ポケットモンスターS   作:O江原K

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第81話 ジャスト・ア・RONIN

 

サカキが知人と夕食を楽しんでいる時刻に、ナツメとアカネもナツメの隠れ家で

食事をしていた。アカネがひたすら上機嫌で語り続け、ナツメはそれを静かに

聞いていた。話の中身は二人がこの日結成した『リニア団』に関するものだ。

 

「あんだけの注目が集まった場所で言ったんやから掴みは文句なしや。

 でもみんな飽きるのも忘れんのも早い。うちらもすぐに動かなアカン」

 

「・・・ほう。どんな手を用意しているんだ?」

 

「明日の夜またラジオの放送がある。そこでもう一度宣伝したる。あとは

 タオルやTシャツを売るとか・・・活動にはゼニがいるからなぁ、ウシシ」

 

わざとらしく悪そうな笑顔を見せたアカネに、ナツメは軽く突っ込む。

 

「おいおい・・・あれだけ金儲け主義を非難しておいて商売の話か?

 それじゃあ今までの連中と何も変わらないのでは?」

 

「・・・う、うちらのは『いい金儲け』、あいつらのは『悪い金儲け』や。

 ポケモンを利用しとるわけでもないしな、うちらの顔で団員を集めるんや」

 

「なるほど、トレーナーやポケモンそのものから不正に搾取し続けていたのが

 これまでのポケモン協会だ。あなたの人気や知名度で金を得るなら確かに

 問題はない・・・フーディンは絶対に渋い顔をするだろうがな」

 

ナツメとフーディンはいま、一時的に行動を別にしている。よってこの別荘にも

いないが、ナツメはあくまで僅かな意見の相違であることを主張し、完全なる

亀裂が生じてはいないと言ったがフーディンは離れていった。一週間後、

ゴールドとの戦いで結果を出せば戻って来てくれるだろうとナツメは信じている。

 

「うちだけやない、あんたもやるんや。ここらでイメチェンしてみるのはどうや?

 ほんのちょいと手を加えたら大人気のアイドルトレーナーになれるで・・・」

 

そばにあった紙でアカネは軽快にスケッチを始めた。ドーブルのようだとは

言えないまでも普通の人間に比べたらずっと優れた腕前だった。

 

「ホレ、これがうちの考えたあんたの理想の姿や。ファンがいっぱい集まるで」

 

「・・・・・・これはわたしじゃないだろう。全くの別人が描かれているぞ」

 

髪の毛をばっさりと短くし、全身のラインを強調したヘソ出しの服を着ている。

いまのナツメとは何もかもが違う、彼女が言う通りいきなりこの姿をしても

人々はとてもナツメ本人だとは思わないだろう。顔だけ似ていてもナツメを

連想するかどうかも怪しい、それだけイメージとかけ離れた絵だった。

 

「こういう服は着ないって前にコガネに行ったとき言っただろう」

 

「いやいや、この変化は成功するで!女優のオファーとかも来たりして・・・」

 

これ以上相手にするのも馬鹿らしいといった感じでナツメがその紙を

放り捨てた。そして話題を変えるように言った。これも大事な話であった。

 

 

「今日の朝には五人でここを出たが・・・たった二人になってしまったな。

 カンナにカリン、それにエリカとは真の意味で仲間になることはできずに

 終わった。それにフーディンもわたしの実力と真剣さを疑い去っていった。

 あなただけだ、残ってくれたのは。改めて礼を言いたい。ダブルバトルで

 タッグを組むことはなかったがこれから一週間よろしく頼む!」

 

「へへ・・・今さら堅苦しい挨拶はエエ。でもリニア団とは別にあんたとうちの

 コンビ名も考えときゃあ面白かったかもしれんなあ。あの老いぼれとクソガキは

 キングオブキングスとかいう大層な名前を名乗っとったが・・・」

 

リニア団はいずれポケモン界を変えなければならないという者たちで満たされる

予定だ。ならば自分とナツメ二人の呼び名も欲しいとアカネは思ったのだ。

すると奥からモルフォンが近づいてきて、今の二人を的確に表現する名を口にした。

 

「・・・そのコンビ名・・・ずばり、『ジャスト・ア・RONIN』っす!」

 

「あん?ジャスト・ア・ろーにん?どういう意味や?」

 

