
いま、彼女をバトルで徹底的に粉砕し再起不能にすると誓ったのだ。
「・・・おい、相当の恨みだぞあれは。ほんとうに何も覚えていないのか?
彼を深く傷つけるような言葉や好意を踏みにじるような行動を・・・」
「いやいや、ホンマにちっとも覚えとらん。そんなに会話もせんうちにバトルが
始まった。そこでうちが勝ったのは確かやけど・・・」
ゴールドが初めは自分を好きだったことすらアカネはびっくりしている様子であり、
やはりバトルの途中で何かがあったためにこうなってしまったらしい。ゴールドは
アカネが自分で思い出すまではことを明らかにしないと言ったので、他者がどう
推察したところで無駄なことだった。ゴールドは敵意をむき出しにして更に続ける。
「あの日の愚行だけならおれもまだ冷静になれと言われたら引き下がったさ。
けれどもお前はその後も今日までずっとジムリーダーとして・・・いや、
まともな人間ならまずしないような腐り切った言動を繰り返すばかり!
人間のクズを追放すること、それがチャンピオンの座に就いたおれに
与えられた最も重要な仕事だと思うのも当然のことだ!アカネ、お前は・・・」
「なるほどなぁ。こりゃあオモロい・・・オモロすぎるで・・・」
誰もがゴールドの底なしの怒りに少なからず恐怖するなか、それを向けられた
当人のアカネはなんと笑っていた。強がりというわけではなく、ゴールドを
挑発するためにふざけた態度をとっているというわけでもなかった。これまでの
アカネの笑みとはどこか違うものであり、何かしらの思いを秘めているようだった。
「面白い!?何がだ!?ふざけているのか————っ!」
「いや、奇遇やなって思っただけや。せっかくやしうちもここで話したるわ。
うちもあんたのことを・・・好きだったときがあった!あんたみたいな
遠回しな言い方はせんからよく聞くんや。あれはまさにうちの初恋やった」
ますます観衆を驚かせ、混乱させるような衝撃の告白だった。アカネのほうも
今やゴールドを敵視し、激しい言葉で罵倒し続けているため冗談ではないかと
思う者もいるほど信じがたい発言だ。しかしアカネは嘘を語ってはいない。
「・・・そうなのか?全くわからなかった。お前自身が言っていただろう。
彼が三か月後にリベンジに来たがその必死さに失笑して、負けたところで
泣く気なんか起きなかったと。そんな相手に恋をしていた?ほんとうか?」
「あれは後付けの照れ隠しや。ゴールドが再挑戦に来たとき、たった三か月とは
思えんほどポケモンたちが鍛えられとったのはホンマや。余程悔しかったんか、
そう笑ったのも間違いない。でも・・・うちはそれ以上にあいつのことを
凄いやつや、心から思った。こんだけのこと、並外れた才能がなきゃあできん!
いつもみたいに泣くのも忘れて・・・惹かれとった」
皮肉にも、そのときすでにゴールドはアカネに対し並々ならぬ憤りを抱き、
その日は何事もなかったが、いずれ果たすべき復讐の序章に過ぎないと彼は
更なる機会を待ちながらコガネを去り旅を再開した。その後の彼は連戦連勝、
相手がジムリーダーだろうがロケット団だろうが関係なく勝ち続け、
ポケモンリーグに挑みとうとうチャンピオンの座すら手に入れたのだ。
「ほう、確かに面白い話だ。かつてはあなたが彼に勇気や自信を与えたが、
今度は彼の活躍にあなたのほうが魅せられていったというわけか。しかし
彼は優等生として知られる男、どうしてあなたも彼をいまや敵視し、
忌まわしきもののように扱う?やはり理由は隠しておきたいか?」
「ふん、そんなの・・・ナツメ、あんたと同じ理由や。あんただってあの
クソガキのことは殺してやりたいはずや。十日前の言葉、覚えとるやろ!?
