ポケットモンスターS   作:O江原K

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第82話 薬

「あの日身も心も荒んでいた私にかけてくれた優しい言葉の数々と温かいもてなし。

 私はとても感動しこの人についていくって決めたっす。戦うのはあまり好きじゃ

 ないっすけどこの人のためならどんな相手にも立ち向かえる・・・そんな人間に

 出会えたのだから私はきっとポケモンとしての幸せを手に入れたんだと思うっす」

 

モルフォンはしみじみと語り、アカネもそれを和やかな顔で聞いていた。人間に

捨てられ街で暴れていた自分を救った日のナツメを、モルフォンはずっと覚えている。

 

「そのとき私につけてくれた名前は『かずみ』。『ZUZU』っていうのは皆さんの

 間でのニックネームみたいなものっす。アカネどのが自分のポケモンたちに

 名前をつけているようにナツメどのも実はみんなに名前を・・・」

 

「もういいだろう。それよりあいつはどうした?カイロスとトレーニングを

 していた最中ではなかったのか?ずいぶんと早く戻ってきたようだが」

 

ナツメが自らとの出会いを捏造して話していたところに偶然立ち会ったため、

モルフォンは熱く語った。だがここでようやく大部屋に戻ってきた理由を思い出した。

 

「ああっ!!忘れていたっす!カイロスさんとトレーニングを始めてすぐだったっす。

 私の攻撃がたまたま急所に当たってしまって大変なことになったのを!倒れたまま

 動かなくなったのでナツメどのたちに見てもらおうと・・・!」

 

それを聞きナツメとアカネは思わず笑ってしまった。下心からモルフォンとの

二人きりの空間での訓練を楽しもうとしたカイロスだったが、ナツメたちの

予想通り、力の差が歴然であるため一瞬で戦闘不能にされてしまったのだ。

 

モルフォンの実力を察知することもできず無謀にも戦い散った愚かなカイロスと

まさかそこまでの雑魚とは思っておらず自分が攻撃を急所に当ててしまったせいだと

慌てるモルフォンがおかしくて、ナツメとアカネだけでなく彼女たちのポケモンも

全員腹を抱えて大笑いしていた。あのお調子者のカイロスが無様に倒れる姿を

拝みに行ってやろうと訓練場に足を運ぶポケモンたちまでいた。

 

「あはは・・・まああんまりいじめんでやってくれや。他人のポケモンやからなぁ。

 でもツクシも今ごろ病院で厄介払いができたって喜んどるかもしれんが・・・」

 

主人と仲間のポケモンたちの危機にも死んだふりをしてやり過ごそうとした

カイロスだ。ナツメの言う人とポケモンの真の絆という次元には程遠いだろう。

 

「くくく、そうかな?元がだめなやつほど育て甲斐がある。バリヤードやエーフィの

 ようにほとんど手間のかからない優秀なポケモンもいいがスリーパーたちのように

 苦労したポケモンもそれはそれで・・・。可能性はかなり低いと言わざるを得ないが

 あのカイロスも化けるかもしれないぞ?相当の努力が必要だろうがな」

 

「そうかぁ~~~?確かにゼロとは言い切れんけど・・・あんたのポケモンを愛する

 心には恐れ入るわ。あのモルフォン・・・いや、ZUZUはんがあんたに惚れこむ

 理由もわかるで。でも・・・だからこそ気になることがあるんや」

 

これを聞いていいものかとアカネは一瞬躊躇ったが、決戦まで一週間、もっとナツメを

知るためにはここではっきりさせておかなくてはいけないことだった。

 

 

「あんたとキクコの戦いのときにあんたのもとに現れた亡霊の幻・・・それは

 五体のポケモンやった!あの五体は・・・あんたと何の関係があるんや?」

 

コイキングとパラス、ナゾノクサにコラッタとポッポ。弱く珍しくもない

ポケモンたちがナツメに迫っていた。フーディンには協会の長老たちが襲って

きたことから、考え難いことではあるがこの五体はもしや、とアカネは思ったのだ。

 

「・・・・・・!!」 「・・・!」

 

その予感は当たってしまったようだ。ナツメのポケモンたちは何やら知っているようで、

これまで和やかに笑っていたのに突然厳しい目つきでこちらを見てきた。アカネを

叱りつけたり文句を言う者はいなかったが空気が張り詰めたものとなっている。

 

(・・・・・・こ、これは地雷を踏んでもうたかもしれん。さっきの話なんか

 どうでもエエってくらい深刻な顔や。でもそうなると・・・・・・)

 

 

「・・・わたしがそのポケモンたちをこの手で殺したのは確かだ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

