ポケットモンスターS   作:O江原K

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第77話 リニア団

 

ナツメとアカネ、サカキとゴールド。この四人が最後の戦いに残った。その

最終戦を一気に今日のうちに終わらせるべくナツメが口にした勝負方法、

それは『ダブルバトル』だった。慣れない言葉が出てくれば当然すぐに

わかった、とはならない。場内はどよめき、サカキたちも困惑する。

 

「・・・ダブルバトルだと?」 「聞いたことはあるけれど・・・」

 

「こんな幼稚なルールで決着などつけられない、そう言いたいのか?海外では

 かなり普及しているバトル方式だ。一人で二体ずつ場に出すルールもあるが

 いまからやろうとしているのはタッグマッチ、四人で戦うバトルだ。

 そろそろこの国にも波がやってきそうな最先端のバトルこそ新たな時代を

 導いていく王者を決めるにふさわしいと思わないか————っ?」

 

人々の反応は様々だった。面白そうだからやれやれ、と声を飛ばす者もいれば、

よくわからないルールなのだからもっと説明が必要だと詳細を求める声もある。

並のエリートトレーナーよりもずっと上のサカキとゴールド、加えてアカネは

このバトルのやり方自体は知っている。確かに全員が一斉にバトルに参加でき、

四人のなかで誰の有利でも不利でもなさそうだという点で公平性もあった。

 

「お前の仲間のアカネまで寝耳に水といった顔だな。どうやらほんとうにいま

 思いつきで考え出したアイデアのようだ。何を企んでいる?」

 

「お前たちに付き合うのが面倒になっただけだ。まとめて今日のうちに潰せる

 いい方法はないものかと思ったらこれが一番だ。しかも全員、まだバトルに

 出ていないポケモンが三体いる。エースポケモンの圧倒的強さやその場の運

 のみではないトレーナーとしての真価も試されて素晴らしい勝負になりそうだ」

 

今日バトルに出ていない、という言葉にすぐに反応したのは共に傷を残さずに

圧勝したナツメのフーディンとサカキのスピアーだった。自分たち抜きで

最終決戦を始めるなどというのはとても容認できないことだ。

 

「・・・・・・・・・!!」

 

「ナツメ、あなたの自由な振る舞いもある程度は好きにさせているが流石に

 わたしを参加させないというふざけた案は通すことができない」

 

このような物言いがつくことは想定済みであったようで、ナツメはすぐに返答する。

 

「心配しなくてもあなたたちのバトルは行う!だがあなたたちは規格外の

 怪物!このバトルとは別に改めて戦いの場を設ける。邪魔の一切入らない

 タイマンでの勝負、あなたたちが望んでいるのもそれなのでは?」

 

「・・・・・・!!」

 

「・・・まあそうだな。クズの相手はもう飽きた。恨まれる覚えはないが

 どうしたことかわたしに敵意を向けるこの蜂を倒す舞台、確かに余計な

 要素は不要だ。そいつもそう言っている。いいだろう、この場は好きに

 するといい。だがナツメ、あなたとの話し合いは終わっていないというのを

 忘れるな。あなたに機会を譲り、計画を任せてやるのはこの場だけだ」

 

「くくく・・・了解のようだな。なら今日のところは好き勝手やらせてもらおう。

 フーディン、わたしたちに逆らう汚い犬どもをあなたに代わって裁くのを

 そこで見ていろ。スピアーにとっては愛する主人の破滅となるだろうがな」

 

フーディンとスピアーはあっさりと引き下がった。どのようなバトルの形態で

あっても最終的に自分たちが残るのはわかり切っている。ただそのときどれほど

余力を残しているかはわからない。いかに普通のポケモンとは別格の二体でも

相手が勝利を捨てて捨て身の攻撃を仕掛ける、それも何体も連続でそうされては

いざ念願の対面が実現してもすぐに勝負は終わってしまうかもしれない。

仮にそれで勝負を制したところで決着がついたとは言えず、因縁は続くだろう。

 

 

「・・・ぼくは受けてもいいと思います。やつらがあらかじめこの戦いをやろうと

 決めていて密かに練習しているのなら断固拒否すべきですがそれは大丈夫でしょう。

 アカネはあんなうまく演技ができるやつじゃない。今日決着をつけましょう」

 