ナツメとアカネのポケモンたちは皆モンスターボールの外に出て休養している。

アカネはすでに自身の持つ全てのポケモンをこの別荘に移動させていた。全て

とはいってもアカネのポケモンは全部で十体しかいない。そのなかでナツメの

モルフォンだけが人間たちの話の輪に加わって自ら二人のコンビ名を命名した。

 

「いまのお二人はまだ正式にはやめていないとはいえもうジムリーダーじゃあ

 ないっす。他に仕事もないんだから『浪人』と呼ぶのがふさわしいっす」

 

「・・・あんまりいい気はせんなぁ。無職のプー子ってことやんか」

 

「でもそのおかげで誰の犬でもないから自由っす。圧倒的に巨大なものに

 勇敢に敵対して世の中を変えようとするその様はまさに『RONIN』!

 明日なき戦いなのに理想の未来を目指すために立ち上がったお二人は

 ジャスト・ア・RONIN!そう呼ぶのがふさわしいっす!」

 

 

モルフォンの熱のこもった解説にアカネは思わず後ずさりした。ナツメの

ポケモンたちはただ賢く強いだけ、ただ人の言葉を使えるだけではなく

こんなセンスもあるのかと驚かされたからだ。もちろん文句はなかった。

それはナツメも同じで、顎に手を当てて何回も頷いていた。

 

「うん・・・ジャスト・ア・RONIN・・・いい名前だ。使わせてもらおう」

 

「おお!ナツメどの、ありがたいお言葉っす!」

 

「さすがは詩を作るのが好きなあなただ。む、そこにいるのは・・・」

 

モルフォンの背後で一体の虫ポケモンが息を荒くしている。本来ここにいるはずのない

ポケモンであり、勝手についてきたカイロスだった。ツクシのポケモンだが、彼は

カイロス以外のポケモンと共にフーディンに襲撃された。姑息な手を使って逃れた

カイロスだけが無事だった。居場所を失いナツメたちについてきてしまったのだ。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ステキロス・・・・・・」

 

ナツメとアカネは一目でわかった。カイロスはモルフォンに対して発情している。

 

「あのダメポケモンは何をやっとるんや・・・」

 

「いやいや、無理もないかもな。わたしたちには見分けがつかないがこのモルフォンは

 かなり美人でオスどもを引き寄せるらしい。当人にその自覚はないようだがな」

 

同じ種類のポケモンでも当然身長や体重は微妙に異なるし、よく見ればいろいろな

違いがあるのは人間でもわかる。しかしどんな個体がポケモンの間で人気が高く

異性をメロメロにするのかは研究を進めても完全な答えが出ていない。貴重で

あるため人間たちには愛されている『色違い』と呼ばれる突然変異体も、

ポケモンたちからすれば気味の悪い異常な体として避けられている例もある。

 

「あなたはカイロスどの。さては食後のトレーニング相手が欲しいんすね?

 知らないポケモンたちばかりに囲まれて不安だったはずっす。同じ

 虫ポケモンである私しか頼れないのも当然っすよね!」

 

「ロ・・・ロス!タノムロス!グヘヘ・・・」

 

「わかったっす!じゃあすぐに訓練場に行きましょう!」

 

ナツメたちに一礼するとモルフォンはカイロスを案内しながら出ていった。

カイロスはトレーニングがしたかったわけではないがモルフォンとバトルが

できるのはチャンスだと思った。堂々と体に触れるチャンスだからだ。

さらにもう一つ、自分の逞しさを見せつけて心を奪う機会でもあった。

 

 

「・・・行ってもうた。放っといて平気かいな・・・」

 

「確かにな・・・心配だ、カイロスの命が。あの程度の力ではとてもじゃないが

 相手にならない。しかし実力差がありすぎるせいで大事に至らないかも

 しれないな。『ZUZU』・・・いや、モルフォンはああ見えてかなり強いぞ」

 

ナツメはすぐに言い直したが、アカネがそれを聞き逃すはずがなかった。

 

「ズズ・・・あんた、そう言うたな?モルフォンのことをズズって・・・。

 そうかそうか!あんたもポケモンにちゃんと名前をつけてやるって知って

 安心したわ!恥ずかしがって隠さんでもエエがな・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「あはは、まあそれは後回しにしといたるわ。でもよく考えると不思議な話や。

 あんたはエスパータイプのスペシャリストやろ?どうしてモルフォンがおる?