アカネはそれ以上深く追求しようとは思わなかった。暴力や殺人を好むフーディンとは

違い、これはおそらく事故なのだ、と自分に言い聞かせた。ポケモンを金儲けや

実験の道具として使うことを忌み嫌うナツメが自分からポケモンを死に至らせたりは

しないはずだ。そうでなければナツメの五体のポケモンたちはナツメにここまで

信頼を置かず、ポケモンのための世界を創るというフーディンも相棒に選ぶはずが

ない。何よりアカネ本人がナツメに惹かれている理由の一つが溢れんばかりの

ポケモンへの愛情だ。ナツメを信じてこの話はこれで終わりにした。

 

「・・・ところでZUZUはん、あんたナツメのためならどんな相手とも戦えるとか

 言うとるわりにはフーディンを前にしてビビりまくりだったやないか」

 

「ぎくっ・・・!!ちょっと記憶にないっすね・・・」

 

「ハハハ、私たちの後ろに隠れていたではありませんか。あれは反省してもらわないと」

 

 

モルフォンを皆で弄りながらカイロスが倒れたままの訓練場に向かっていった。

ナツメとアカネはポケモンたちが皆いなくなってから後に続くつもりでいた。

もう先ほどの話を蒸し返すつもりはないが、完全に終わらせるためにナツメは

自分から言葉を加える必要があると考え、アカネに言った。

 

「わたしが罪を犯したのは事実。そして必ず罪の報いとして裁きを受ける。

 それはすでに決まっている以上、わたしは免罪符欲しさにポケモンが

 生きやすい世の中を目指しているわけではない。それとこれとは別問題だ。

 だからあなたも余計な心配はせずに自分のことに専念してほしい」

 

「・・・まあ・・・あんたがそう言うならそうするしかないやろ。あと一週間、

 サカキのオッサンが連れてくるトレーナー、そしてあんたに連勝するために

 あの子たちを鍛えなアカンから変なことに首を突っ込むヒマはないしなぁ」

 

「ああ、泣いても笑っても・・・最後の一週間だ。一週間後全ては決まる」

 

ナツメたちが勝利すればナツメとフーディンによってポケモン界は一度完全に

破壊され、新たに創造されるだろう。二人が新しい協会の支配者となり旧体制の

人々をことごとく除き去った上で統治を始める。また、リーグチャンピオンの

王座にアカネが座り、全ての面で彼女たちによる支配の時代が幕を開けるのだ。

 

勝利から得られるものが大きい分、敗北した場合の損失も深刻だ。二人がすでに

いらないと言っているジムリーダーの地位はともかく、ポケモントレーナーと

しての資格も剥奪されるだろう。フーディンによる殺人と暴行の罪によりナツメは

逮捕される可能性が高い。それらをすべて回避するにはこの国から密かに逃れ、

ポケモンバトルが競技として盛んではない発展途上国で細々と活動するしかない。

 

「バトルは六対六の完全決着戦だ。わたしも六体目のポケモンを見つけないとな」

 

「・・・恐れ入ったで。まさかうちを上回る少数精鋭がおったとは・・・」

 

百体以上のポケモンを管理する者も多いジムリーダーのなかで、たった十体しか

所持していないアカネの上を行くのがナツメだった。なんとあのフーディンを入れて

全部でわずか六体。十日前のイツキ戦で繰り出した低レベルのケーシィとユンゲラーは

フーディンがどこかから連れてきていたもので、すでにいない。ゴールド戦では

フーディンなしで戦うと宣言しているナツメはすぐにポケモンを手に入れる必要がある。

 

「どうやってジム戦を回してたんや?しかもうちと違ってちょうどいい割合で

 バッジを渡してたって話やんか。もっと早くあんたと知り合えばいろいろと

 秘訣も聞けたのに惜しかったわ」

 

「今日はバッジを渡す日だとあらかじめ決めた日は手加減させ、わざと負けるように

 していたからな。うまく調整しないとあなたのように悪目立ちする。だから真剣な

 勝負をなかなかできずにいたが・・・いつでもいけるように準備はしている」

 

「まさかあのカイロスが六体目なわけはあらへんやろ?肉の壁にしかならんで。

 ここはひとつ、うちのポケモンをトレードって形で貸したるわ。その方が・・・」

 

カイロスよりは役に立つだろうと一時的な交換を申し出たアカネ。それに対し

ナツメはにやりと笑うと、それは必要ないと手を横に振った。

 

「言っただろう、あなたは自分のことに専念しろと。わたしにはすでに当てがある。

 六体目のポケモン・・・戦力としてじゅうぶん計算できるポケモンがな」

 