「・・・・・・・・・」

 

早く勝負ができるのならそれでいいと意気込むゴールド。しかしサカキは彼ほど

単純に物事を考えない。あのナツメが勢いに任せて事を急ぐわけがない。

絶対に何かあると睨んでいる。アカネを意識しすぎてナツメへの警戒が薄い

ゴールドとは違い、ナツメの策略に簡単に引っかかるつもりはない。

 

(・・・まあ・・・それでも構わないか。それくらいのほうが面白い)

 

だが、あえて罠に乗ってやろうというサカキ。この日の開幕試合でタイプ的には

不利な相手カンナを倒したように、真の強者であれば敵が弱点を突いてこようが

仕掛けを用意してようが返り討ちにする。それでこそ完全勝利と言える。

 

「フフ・・・どれ、わたしもお人よしのふりをするか。ダブルバトル、

 受けようではないか!わたしが今日まだ使用していないポケモンは

 ニドキングにニドクイン、そしてガルーラ!お前たちに残された

 ポケモンが明らかになっているのだからこちらも教えてやらないとな!」

 

ナツメとアカネの使う三体のポケモンはもうわかっている。今さらサカキの

ポケモンに合わせて変更してくることはない。アカネの非力なポケモンたちを

押し切ることはできるがナツメのエスパーポケモンとは相性が悪い。あとは

ゴールドのポケモンがナツメに有利な攻撃ができるかどうか、だったのだが、

 

(・・・・・・!こいつは・・・なるほど・・・)

 

十日前の式典の際、戦えるポケモンを持っていなかったせいで乱入者たちを

抑え込む役目をワタルたちに奪われた反省から、ゴールドはバトルに向けて

じゅうぶん調整された六体を用意していた。備えは万全だったものの、

唯一惜しまれる点があった。対戦相手をアカネに絞っていたということだ。

ゴールドのモンスターボールを覗き込んだサカキの顔が僅かに曇った。

 

(カイリキーにオコリザル。格闘タイプの攻撃力でオーバーキルを狙ったか。

 ハガネールとツボツボはミルタンクの攻撃を封じようとして・・・か。

 あとはバクフーン、キングラー・・・安定感のあるエースと一撃必殺要員か。

 見事にどいつもこいつもアカネを倒すためのポケモンたちばかり・・・)

 

サカキはこのとき、自分とは逆にナツメが無表情を装いながらも確かに

微笑んでいることに気がついた。ゴールドの持つポケモンを見るまでもなく、

誰が出てきても脅威となるポケモンはいないと看破していたのだ。

 

「くくく・・・・・・」

 

格闘ポケモンの二体はアカネの脆いポケモンたちを狩る前にサイコキネシス一撃で

倒れるだろう。この大一番で一撃必殺技を正確に決められるほどキングラーが

鍛えられているのならゴールドは普段からもっと重用しているはずだ。期待は薄い。

ハガネールとツボツボが攻撃面で何かできるはずもなく、このルールには不向きだ。

最後の一体がバクフーンというのもサカキとの相性がよくなかった。

 

(地震攻撃のダメージが見事に通ってしまうな・・・)

 

広範囲の攻撃は味方をも巻き込むのがダブルバトルだ。ナツメはここまで読んで

このルールでの勝負を持ちかけてきたのか。いや、もしかするとそれ以上、

ナツメの繰り出す三体はいずれもダブルバトルに適した技構成ばかりなのでは

ないか・・・自分と同等の悪党だとサカキが認めたナツメならありえる話だ。

ここまでくればもうサカキは戦いを受けてはいけない。提案を却下してもよかった。

 

なのに不利になればなるほど、そのバトルに早く挑みたくて仕方がない自分がいる。

ロケット団ボスとしての全てを捨て、眠っていた魂が蘇ってからずっとこんな

バトルを待ち望んでいた。頭のなかはもう快諾一択だった。

 

 

「・・・いいだろう!認めてやろう、そのバトルを。二対二のタッグマッチ、

 望むところだ!どれ・・・ゴールドくん、せっかくだからチーム名を考えてみた。

 わたしは『カントーの帝王』と呼ばれ、きみも『覇王』『賞金王』・・・王に関わる

 愛称が多い。そんなわたしたちこそ『キングオブキングス』!王の中の王と

 名乗るにふさわしいと思わないか!?」

 