うちらが乱入したとき、あんたが先陣を切ったときの言葉を!」
ナツメはほとんどゴールドと会話も接触もなく、そこまでの感情は抱かないと
考えるのが普通だ。だが、広い意味で彼も自分が打ち倒すべき人間だったと
ナツメが思うに至ったのは、アカネが言うように十日前の自分の言葉に
大きな理由があった。なぜこのような暴挙に出たのかと聞かれナツメは、
『私腹を肥やすポケモン協会とその犬であるお前たちの排除のためだ————っ!!』
この発言のことをアカネは言っているのだとすぐに理解した。アカネの意思が
伝わったことを示す証として軽くうなずくと、アカネはにやりと笑った。
「そう!うちのことを犬だの言いよるこいつこそが犬や!チャンピオンになって
こいつはすっかり変わってしもた!ただの貧相なクズ野郎になぁ!うちらの
期待と声援を裏切って・・・どこにでもいるつまらん男になりよった」
ゴールドはコガネシティを占拠するロケット団の残党を倒して解散させ、一躍
有名人になった。その時期街に不在だったアカネからすれば自分で格好よく
悪人たちを倒したかったのに、という嫉妬によるライバル心も芽生えたが、
それ以上に彼を格好いいヒーローとして見るようになった。自分と同じ
無学で金もない、それでもポケモンへの愛情だけは人一倍あると自負する彼が
チャンピオンとなったことで、すっかり彼に夢中になっていたときもあった。
だが、ポケモンリーグの王者となったため、当然協会の意向に沿った活動が
増えていった。政府や皇族の有力者たちとの対談や食事会、協会の長老たちと
親交の深い企業のコマーシャルに出演し、バトルの際は彼らの製品を使い、
また目立つように身に着ける。ゴールドや周囲の人々はそれらを普通のこととして
受け取り、あまり深く考えなかったがアカネはそうではなかった。ゴールドを
見ても心が熱くならず、逆に寒い風が吹き始めているように感じた。
『・・・・・・・・・』
バトルのやり方も変わった。これまでチャレンジャーだったゴールドは王者として
挑戦者を迎え撃つ立場になった。どうにか挑戦権を得た相手のポケモンを確実に
倒せるように、百体以上いるポケモンから相性を重視して選抜する。挑戦者
からすれば、ゴールドのポケモンは数が多いため誰が出てくるかわからず、
しかも自分のポケモンを常に上から叩けるメンバーがやってくる。よって
ゴールドの勝利はやる前からほぼ決まり、レッドやワタルとは違う種類の強さで
防衛を続けていったが、アカネは彼のバトルをちっとも面白くないと思い、
とうとう新聞で結果を見ることもなくなった。自分が心を奪われた少年は
もはやどこにもいなくなってしまった。小さな恋心も消えてなくなった。
「うちを排除しようとしたのも、ますます金持ちボンボンのガキしかトレーナーに
なれんようにするクソルールに賛成してあんな式典の主役になったのも・・・
すっかり権力者の犬になってしもたからや。そんなあんたに興味はない。
こんなとこおらんで気持ちの悪い政治家どものトコか、客席におる女のトコで
好き勝手しとれ。心底どーでもエエ存在なんやからな・・・」
あのアカネが自分に恋していたという告白にゴールドは僅かに心が揺らいだ。
だがゴールドにとってもそれはもはやどうでもいいことだ。すでに彼にとって
アカネは徹底的に滅ぼし尽くし、骨すら残らないほどにすると決めた敵だからだ。
「お前だって隣にいるナツメの手先のくせに・・・お前が興味がないとしても
バトルは受けてもらう。お前はポケモントレーナーとして死ぬべき人間だ」
「・・・ハハッ!見逃したる言うとるのにとことん阿呆なガキやな!
どうせあんたは口だけや。すっかり牙を抜かれた玉無しボウズは
せいぜい喚くことしかできん。うちは違うで、これを見いや!」
アカネが電光掲示板を指さす。すると一度映像が消え、再び何かが映し出された
ときには場内ではない全く別の場所の様子からの中継映像となっていた。
「ムム・・・この大掛かりな仕掛けは!ナツメ、お前も一枚噛んでいるのか?」
「くくく、わたしは一切知らない。この先の展開を楽しみに待つ人間の一人だ」
アカネが事前に単独で仕込んでいた、ゴールドが現れたときのための演出だった。
画面の先はどうやらセキエイ高原、スタジアムなどの施設があるこの辺りとは
離れた広場であるようだ。ナツメたちの行動により多くの施設が閉鎖となったが
この広場も同様で、夜であっても人で賑わっているはずが誰もいない寂しい
場所となっていた。そこに三体のポケモンがやってきて、揃って短足であったが
その足で何回も飛び跳ねたりカメラに近づいたりしながら存在をアピールした。
『プリリーン!』 『ラッキィ!』 『トゲトゲピィ——ッ』
プクリン、ラッキー、そしてトゲピー。果たして何が始まるというのか。
「あの子たちはうちのポケモンや!今から素晴らしいショータイムが始まるで!