屋敷に住み着いているゴーストがふわふわと空中を飛行していたがまさかこいつでは

ないだろうに、とアカネは首を傾げた。しかしナツメがあまりにも自信満々に

言うのでこれならばすでに事は終わっているのだろうと一安心した。

 

 

「明日から忙しくなる。今日の疲れはしっかりと今日中に取っておかなくてはな」

 

アカネは風呂から上がるとすぐにベッドに入りそのまま眠った。これまでにない

緊張や興奮に満ちたバトル、そして敗北寸前に新たな力を手にして勝利。さらに

仲間の戦いに一喜一憂していたのだ。ナツメの部屋に入って夜通し話すという

体力も気力も残っていなかっただろう。また明日になればいつもと変わらぬ

アカネになる、その若さとスタミナがアカネの武器の一つだった。

 

「・・・・・・・・・」

 

一方、ナツメは自室で手を組んだまま座っていた。そして今日一日の激闘を

思い返していた。セキエイのスタジアムの大歓声に包まれ、エキスパートと

呼ばれるトレーナーとそのポケモンたちが勝利のために血と汗、時には涙を

流して戦った。敗れて去っていった者たちも、人とポケモンの信頼と絆を

これ以上なく見せてくれたからこそ素晴らしい一日となったと言える。

 

「・・・・・・ふふっ、さすがに選ばれたトレーナーたちの集まりだった。

 わたし以下のトレーナーなど誰一人いない、最高のメンバーだった。

 まあわたしよりも劣ったトレーナーなんて探すほうが難しいか・・・」

 

対抗戦が大成功に終わったことを喜びながらも暗い顔をしていた。あのなかで

自分が一番下だったと自嘲気味に言う彼女が手を伸ばしたのは昨日の夜、

アカネが部屋に来たために飲まなかった薬の入っている袋だった。

 

「・・・なかなか副作用がきつい薬だったけど・・・あと一週間だから

 それまでの辛抱、最後のひと踏ん張りをするためにも・・・・・・」

 

先ほどアカネに対し『最後の一週間』であると強調した。アカネはそれを決戦に

向けての最後の準備期間ととらえていた。だから大事に使えと言われていると

認識していたが、ナツメにとってその言葉は文字通りの意味、つまり結果が

どうなろうが一週間後自分はいなくなるということを言っていたのだ。薬を

飲むと、寝床に入ることもせず座ったまま彼女は眠り始めた。

 

 

 

「・・・・・・まだ夜中の三時・・・なのにこの気配の多さは・・・・・・」

 

ナツメは目覚めた。この屋敷は外部から見つからないような場所にあるが、

もしかしたら存在に気がつく者が現れる可能性も僅かにあった。自身が

国際警察に追われていることはすでにナツメも知っていたが、まさか彼らに

この場所が見つけられるはずがない。しかし誰がいても対処できるように

服装と髪を整え、それ以上に精神を集中させて万全の状態にしてから

下に降りた。皆で食事をした部屋に近づくと、アカネの大きな声が聞こえた。

 

「・・・・・・そうかぁ・・・・・・なんでや!・・・うちは・・・」

 

(断片的で話の内容がわからないが・・・アカネ以外に誰かいるな)

 

誰かと話しているらしい。そばまで寄らないとアカネの声だけしか

聞こえないため、ナツメはもしものときのためにいつでもモンスターボールを

投げられる構えのままドアを開けた。そこには二人、招かれざる客人がいた。

 

 

「あなたたち・・・・・・レッド!それにエリカ!」

 

「どうもナツメさん、お邪魔しております」 「・・・・・・」

 

対抗戦を最後まで見届けることなく会場から去っていった二人が座っている。

どうしたことだ、とナツメが問い尋ねる前にアカネが説明を始めた。

 

「おおナツメ、あんたも起きたか!うちもたまげたで。うちの部屋の窓を

 誰かが何度も叩くから見てみたらリザードンがすぐそこにおるんやから。

 その背中にレッドとエリカが乗っとった。空からここを見つけて

 エリカがもしかしたらうちらがおるかもって思って降りてきたらしいで」

 

「・・・なるほど、あなたたちはタマムシの絶対的な権力者たちを敵に回して

 逃げている身だったな。だったらシロガネ山に籠っていればよかったものを!

 いまのエリカであればシロガネも受け入れてくれただろうになぜここに!?」

 

こんな深夜に勝手に中にまで入られたことでナツメは不機嫌そうに言った。

アカネがナツメに怒られるのを回避するためレッドとエリカはすぐにナツメに

返答した。この場所を見つけたのは偶然だが、リザードンの羽休めのためや

一時的な隠れ場にしようという適当な理由で来たわけではなかった。

 

 

「ナツメ、あなたにちゃんとお礼をしていなかったからですよ。あなたが

 いなければわたくしたちは再び別れ、そして永遠に結ばれませんでした」

 

「・・・意味がわからないのだが?わたしがあなたたちと何の関係がある?