「王の中の王・・・いいですね。この馬鹿げた騒乱を制圧するこれ以上ない名前だ」

 

キングオブキングスという名ですら、サカキとゴールドであれば誰も文句は言わない。

だがナツメだけはそれを聞いた瞬間から嘲るようにして腹を抱えて笑い始めた。

 

「・・・どうした?突然大笑いを・・・何かの発作か?」

 

「ははは・・・いやいや、あまりにもおかしすぎて爆笑してしまった。無理もない

 だろう、お前たちごときが王の中の王?この真剣な場で冗談はやめてくれ。

 もし王なのだとしたら・・・お前たちなど裸の王様、自分の惨めさや貧相さに

 気がつかないでいる哀れな存在だ。王の座を追われるのにそう時間はかからない。

 つまり・・・それは今日だ。わたしたちによって革命が起こされるのだからな。

 さて、全員の同意が得られた。簡単なルール説明をしてから早速・・・」

 

バトル開始だ、ナツメがそう言おうとしたが、思わぬところから横槍が入った。

 

 

「ちょっと待った—————っ!いつ全員賛成なんて決まったんや———っ!?」

 

「・・・アカネ!」

 

「ここにおるで、そんなバトルまっぴらごめん、絶対拒否のトレーナーがなぁ!」

 

 

まさかナツメの味方のアカネが足並みを揃えずに邪魔までするとは。場をかき乱す

天才であるとはいえ、またしてもやらかした。こいつならやりかねないとゴールドは

思ってはいたが、あんなに懐いていたナツメ相手にほんとうに真っ向から逆らう

暴挙に出るのは信じ難かった。ナツメがダブルバトルを提案したとき以上に

場内は騒然とし、ここからどのような展開になるのかを待った。

 

「・・・どうした?やつらとの決着をすぐにでもつけたがっていたではないか。

 まさかわたしと組むのが不満か?わたしではとてもじゃないが信頼できないと」

 

「そうやない!うちは正々堂々、六対六の真っ向勝負でケリをつけたいんや!」

 

「なるほど・・・しかし言い辛いことだがいまのあなたではこの場にいる三人、

 誰と試合が組まれたとしてもかなり厳しい戦いになる。いや、まず負ける」

 

ダブルバトルに持ち込もうとしたわけを隠すことなく告げた。だがアカネは折れない。

 

「ふん、いまのうちならな。でも一週間後ならどうや?ベストメンバーを揃えて、

 あんたのおかげでゲットしたこの謎の力!うちの急成長はますます加速する!

 優しいあんたのことや、うちを守るために考えた策なんやろ。でもなぁ、

 余計なお世話や!あいつらなんて簡単に捻り殺してやるで。信じてくれや!」

 

「信じる・・・か。鋭いことを言うな。わたしには欠けていたかもしれない。

 あなたを、そしてわたし自身が求めていたはずのその力を。超能力などより

 遥かに素晴らしい効果をもたらしてくれる力を信じ切れていなかった・・・」

 

アカネの言葉はナツメの心を突き刺すかのようだった。アカネの実力不足ではなく、

自分が期待を寄せたものへの自信がないせいでサカキたちと正面からぶつかり合うのを

避け、勝率の高い安全な手に逃げようとしているのだという指摘は正しかった。

だがアカネは追及をやめず、声を更に大きくして言った。

 

 

「あともう一つ!それはナツメ、あんたが一番わかっとるはずや。うちよりも

 あんたのほうが実はこんなバトルやりたない思うとる!違うか!?」

 

このバトルを提案したナツメが最もこの方法を嫌がっている、そう言った。

さすがにこれは理解ができない考えで、サカキがすぐに突っ込みを入れた。

 

「・・・おいおい、矛盾だらけだな。その女が最初に言い出したことだろう。

 考えれば考えるほどわたしたちにとっては不利な条件だらけの戦いだ。全て

 そいつの計画通りにな。そこまでしておいてやりたくないとはどういうことだ!」

 