うちの合図で計画を実行するように伝えてある、お待ちかねの瞬間がついに
やってきたで。ゴールド、これがあんたへの正式な宣戦布告や————っ!!」
アカネがポケギアを操作すると、プクリンに持たせていたもう一つのポケギアが
反応した。言葉が通じなくても、それが振動すればアカネから指示された行動に
移るというサインであるのをポケモンたちは理解していた。ラッキーが全身に
力を込めると大きなタマゴが一つ、ごろりと地面に転がった。
『トゲッ!トゲッ!』
そのタマゴをトゲピーがゆっくりと転がし、プクリンの足元にセットした。
「・・・何をしている?ラッキーがタマゴうみをしたのはわかるが・・・」
「違う違う。あれは全く別モンの技、タマゴばくだんや。もうチョイすりゃあ
ドッカーン!危ないからメガトンキックでどこかへ蹴り飛ばさなアカンなぁ!」
プクリンがラッキーのタマゴばくだんを蹴ろうとしていたその先に何があるか、
人々はここで気がついた。この広場、この位置に何が置かれているかを思い出した。
「・・・!現チャンピオン・・・ゴールドの銅像がつい先日建てられた場所だ!」
「まさか・・・!おい、やめろ!」
「もう遅い!いけ———っ!スーパーシュートを決めたれ—————っ!!」
人々の悲鳴や怒号を振り切ってアカネが最後のゴーサインを出した。
『プッ・・・クッ・・・リャアァ——————!!』
プクリンのシュートは正確だった。ゴールドの偉業を記念する銅像、それも
顔の部分に命中させ、その瞬間爆弾が爆発し画面はフラッシュを放った。
『な、なんて眩しい光でしょう!観客の皆さん、それにテレビをご覧の皆さん、
視界に異常はございませんか!少しでも目がおかしいと思ったときは・・・
・・・あ、あああっ!!これはとんでもないことが起きた———————っ!!
セキエイ高原の、いや!この国が世界に誇る若きチャンピオンの銅像が・・・!』
ゴールドの像は粉々に砕け散っていた。残骸の上で三体のポケモンたちは笑顔で
ハイタッチを交わしながら計画が大成功したことを喜びあっていた。
「・・・て・・・てめぇ~~~~っ!!」
「口だけのあんたと違ってうちは本気、これでじゅうぶんわかったやろ。
次はあんた自身がああなるんやで?うちらと戦うなら・・・」
この瞬間、今日最も大きなブーイングが会場中から鳴り響いた。人々から
愛されているゴールドを品のない言葉で挑発するだけでは飽き足らず銅像を
破壊するというありえない行為に及んだアカネへの怒りが頂点に達した。
「ふざけんじゃね————!精神異常者が—————っ!」
「死ね——————っ!!このやろ————————っ!!」
アカネは全く悪びれず、罵声に対してひらひらと手を振って観衆の神経を
逆撫でする。さらに帰れコールには自ら手拍子で音頭を取り、まさに
やりたい放題だ。ゴールドはもはや怒りを通り越し、唖然としている。
サカキはもちろん仲間であるナツメですらアカネがここまでやる意味が
わからず、観客を煽り続けるアカネに近づいて声をかけた。
「・・・そのへんにしておいたらどうだ?せっかく熱いバトルで皆の支持を
集め始めていたというのにこれで台無し・・・元通りの悪役ではないか」
ところがアカネはそれを聞くと力強く笑い、そっとナツメに耳打ちした。
「ふふふ・・・それこそうちの狙い。狙い通りすぎて怖くなるくらいや」
「人々から憎まれることがか?わざわざ嫌われるような行為をなぜ・・・」
「答えは簡単、あんたがそうしとるからや。あんたはホンマは誰よりも優しくて
熱い人間なのにどうしたことかそれを隠して悪者のふりをしとる。あんた一人
ヒールにしとくわけにはいかんやろ。うちもとことん付き合うたるまでよ」
「・・・・・・・・・!!」
ナツメの表情が一瞬、確かに変わった。アカネの言葉にどんな感情を抱いたから
そうなったのかはわからないが、このままナツメの化けの皮を剥がすチャンスだと
アカネはさらに続けようとした。だが、対面にいるサカキによって遮られた。
「フッ・・・アカネよ、一千万以上という大金の横領に続き今度は銅像の破壊か。
これでお前の借金は果たしていくらになることやら・・・楽しみだな。
いよいよお前がどうやっても返せない額に突入していきそうだが」
「ははは・・・心配せんでもキッチリ返したるわ、負けたらな・・・・・・」
「サカキさん、そいつはぼくの敵です。あとはぼくに任せてください。
おいアカネ、おれのことを口だけの腰抜けだの玉無しだのよくも言ったな。
いいだろう・・・ケリをつけよう。ジムでの戦いは一勝一敗、三度目の勝負で
おれとお前、どちらが上でどちらが下かはっきりさせようじゃないか!