 わたしのバトルを始めるのに邪魔だったから追い出した以外は・・・」

 

「ナツメさん・・・あなたがあそこで救出に入ってくれなかったらエリカは

 死んでいた。それにアカネちゃんから聞かせてもらった。僕たちが

 いなくなった後、グリーンとキクコさんの命を救ったのもあなただと。

 あなたがほんとうはどんな人なのか・・・僕たちもはっきりとわかった」

 

レッドとエリカは揃って頭を深々と下げた。この二人もアカネとキクコに続き

ナツメの本質を完全に見抜いた。冷酷な悪魔を装っているが実はそうではないと

知り、何としても彼女に会いたいと思っていたところ幸運にも屋敷を見つけたのだ。

 

 

「・・・ふっふっふ・・・レッドはともかくエリカは気がつくのが遅いで。

 どういうわけかは知らんがナツメはそのまま皆が騙されとるのを望んで

 おるみたいやからそのままのほうがよかったのかもしれんがなぁ・・・。

 で、あんたらはこれからどうするんや?いつまでもここにはおれんで?」

 

わざわざシロガネ山から飛び出してきた理由。二人はすでに自分のポケモンを

ナツメとアカネのように主力からタマゴに至るまで一体残らず回収していた。

文句のない実力を持ち、真にポケモンを愛するトレーナーとそのポケモンにとっては

楽園とも呼べる環境であり二人はその資格を満たしていたのだが、それでも山から

出てきたのはシロガネに籠っていては決してできないことを楽しむためだった。

 

「エリカと共に海外でハイレベルのバトルを心から楽しむ!これは僕がチャンピオン

 だったころから考えていた。そのためにシロガネ山からは出なくちゃいけないと

 ついに決心できた。まだ見ぬポケモンや強豪トレーナーたちと戦うという夢!」

 

「あなたたちは直前でコンビ結成とはいかなかったようですがわたくしたちは

 外国で流行しているダブルバトルにも参戦したいと思っています。せっかく

 新たな地に向かうのであればいろんなことに挑戦してみたいですからね」

 

今の二人はナツメたちと同じく何もない。レッドのチャンピオンの座は過去の

ものであるし、エリカはジムリーダーの地位と名家の人間であることを捨てて

レッドと生きることを決めたのだ。だからこそ二人を縛るものは何もない。

 

「ほう。エリカ、わたしは昨日あなたに何もかもを捨ててレッドを愛するかと

 質問したが・・・どうやらあの誓いの言葉に偽りはなかったようだな。

 ポケモンだけを連れ出し、金品や衣服などは持っていないのがその証明だ」

 

「もはや何があっても帰れませんからね。全て不要であり関係のないものです」

 

エリカの決意を改めて聞くと、ナツメはテレビのリモコンに手を伸ばしながら言う。

 

「それは安心した!あなたがまだあの家に未練があったらどうしようと思っていた。

 朝起きてからにしようと思ったが目覚めてしまったからいま確認するとしよう。

 なかなかのニュースだからこの時間でも報道しているだろうしな・・・」

 

ナツメ以外の三人は彼女が何を言いたいのかさっぱりわからないままテレビの

画面を見た。するとそこにはタマムシシティの、エリカの家が映されていた。

それだけでなくエリカの婚約者だった男の家やタマムシデパートまでもが

大量の警察車両に囲まれ、次々とその中に連れられていくではないか。

 

「・・・何だこれは!?た、逮捕されているのか!あの人たちは!?」

 

「見ればわかるだろう。そのうち詳しい説明がされるだろうが先に言わせてもらうと

 彼らの不正がとうとう国の権力者であっても庇い立て揉み消すことができなくなった、

 それだけだ。エリカ、あなたはそれに直接関わってはいないが彼らがどうやって

 富を増し加えてきたか・・・知らなかったとは言わせないぞ?くくく、あの家の

 人間であることを捨てていてよかったな。あなたまで巻き添えだったな!」

 

「・・・・・・ナツメ、これはあなたの仕業ですね?」

 

今のところは稀少なポケモンの密輸や法で禁止されているポケモンの毛皮や

頭部、内臓を加工した品々を所持し、また販売していたという容疑での

逮捕劇であるが、余罪はいくらでも出てくるだろう。今までずっと隠し通し

これからもそれが続くと思われたとき、突然の崩壊が訪れたのだった。

 