 やけに腰の低い話し方も気になるで。どうせまだ寝るには早いんや。

 ちょいと聞かせてくれや、モルフォン・・・いや、ZUZUのエピソードを」

 

「・・・期待しているような面白い話ではないが・・・いいだろう」

 

ここで断ったところでアカネはしつこく聞いてくるだろう。諦めて話すことにした。

とはいえ事実を曲げて話したところでアカネが作り話だと気がつくはずもない。

真実と嘘を混ぜて話を作ってこの場を終わらせようとした。

 

 

 

 

数年前、ナツメがヤマブキシティでこれまで正式なジムとして活動していた格闘場、

空手道場とも呼ばれる格闘ポケモンたちとその使い手が集まるジムに勝負を仕掛け

圧勝し、新たにナツメがこのヤマブキの新しいジムのリーダーとなってすぐのことだ。

このときナツメには最初からの相棒であるあのフーディンの他にはバリヤードと

普通のポケモンであるオスのフーディンしか手持ちポケモンがいなかった。

これから戦力を増やしていこうと街を歩いていると、悲鳴や騒ぎ声が聞こえた。

 

『きゃ————っ!!毒の粉が!粉が—————っ!!またあのポケモンよ!』

 

『くそ!食い物を全部盗られた!あの素早さじゃあ追いつけないぜ!』

 

ジムリーダーとして街の問題を可能なレベルであれば解決することが求められて

いるため、ナツメは何が起きているかを知るために近づいた。強盗が暴れている

などということであればジムリーダーではなく警察がどうにかすべき問題だ。

ナツメであればポケモンや拳銃を武器として暴れる悪党が相手でも超能力で

どうにかできるのだが、できれば面倒な事態を避けたかった。しかしいまは

ナツメの力が求められていた。ポケモンが一体、単独で街を荒らしていたからだ。

 

『・・・あれは・・・モルフォンか。力の限り暴れているといった感じだな』

 

『あんたは新しいジムの・・・!あいつを捕まえるか殺すかしてくれ!』

 

ナツメはモルフォンのもとに一歩ずつ歩いていく。しかしその手には捕獲用の

ボールはなく、ポケモンを繰り出そうとする素振りもなかった。

 

『なんだあんた————っ!自殺するつもりか—————っ!?』

 

『・・・・・・!!』

 

周囲の人々はもちろん、モルフォンも思わず目を丸くした。自分を止めにくる

人間たちは必ずポケモンを繰り出して攻撃を仕掛けてくるか、捕獲するための

ハイパーボールを持って迫ってくる。だがこの人間は他の者たちとは比較に

ならないほどあらゆる面で力を有しているのにそれらを一切使おうとしない。

興味が湧き、次に何を言い何をするのかを待つことにした。

 

『ピシャ————ッ・・・・・・』

 

『ポケモンは・・・特に人と共にいたポケモンは人間の言葉を理解するという。

 どうやらあなたはそうらしい。わたしも超能力を使えばあなたの話すことを

 知ることができるが・・・ここでは邪魔者が多すぎる。互いに真意を

 ぶつけ合うためにわたしのジムに来てもらおう。そこで気のすむまで

 語ろうではないか。あなたが好みそうな果汁たっぷりのジュースもある』

 

『・・・・・・プシャッ!』

 

ナツメからは餌で誘い出して罠に嵌めようという気配が全くない。なぜ

自分が怒りのままに暴れていたのかを知ってからでなければ何もしたくないと

考えているから安全な場所に招待しているのだとモルフォンは感じ取った。

何の抵抗もせずにナツメの言うところへとついていった。

 

『・・・今のは何だ?ジムリーダーなのにバトルもしないで言うことを聞かせたぞ!』

 

『おそらく催眠術の類だろう。エスパー少女とか言われているし、そのほうが

 手っ取り早いと考えたんだろうな。しかしこれで一安心だぜ』

 

街の人々はなぜモルフォンがナツメの前で大人しくなったのかを誰も悟ろうと

しなかった。技量や特殊な能力ではないところに秘密があったなどとは。

だが、それは悪くはなかった。モルフォンのように騙されずに済んだからだ。

 

 