後日この場所で・・・互いに使用ポケモン六対六の完全決着戦を開催する!」
ゴールドの宣言にスタジアムは大きく沸いた。しかしアカネは馬鹿にしたような
笑みを浮かべながら首を横に振り、わざとらしく両手を広げた。
「・・・どうした!ここまできて断るって言うんじゃないだろうな!」
「まさか!うちは望むところや。でもあんたはどうやろなぁ。直前で負けるのが
怖くなってあの女どものチチを吸いながら泣いて部屋から出てこない・・・
そのまま対戦はお流れ、じゅうぶんありえるシナリオやからなぁ———っ。
挑戦者のポケモンをレッドみたいに真っ向からねじ伏せるんやない、一晩
じっくり相性だの考えてメンバーを選ぶチキンが相手となると・・・」
レッドは挑戦者がどんなポケモンを使ってこようが自分のベストメンバーを
それほど変えずにポケモンの、またトレーナーの実力差で倒した。たとえ
地面タイプで固めてくる相手にもピカチュウは外さず圧勝してみせた。
対照的にゴールドは、対戦相手をしっかりと研究し確実なる勝利を得るため
そのときによって自身の持つ六体のポケモンは全く違っていた。
「ムム・・・!レッドといえばピカチュウ、ワタルといえばカイリュー・・・
そういったポケモンがゴールドくんにはいないな。だがそれが強みでもある。
対策のしようがないのだからな。お前こそ逃亡する気ではないだろうな?
負けたら金はもちろんトレーナーの資格も失うのだ。臆しても無理はない」
「うちがビビって逃げる?つまらん冗談やで、おっさん。ええやろ、あんたら
まとめてうちが食い殺したる。せいぜい期待裏切んなや」
アカネとサカキたちの言葉の応酬は続く。激しく火花が散りスタジアム全体が
ヒートアップする。後日行われる戦いの前哨戦とも呼べる激しいやり取りに
人々の興奮と期待が高まっていた。
「わたしがお前のような弱小に負けることはない。そもそも戦う気すらない。
狙いはあくまで首謀者であるナツメ、そしてフーディンだ。もしこのバトルで
敗北を喫するようなことがあればわたしは今度こそ完全にポケモンバトルを
引退しよう。それだけではない、お前たちの暴挙のせいで発生した損害、
それを全て負担しよう。敗北などわたしにとってありえないことだがな」
「おおっ!こりゃあええ!これで金の心配は消えたで。よっしゃ、ならゴールド!