「ふふふ・・・オッサン、あんたナツメとは長い付き合いらしいがなーんも

 わかっとらんようやな!さっきのバトルを見てまだ何も思わんとは・・・」

 

「・・・・・・フム・・・先ほどの・・・」

 

 

サカキは顎に手を当ててナツメとキクコのバトルをもう一度深く思い出してみた。

そのときのナツメはどうだったか。エーフィとバリヤードを繰り出し、これといった

作戦も使わずにひたすらサイコキネシスで攻め続けた。持病の悪化で長い戦いが

できないキクコに合わせて互いに最高の攻撃技をぶつけ合う勝負を楽しんでいた。

 

「ただ勝つだけならいくらでも方法はあった・・・それでもあえて相手の泣き所を

 突かずに現状でのベストな条件で戦いを望んだということか?そもそも最初から

 フーディンを使っていればグリーン戦からの連闘とはいえもっと楽に勝てた。

 確かに勝てばそれでいいという女ではないという言い分も通ると言えば通るが

 この大勝負で結果よりも内容や満足感を重視できるというのか・・・」

 

「そう、だから勝って当たり前のダブルバトルなんかやりたないんや、ナツメは!」

 

 

ナツメはサカキの予感通り、キクコとのバトルに使わなかったポケモンたちには

ダブル用の技を仕込み、事前に知らせてもいた。もし出番があるとすれば

通常のバトルにはならないとあらかじめ三体には告げていた。アカネや他の三人には

言わずに、自分とポケモンたちだけで密かに計画を進め確勝への用意を整えた。

だが、それはあくまでどうしても必要に迫られたとき、例えば自分ひとりで

敵の陣営数人と戦わなくてはならなくなったり、今回のように仲間が危機に陥りそうな

ところでその窮地を救いチームとして勝利するための手段だった。

 

「・・・・・・・・・」

 

「心配せんでええ。あんなやつらあんたがいろいろ考えるまでもないわ。

 うちとあんたなら偽物の王様どもをホームレスにできる!ダブルやない、

 それぞれが六対六バトルで獲物を食い殺すんや!」

 

サカキたちが突然の提案を怪しんで拒否するのならどうにか言いくるめるつもりで

いたが、アカネに断られ、しかも自分の真の思いを正確に言い当てられた。

こうなるとナツメにはもはやダブルバトルをやる理由が一切なくなってしまった。

 

「ハハハ、残念だったなナツメ。そいつが拒否するのならこの話はなしだ。

 巧みに主導権を握ったが・・・最後に運がなかったな」

 

「あんたはアカネを都合のいい手駒のつもりで飼っていたんだろうが甘かった。

 そいつは気が狂った犬だ。飼い主にも平気で噛みつく、何をするかわからない

 危険な存在。誰の役にも立たない、この場にいる全員にとって厄介な敵だ」

 

アカネのせいで計画が破綻したことをサカキとゴールドは嘲笑う。だが、ナツメは

少しも残念そうな素振りを見せず、アカネの肩に手を置いて優しい声で言った。

 

 

「・・・ふふっ、むしろこれでいい。この結果こそわたしが求めた最高のものだ」

 

「何だと?」

 

「わたしとしてもあなたたちの息の根を完全に止めるのならばダブルバトルは

 ふさわしくないと思っていた。それにいまの提案はちょっとしたテストだった。

 あなたたちが手駒とか犬だとか言うアカネが真の意味でわたしと肩を並べる

 仲間であるかを確かめるための試験だった。百点満点以上の回答が返され、

 わたしが信頼できるパートナーであることがいま証明された」

 

「ナ・・・ナツメ!やっと・・・!」

 

公の場ではアカネたちのことを野望を果たすための手駒、道具であると繰り返し

口にしてきたナツメが、ついに仲間だと人々の前で語った。同等の立場であり、

互いに心から相手の勝利を願う同志としてアカネを紹介したのだ。すでにアカネは

ナツメが自分たち四人を実は大切に思ってくれていることを感じ取っていたが、

滅多に真意を言わないナツメがこうして認めてくれているのを大いに喜んだ。

 

 

「ダブルバトルでタッグを組むことこそなくなったがこのアカネとわたしは

 あなたたちよりも強固なチームだ。その差が勝敗を分けることになるだろう」

 