『・・・くくく、ようこそわたしのジムに。これからわたしの手足として

 その血の最後の一滴まで注ぎだしてもらうぞ。あなたにはもはやそれ以外の

 選択肢はない!あなたの命はわたしたちが握っているのだからな』

 

『・・・・・・!?』

 

モルフォンが気がついたときにはすでにナツメのポケモンたちに囲まれていた。

何てことはない、ナツメはただ他者に処分される前にこの能力の高いモルフォンを

手に入れ、自分のポケモンとして使い倒すつもりだったのだ。もし断ったり

フーディンたちの包囲網を強引に突破しようとしたら始末されるに違いない、

それならナツメは住民たちから感謝されて終わる話だ。モルフォンはそこまで

考えると、服従のポーズをして新たな主人に忠誠を誓った。

 

『そんな顔をするな。住めば都と言われているじゃないか。さて、まずは

 新入りの仕事だ・・・溜まった雑用をこなしてもらおう』

 

まんまとこの悪人に騙されてしまった。しかし命を取られないだけましなのかも

しれない。自分の話を聞いてもらうこともおいしいジュースを飲ませてもらう

こともなかったが、モルフォンは新しい主人と仲間たちを渋々受け入れた。

 

 

 

 

「ハイパーボールでも捕まりそうになかったからな。我ながら名演技だった」

 

「・・・とんでもない悪党やんか!まさに上げて落とすってやつや!」

 

「くくく・・・それでも今日まで関係は続いているんだ。長い『下積み』の

 せいですっかり低姿勢が染みついてしまったが些細な話だ。さて、

 今日のところはもう寝ようじゃないか。訓練は明日から・・・」

 

とても信じられないと言いたげなアカネを置いてナツメは一人で食事の片づけを

始めようとした。だが、アカネと違い真実を知っている者によって中断させられた。

 

「ちょっと待った————っ!ナツメどの、なぜそのような全くのでたらめを!」

 

「・・・ZUZU・・・!もう戻ってきていたのか・・・」

 

「アカネどの、今の話は途中まで、ジムに行くまでは正しかったっす。

 だけどこの後が全然違う。あなたもナツメどのとこれだけ過ごしていれば

 大きな違和感があったに決まっているっす!そう、あの日は・・・」

 

部屋から出ていったはずのモルフォンが帰ってきていた。しかもナツメが

アカネに嘘の話をしたところまで聞いていたようだ。モルフォンはして静かに

目を閉じ、ナツメとの真の出会いをつい昨日のことのように語り始めた。

 

 

 

 

『・・・あれ、ナツメ・・・そのポケモンは?』

 

『ああ。これからわたしたちの仲間となるモルフォンだ。とはいえこいつが応じて

 くれたらの話だが。とりあえず冷蔵庫からこの間就任祝いにもらったジュース、

 それも一番高いものを持ってきてほしい。腹を満たしてからだ、話は』

 

『いいけれど・・・私もたくさん飲んでるから次が最後の一本よ?』

 

ジムでトレーニングをしていたバリヤードがその手を止めてジュースを取りに向かう。

いま出会ったばかりのポケモンに高価なものを惜しまずに差し出すナツメの寛大さも

気になったが、それ以上にナツメとバリヤードのやり取りが主従関係というよりは

仲のよい友人同士のように見えたのが新鮮だった。かつて人間の家族に飼われていたが、

その家族の全員が自分は上、お前は下、という接し方だった。ポケモンとは人間の

ペット、もしくは有用な道具であるのだから当然だと思いこまされていた。

 

『プルルル!プル—————ッ!』

 

餌として必要な食事は与えられていたが、こんなにおいしいものを口にしたのは

記憶になかった。ナツメによってすでに数えきれないほど驚かされている。

 

『さて、話によるとあなたはけっこう長いこと暴れていたらしいな。わたしが

 思うにその理由は・・・人間への憎しみ!ただのいたずらでないのは明らか。

 無理にとは言わないが話してくれると嬉しい。フーディン、通訳を頼む』

 

超能力によって話すことがわかると言っていたのになぜ通訳を欲したのか。

後からナツメはこう説明した。理解できるのは『だいたい』であるから、

大事な話なのに万が一にも意味を聞き間違えてはいけないということだった。

そこでモルフォンはまずフーディンに話し、それからフーディンが人間の

言葉でモルフォンが暴れていた理由をナツメに伝えた。

 

 