あんたも何か賭けてもらおうか!うちらは負けたら人生が終わったも同然や。
まさかあんただけ負けても何もなし、そんな話は許されへんやろ?」
「・・・サカキさんと同じだ。おれが負けた後の話をするのは無駄なことだ。
だけどお前が得意顔で弱腰だの言ってくるのが不快だから誓ってやる。
負けた瞬間その場でチャンピオンの座を降りる!これで満足か?」
「足りんなぁ。うちに対してはもちろん、チャンピオンのくせにつまらんバトルを
懲りずに見せ続けたこと、すっかり金持ちどもの仲間になってしもたことを
みんなの前で懺悔して謝罪せい。フィールドのど真ん中で土下座でなぁ!」
「・・・構わない。何だってやるさ。負けたら、だけどな・・・」
負けたならどうするか、そんな公約まで大々的に宣言した。サカキもゴールドも
自分が敗退するはずがないと信じているためアカネが何かを要求したところで
それをすべて受け入れる。そのたびに観衆は大歓声で彼らの決意を称え、
また更に過激な誓いを求めて煽るような口笛の音が響いていた。
(・・・・・・まずいな・・・・・・)
そんな中で、ナツメだけが一人沈黙を貫き、舌戦に加わっていなかった。
「あはは!何だってやる、確かに聞いたで!証人の数もじゅうぶんや。
ホンマに何でもやらしたるから覚悟しとくんやな。よーし、あんたらが
そこまで言うならうちもあんたら以上の度肝を抜くような公約を・・・」
冷静に考えて、いかに急成長を遂げているアカネであっても互いに万全な
状態での六対六の完全決着バトルでサカキやゴールドに勝つのは厳しい。
サカキたちもアカネには余裕を残して勝てると読み、だからこそ負けたら
破滅が決まる誓いを躊躇いもなく行い、それによってアカネを煽って
彼女が負けたときに被る被害と屈辱をもっと大きなものにしようと企んでいる。
(すっかり熱くなったアカネは口車に乗せられていることに気がつくわけもない。
自分で作った流れだと思い込んでいる。実際には相手のほうが上手だとは
夢にも思っていない・・・これ以上続けば致命的な過ちを犯す!)
ナツメがついにここで動いた。両手に力を込めながら声を張り上げて言う。
「いつまでくだらん言い争いを続けている!聞き苦しい無価値な言葉がよくもまあ
それだけ口から出るものだ!だがもう終わりだ。お前たちにはうんざりした!」
「・・・・・・!」 「ナツメ!」
「お前たちとの決戦は数日後改めてこのスタジアムで・・・と考えていたが
いまその気も失せた。お前たちなんかのために時間と労力を使うのも億劫だ。
この場で今すぐ息の根を止めてやろう。それだけの人間だ、お前たちなんか」
失望したかのようにナツメは振る舞う。ポケモンバトルを行うはずの場所で
言葉での戦いに興じていた三人を冷たい視線で突き刺しながら非難した。
「・・・いまこの場で?それはないと先ほどお前も同意したはずだが。今日は
すでに夜、これから二試合もやるのか?いや、頂点に立つ真の王者を決める
戦いまでやるとすれば三試合、日付が変わってしまうぞ」
「それにぼく以外の三人は三、四体しか無傷なポケモンがいない。このまま
始めてもいいけれどぼくが得をするだけで結果は目に見えている。後で
くどくどと文句を言いそうなやつがあんたの隣にいるからな・・・」
現実的ではないナツメの言葉にサカキもゴールドも疑問の表情だ。それはアカネも
同じことで、ナツメは何を考えているのかと首を傾げた。ただ、感情に任せて不利な
状況に陥るような軽率な真似はしないだろう。ここでようやく自分がそうなりかけて
いたことに気がつき始めたアカネは、ナツメがそれを阻止してくれたことと、
彼女が今度はサカキたちを自分の思い通りに操ってやろうとしているのがわかった。
「それならば何の問題もなく解決してくれる方法がある!すぐに決着がつき、
いまわたしたちが持つ無傷で戦えるポケモンの数で足りるやり方がな」
「・・・?見当もつかないな。どんな方法で・・・・・・」
「簡単なことだ!わたしとこのアカネが組み、そしてお前たち二人もタッグを組む!
皆が三体ずつポケモンを使うことで六対六の戦いとなる。ただの勝ち抜き戦
ではない。ポケモンたちにもタッグを組んでもらい、場には常に四体の
ポケモンがいて相手チームを全滅させたほうが勝ちという・・・・・・
この『ダブルバトル』で雌雄を決しようではないか—————っ!!」
誰一人予想していなかった驚きの提案だった。四人全員がバトルに参加し、
通常のバトルよりも勝負が早い特別ルールでの決戦を持ちかけたのだ。