「フ・・・どうせあと僅かの命だ。好きなだけほざいていろ。わたしたちが

 王としてお前たちを処刑台へと送ってやるのだからな。そのための日時だが

 場所はここでいいとして、一週間後あたりが妥当なところか・・・」

 

ダブルルールでの決戦は完全に消滅した。となるとこの日じゅうの決着はない。

対戦の日程を改めて決め直さなくてはならないが、いま客席にいる観衆も

それほど残念そうにはしていない。万全な状態で六対六のバトルを行い、

誰の目にも文句なしの結果が出ることのほうが皆にとってよかった。

日付と時間が決まればまたすぐにチケットを取りセキエイ高原に来るまでだ。

詳細はそれほど待たずに明らかにされるだろう。人々の期待と興奮は高まった。

 

 

「一週間後・・・ちょうどエエな。ポケモンの調整にも、バトルの宣伝の時間にも。

 うちとナツメ・・・『リニア団』が真のチャンピオンになる記念日は決まったで!」

 

ナツメに認められテンションがマックス状態にあるアカネが突然出した名前、

『リニア団』。彼女自身この場の思いつきで口にしたが、自然と続く言葉が出た。

 

「・・・リニア・・・団?何のことだ。お前たちのチーム名か?」

 

「うちらがどこのジムリーダーやと思っとるんや。うちはジョウト一の街コガネ、

 ナツメはカントーの中心ヤマブキのジムリーダーや。この二つの街を結ぶのは

 みんなの憧れ、最新のリニアモーターカー!だからリニア団や!」

 

たったそれだけの単純な理由ではなかった。彼女たちがリニアを名乗る訳がまだある。

 

「リニアはめっちゃ速い!なのに時間は正確!それがどーいうことかわかるかぁ?

 うちらもあんたらを確実に、しかもサクッと瞬殺したるっちゅう話や!」

 

「加えてリニアは最新鋭の新たな時代を象徴する乗り物だ。わたしたちがポケモンと

 ポケモンを心から愛する者たちのための新しい世を創るのだからなるほどいい命名だ。

 古き時代の老害どもの手先であるあなたたちの居場所を奪い去り、存在意義を失わせる

 わたしたちがリニア団と名乗るのは道理にかなったふさわしいことだ」

 

ナツメもアカネの思いつきに乗った。彼女もまた意識せずに言葉が出てきた。

 

「わたしが幼いころはリニアなど夢物語、ゲームや漫画の世界のものでしかなかった。

 だがいま実際に当たり前のように生活の一部となっている。同じようにわたしや

 フーディンが目指す新たな世界、それも現実的ではないと思う者たちもいるだろう。

 それが実現不可能ではない、確実に起こる未来であることを約束しよう!」

 

これまでナツメたちにブーイングを飛ばしていた観客も、説得力と勢いのある

言葉に心が揺れ、彼女たちに期待して思わず歓声を送ってしまう者も出てきた。

秩序を守る正義のチーム側だったサカキたちにとってはあまりよくない事態で

あると言えたが、サカキはこれとは違う疑問を頭のなかで思い浮かべていた。

 

(・・・?はて・・・あの女の年齢から考えたら子どものころにはもうリニア計画は

 かなり進んでいたはずだが。わたしの記憶違いのわけはない・・・)

 

ロケット団としてリニア計画に反対する者たちを脅し、危害を加えたときもある。

サカキが組織のボスとなる前から大企業や有力者たちとロケット団は裏で繋がり、

邪魔者たちを黙らせ時には消していた。リニアの開業は多くの人々の生活に

影響を及ぼすものであり、サカキが覚えているなかではロケット団が暗躍した最大の

プロジェクトだった。そのためナツメの発言の小さな違和感にもすぐに引っかかった。

だが今はそんな些細で無駄なことを深く考えるべきではない。

 

 

『これは・・・一週間後が待ち遠しくなりました!本日中の決着とはなりません

 でしたが、ちょうど一週間後、ここセキエイ高原のスタジアムでフィールドに立つ

 大物四人が最後のバトルを行い頂点に立つ一人を決めることとなりました———っ!』


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