「くくく、以前から彼らが言い逃れのできない証拠は手にしていた。かつて

 シルフカンパニーに出入りしていたときに多くを入手しその後も順調に

 悪事の瞬間を捉えた写真や音声などを集めに集め・・・取引をした。

 証拠を残らず渡すことを条件に莫大な金を頂いたよ、タマムシの豪族たちから」

 

「・・・ありゃ?じゃああんたは関係ないんか?」

 

「いや、よく考えたらあんな連中との約束など守る必要はないと気がついた。

 脱税とか詐欺というただの貪欲なやつらならまだしもポケモンの命を弄び

 良心がちっとも痛まない人間と結んだ約束は破ったところでわたしのほうも

 罪悪感は一切ない。証拠の数々はまだまだ手元に残っていたからな」

 

ポケモンを利用し悪辣な金儲けをしていたシルフカンパニーと繋がっていた

タマムシの権力者たち。ポケモン協会の長老と呼ばれる人々がいなくなり

彼らを守る堅守な壁が僅かに脆くなった隙をナツメは突き、裏で仕掛けた。

同じく黒い噂が絶えなかった長老たちをいつまでも逮捕できず、さらに最近は

ポケモンリーグを破壊したナツメたちにも手を出せず非難が集まっていた警察が

動くにはじゅうぶんの何らかの爆弾を彼女は発動させたのだ。

 

 

「まああなたは潔白なんだしもはや彼らとは家族の縁を切ったのだからこれは

 いいことだ。いつ追っ手が来るかという心配もいらなくなったし、無理して

 外国に逃げる必要もない。あなたたちに構っている余裕など消えただろうしな」

 

「ナツメ・・・あなたはそこまでわたしたちのために・・・」

 

「何を言う?あなたたちなどどうでもいい。わたしがやりたいからやっただけのこと。

 わたしがせっかく仲間に選んだのに何の役にも立たず敗れたザコとかつては最強の

 トレーナーでありながらバトルよりも女を選んだクズに興味はない。昨日の

 バトルのときと同じだ、わたしの行為とあなたたちの望んでいた展開が

 たまたま重なったに過ぎない。それ以上の意味は何も・・・・・・」

 

しかしこの部屋にいる三人はナツメをじっと見つめて目を逸らさない。今さら

そのように振る舞ったところでもう騙されないとその目が言う。ここで

ナツメに語りかけたのはアカネでもエリカでもなく、レッドだった。

 

 

「・・・ナツメさん、あなたはほんとうはいい人だ。だからこそ言わせてほしい。

 これ以上はやめるんだ。この暴走の末に待っているのは何も残らない破滅だけ、

 あなただって気がついているはずだ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ロケット団と戦った僕は身を持って知っている。ポケモンを物のように扱って

 虐げる人たちはいなくならない!完全に除き去るのは不可能なんだ。あなたが

 頑張れば頑張るほどますます悪人扱いされてしまうだけだ。だからここで

 フーディンとは手を切ってあなたとアカネちゃんは立ち止まるべきだ」

 

「・・・・・・・・・!!」

 

ナツメのことを思っての言葉だった。しかしこれを聞いたナツメの表情は

これまでの眠りを邪魔された不機嫌そうな顔から激しい怒りに満ちたものへと

変化していった。そして立ち上がると、座っていた椅子を力任せに蹴り飛ばし、

目の前にある水の入ったコップを掴んで握るとそのまま割ってしまった。

 

「うわっ!」 「きゃあっ!」 

 

ガラスが散乱し、ナツメの手のひらにも破片が突き刺さり床に血が落ち始めた。

突然のことにそこから動けず座ったままの三人を見下ろしながら叫んだ。

 

 

「知った風な口をきくな、小僧どもが———————っ!!」

 

 

そのまま片づけもせずに乱暴にドアを開け、自分の部屋へと戻っていった。

残された三人は仕方なく黙って部屋を掃除するしかなかった。

 

 

「・・・くっ・・・・・・」

 

ベッドに倒れこむナツメの怒りは収まらなかった。とはいえその怒りはレッドたちに

向けられたものではなかった。以前から服用を続ける薬の副作用のせいで頭痛や

吐き気に襲われた弱い自分を隠すために偽りの激怒によってあの場を逃れる以外

できなかった自分に嫌気がさし、憤っていた。手の傷をすぐに癒す力を持ちながら

それをもう片方の手でさらに掻き毟り、肉が裂け血が流れ出るのを無表情のまま

ぼーっと眺めていた。怒りは無気力に変わり、起きながら眠っているような

状態のまま太陽が昇るまで過ごした。

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