『やはりわたしたちの最終的な悲願は定められた時に果たされねばなりません。

 ナツメさん、このモルフォンは捨てられたのですよ。それもあまりにも

 身勝手な理由で。せっかく育ててきたのに思った姿に進化しなかったから、

 それだけのことでその一家はモルフォンを家から追い出して捨てたのです』

 

コンパンというポケモンがいる。強くないし見栄えもよくないが、進化すれば

美しい蝶になると言われていた。不幸なことに一部の図鑑もそう紹介し、

コンパンはバタフリーという蝶になる、そう書かれていたのを信じてしまった

者たちがいた。しかし少し勉強すればわかることだが、バタフリーになるのは

さなぎのポケモントランセルであり、コンパンが成長したらモルフォンになる。

コンパンとバタフリーが見方によっては非常に似ていたのが悲劇の原因だった。

モルフォンの姿を見て失望し飼育を放棄してしまった例がよく見られ、今回も

そうだった。しかしこれは人間側の失態であり、ポケモンには何の罪もない。

 

『何度聞いてもこういうのは胸糞の悪い話だわ。自分たちの知識や実力が

 足りないのをポケモンのせいにするバカは一向に減らないわね』

 

『しかし我が主に拾われたのは幸運だった。すぐに新しい家を用意してくれる。

 絶対に人が来ないようなポケモンの楽園をこの国で何か所も知っているのだから』

 

バリヤードとオスのフーディンもモルフォンに同情した。人間に傷つけられた

ポケモンは再び人を信頼するのにかなりの時間と労力を要する。それならば

野生のポケモンとして自然のなかで生きるほうが余程幸福な生涯だろう。

しかしナツメは最初の自分の言葉を変えるつもりはなかった。モルフォン、それに

この場にいる三体のポケモンに対し改めて自分の方針を示した。

 

 

『いや、このモルフォンは今日からわたしたちの仲間だ。共に戦ってもらう』

 

『・・・!!聞き間違いではなかったのね。でも・・・』

 

『このモルフォンはエスパーポケモンではありません。真逆の毒タイプです。

 もし他のジムリーダーや協会の上層部に文句を言われたらどうするのです?』

 

ポケモンたちの指摘にナツメはほんの数秒考え、すぐに答えを出した。

 

『それなら平気だ。あなたたちも知っている通りエスパータイプは最強だ。

 でもここはポケモンジムだからある程度は挑戦者に勝たせないといけない。

 モルフォンはヒントだ。実は虫こそエスパーの天敵であるとトレーナーに

 学ばせるためにいるという理由付けは十分可能だ。サイケこうせんと

 サイコキネシスだって使えるのだ。ますます問題はないと言えるだろう。

 そんな些細な点よりも大事なことがあるのをあなたたちもわかっているはずだ!』

 

視線を変え、モルフォンのほうをじっと見つめながら近づくと、その体を全身で優しく

包み込んだ。それからいったん離れ、片手だけをモルフォンの羽に置きながら話を

続ける。様々な粉で服が汚れてしまうことなど全く気にしていなかった。

 

 

『人間とポケモンは互いに干渉せずにいたほうが余計な争いや悲しみを生まないと

 言う者もいる。でもわたしは違う。人とポケモンが信頼し愛しあって力を合わせ

 生きていく。それこそどちらにとっても真に幸せな生き方であると思っている!』

 

『パルル・・・・・・』

 

『あなたの経験した痛みを完全に理解してあげることはわたしにもできない。

 人間への復讐心に任せて暴れるのも今後人間を完全に避けるのもわたしが止める

 権利はない。でもそれではあなたがほんとうに救われることは永久にない。

 裏切られたものを再び信じるのは難しい。マイナスからのスタートなのだから。

 それでもわたしにどうかその機会を与えてはもらえないか。あなたの心の傷が

 完全に癒えるまでわたしを試してほしい。そしてあなたにもわかってほしい!』

 

あくまでナツメはモルフォンに懇願していた。どうかもう一度やり直してくださいと。

 

『人とポケモンの真の共存・・・心からの絆は決して偽物なんかじゃない、

 ほんとうに存在する力であり唯一無二の素晴らしいものであると!』

 

『ポ・・・ポルル・・・・・・』

 

これこそがナツメとモルフォンの出会い、今日まで続く関係の真実だった。


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